銀翼の鴉と黒の剣士   作:春華

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第六十八話:逆転の一手

 

 

 思えば兆候はあったのだ。

 

 雪原で放った《バーチカル・スクエア》、《無限変遷の迷宮区》での覚えの無い記憶。突然使えるようになった《武装完全支配術》に《記憶解放術》。

 

 突然現れた黒いポンチョの男と相棒が戦っているのを見ながら、そのハイレベルな戦いにユージオは拳を握りしめていた。

 

 自分が行っても彼の邪魔になる。

 

 相棒を助けることすらできないのかと。

 

 何か彼を助けることが出来ないだろうかと歯噛みしながらも、頭の片隅にずっと残っているこの感じがどうも気になる。

 

 

 そしてキリトの剣が音を立てながら大きくなったのを見て、ユージオは思い出した(・・・・・)

 あの豪雨の時を。

 彼が自分を、ロニエとティーゼを助けてくれたあの時を。

 

 自分が禁忌目録に疑問を抱き、その支配から外れたあの日を。

 

 そこから一気に欠けていたものがハマる感覚があった。

 

 アリスと再会し、カセドラルに連れていかれたこと。

 

 エルドリエと戦い、カーディナルに助けられたこと。

 

 ベルクーリと死闘を繰り広げ、整合騎士としてキリトと戦ったこと。

 

 キリトと、アリスと共にアドミニストレータと戦ったこと。

 

 そして最後に命を落としたこと。

 

 

 「そうだ、僕は…」

 

 「ユージオ?」

 

 呟いた言葉が聞こえたのか訝しげに此方を見るアリスに、ユージオは頭を振りながら立ち上がる。

 

 「アリス(・・・)、僕は行くよ」

 

 「…っ!危険です、ましてや見習いであるあなたが…」

 

 此方を止める彼女の言葉は騎士として、実力者としてこの戦いを見て判断できる者として正しいのだろう。

 …思えば彼女と腰を据えて話すことはついぞなかった。

 

 だけどこうして共に戦って、敵ではなく仲間として時間を過ごしてわかったこともある。

 

 『学院とは、その…どのようなものなのでしょうか。カセドラルの中にも学問を学ぶ場所はあるのですが…』

 

 『蜂蜜パイ…ですか、無闇に人界と関わるのが禁止されている私には食べられそうになさそうですね…。少し残念です』

 

 『料理…基本的にカセドラルで出されるものは料理人が作ってくれますから私には縁がありませんね…』

 

 キリトが倒れていた時、何となしに始めた会話。

 

 話すたびに自分が知っているアリスと違うところを見つけ、似ているところを見つけた。

 そうして彼女を知って、思ったのだ。

 

 記憶を失っていても彼女はアリスで、今を生きているのだと。

 

 自分のことを思い出してほしいとは思う。

 しかし、それで今話している彼女が消えてしまうのだとしたら…。

 

 「未来は、変えられるんだ」

 

 思い出した記憶を使えばきっと見つけられる。

 整合騎士としての彼女も、共にルーリッドの村で過ごした彼女も、二人とも救える道が。

 

 

 

 今の自分(・・・・)がそうなのだから。

 

 

 上級修練士としての服はいつの間にかあの時カセドラルで着用していた服に変わっていた。

 

 気の持ちようが変わっただけで、ユージオ自身は変わらない。

 

 

 青薔薇の剣の力を使えば奴の体に流れ込む心意を放出することができるはずだ。

 それをキリトの剣で吸収することで男に流れ込むのを阻止する。

 元々神聖力ーー天命を吸収し空間へリソースとして解き放つ技ではあるが、今の自分なら心意技として転用も行えると考える。

 

 「雑魚が…邪魔をするんじゃねぇ」

 

 苛立つ男ーーPoHの言葉にユージオは無言で青薔薇の剣を構えた。

 その立ち姿にはぁ、と溜め息をついたPoHは友切包丁をくるりと回し、ソードスキルの構えをとる。

 血のような赤に染められた刀身から放たれる一撃を受ければ一溜りもないだろう。

 

 

 「合図を待って」

 

 「わかった」

 

 短い言葉に返ってくるのは信頼の声。

 その言葉に懐かしさを覚えながら、ユージオは迎え撃つように青薔薇の剣を正面に掲げ刀身を掌で薄くなぞった。

 

 すると青薔薇の剣の刀身が彼の血を飲み込むように赤く染まり始める。

 ソードスキルの発光でもない。

 彼のーー今のユージオだけが扱える絶技。

 

 「シッーーーー」

 

 自身の天命、生命力を剣に纏わせることで《赤薔薇の剣》を手にしたユージオは、短く息を吐きながら踏み込んだ。

 PoHから放たれるソードスキルの連続技に飛び込んだユージオは、その攻撃を赤薔薇の剣で迎撃する。

 

 「マジかお前ーーー!」

 

 「バースト・エレメント!」

 

 ソードスキルでブーストされている一撃を剣で滑らせるようにパリィしたユージオは、驚愕の声を出しながらも硬直で動けないPoHを風素の神聖術で吹き飛ばした。

 そしてそのまま流れるように《武装完全支配術》の準備に入る。

 一連の流れを見ていたキリトは、やはりユージオは自分の見立て通りの剣士になりうる存在だと舌を巻いた。 

 そして彼からの合図が近いことを察し、そのタイミングを待つ。

 

 「エンハンス・アーマメント!!」

 

 剣を地面に突き刺すことで発動した青薔薇の剣の《武装完全支配術》は、そのままPoHに向かって氷の蔓を絡み付かせ動きを封じ込めた。

 

 「この氷…!」

 

 「リリース・リコレクション!!」

 

 PoHも自身を拘束した技の力に気づいたようだが、既にユージオは《記憶解放術》を発動させていた。

 絡み付いていた蔓から薔薇が咲き誇り、そこから彼の身体を巡っている生命力を放出させる。

 放出する側から鎧と連動している友切包丁から心意が流れ込み、PoHの体力を回復させようとしているが、詮を緩めた蛇口のように、貯まった側から変換された生命力が放出される状態になっているのだ。

 

 「キリト!!」

 

 「ああ!!」

 

 そしてその放出された生命力はリソースとなりキリトの夜空の剣に吸収される。

 

 「て、てめぇら…俺の力を…!」

 

 「これはお前の力なんかじゃない!例え憎しみや苦しみの感情だとしても、必死に世界を生きた人達の想いだ…!」

 

 「ーーーだからその想いも、鎧も、お前の好きになんかさせるもんか!!」

 

 そう言いながらキリトの隣に降り立ったシルバー・クロウは一度深呼吸をすると覚悟を決めたように災禍の鎧に向かって右腕を突き出した。

 

 「ファルコン!ブロッサム!!僕に力を貸してくれ!!」

 

 鎧に宿るだろう意思に呼び掛けたハルユキは続けて言葉を発する。

 それは加速世界において禁忌の呼び名。

 彼を呪ったその鎧を今一度。

 

 「来い!クロム・ディザスター(・・・・・・・・・・)!!!」

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 




かつて失った力を再び使う展開熱くないですか?
僕は好きです

メタトロンとの会話から推測されたかたもいたと思いますが、やりたかったのでやりました

また次回もよろしくお願いします

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