銀翼の鴉と黒の剣士   作:春華

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お待たせしました

今回は題名通りです



では、どうぞ


夕闇の略奪者編
第二十話:新学期/西暦二〇四七年


布団というものは神が作り出した中で最高のお宝なのではないか。

朝の若干ひんやりした空気を感じ、もそもそと布団に潜りながらそう思う。

 

寝ぼけ眼のまま時計を見ると、時刻は午前7:00

そのまま目を閉じて訪れようとした二度寝という至福の時間は

 

「お兄ちゃ~ん!朝だよ!早くしないと学校遅刻しちゃうよ~!?」

 

そんな声とともに布団を引きはがされる感触であっさりと終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「新学期当日なのに…お兄ちゃん、だらしないよ?もっとシャキッとしないと」

 

「ふぁ…学校ってもんはなんでこう…朝早いんだ。午前中は自由にして午後から授業すればいいじゃないか…」

 

「うう…なんか否定できないのが悔しい…」

 

 

この半年で着なれてきた青いブレザーに、臙脂色のネクタイを通して出発の準備を終える。

玄関口で足踏みをしている妹に急かされながら玄関の戸を開け、鍵を閉める。

しっかり鍵が閉まっていることを確認して――。

 

 

「よし、いくか」

 

「うん!!」

 

 

 

 

現在2047年4月8日

 

 

今から約半年前、平行世界に移動するという不可解な現象に巻き込まれた俺こと桐ヶ谷和人は、中学三年生になっていた。

ブレイン・バーストの力を手に入れ、直葉が入っているネガ・ネビュラスというレギオンに入った俺は、≪謎の美少女ヒューマンアバター【キリト】≫として、その名を轟かせていた。

俺自身としてはあまり嬉しくないのだが、リアル割れの可能性が一番低い姿がGGOのアバターと同じ姿である≪黒の銃剣士≫なので、我慢するしかない。

レベルも4になり、相変わらず手に入らないレベルアップボーナスにしょぼんとしたり、≪ヒューマンアバター≫はレベルアップでマイナス効果への耐性を多少上げられることに気づき、慌てて麻痺と炎熱の耐性を上げたりなど、慌ただしい半年間であった。

≪ミッドナイト・フェンサー≫の鎧にも触れておかなくてはならないだろう。

最初は≪キリト≫のアバターの変化に驚いていて気づかなかったが、あの鎧はアイテムストレージの中に入っていた。

しかも初期状態のカード型で、譲渡可能という謎の状態で。

最初は彼の本来の≪子≫であるリーファに渡そうとしたのだが、彼女は彼の剣があるから良いと断られ、結局俺のストレージに収まっている。

俺自身、再びあの鎧を着る気はないが、きっと、必要な時が来るのだろう。

 

 

 

 

あちらの世界にいる俺の仲間達へ

 

 

俺は、今日も元気にやってます

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

杉並区東寄りに存在する、私立梅郷中学校。

各学年たった三クラスという規模は、決して大きくはないだろう。

 

しかし、全生徒360人という視線を受けながらも、彼女は凛とした声で語っていた。

 

「…諸君の大多数は、いま期待と不安を等しく感じているだろう。ことに新入学生の皆は、見知らぬ校舎や先輩たちに大いに戸惑っているはずだ。しかし、考えてほしい。今君たちの後ろですまし顔をしている者たちも、君たちと同じ不安を抱えて座っていたのだということを………」

 

「……あんたは不安もなかっただろうけどな…」

 

入学式の最中、壇上でスピーチをしている黒雪姫を見ながら俺はぽつりと呟いていた。

ミッドナイト・フェンサーの鎧を着た後、直葉のいう記憶の共有化が起きたのか、≪加速世界≫での情報などは大体頭に入っている。

なので、黒の王である彼女は≪無制限中立フィールド≫で長い間過ごしていることで既に精神があらかた成熟しているのは理解している。

 

いったいどれほどの長い間、あの世界で過ごしたのだろうか…

 

とはいえ、好きな人物である有田少年の前では年相応の態度を見せるところは子供が大人のフリをしているようで微笑ましいところもあるんだが……

 

 

……思考が明らかに老人ぽくなっている

 

 

そのことに軽くショックを受けながら、黒雪姫のスピーチが終わったことに気付いた。

 

そのあとは校長先生の長いお言葉やらなんやらを聞き、入学式も無事に終了。

 

そういえば、次はクラス分けか…

二年生の時は普通に友人もいたし、なんとかなるだろうと思いながら、俺は配布されたクラス分けの資料に目を通したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

入学式を終えたハルユキは今、新しい教室である2-Cの前で立ち尽くしていた。

自分のクラス配置は入学式後にニューロリンカーを通して配布される資料に書いてあるが、生徒の名前はわからない。

どうか、荒谷達みたいな奴らに目を付けられず、平穏な日常を過ごせますように…

そう、祈りながらハルユキはドアを開け―――。

 

「ハル、おーっす!!」

 

「うわわわわっ!?」

 

どん、と背中を叩かれて見事にその場で前転した。

綺麗に前転を決めた後、くるっと体を反転。

その視線の先にいたのは、猫のヘアピンで前髪を持ち上げ、八重歯を見せてにんまり笑う幼馴染の顔だった。

 

「ち、チユ!?お前もここなのか…?じゃなくて、お前、いきなり押すなよ!転んだじゃないか!!」

 

「何よ、ボーっとしてるハルが悪いんでしょ。それにちゃんと回ったから良いじゃない。周りの人も拍手してるし」

 

「は、はぁ!?何言っ…」

 

チユリの言葉に周りを見ると、既に教室に入っていた生徒たちがハルユキを見て感嘆の声を上げたり、拍手してたりする。

「ナイス登場だぞー」とか、「このクラスは面白そうでよかったわー」などの声に、苦笑いで答えたハルユキは、チユリをウーッと睨む。

だが、当の本人はふふん、といった感じでハルユキに笑ったあと、廊下の先を見て笑顔になった。

 

「あっ、スグちゃん!スグちゃんもCなんだ?私も私もー!」

 

スグ=チャン?どこかの外国人かな?

まあ、チユの友達なら僕には関係ないだろう。

そう考えて反転して、自分の席を探そうとしたハルユキは、聞き覚えのある声に再びドアの方を向いたのだった。

 

「え、チユも?あはっ!やったー!」

 

きゃー、なんてはしゃぎあいながら教室に入ってくるチユリとその友人。

眉の上と、肩のラインでばっさりカットされた青みがかった黒髪、やや勝気なそうな瞳に、肩にかけた竹刀袋。間違いなく見覚えがある生徒だ。

というか、一年間同じクラスの少女で、しかも半年前から話すことが多くなった彼女を、見違える筈がない。

彼女はこちらを見ているハルユキに気づくと、軽く手をあげた。

 

「おはよ、有田君。また一年、よろしくね」

 

「う、うん。桐ヶ谷さん…こちらこそよろしく…」

 

桐ヶ谷直葉

ハルユキ達と同じようにブレイン・バーストを持ち、≪リーフ・フェアリー≫のアバターを使うバーストリンカーである。

また同じクラスになるのかと思いながらも、バーストリンカー同士、固まってた方がいいかもなと考えていたりすると、彼女たちの後から入ってきた見覚えある顔に、つい、笑顔になった。

 

「タク!おっす!!」

 

「やあ、ハル、桐ヶ谷さんにチーちゃんも」

 

ハルユキの挨拶に爽やかな笑顔で手をあげるメガネをかけた男子。黛拓武がそこにいた。

彼も同じバーストリンカーで、≪シアン・パイル≫という名のアバターを使っている。

 

何はともあれ

 

 

クラスの中に知り合いがいてよかったと心からそう思ったハルユキであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………で、聞いたよ。スグちゃんもやってるんだってね」

 

徐々に増えてくる生徒達から離れるように、四人で固まっていると、チユリが直葉の方を見てニヤリとした表情を見せた。

当の直葉はチユリが何を言っているのかわからないようで、きょとんとした顔をしている。

チユリは直葉の耳に顔を近づけると、小さな声で。

 

「ブ レ イ ン ・ バ ー ス ト」

 

と、ゆっくり囁いた。

 

「――――!?ど、どうひへほのほほお!?」

 

直葉にとっては普通の友人と思っていたチユリが、突然ブレイン・バーストの名前を言ったので、思わず大きな声を出してしまいそうになるが、それも予想していたのかチユリが彼女の口を両手で塞いだので、幸いクラス中に声が響き渡ることはなかった。

 

 

「それは僕たちが説明するよ。桐ヶ谷さん」

 

手を離され、呼吸を整える直葉に、その青いメガネをくいっとさせながらタクムが口を開いた。

 

「前に、僕がチーちゃんのニューロリンカーにバックドア・プログラムを仕込んだのを知ってるよね?僕がハルと戦った後に、そのことと、ブレイン・バーストのことも全部、チーちゃんにぶちまけたんだ。最初はすっごく怒っちゃったんだけど、まあ…何とか許してもらえてさ」

 

本当?と視線で問いかける直葉に、チユリは怒ってますといった表情でコクコクと頷く。

タクムはそれに本当に申し訳なさそうな表情で笑い、続きを話す。

 

「それで…昨日、だね。僕がブレイン・バーストをチーちゃんにコピーインストールしたんだ。結果は成功。これでチーちゃんもバーストリンカーになったわけなんだ」

 

「それで、黒雪姫先輩もやってるって知ってたし、他に誰がやってるの~って聞いたら、スグちゃんともう一人の先輩がやってるって聞いたってわけ。も~、スグちゃんも共犯者だったとは~!このっ成敗してくれようぞ!」

 

「なるほど…って、ちょ、チ~ユ~!やめ、私は関係ないって、ちょ、くすぐったいって、そこ、あっ、止めてったらぁ!」

 

チユリが直葉をくすぐるという、女の子同士の絡み合いが始まるが、それはタクムの咳払いで中断される。

 

 

「…チーちゃんの件はこれで終わりだけど、僕たちにはまだ重要なことが残ってるよ」

 

ハルユキ含め、何を?という表情になったのを見てタクムがため息をつく。

その後、真剣な目つきで続きを話した。

 

「新入生に、バーストリンカーが混ざってるかもしれないってことだよ。通常はそうありえることじゃない。≪親≫と≪子≫が違う学校に入学するってことはね。でも、万が一の可能性がある。一年生が初めて学校内のローカルネットにログインできるのは、僕の学校だと入学式が終わって、教室に入った時だ」

 

「じゃあさ、HR終わったらついでに≪対戦フィールド≫でチユのアバター見とこうぜ。実はインストールしたのは昨日でさ、俺たちも知らないんだ。新入生のバーストリンカーも、そん時のマッチングリストで調べればいいだろ」

 

ハルユキの言葉に三人がコクリと頷く。

しかし、直葉はタクムをジーッと見ている。

 

「な、何かな桐ケ谷さん」

 

思わずたじろぎながらタクムが問いかけると、直葉はうん、と頷いて

 

「黛君って、春休みの間に更にハカセっぽくなったね」

 

「ぐはっ…」

 

「そういえばそうだな」

 

「ぐ…ふ、二人とも!それは真剣にやめてくれよ!もしこのクラスで≪ハカセ≫とか≪メガネ君≫ってあだ名がついたら、二人のせいにするからな!」

 

真剣に嫌そうな顔をしたタクムの言葉に笑いながら、ハルユキ達はそれぞれの席に着いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「バースト・リンク」

 

 

無駄に熱血教師な新しい担任の話が終わり、自己紹介もすませたあと、ハルユキはその言葉を口にし、≪加速≫していた。

周りが青い世界に変わり、ローカルネット用のピンクの豚の姿になったハルユキは、ブレイン・バーストのアイコンをタッチして、マッチングリストを開いた。

更新に数秒の時間をかけた後、リストの最上部に≪シルバー・クロウ≫の名前が浮かび上がる。

その下にタクムの≪シアン・パイル≫、右側のレベルは、ハルユキと同じ4だ。

次は≪リーフ・フェアリー≫、レベルは5。

その次は≪キリト≫、レベル4。

何でこの人だけこんな少ない文字なんだろうといつも思うが、黒雪姫の言った通り、この名前が色などを含めデュエルアバターを表してるんだからいいかと、ハルユキは思っている。

そして≪ブラック・ロータス≫、黒雪姫のアバターだ。レベルは9。

そして、その最後にぽっと現れた名前、≪ライム・ベル≫。レベル1。

そこでリストの更新は止まった。

つまり、新入生にバーストリンカーはいなかったということだ。

 

ハルユキはそのことに安堵のため息を吐くと、≪ライム・ベル≫のアバターをタップして、対戦を申し込んだ。

 

 

 

 

周りの景色も変わり、ハルユキの体も変化する。

ピンク色の豚から、銀色のロボット――≪シルバー・クロウ≫に変化したハルユキは、バトルフィールドに降り立った。

バトルフィールドは、巨大な歯車やコンベアが動き回る≪工場≫ステージだった。

【FIGHT!!】の文字がはじけるのを見たハルユキは、隣に立つ≪シアン・パイル≫と、≪リーフ・フェアリー≫を確認した後、反対側にぽつんと立つ、小柄なアバターを視界にいれた。

 

≪ライム・ベル≫は、その名の通り若葉色の外装を纏っていた。

腰には木の葉に似たアーマー。頭には魔法使いめいた鍔広のとんがり帽子を被っている。

そして、左手には巨大な釣り鐘状の、恐らくハンドベルが装備されていた。

 

それをしげしげと眺めていたライム・ベルは、近づいたハルユキにひょいと顔を向けると、帽子の下のオレンジ色の瞳を訝しげに細める。

 

「なんか…色派手すぎない?…ていうか、あんたハル?」

 

「………です」

 

「うわ…ほっそ!ええと…このゲームのアバターはトラウマからできてるんだっけ?ふーん、ほー…」

 

案の定アバターのことをチユリに言われ、落ち込んでいるハルユキをよそに、チユリはリーファとシアン・パイルに視線を向ける。

 

「タッくんは…なんかごついねぇ…で、そこにいるのがスグちゃん?」

 

「うん、リーフ・フェアリーっていうの。長いからリーファでいいよ」

 

「へぇ…っていうか、なんで人型なの?ずるい!可愛い!」

 

「リーファのアバターはヒューマンアバターっていう珍しい姿なんだよ」

 

リーファの姿を見て怒った声を出すチユリに説明するようにタクムが声をかける。

チユリは暫く唸っていたが、やがて納得したように頷く。

そこでチユリの講習を始めようとハルユキが声を出した。

 

「んじゃあ、始めようぜ。チユは≪ブレイン・バースト≫のルールは知ってるんだよな?」

 

「うん。要はばんばん対戦に勝って、どんどんポイント溜めて、レベル10になればいいんでしょ?」

 

「随分大雑把な言い方だな…。まあ、あってるけど…」

 

チユリの言葉に、黒雪姫が今の言葉を聞いたらなんて言うかなと思いながら、ハルユキは言葉を続ける。

 

「視界のこの辺に、自分の体力ゲージが見えるだろ?その下が必殺技ゲージ。自分の名前をタッチしたら、チユが使える必殺技とかが見れるから、まずは確かめてくれ」

 

ハルユキの言葉にチユリは指を動かし、いくつか操作する。

 

「んと、通常技ってのが三つで、必殺技が≪シトロン・コール≫……?なんか、左手をこんなんにして…」

 

呟きながら、チユリは技リストのアニメーションの動きに合わせて、左腕を動かす。

しかし、現状、彼女の必殺技ゲージは溜まってないので、何も起きない。

 

「何よ、何も起きないじゃない」

 

「必殺技ゲージが溜まってないからな。相手にダメージをあたえぶふぁっ!?」

 

むっとした声のチユリに説明した瞬間、ハルユキの脳天に無数の星が飛び散った。

 

「わお!結構きもちいー!」

 

「ちょっ、チユっぶふぇっ、やめ、ごふぁっ」

 

無邪気な歓声とともに、ハルユキの脳天に星が何度も飛び散る。

必死に止めようとするが、チユリは動きを止める気配がない。

それが少し続いた後、リーファが乾いた声で声をかけた。

 

「ち、チユ、そろそろ必殺技ゲージ、溜まったんじゃない?…青いゲージなんだけど」

 

「む、そうね。もう満タンになってた。よし、くらいなさい!≪シトロン・コール≫!!」

 

叩かれた衝撃でクラクラしているハルユキに、チユリの必殺技が命中する。

この半分以上減った体力で、必殺技なんて受けたらとハルユキが考えていると、あろうことか、彼のHPゲージがみるみる回復していくではないか。

 

 

「何よぉ!ハルのHPが回復しちゃったじゃない!!」

 

「うそ…黛君…あれって」

 

シルバー・クロウのHPが回復したことに怒るライム・ベルに、リーファが強張った声でシアン・パイルに話しかける。

シアン・パイルはその言葉に頷くと。

 

 

 

「今のは、≪回復アビリティ≫だよ…これはチーちゃんが対戦デビューしたら大変なことになるよ…キリトさんやハルがデビューしたとき以上の……!」

 

 

 

 

 

何かを恐れるような声で、そう言ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、君も同じクラスだったとはな…」

 

「それはこっちの台詞だよ。ま、同じクラスの方が色々と都合も良いか。これからよろしくな」

 

 

入学式を終えて、割り振られたクラスについた俺は、隣に座る、全身真っ黒な女子生徒と話していた。

言わずもがな黒雪姫である。

 

ブレイン・バースト内で数少ないレベル9プレイヤーで、ミッドナイト・フェンサーと━恐らく俺も含まれるだろう━同じブラックカラーのバーストリンカー、ブラック・ロータス。

 

入学式の時も思ったが、こうして正面で話してみるとその立ち姿や言葉遣いが明らかに同年代のソレとは違うのがわかる。

 

恐らく、他の王達もそうなのだろう。

 

 

「ところで和人君」

 

「ん?」

 

考え事をしていると、黒雪姫が話しかけてきた。

その目は、こちらを挑発するような。

それでいてある種の期待に満ちた光を宿している。

 

 

「キミがネガ・ネビュラスに入ってからおよそ半年が経ったな」

 

「…あ、ああ……そういえばそうだな」

 

黒雪姫の真意が掴めず、曖昧な返事を返す。

俺がネガ・ネビュラスに入ってから半年というのは何か意味でもあるのだろうか?

 

「それでだな、どうだ?一度、私と対戦してみないか?」

 

「………は?」

 

思わず聞き返した。

何を言うのかと思えば俺と対戦?

確かに彼女と対戦をしてみたいとは思っていた。

だが、何だかんだでタイミングが掴めなかった俺は、彼女と戦うことができなかったのだ。

 

「…理由は?」

 

俺から彼女に挑む理由はわかる。

戦ってみたいからだ。

だが、彼女が俺に挑む理由はあるのか?

片やレベル9の黒の王。対して俺はただのレベル4バーストリンカーだ。

レベル的にも下の俺に、彼女が対戦を挑んでくる理由が見当たらないはずだが…

 

 

「簡単な話だ。私がキミと戦いたい」

 

それだけだとでも言わんとばかりにこちらを見てくる黒雪姫。

なおも戸惑っている俺に対して、彼女はこんな言葉を言った。

 

「半年前のクロム・ディザスターとの戦いの時、共に戦ったキミの動きは、素晴らしいものだった。各レギオンでの領土戦でも、キミは惜しみない活躍をしていてくれる。だが、それを見るたびに、私の中では、初めてVR空間で出会った時のキミの動きを、思い出してしまうのだよ。私は強欲でね。キミのその強さを、直接感じてみたいんだ」

 

それを聞いて俺は、彼女を見返した。

レベル9同士の戦いは、どちらかが負ければポイントが全損するという危険な戦いだ。

そして、レベル9となった彼女に対抗できるのは同じレベル9や、ハイレベルのバーストリンカーだけだ。

そんなの、探したって簡単に見つからない。

だが、ここにいるではないか。クロム・ディザスターとの戦いで、黒の王と息を合わせて戦い、黄色の王との戦いに割り込んだバーストリンカーが。

 

…彼女は、純粋に戦いを求めているのではないだろうか。

 

ポイント全損の危険なんかを気にせず、ただ自分と打ち合えるだけの、バーストリンカーと戦いたいと。

 

 

「………わかった。期待に応えられるかはわからないけど、俺で良いなら相手になるよ」

 

それを聞いた黒雪姫はニヤリと笑い、バースト・リンクと、小さな声で呟いた。

 

 

 

 

 

その瞬間、加速音と共に、周りの景色が止まった。

 

≪黒の銃剣士≫の姿になった俺の前に、炎に包まれた文字が浮かび上がる。

 

 

【HERE COMES A NEW CHALLENGER!!】

 

 

お互いの体力バーが伸び、1800のカウントが現れる。

フィールドは、巨大な青白い月が煌々と輝く、地面も色抜きされたように白い砂に薄く覆われている場所だった。

 

さしづめ≪月光≫ステージってところか………

 

 

軽く辺りを見回した後、正面に立つ、漆黒のアバターを見据える。

 

黒の王、≪ブラック・ロータス≫

 

【FIGHT!!】

 

その文字が浮かび上がると共に、俺はカゲミツを、相手はその剣を構えて、走り出したのだった―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




チーちゃんBBデビュー

スグちゃんとチーちゃん、実は四話に当たる「壊れた現実」で連絡先を交換しあってます

同じ女子なので、なんだかんだで一緒に遊んでたりしてたんでしょう


そしてキリトと姫の真剣勝負
次はバトルメインになりますかね

シアン・パイルも、クロム・ディザスターも、後々のハルに関わる出来事だったからとはいえ、ハルが目立ちすぎた感があるの、言われるまで気づきませんでした
ハルも主人公とはいえ、キリト君も主人公だから、もっと戦わせてやらないと…ですな

月光ステージはハルたちがテイカ―とラストバトルしたステージですね
何もないとこはここかなって思ってこれにしました


では、また次回!


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