「それで半兵衛ちゃん、僅か十六人で稲葉山城を占領したんですよ」
「ほぅ、それは凄いな」
「そうでしょ信広様。あ、それと卵を持ってきました?」
「言われた通りに持ってきたぞ」
竹中半兵衛の家に向かう最中、信広は藤吉郎から半兵衛の話を聞いていた。
(……稲葉山城占領は義龍じゃなくて龍興の時だぞ? だが憑依者の俺がいるというイレギュラーな事が起きているのかもな……いや、今川を織田に降伏させた時点でイレギュラーなのかもしれないな。俺が知っている歴史も何処まで自信があるか分からんな)
「あ、この家なんですよ」
馬に揺られて信広と藤吉郎は山の麓にある小さな家を訪ねた。
「来たよ半兵衛ちゃ~ん」
「……また来たのですか~」
中から現れたのは一人の女性だった。かなりの色白だがちゃんとご飯を食べているのだろうか?
「半兵衛ちゃん、この前より顔色が良いね」
「……は?」
「はい~藤吉郎さんが教えてくれた麦飯や玄米、生姜等に変えたら大分血行も良くなったと医師も言ってくれました」
(……この顔色はかなり良くなったのか? まぁそこは言わないでおくか)
「それでそちらの方は?」
「これは失礼した。某、織田信長の庶兄の織田信広であります」
「これはこれは御丁寧に。こんな山奥まで御足労ありがとうございます。私は竹中重治です。半兵衛とも言われています。まぁ立ち話でもあれですからどうぞ中へ」
半兵衛に言われて信広と藤吉郎は半兵衛の家にお邪魔した。
「どうぞお茶です。私は生姜湯ですが」
「これは忝ない」
信広と藤吉郎がお茶を貰うと藤吉郎が口を開いた。
「半兵衛ちゃん、私が此処に来たのはもう分かってるよね?」
「……織田家に来い……でしょう。ですが藤吉郎さん、私は幼少から身体が弱いのですよ」
「でも今は大分良いでしょう?」
「……昔から私を診断していた医師は大分良くなっているとの事です」
「なら――」
「藤吉郎さんがしてくれたのは有りがたいです。でも私は斉藤家に仕えています。私は義を通したいのです」
(信広様も何か言って下さい)
「(分かった)ふむ……竹中殿、率直に言いますが斉藤家に明日はあると思いますかな?」
「……現状では無いです。南に織田がいます」
「その斉藤家は王手です竹中殿。墨俣に我々は砦を築きました、此処にいる藤吉郎のおかげでね」
「……随分と危険な賭けをしましたね」
「そうですな。ですが賭けは成功しました。竹中殿、貴女を此処で朽ちらすのは少々惜しい。某も貴女は天賦の才だと思います」
「ヌフフフ~そんな事はありませんよ」
「いやいや今孔明と言われているのですよ。謙遜されては困ります」
謙遜する半兵衛に信広は苦笑する。
「半兵衛ちゃん、半兵衛ちゃんに教えた料理は信広様に教えてもらったんだよ」
「そうなのですか?」
「……うむ(まぁ藤吉郎が勝手に半兵衛に教えたみたいだがな。俺はそんな事知らんしな。とりあえず話に合わせよう)」
「……信広殿、それなら貴方は私の命数を延ばした事になりますね」
「まぁ……な」
「つまり私は織田家に義がある……と言うのですか藤吉郎さん?」
「ま、そういう事だね」
「(……そーなのかー。思わず宵闇の妖怪の真似をした俺は悪くない……多分)」
「……命の義は斉藤家よりも重い……ですか。分かりました、藤吉郎さん。織田家に仕えましょう」
「ホントに半兵衛ちゃん!?」
「はい、ただし藤吉郎さんに仕えます。それで宜しいですか信広様?」
「構わんよ竹中殿、信長には俺が言っておく」
「半兵衛で構いませんよ」
「それと半兵衛ちゃん。今日は鶏の卵を持ってきたよ」
「……まさか俺が作るのか?」
こうして信広と藤吉郎は竹中半兵衛という軍師を手に入れた。あまり信広はしていないが。というより卵を使って目玉焼きと卵焼きを料理したに過ぎない。
「藤吉郎さんが私を出し抜くとは思いませんでした」
「いやぁ、信広様が一緒じゃなかったら無理だったよ」
墨俣砦に向かう途中、二人はそう話していた。その信広はというと……。
(長秀に命じて身体に良い献立を半兵衛用に考えないとな。玄米とかだな)
「半兵衛を藤吉郎の軍師に? 勿論許可するぞ」
半兵衛を織田に引き込んだと報告を受けた信長は満面の笑みで信広にそう言った。
「それでは稲葉山城を取るとするか」
信長は三日後に稲葉山城の攻略を表明し、信広は信長の許可を得て飛龍を稲葉山城の偵察に差し向けた。
「無理はしないようにな」
「御意」
飛龍が稲葉山城へ向かって二日後、飛龍がある報告をしてきた。
「何!? それは誠なのか飛龍!!」
「は、誠です」
「……分かった、御苦労だ飛龍。明日の総攻撃にはまた働いて貰うからゆっくりと休んでくれ」
「御意」
飛龍に休憩を与えて信広はそのまま信長の元へ赴いた。
「どうした兄様?」
「信長……今、忍から報告が来たんだが……義龍が急死したらしい」
「……裏は?」
「俺の忍の報告しかない。だが、俺の忍は優秀だから敵の策略に引っ掛かる筈がない。総攻撃前に降伏の使者を出してみよう」
「……とりあえず総攻撃の前に降伏の使者を出す。それで拒絶するなら……踏み潰すまでよ」
「……あぁ(魔王になるなよ信長……)」
そして翌日、稲葉山城に降伏の使者が赴いた。
「(降伏すれば城兵の命は全て助けるとしてるし血筋を残すなら降伏してほしいがな……)降伏勧告に参りました」
「降伏致します」
「( ; ゜Д゜)」
使者の前に現れたのは斎藤義龍ではなく十を過ぎた女の子だった。
「……斉藤義龍殿は如何なされた?」
「……父義龍は昨日急死しました。父に代わり斉藤龍興が一色家の当主になりました」
「……左様でしたか」
こうして稲葉山城は開城して戦国大名斉藤氏は織田の軍門に下った。
「道三、捕虜の龍興は貴女に預ける」
「ありがとうございます信長様」
流石に道三も公の場ではちゃん付けをしない。この後、美濃三人衆は信長の配下になる事になる。
そして美濃三人衆も史実通りに信長に人質を出すのが遅れていたが、信長は笑って許した。
夕刻、稲葉山城を攻略した祝いとして織田・斉藤の家臣が飲んでいた。
「互いに思うところがあるだろう。しかし、今日から天下を目指し手を取り合うのだからいがみ合いは今日で無くそう」
信長はそう言って自ら徳利を持ち日本酒を御猪口ではなくご飯が盛っていた茶碗に並々に注いでそれを一気に飲み干した。
そして旧斉藤家家臣一人一人に酒を注いだ。信長の行動に旧斉藤家家臣達は涙を流し信長に忠誠を誓うのであった。
「……飲み過ぎたかな」
宛がわれた部屋で信広は水を飲んでいた。飲み過ぎて酔いを醒まそうとしていたのだ。そこへ道三殿が部屋に入ってきた。
「信広ちゃん、龍興ちゃんの助命をしてくれてありがとうね」
「……何の事ですか道三殿?」
「信長ちゃんから聞いたわ」
(……あのお喋りめ)
「降伏してくれるなら兵の命も無駄に死なせずにすみますからね」
「……ふふ、そういう事にしておくわ」
道三殿はそう言って信広に近づいて――。
「ん……んぅ……」
道三殿は信広にキスをしていた。
「……これはお礼よ信広ちゃん」
道三殿はそう言って笑い、信広の部屋を出ていった。
「……惚れてまうやろ……」
思わず某芸人の真似事をしてそう呟いた信広であった。なお、その光景を信長が見ていた。
「……やりおるな道三。ならば!!」
信長は小姓を通じて信広を天守閣に呼び出した。
(もう小細工は兄様に通用しない……なら一気にやるしかない!!)
「夜中に何か用事か信長?」
何かの決意を固めた信長の元に何も知らない信広が部屋に現れた。
「………」
「ん?」
「兄様!?」
覚悟を決めた信長は信広の元に駆け寄って抱きつこうとした。しかし、信長は転けた。擬音があったならばビターン!!と顔を思いっきり強打した。
「だ、大丈夫か信長!?」
「うぅ……」
流石の信広も心配して駆け寄る。
「痛いところは無いか?」
「………」
「ん?」
「……おんぶしてくれ」
「ファ?」
信長の言葉に目が点になる信広だったが、やがて信長をおんぶして襖を開けて外に出た。夜中の空は数多くの星々が誕生した時の光を何億光年の距離を経て二人の元に来ている。
「綺麗だな信長」
「……そうだな」
「今の日ノ本はあの星々のように分かれている。吉、お前なら天下統一が出来る。俺が天下統一するその日まで支えてやる(……何かプロポーズのような気がするが……気のせいだな)」
「……ありがとう兄様。だがな兄様、統一するその日までじゃなくて統一後も私を支えてほしい」
「――」
信長は信広の言葉にクスリと笑った。月明かりに照らされた信長の笑顔に信広はドキッと心臓が高鳴った。
「……そうか」
信広はその高鳴った『何か』を押さえつつ信長の頭を撫でるのであった。
その頃、全国の戦国大名達が目指す場所の京ではある事が起きていた。
「おのれ賊どもめ!!」
京、二条御所。室町幕府第十三代将軍足利義輝は謎の兵力に押し寄せられ居住している二条御所で奮戦をしていた。
「此処を何処だと思うておる、将軍家じゃぞ!!」
義輝はそう叫ぶのであった。
信長にフラグを建てる信広でした。
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