『信長の庶兄として頑張る』   作:零戦

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第二話改

 

 

 

 

「大変でございます信広様に信長様!!」

「どうした犬千代?」

 

 何時ものように信広は信長と川釣りをして那古野城へ帰る途中、犬千代達近習が馬に乗って信長の元にやってきた。

 

「の、信秀様が亡くなられました!!」

「……父様が?」

「急いで城にお戻り下さい!!」

 

 そして犬千代に急かされて信長と信広は慌てて那古野城へと戻った。

 

「父様が亡くなったとはどういう事か!?」

「……流行り病にございます」

 

 駆けつけた平手の爺様が信長達に説明する。

 

「(確かに史実でも信秀は流行り病で末森城で急死しているが……)爺様、亡くなったのは末森城か?」

「その通りです信広様」

「(……やはり史実通りだな)……家督を継ぐのは信長だな?」

「はい、生前の時からそうなっています」

「うむ。爺様には悪いが信長の家督相続を俺は支持すると他の奴等にも伝えてくれ」

「……御意」

 

 爺様は頭を下げて部屋を出た。そして残ったのは信広と信長だけだ。信長はさっきから一言も発していない。

 信広が信長に視線を向けると、信長は顔を床に向けて涙を流していた。

 

「……早すぎる……早すぎる父様。父様、私はまだ父様が必要だ……」

「落ち着け信長」

 

 信長はそう言いながら泣き出した。声を押し殺して泣いているが信長らしいかもしれない。

 

「だって兄様……父様が……」

「確りしろ信長!!」

「!?」

 

 信広はきつめの声で涙を流す信長に言う。

 

「親父殿が亡くなった時点でお前は織田家の家督を相続しているんだ。一家の大黒柱がそれでどうする!! お前がそんなんでどうする? 犬千代達を路頭に迷わせる気か? もう親父殿はおらん、お前が織田家の長なんだ織田上総介信長!!」

「………!?」

 

 信広の言葉に信長は手拭いで涙を拭き取る。信長の表情は覚悟を決めていた。

 

「……済まなかった兄様」

「……それで良い。それじゃ夕餉するか」

 

 そして信広と信長の二人は遅めの夕餉をとるのであった。それから数日後、信秀の葬式が行われた。

 

「信長様はまだですかな平手殿?」

「はぁ、某も来るようにと知らせたのですが……」

「やはり家督は信行様にするべきではないですか?」

「………」

 

 平手の爺様はまだ来ない信長にハラハラとしていた。そして漸く信長が場にやってきた。

 

「の、信長様が参られました!!」

「おぉ……」

 

 信長は正装で場に現れた。信長の格好にその場にいた者達が唖然としていた。

 

「(あの大うつけが正装で来るとは……今まではうつけの姿で我等を欺いていたというわけか)」

「(へぇ……姉様もちゃんとするのね。これは油断出来ないわね)」

 

 信長に不満を持つ者達はそう思った。後に稲生の戦いの際に柴田勝家が信長の陣営に加わるのもこの行動が一因となっている。また、信行は信長を見て評価を改めると共に警戒するようになった。そしてその影では信広がホッと溜め息を吐いていた。

 

(史実通りじゃなくて良かった。信長の奴、いつも通りで行くとぬかすから説得に時間が掛かったわ)

 

 

 

~~数刻前~~

 

「……信長」

「何だ兄様?」

「……今日は親父殿の葬儀だぞ信長。何でいつもの城下町に向かう格好をしている?」

「父様だから問題は無い」

「問題大有りじゃど阿呆!! 直ぐに正装に着替えろ!!」

「あだ!?」

 

 信広は怒鳴って信長の頭に拳骨を食らわした。思ったより痛かったのか、信長が信広を睨んでいたが信広は無視をして犬千代に視線を向ける。

 

「犬千代、信長を正装に着替えさせろ」

「し、しかし兄様……」

「しかし案山子もあるか!! さっさと正装に着替えてこい!!」

 

 なおも渋る信長に信広は再度、拳骨を投下して信長は渋々ながら正装に着替えて葬儀に参加したのだ。

 

「まぁ……とりあえずは成功かな」

 

 信広は他の者達から隠れたところでそう呟いた。家督を継がないと外に知らせるために葬儀には来ていたが、目立たないようにしていた。信広は既に信秀と最後の別れを済ましていた。

 

「……親父殿、違う信広ですが御世話になりました」

 

 信広は信秀の棺に45度の敬礼をした。そして数日後、信広と信長は何時ものように川釣りに来ていた。

 

「………」

「どうした信長?」

 

 釣りをしていると信長が信広の膝に腰を下ろしてきた。

 

「……暫くこうさせてくれ」

「……分かった」

 

 そう言って信長が信広に背中を預けてきた。信長の髪がフワッと信広の鼻を擽る。

 

(色っぽくなってきたもんだな……。まぁ俺からしてみればまだまだ子どもだけどな)

(むぅ、反応しないな。お慶にこうしたら反応すると言っていたが……まさか兄様は後ろを寺の奴等に……いやそんな筈はない)

 

 何やら悶々と考えている信長だった。

 

 

 

 

「ほぅ、三河から来た商人か」

「へぇ」

 

 那古野城の城下町に信広は一人で出掛けていた。

 

「どんな品物があるんだ?」

「三河で栽培した木綿綿でせぁ」

「木綿綿か……木綿綿……木綿綿……木綿綿?」

 

 その時、信広は思い付いた。

 

「どうしやした旦那?」

「……なぁ親父」

「は、はい」

「親父が今持っている木綿綿、全て俺が買い取る」

「へ?」

「全て買い取ると言ったんだ。何かあるのか?」

「い、いえ。何でもありません」

 

 そして信広は商人から木綿綿を全て買い取り城の部屋に戻ると何やら作業をし始めた。

 

(また何かしている……)

 

 信広の近習は諦めた表情をしていた。そして物が完成すると信長の元へ向かった。

 

「おーい信長ー、布団作ろうぜー」

「……何を言っているんだ兄様?」

「布団。まぁもう作ったんだがな」

 

 そう言って信広は信長に自身が作った布団を見せた。

 

「何だこれは?」

「布団だ」

「……中には何を仕込んでいるんだ?」

「木綿綿が入っている。冬は暖かくして寝れる」

「……私の分はあるのか?」

「勿論ある」

「なら作って構わん」

「相分かった」

 

 こうして尾張で布団が大流行し、後に尾張式布団と呼び名されるがそれはまだ先の話であった。

 

 

 

「出来たか?」

「はい、此方です」

 

 信秀が没してから数年が経った。今のところ織田家は平穏だった。また、平手の爺様は史実では天文二二年に自害するが今のところ自害していない。

 信秀の葬儀の時に信広が信長を説得して史実みたいに灰を親父殿の位牌に投げる事はせず、ちゃんと正装をして葬儀の参列させた。

 この行動により信長をうつけだと思っていた者達の評価を変えさせる事に成功した。そのため平手の爺様が自害するような事は起きていない。

 今のところ先の事もあり信長を認める者は多くなっているが、それでも信行を押す者は少なからずおり信行が謀反をすれば争いが起きるのは必須であった。

 それはさておき、信広は鉄砲を製造する鍛冶場に来ていた。来た理由というのも新型種子島の開発に成功したからである。

 

「(上手く出来たか……流石は変態国家の日本だ)」

「信広様?」

「ん、済まない」

 

 新型種子島をじっと見ていて不審に思った鍛冶師に呼ばれて慌てて信広は鍛冶衆の一人から新型種子島を受け取る。この新型種子島は信広の知識を元に未来の技術を組み込んだ種子島だ。

 新型種子島は外見から変わっていた。命中率が上がるように銃床が開発された。敵を照準しやすいよう照星(しょうせい)と照門(しょうもん)が付けられた。そして一番の特徴は銃身にライフリングが刻み込まれている事だろう。螺旋状の溝は鍛冶師達も難点だったが三条がギリギリだった。

 時間をかければ四条や五条のライフリングの銃身が出来るだろうと思うが時は戦国の世である。いつ尾張が攻め来られるか分からないのだ。(信広は知っているが)

 そのために信広は三条で妥協した。やり過ぎると歴史が変わるのではないかと疑った。(ライフリングの製作時点で歴史は変わっているが)

 また、新型種子島の弾丸はミニエー弾を製造するよう鉄砲鍛冶衆に依頼していた。また銃の製造は信秀にも秘密とされての開発だったが、その結果、マッチロック式を除いてはほぼチート銃になった。

 その他にも、大量生産しやすいよう部品数を少なくしたり、そして最大射程距離は約七百メートル、有効射程距離約三百メートルと比較的に長くなり、これはどの種子島よりも射程距離は長かった。

 そもそも、この開発を言い出した信広はオタクである。一重にオタクと言ってもその種類は数多くあり、信広はその中でもミリタリーの分野に手を染めていた。所謂ミリオタであった。

 そのために種子島にライフリングを刻んだりミニエー弾の開発をしたのだ。

 

「故障などは無いか?」

「試し撃ちで十発撃っていますが故障はしておりません」

「ん。生産の方はどうか?」

「今の状況ですと月五~十丁が良いところです。難点なのが螺旋状の溝です。三条との事ですが、螺旋状の製造で時間が掛かります」

「むぅ……それが難点か(鋳型を作ってみるのも手だな)……まぁ螺旋状は仕方ない、それで我慢するか」

「ありがとうございます」

 

 信広はそう言って鍛冶場を後にして那古野城へ向かった。那古野城へ向かうのは信長に会うためである。

 

 

 

 

 




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