銀翼の鴉と黒の剣士   作:春華

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アリシゼーション編始まったということで更新間に合わせられました!

SAOはまだまだ続いていきますね!楽しみだ!


第五十一話:氷の大地

 「キリト?大丈夫かい?」

 

 ユージオが問いかけると目の前の少年ーーキリトはぎこちない笑みを返しながらぼうっとしていたと答える。

 いつもの彼なら軽口を叩くはずだけどなと不思議がりながらも、突然知らない場所に飛ばされたからと言うことで納得しておく。

 

 「とりあえず合流できたのは良いけど…どうしようか、僕ら」

 

 何の心構えもなく土地勘の無い場所に飛ばされたのだ。

 一先ず相棒と合流するという目標で動いてはいたが、その目標が達成できた今、どう動こうか考えるのは当然のことである。

 キリトは暫し考え込んだ後、空中に向かって左手の人差し指と中指を立てて、這いずる蛇のような形を描き自分の腕を叩いた。

 しかし何も起きない。

 

 「キリト、僕も試してみたんだけど《窓》は開かないんだ」

 

 たった今キリトが行ったのは生命を司る創世の神ステイシアによって与えられた《天命》と呼ばれる大地や人間の命を数値で表したものーーーそれとキリトから教わったが武器などの優先度などの“すていたす”表示を確かめることができる《ステイシアの窓》を開く動作だ。

 これはユージオ達が住んでいる《アンダーワールド》の住人なら誰もが知っていることで、日常でも使われることが多々ある。

 

 この《世界》に飛ばされた時に手酷く地面に尻を打ち付けたユージオは、あまりの痛さに思わず《窓》を開こうとしたのだ。

 結果は先程話した通り、《窓》は現れずユージオは痛みが引くまで悶えるしかなかったことは目の前の相棒に伝えず、自分の胸の奥深くに閉まってくのだが。

 

 「…ここはアンダーワールドじゃないのか…」

 

 小さく呟いたキリトは、やや恐る恐る、と言った感じで右腕を振るうも何も現れない。

 だが左手を振るった瞬間、彼の目の前には気の抜けるような音と、半透明な《窓》が現れたのだ。

 

 「うわ、ソレどうやって出したんだい!?」

 

 見よう見まねで指を振るうと、同じように現れる《窓》。

 《窓》には何か言葉が書かれているがユージオにはさっぱりわからない。

 辛うじてわかるのは《HP》と書かれている文字の隣に自分の《天命》と同じ数字が書かれていることくらいだ。

 

 「ねえキリト、この…この文字なんて読むんだい?…キリト?」

 

 思わずキリトに声を書けるが、反応がない。

 視線を向けると、キリトは真っ青な顔をしながらその《窓》を見つめたまま固まっているのが見えた。

 

 「キ……」

 

 声を掛けようとした瞬間、周囲に見たこともない生物が現れた。

 姿は以前にルーリッドの洞窟で対峙したゴブリンに似ているのと、こちらに敵意を向けていることだけは確かなことがわかる。

 《青薔薇の剣》を構えたユージオが注意を呼びかける為に再びキリトを見ると、彼の後ろには棍棒を構えた敵が正に攻撃を加えようとしているところだった。

 

 「キリトーーーーー!!!」

 

 

 

 左手を振った瞬間現れたステータスウィンドウに、俺の思考は動きを止めていた。

 紛れもなくこれは《アルヴヘイム・オンライン》で幾度となく見た画面だからだ。

 あの穴は平行世界に繋がっている穴だったのだろうか?

 仮に元の世界に俺が戻ってきたと仮定すると《ブレイン・バースト》を行っている俺はどうなった?

 そもそも此処にいる俺はなんだ?俺は現実に戻ることが出きるのか?

 激しくなる動悸を押さえながらログアウトボタンを探す為に指を動かそうとした瞬間。

 

 ドッ!という衝撃と共に体が地面に倒れた。

 

 衝撃に驚いた俺が見たのは魔物が棍棒を振り下ろしている姿と、その棍棒を青薔薇の剣で受け止めているユージオの姿であった。

 

 「ユー…」

 

 「しっかりしろキリト!!!」

 

 続いて掛けられたのは叱責の言葉。

 額から汗を流しながらユージオは此方に視線を向けながら言葉を続ける。

 

 「何に驚いているのかわからないけど、周りを見てくれ!!僕たちは襲われているんだ!!」

 

 慌てて視線を向けると、俺たちを囲むように棍棒を持った魔物が迫ってくるのが見える。

 ステータスウィンドウに俺が固まっている間に、敵が出現していたようだ。

 それはそうだ、敵モンスターと言うものは総じてプレイヤーを狙うようにできているのだから。

 

 「キリト…っ、僕はまだ死ねない…!約束したろう!二人で…学院を卒業するって…!!」

 

 “約束”

 

 それは二度と果たされることの無い約束。

 だが目の前の少年はそれを信じている。

 あの時の俺たちは本気で目指していたんだ。

 

 「決めたんだ…っ」

 

 そう、膝を付きながらもユージオが口にした瞬間、腰に吊り下げていた『俺の青薔薇の剣』が強い熱を帯び始めたた。

 

 「アリスに会うって…!!」

 

 その言葉が引き金になったのか、剣は暖かい光になりながらその姿を消すと、ユージオの体に入り込み、溶け込んでいく。

 そして彼の体が淡く輝いたと思った瞬間、ユージオは渾身の力を込めて魔物の棍棒を弾き飛ばした。

 続けて流れるような動きで剣を構える。

 剣を正中線に立てて構え、頭上までバックスイング。それと同時に輝く青薔薇の剣。

 

 「イ……ヤァァァァッ!!」

 

 上段。下段。繋ぎの前斬りを入れ、背中まで振りかぶっての全力斬り下ろし。

 青い正方形の形をなぞるように、魔物に叩き込まれた技は紛れもなくソードスキル。

 

 「で…できた…?」

 

 それは俺がまだ彼に教えていない筈の《アインクラッド流》の奥義。

 いや、《ウォロ・リーバンテイン》上級修練士との戦いで俺が放ったのを見てはいるだろうが、そう簡単にできる代物ではない。現に技を放ったユージオ自身も驚きの表情を浮かべている。

 

 だとすれば考えられる可能性は一つ。

 

 「お前って奴は…っ!」

 

 吊り下げていた《夜空の剣(黒いヤツ)》を抜き放った俺は、驚いているユージオに襲いかかろうとしている別の魔物に向かって剣を構える。

 

 先程のユージオと同じ攻撃ーーー《バーチカル・スクエア》で魔物を倒した俺は、此方を見るユージオに頷いた。

 

 「すまないユージオ、助かった」

 

 「無事に戻ったら跳ね鹿亭の蜂蜜パイ奢ってくれよ?」

 

 返答に苦笑で返しながら、俺たちは群れを突破するべく剣を構えたのだった。

 

 

 

 「あのデカイやつだ」

 

 「わかった」

 

 短いやりとりでキリトとユージオは目標を決めた。

 先程から妙に体の調子がいい。

 《アインクラッド流》の四連撃技も、一度見ただけで『キリト』にはまだ早いと教えて貰えていなかったのに、発動することができるとは思っていなかった。

 だだ漠然と、できるとそう思ったのだ。

 

 “剣の声を聞くんだ”と、よく教えてもらった。

 

 これがそう言うことなのだろうか…?

 

 ユージオはそう思考を巡らしながら、魔物の取り巻きをの攻撃を防ぎ、押し退けると、流れるように《バーチカル》を放って倒す。

 このような魔物との戦いはアリスの妹、セルカを助ける為に戦ったゴブリン達以来だが、キリト、そして《ノーランガルス修剣学院》にてゴルゴロッソ先輩から教わった剣技はしっかりと彼の身を守ってくれている。

 

 包囲網を潜り抜けた二人に、唸り声をあげながら襲いかかるボスと見られる魔物。対してユージオは青薔薇の剣を左腰に構えながら走り出す。

 発動されるのは《アインクラッド流秘奥義》の《スラント》だ。この攻撃は右上から左下に斬り下ろす以外にも、左下から右上に斬り上げることも可能で、汎用性に長けている。

 

 「グギィッ!?」

 

 振り抜かれた一閃は魔物にダメージを与え、その体を怯ませた。

 気づかなかったがよく見ると魔物の近くに妙な《棒》が見え、緑色で染まっている中身が右から左へと減っていき、やがて黄色になって止まったのが見える。

 こちらが斬りつけたことでソレが減ったと言うことはつまり…

 

 「《天命》が見えるのか…!?」

 

 「らしいな…っ、《ソニック・リープ》!!」

 

 ユージオの驚きに《ソニックリープ》で大物を斬りつけ、倒したキリトがそう返す。

 大物がやられたことで他の魔物も出てこなくなったようで、辺りには再び静寂が戻る。

 青薔薇の剣を仕舞おうとして鞘を持っていなかったと動きが止まったユージオに、キリトが鞘を差し出す。

 こういうところとか用意周到だよなと礼を良いながら鞘を受け取ったユージオは、腰に吊り下げた剣の重みを感じてふぅ、と息をつく。

 

 「この世界は僕たちの世界より不思議なことが多いみたいだね」

 

 同じく剣を鞘に収めた相棒に声をかけると、キリトは考える素振りを見せた後、どこか固い声でユージオの名前を呼んだ。

 

 「ここは…多分俺のやってきた…《アインクラッド流》を学んだ場所…だと思う」

 

 

 

 「それは…本当なのかい?」

 

 喘ぐように俺の言葉を確認するユージオに、俺は頷きを返す。

 このようなマップは見たことがないが、ステータスが見れること、ソードスキルが使えることから《アルヴヘイム・オンライン》と見当を付けた俺は、ここが記憶を失う前(という設定)の俺(が居た場所だとユージオに伝えた。

 

 「…じゃあ、記憶は?」

 

 「…そこに関しては微妙なところだな。断片的でさ」

 

 「……そっか」

 

 俺の言葉にユージオは動きを止めて俯く。

 数秒であったが沈黙の後に、じゃあ、と言葉を続ける。

 

 「キリトは、自分の故郷に帰るのかい?」

 

 そう言ったユージオの瞳は不安に揺れている。

 それはそうだろう。これまで一緒に過ごした仲間と離れることになれば誰だって不安になる。

 そんなユージオの肩に拳を突き出すように当てた俺は、首を横に振る。

 

 「約束を破っていなくなるつもりはないよ。戻るとしたら、全部終わってからだ」

 

 あっけにとられた顔をしていたユージオであったが、キリトはそういう奴だったよね、と安心したように笑う。

 その笑いに俺も笑顔で返した後、ユージオにこの世界でのレクチャーを開始した。

 

 「これでめっせーじを送るんだね、わかった」

 

 「基本的には無いと思うけど一応な」

 

 と、ここで俺はマップを表示して近くに街に当たる部分が無いか確認すると、《空都ライン》と名前を見つけた。

 ここのワールドの拠点だろうか?しかし俺がプレイしていたときはこのような場所は見つからなかった気がするので、疑問ばかりが残るが向かうしかないだろう。

 

 「ユージオ、近くに街があるみたいだ。一先ず向かってみよう」

 

 「手に持ったりする必要ないし、地図よりも詳細だから便利だよね。そのまっぷっていうの」

 

 ユージオからすれば明らかなオーバーテクノロジーであるこれらは驚きの連続だろう。

 しかしユージオも好奇心には勝てないらしく、先ほどから左手を動かしてメニューやマップを開いては閉じてを繰り返している。

 

 するとここでメール通知。

 

 

 

 差出人:Eugeo

 件名:ありが

 本文:とうきりとこれでおくれているのかな

 

 

 俺が彼に振り向くと、ユージオは困り顔で笑いかけてくる。ちゃんと送れてるぞと声にだそうとした俺は少し考えたあとメールを起動して文字を入力して送信。

 内容は単純にしっかり届いているというものだ。

 慣れない操作でメールを確認したユージオの表情は困り顔から一転、笑顔に変わる。

 

 「凄いやキリト!このめっせーじって言うのは離れていても直ぐに届くんだね!…これが僕らの世界にもあったらなぁ…」

 

 「アンダーワールドにはアンダーワールドの良さがあるよ。何てったって飯が美味い」

 

 「それってどうなの…?」

 

 「わかってないなユージオ君。食べ物と言うのはとても大切なモノなんだよ」

 

 このやりとりも実に久しぶりだなと、泣きそうになる顔を見られないようにしながら俺たちは街への道を歩き始める。

 

 ただ一つ気がかりなのは、《ニューロリンカー》を通してプレイしている俺の視界には《ブレイン・バースト》用のウィンドウも動作していると言うことだ。

 生憎《グラファイト・エッジ》の連絡先は知らないため連絡はとれないが、まるでブレイン・バーストをしながらアルヴヘイム・オンラインをプレイしている感覚に違和感を覚える。

 ソードスキルーーー今の俺にとっての必殺技も必殺技名を発声してもしなくても発動できることを確認している。

 そして周囲の氷山に突き刺さっている近未来的なビルなどの建物の残骸。

 

 まるで二つの世界が混ざってしまっているような…そんな感じだ。

 

 「何か良くないことが起きている…そんな気がする」

 

 後ろのユージオに聞こえないように呟いた俺は、《空都ライン》にて情報が手にはいることを祈るのだった。

 

 




空都ラインは知らなかった設定にしました

中立フィールドは世界樹の上のユグドラシルシティ?があるし、新生アインクラッドの攻略やらしてたので、もし本編の時系列にあったとしても行かなかったことにしても大丈夫かなって…

ゲームで出てきたラインですがゲームのキリトはアインクラッド完全制覇してるし、そこら辺アインクラッドに心残りはないのでは…?って感じある

必殺技が音声有り無しでも使えるのはメタ的な話で言うと
、AW組が必殺技するときに必殺技ボイス以外にも「これでおわりだ!」とかの別パターンボイスで必殺技使ったりしてたことから、システム的にも混ざった体にしていこうかなと(無理矢理)
というかAW組とSAO組が連絡取れるようにするならどっちもできるようにした方が違和感ないのかなって

ユージオも謎の現象でレベルアップしたんで、これで記憶解放術を使ってもなにも問題ないですね!!!

それではまた次回よろしくお願いいたします!

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