『信長の庶兄として頑張る』   作:零戦

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第十三話

 

 

 

 

「久し振りじゃな信長よ」

「は、息災で何よりです義輝様」

 

 岐阜城で信長と義輝が面会をしていた。

 

「聞けば……京の将軍は病弱の義栄となっている。主体性が無く恐らくは三好による完全な傀儡将軍だろうのぅ」

 

 義輝がそう言って溜め息を吐いた。しかし、義輝の眼は何かを訴えていた。

 

「……三好家は織田が駆逐しましょう」

「期待しているのじゃ」

 

 信長からそう言ったのは義輝の面目を保つためであった。そして信長は諸将を集めさせた。

 

「……各々方、我々はいよいよ上洛する。上洛軍は六万五千、そのうち一万五千を庶兄信広を大将に浅井を攻める。残りの五万は私を大将に六角を攻める」

 

 信長は諸将にそう説明をしていく。俺の軍には大垣城にいた道三殿、直元、長秀、直虎が列ねている。

 

「それと竹千代のところから来た本多忠勝は信広の軍に加える」

「宜しいのですか?」

「忠勝を指名したのは兄様だ。何か異論は?」

「……ありません」

 

 そして信広は忠勝と共に大垣城へ戻る。

 

「本多忠勝でござる。拙者、頭の才はなく槍働きしかないでござるが一生懸命頑張るでござる」

「織田信広だ、気長にしてくれ……と言いたいが直ぐに仕事をやってほしい」

「何の仕事でござる? 兵の鍛練でござるか?」

「それもあるが、工作をしないといけないからな……」

「?」

 

 そして大垣城に戻ると信広達は作業に入った。

 

「これまでに何個出来た?」

「凡そ百個です」

「……ギリギリまで作る。忠勝、竹を節間ごとに切って一ヶ所だけ紐が入る穴を開けてくれ」

「御意……ですが信広様、これは一体……」

「……城攻めの歴史が変わる武器になるかもな」

 

 信広は忠勝にそう言った。そして数日後、上洛の命令が発せられ信広は北近江方面大将として第一目標に佐和山城の攻略をする事にした。

 

「佐和山城に降伏の使者を促す。無駄な戦は避ける」

「ですが拒否すれば……」

「無論、落とすまでよ」

 

 馬に乗りながら信広は長秀にそう言った。使者は直ぐに佐和山城に向かった。

 

 

 

 

「……降伏の使者だと?」

 

 佐和山城で磯野員昌は降伏を促す文書を読みながらそう呟いた。この時、佐和山城には美濃を警戒して磯野員昌の他に海北綱親、藤堂高虎の武将と五千の兵力がいた。

 

「ふざけおって……我等浅井を愚弄する気か!! 陣触れじゃ!!」

 

 文書を一目した磯野員昌は激怒して降伏を促す文書をビリビリに破いた。

 

「ですが磯野殿、我等の兵力は五千。織田は大軍を要していると聞きます。此処は籠城して小谷城からの援軍を待つべきでは……」

 

 そこへ副将の藤堂高虎が反対意見を出した。

 

「ふん、尾張の兵は弱小じゃ。大軍など恐れにる足らん」

「その通りじゃ」

 

 同じ副将の海北綱親が磯野員昌に賛成する。

 

「陣触れじゃ!! 尾張の兵など一捻りしてやろうぞ!!」

「……は!!」

 

 そして佐和山城の浅井軍は降伏を拒否して出陣するのであった。

 

 

 

「佐和山城は降伏を拒否か……ならやるまでよ。長秀、兵を三隊に分ける」

「分けるのですか?」

「うむ。右翼隊は道三殿に直元、左翼隊は長秀、中央は忠勝に直虎と俺だ」

「鶴翼の陣ですかな?」

「いや……違う。この陣は確実に敵を殲滅させるんだよ」

 

 直元の言葉に信広はニヤリと笑う。長秀達は信広の笑みに疑問を持ったが大将の命令なので従う事にした。

 

「中央隊が先にぶつかる。途中、俺が討たれたと偽の情報を流して敗走という名の後退をする。左右の隊はあらかじめ左右に伏せさせておき、機を見て敵を三方から囲み包囲殲滅する。お前らは上手く隠れておけよ」

「つまり……信広ちゃんが囮となるわけね?」

「最初はな。左右隊が攻撃を始めたら中央隊も反転して攻撃に転ずる」

 

 ぶっちゃけ……史実の島津が使った釣り野伏せである。この戦法は島津は元より、類似例では史実の立花道雪と高橋紹運が天正六年(1578年)の柴田川の戦いで秋月種実と筑紫広門を撃退した。

 他にも文禄・慶長の役にも釣り野伏せにて明軍を撃破している。

 

「上手く行きますか?」

「中央隊が要点だ。上手く敗走するようにしておかないとな。そこで撫子達の忍だ」

「仕事だね。やるからには全力を尽くすよ」

 

 信広はそう言って傍らに控える撫子に視線を向ける。視線を向けられた撫子はそう言う。

 

「撫子達は合戦が始まれば戦死した敵兵の鎧を剥ぎ取って浅井兵に成り済まして敵大将に俺が負傷したとか討たれたとか言って報告してやれ」

「御意」

「何か質問は?」

『………』

「(……無いみたいだな)無ければ行こう。損害は少なくして勝つぞ」

 

 こうして織田軍は兵を三隊に分けて中央隊が先に進軍を始めた。そして翌日の昼頃、両軍が対峙する。

 

 

 

「織田の兵力は?」

「物見によれば約八千と……」

「八千か……尾張の兵が弱小と考えれば五分五分かもしれんな」

「ですが伏兵がいるかもしれません。此処は慎重に期すべきでは……」

「伏兵と言っても精々数百だろう。此処は一気に押し潰して敵の士気を弱めるのが先決かと思います」

 

 磯野と海北は藤堂の具申を取り下げ突撃する事にした。藤堂の具申も理にはなってはいるが、礒野と海北には尾張兵が弱小という先入観を持っていた。そのため二人はこの後に起こる悲劇を予想していなかった。

 

「突撃せよ!!」

『ウワアアァァァァァーーーッ!!』

 

 磯野の短い命令は足軽達にも非常に分かりやすい命令だった。足軽達は雄叫びをあげて突撃した。

 

 

 

 

「放てェ!!」

 

 織田軍の鉄砲隊五百名(新種子島百丁)が引き金を引いて浅井兵の命を刈り取る弾丸を放つ。

 弾丸が命中した浅井兵はバタバタと倒れていく。信広はそれを見つつ隣で準備万端の忠勝に視線を向ける。

 

「忠勝、まだ足軽を薙ぎ倒すなよ?」

「分かっているでござる。槍働きでしか使えないでござるがちゃんとするでござる」

(……不安だ)

「本多隊、突撃するでござる!! 敵は全て薙ぎ倒すでござる!!」

「やっぱ分かってねぇじゃねぇか!?」

 

 信広の叫びを尻目に本多隊が雄叫びをあげて突撃していくが……。

 

「……紫、敗走する時は忠勝にちゃんと伝えてくれ」

「御意です」

「……念には念を押しておこう。忠勝ぅ……頼むからちゃんと動いてくれよ……」

 

 

 

 

 合戦に入って半刻、織田の陣営にある報告が舞い込んできた。

 

「信広様討死!! 信広様が討死なされました!!」

「御大将討死!!」

「信広様が討死なされただと!? 一旦後退するぞ!!」

「おいおい、御大将討たれたとよ」

「あちゃーなら逃げるしかねぇな」

 

 織田の足軽達は浅井兵との斬り合いを止めると徐々に後退を始めた。織田軍の異変に馬上の磯野も直ぐに気付いた。

 

「織田の様子が可笑しい。後退しているように見えるな」

「申し上げます!! 敵大将織田信広が此方の矢を受けて負傷、後退している模様です!!」

 

 そこへ兵が報告に来た。報告に礒野の目が見開いた。

 

「織田信広を負傷させたか!!」

「磯野殿、これは好機かもしれません。突っ込みましょう!!」

「うむ、全軍追撃せよ!! 織田軍を蹴散らせ!!」

『ウワアアァァァァァーーーッ!!』

 

 浅井軍は後退していく織田軍を追撃する。織田軍は統率が取れず、部隊が混乱状態だった。礒野はそれを好機と捉えて更に追撃命令を出した。そしてそれが起きたのは浅井軍が追撃する途中だった。

 

『矢を射掛け(なさい)よ!!』

 

 突如、左右から大量の矢が浅井兵に襲い掛かったのだ。矢を受けた兵がバタバタと倒れていく。

 

「こ、これは……」

 

 次々と倒れていく浅井兵に磯野が唖然とする。そして後退していた筈の織田中央隊は突如反転して浅井軍に襲い掛かった。

 

「ようこそ浅井軍。そしてさようなら」

 

 信広はニヤリと笑った。

 

 

 

 

 




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