或る咎人の憂鬱   作:小栗チカ

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◆ 短編二本立てです。
◆ 原作の設定を無視しています。時系列は一切無視です。
◆ オリジナルの男主人公です。暴言を吐きます。
◆ アクセサリの設定が崩壊している上に扱いがぞんざいです。
◆ アンチ・ヘイトの意図はありませんが、保険としてつけております。
◆ その他、不備がありましたらごめんなさい。



幕間

■咎人、実験をする

 

実験に必要なもの。

自分のアクセサリ。

遠距離武器。捕縛武器以外のものでしたらお好きな武器でどうぞ。

荊。お好きな色でどうぞ。

 

実験方法。

一、適当にボランティアを行い、適当に終わらせます。

二、自分の所有するアクセサリに荊を接続します。

三、アクセサリに思い入れのある人物(筆頭シズカ)がいない事を確認し、遠距離武器でアクセサリに攻撃をします。

四、アクセサリの様子を観察します。

五、弾がなくなるか、気が済むまで観察できたら実験は終了です。

 

 

砂漠の空は今日も雲一つない快晴だった。

太陽はすでに中天を越えて傾き始め、空の色は青から黄色みを帯び始めている。

そんないつもの空の下、咎人はここ最近愛用しているEZ-ヴォルフ IIの銃口を下ろした。

発射煙が銃口から立ち昇るのも気にせずウィルオードライブに武器を納め、アクセサリに接続していた荊もはずす。

凶相と呼んでも差し支えのないその顔には紛れもない苛立ちが浮かんでおり、彼の剣呑さをより一層引き立たせていた。

咎人の視線の先には、彼のアクセサリがいつもどおりの無表情で棒立ちしている。

 

「何故だ」

 

腰に手を当て、苛立ちを隠す事なく咎人は問いかける。

それに対し、アクセサリは無言で彼を見ていた。

 

「何で機銃掃射されて無傷なんだよ。おっかしいだろうが」

 

腹立たしげ言葉を吐き捨てる咎人に、アクセサリは無表情のまま小首をかしげた。

 

「特におかしな事はありません。これが私の運動能力です」

「嘘つけ!」

 

咎人は声を荒げた。

 

「普段は敵のアリサカだの、パルサーだので瞬殺されてるくせに、なーんで俺の機銃掃射かわせんの? ていうか、できるんなら普段からかわして下さいよ。BENKEI君だって、あの形(なり)で一分は持つんですよー。少しはアイツを見習って下さいよー」

「その指示は実行できません」

「あ!?」

 

凄む咎人に、アクセサリはやはり無表情で口を開く。

 

「敵の銃の取り扱いは非常に優れており、私の反応速度を越えております。また、敵の武器の威力は極めて高威力であり、私の耐久値など無きに等しいものです。咎人に支給されているアクセサリは、咎人が期待するほど性能に優れているわけではない。それは貴方もよくご存知のはずですが」

「ああ、そう」

 

咎人は静かに、微笑すら浮かべて答える。

だが、その言葉には地の底で鳴動するマグマのような怒気が込められていた。

 

「つまり俺の銃とその腕前が、荊を接続してもなお、ポンコツなお前の反応速度と耐久値に劣ると言いたい訳だな」

「結果的にはそうなりますね」

「ふざけんな!!」

 

あっさり首肯するアクセサリに、咎人はついに叫んだ。

ほぼ至近距離から直接掃射したにも関わらず、アクセサリは無傷。

さらに言うなら、対人では無双の威力を誇るエゼルリングでの攻撃すらもかわす事ができるのである。

その反応速度は敵咎人どころか、かの天獄が送り込む天兵の攻撃ですら確実にかわせそうなのだが、実際の反応速度と耐久力は、資源不足だからと擁護の出来る範疇を越えている。

もちろん、モノであるアクセサリに罪はない。

咎人自身の戦いの不出来を、モノのせいにするつもりもない。

それは咎人も十分に承知している。

ただ、アクセサリを兵装として認識し、効率的に素早く戦いを終わらせたいと思っている咎人にとって、そのクオリティはどうしても許しがたい出来なのである。

 

製造元にやる気がないのなら、せめて自分の手で戦闘用に大幅な改造ができればどれだけ良かったか。

顔を片手で覆い嘆息する咎人は、ふと顔を上げた。

右手をアクセサリに突き出し荊を射出。荊はあっけなくアクセサリに接続された。

左手を腰に回し、この実験のために持ち込んだ兵装を取り出す。

銃口部分に花のような器具が取り付けられている対人用補助兵装、クリーミー・スクリーミーJrから派生した『キスキス・バンバン』である。

咎人は名前もさることながら、その色がとりわけ気に入らなかったが、とりあえず一通りの武器は作っておこうと作り、そのまま死蔵していた兵装だった。

まさか、このような場面で使うことになろうとは、咎人本人も予想していなかったが。

 

咎人はおもむろにアクセサリに銃口を向け、躊躇いもなくトリガーを引いた。

ネットが展開され、何故こうなったと思えるほどアクセサリは過剰にグルグル巻きになって拘束される。

最初は無表情でモゴモゴ動いていたアクセサリだったが、そのうち動きを止めて棒立ち状態になった。

咎人は一連の流れを酷く疲れた表情で見届け、荊をアクセサリから外し武器をウィルオードライブに納めた。

 

「何でこれには素直に引っかかるんだよ」

 

肩を落として呻く咎人に、ネットで拘束されたアクセサリはそのままの状態で、どこまでも無表情に小首をかしげた。

 

「世の中は理不尽な事に満ち溢れていますね」

「お前が言うなあああ!!」

 

咎人の絶叫は、唐突に吹いた空っ風に乗って呆気なく消え去った。

 

<咎人、実験をする:終わっとけ>

 

 

■咎人、茶番に付き合う

 

一面の青。

戦闘不能状態になるとよく見る景色。

だが、戦闘不能の時と違うのは、風景が何もない。

 

「ユウ、寝転がっていないでこちらに来なさい」

 

背後から声をかけられ、起き上がって振り返り、言葉を失った。

アクセサリが二体いた。

デフォルトの女型と男型。それはいい。

男はソファに座り、女は湯気を立てるカップを運んでいる。まあそれも許す。

男は何故かガウンを着て『週刊・咎人教育マガジン』なる雑誌を読み、女はワンピースにクマもどきと『WE GAZE AT YOU.』の文字が描かれたエプロンを身につけ、カップをテーブルの上に置いている。

……何が起ころうとしているんだ?

 

「今日は大事な話があるって言ったでしょう。早くこちらに来て座りなさい」

 

女アクセサリが、例の無機質な声と表情でそんな事を言う。

混乱で頭が回らず、言われるがまま、男アクセサリの真向かいのソファに腰をおろした。

男アクセサリは雑誌をマガジンラックにしまい、女アクセサリはエプロンを外して男アクセサリの隣に座る。

 

「昨日の夜、中央論理機関から通達が来た」

「はあ」

 

とりあえず返事をするが、全く意味がわからない。

男アクセサリが首をかしげる。

 

「気のない返事だな。わからないのか。お前の将来についての通達が来たんだぞ」

 

言いながら、どこからか取り出した黒い端末を操作し、しばし見つめ、無表情なまま息を吐いた。

 

「知識と学習については壊滅的。性格は粗にして野にして卑であると。健康で回復力があることしか資源価値がないとは。我が子ながら情けない」

 

…………。

はあっ!?

呆気に取られて口を開けることしか出来ない俺を前に、女アクセサリはちらりと隣の男アクセサリを見る。

 

「憎まれっ子世にはばかるを地で行くような子だから。お父さんそっくり」

「バカな事を言うな。私に似ていたら、民生院からも認められる優秀な子になっていたはずだ。お前が子育てをしっかりしなかったせいだろう。何のための専業主婦だ」

「貴方の稼ぎがもっとしっかりしていれば、もっと良い資源カリキュラムを組めたのよ。それに言わせていただきますけど、私は毎日、休む間もなく家事をして子育てもして、自慢と愚痴話しかしないママ友と懸命に話をあわせて、ご近所づきあいも完璧にこなしていたんだから」

「それがどうした。私は使えないデベロッパーの調整と、声だけはでかい無能な上役の尻拭いをしていたんだ。破綻プロジェクトを何とか着地させようと必死だったんだぞ。家庭に仕事を持ち込むまいと耐えてきた苦労がお前にわかるか」

 

淡々と喧嘩を始めるアクセサリ。

 

「わからないわよ。貴方がモザイク街で、胸の大きいフラタニティの女と浮気していた事くらいしかわからないわよ」

「まだそんな事を言っているのか。あれは誤解だと何度言えばわかるんだ」

「どうだか。その女とは浮気でなかったとしても、別に女がいるかもしれないでしょ」

「私が信じられないというのか」

 

信じられるか、俺。

ここまでの会話、あの合成音声にヘンテコなイントネーション、例の無表情で言ってるんだぜ。

目の前でテンプレのような夫婦喧嘩(?)をするアクセサリたちに気付かれないよう、そっと身を乗り出してマガジンラックに置いてある雑誌を取り上げる。

素早く棒状に丸めて、二人の頭を勢いよく叩いた。

 

「何をするんだ、ユウ」

「親に向かってこんな事するなんて、私はそんな子に育てた覚えは」

「やかましいわ!! 手前(てめえ)らに育てられた覚えはねー!!」

 

雑誌をその辺に放ると、どっかりとソファに腰をおろして足を組んだ。

 

「手前らの事情なぞどうでも良いわ。俺の将来とやらの話をするんだろ?」

 

すると、男アクセサリは顔を手で覆い、女アクセサリがそれに寄り添う。

 

「ああ、なんでこんな目つきの悪いチンピラな子になってしまったんだ。やはり私が仕事にかまけて、この子を省みなかったせいか」

「いいえ。天罰と咎人のせいよ。あの時、天兵に浚われそうになったこの子を咎人が助けてくれた。でもそんな粗野な人たちに触れてしまったせいで」

 

無言でアクセサリどもの頭を鷲掴んで引き寄せる。

握力最大で掴みながら口の端を釣り上げた。

 

「い・い・か・ら、早よ話を始めろや。な?」

「はい」

 

凄むとアクセサリどもは素直に頷いた。

ていうか、何してんの俺。

何、こんな茶番に親切につきあっちゃってんの。

放り投げるように手を離すと、手櫛で髪を整えながら男アクセサリは再び端末に目を落とす。

 

「与えられた資格は五級プラントマネージャー。就職先は、昼間は食品プラントだな。惣菜に緑の物体を乗せる仕事だそうだ。お前はプラントが好きだから良かったろう」

「確かにプラントは好きだけど、働くとなったらまた別よ」

 

ていうか、何なのその仕事。マネージャーの仕事じゃねえよな。

 

「そして夜はトイレタリープラントで、ベルトコンベアに流れてくる商品をひたすら見続けて不良品を排除する作業。誰にでもできる簡単な仕事だな」

「ツッコミどころが多すぎるんだが」

「仕方ないだろう。お前にはそれくらいの資源価値しかないんだから。中央論理機関の決める事に間違いはない」

 

さいで。

 

「就職後、半年後に結婚する事になるわけだが」

「待てや。就職して半年後に結婚って、どう考えてもできちゃった婚的ライフプランに疑問はねーの?」

「中央論理機関の決める事に間違いはない」

 

きっぱりと言い切る男アクセサリに、怒りが燻りはじめる。

そんな俺に構わず奴は続ける。

 

「相手は、ヴァリオ・ルーッカネン#m」

「男じゃねーか!!」

「別に問題ないでしょう。身体形成を使えば、どちらの性別もいくらでも変えられるんだから」

「それに、資源価値の低いお前にしては、文句の付けようのない相手だ」

 

アクセサリ達の台詞に、言葉をなくす。

怒りのせいもあるが名状しがたい何かが胸に渦巻き、言葉を詰まらせた。

 

「子供はダメか。このランクでは権利が開放されない。資源価値を考えれば当然だが」

「資源の消費を抑えて子育てが出来れば、資源価値も高まるのに」

「身体形成を使えば若返りも自由だ。資源を浪費するだけの存在なぞ、私は必要ないと思うがね」

 

…………。

 

「住む場所もモザイク街の近くなのね。もう少し良いところに住めないのかしら」

「価値相応だ。治安はことのほか悪いようだが活気はあるようだ。何より、市民の居住エリアに住めるだけでもマシだろう」

「でも天罰が来たら、この場所じゃ避難をするのも大変よ」

「仕方がない。より資源価値のある存在を救いあげるのがPT全体の幸福のためなんだ。天罰が来る前に、資源価値が今より高くなる事を願うしかない」

「一つ聞いていいか」

 

静かにアクセサリ達に尋ねた。

 

「就職先も、住む場所も、結婚相手も、家族の在り様も、資源としての価値がなけりゃ自由に選べないって事か?」

「選べてどうするんだ。お前が選んだところで、失敗するのは目に見えているだろう」

「失敗しちゃダメなのかよ」

「ダメに決まっているでしょう。その分、資源の無駄遣いになるのだから」

「ああそう。……ふ、ふふ、ふふふ」

 

おかしくないのにおかしい。

人間、極限状態になると笑うことしかできなくなるようだ。

 

「ふはははははははは!! ざけんなあああああ!!」

 

立ち上がるついでにテーブルをひっくり返して叫ぶ。

派手な音を立ててカップは砕け散り、中身が勢いよくぶちまけられる。

二人は抱きつき、でもやっぱり無表情に俺を見上げた。

 

「これが反抗期、これが家庭内暴力というものなのか」

「まさか我が家にこんな事が起こるなんて」

「そんな未来しかねーなら誰だって反抗するわ! ボケえっ!!」

 

最後まで付き合う俺もどうかしているわ!

踵を返し、いつの間にやら出現していた扉に向かって歩き出す。

 

「中央なんちゃらの御託なんぞ知ったことかよ。クソが!」

「ユウ、どこへ行くつもりだ」

「まさか、モザイク街へ」

「手前らには関係ねーだろ。俺は自分の未来は自分で決めて、自分で掴み取ってみせる」

 

背後で溜め息をつくアクセサリ二人。

 

「また、そんな出来もしない事を言って」

「いいだろう。そのかわり、今この時からお前は私の息子ではない」

「ハナから息子じゃねえよ」

「勘当だ。二度とここへ戻ってくるな」

「頼まれても戻らねえから安心しろ!」

 

ドアノブに手をかける。

扉を開くと真っ白な光が溢れ出た。

振り向き、表情なく俺を見ているアクセサリを睨みつける。

 

「覚悟決めた人間がどんだけのもんか、目にもの見せてやるからな」

 

そしてその光に飛び込んだ。

 

 

真っ先に目に飛び込んできたのは、いつもの天井だった。

ただし室内灯はついておらず、壁面モニターの光源しかない部屋は薄暗く緑がかっている。

……何だ、夢か。

何となく起き上がった。

 

「おはようございます」

 

モニターの光を受けて、やはり緑がかったアクセサリがこちらを見ていた。

監視カメラと同じ色をした目が、やはり監視カメラ同様無機質に光っている。

 

「現在の時刻は三時四十七分九秒です。いつもの起床時間より約一時間十三分ほど早いようですが、このまま起床しますか」

「いや、横になる。一時間半後にまた起こしてくれ」

「了解しました。スケジュールを変更します」

 

このアクセサリ、刑期の管理とアラーム機能については文句なしに優秀だ。寝過ごす事はないだろう。

しかし酷い夢だった。とんだ茶番だ。

思い出すだけでも腹立たしいが、今は体を休める事の方が大事だ。

大きく溜め息をつき、再び布団の中に潜ろうとして、

 

「ユウ」

 

アクセサリに声をかけられた。

視線を向けると、先ほどと変わりない表情でそこに佇んでいる。

 

「覚悟を決めた人間がどれほどのものか。貴方の行動を監視し続けることで見極めさせてもらいます」

 

…………。

夢でのこと、口に出していたのか。

監視しているのはいつもの事だろうに律儀なこった。

しばしアクセサリを見、そして布団に潜った。

 

「勝手にしろ」

 

言い捨て目を瞑る。

 

「おやすみなさい。一時間半後にお会いしましょう」

 

再び眠りに付くのに、そう時間はかからなかった。

 

<咎人、茶番に付き合う:終わり>

 




ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
毎度の事ですが、誤字脱字があった場合は都度手を入れていきます。

前回までのシリアス展開は何だったんだと思わせる内容になりました。
でも書きやすかった!
技量が足りないので、話のコントロールがしやすい短編は大変に書きやすいです。
本当はもう二本ほどネタはあったのですが、機会がありましたら投稿できればと思います。

■咎人、実験をする
インフラ導入から少し経って書いたものです。
インフラが導入された際、周りにFWをやる知人も友人もいないコミュ障の私は、基本は野良の無言部屋によく出没しておりました。
その際にジェスチャーだけでやり取りをして意気投合した咎人さんがいまして、最後まで一言も発していないのにフェローカードの交換までさせていただきました。
その咎人さんがこれをやっていたのを見て思いついたネタを、短編用に体裁を整えてみました。

■咎人、茶番に付き合う
前回のお話を作成する際に思いつき、没にしたネタを短編用に体裁を整えてみました。
実際に市民様がどんな経緯を辿って未来を決められるのかは不明ですが、それが明かされる時は来るのかな。

それではまた。

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