◆ 原作の設定に基本忠実ですが、捏造要素はしっかり含まれています。
◆ オリジナルの男主人公です。暴言を吐きます。
◆ NPCのキャラが崩壊しています。
◆ アンチ・ヘイトの意図はありませんが、保険としてつけております。
◆ その他、不備がありましたらごめんなさい。
リスポーンから復帰し、ウィルオー通信に表示されるこちらの継戦力は、残り二。
対して向こうは三。
拮抗している数字のように見えるが、俺の士気はすでに地に落ちている。
第七情報位階権限、取得考試。
人海戦術の有用性を、まさかこの取得考試で、しかもたった一人で痛感する事になろうとは。
そして、普段共に戦う仲間と、ポンコツながらもサポートするアクセサリが、何と心強い戦力であった事か。
わかっていたのに、まるでわかっていなかった。
今は、その有難さが骨身に沁みる。
叩いても叩いても、削っても削っても、味方の連携で立て直し、それどころか数を増やして怒涛のごとく攻め立てる、安全保障局の連中。
既に医療補助アイテムは底をつき、弾はあっても撃つ暇はなく、隙を見せたら多人数で一方的にサンドバックにされ、反撃する間もなくリスポーン。
そんな事を繰り返して、現在の継戦力である。
終わりはあるはずなのに、永遠に続くかと思われる消耗戦。
心身ともに疲弊し、それにともない思考も停止状態。
諦めと絶望が、集中力と緊張感を見る見るうちに削ぎ落としていく。
普段の自分ならとっくに白旗揚げているだろうに、バカの一つ覚えのように戦うしかないと、その思いが燃料になって自分の四肢に力を与える。
口の中に残っていた血を吐き捨て立ち上がり、思わず目を疑った。
先程、ナタリアと相打ち同然で継戦力を減らしたのだが、敵の数が明らかに増えている。
そのあまりの数の多さと、エリアの一角に生み出された瑞々しい光を放つ治療性荊の存在に、心と膝が崩れ落ちそうになりながら、メザニンラックにいるアクセサリに向けて荊を射出した。
アクセサリはリロードしつつ移動したため、接続は出来なかったが上等。
ダイブしてアクセサリの背後に回りこみ、そのままムラサメで切り伏せた。
別の場所にいたアクセサリの攻撃を回避しながら、リロードの瞬間を待つ。
あれを倒したら、後はメザニンラック上で、敵兵をちまちま削っていくほかはない。
狙いのアクセサリがリロードの体勢になり、ダイブしようとしたその時、複数の敵が荊を使って俺の背後に現れた。
「いかん!」
ナタリアが鋭く叫んだのと、俺がダイブをしようとしたのと、連中が俺の腰についているウィルオードライブを切りつけるのは、ほぼ同時だった。
ウィルオードライブが、ウィルオーと部品を撒き散らしながら俺の腰から離れ──。
雷撃を受けたようなショックとともに、意識は四散。
◆
「はい。一回休みでス」
女の声がする。
「休みとは言ってもしんどい目に合うけど、大丈夫。キミは一人じゃないかラ。でも最後は一人で乗り越えなきゃならなイ。でもボクは、キミの事を信じて待っているからネ」
そう言って、女の声は遠ざかっていった。
◆
青い世界にいたような気がする。
しかし今回は夢だったのか、時間と共に瞬く間にかすんで消えていく。
そうして眼前に広がるのは、明るくも無彩色な世界。
天井のライトがいつも以上に眩しく感じられ、少しずつ慣らしながらゆっくりと目を開ける。
「おはようございます」
無機質な合成音声の、いつものご挨拶。
だが今回はやけに頭に響く。
「簡易ヘルススキャン実行。脳波の乱れはあるものの誤差範囲内。バイタルは低値ながら安定状態。現在、生産計画局、及び安全保障局に状況報告中。報告完了。通達があるまでしばらくお待ち下さい」
腕に違和感を感じて見れば、点滴をされている。
声を出そうとして声帯に力を込めるが、なかなか力が入らない。
少し喉が渇いているから、水を飲みたいんだが。
「生産計画局より通達です」
要望を口にする前に、お上からのお達し。
「『まずは、貴重な資源であるところの同志の回復を喜ばしく思う。しかし、貢献活動に従事するには、今しばらくの療養が必要であると判断する。今この時より、同志の解放した権利の一部を、当局が貢献活動可能と判断するまで差し止めとし、回復に伴い、段階的に再解放するものとする。一日も早い貢献活動復帰のため療養に励め』。以上です」
目はチカチカするし、頭と体が重くて思考もまともに働かないが、お前しばらく大人しくしてろって事だろう。
こんな状態では、言われずともそうするしかない。
とりあえず、水が飲みたい。
そう思って起き上がろうとした時、目の前を青い光が走り、ほぼ同時に、全身の全神経を引き剥がされるような言語を絶する激痛が襲いかかった。
あまりの激痛に、したたかに胃液を吐いてのた打ち回り、ベッドから転げ落ちて気絶した。
この後も、起きるたびにこの激痛は襲いかかり、アクセサリが投与する薬で沈静化するか、痛みで気絶するまで文字通りの七転八倒、醜態を晒し続けた。
心も体も疲弊しすぎて、生きたいとも死にたいとも思わない。
ただただ休ませてくれと思い、ひたすら眠り続ける。
意識が回復してから五日ほど経った頃、ベッドから起きて人の話を聞ける状態になった。
「貴方は、第七情報位階権限、取得考試中に、ウィルオードライブの破損と剥離によって意識不明となり、四日間の入院の後、独房に戻され、さらに五十一時間ほど意識のない状態になっていました」
アクセサリから水を受け取りながら、ようやく聞く事ができた状況報告。
定位置のドアの前に立ち、アクセサリは表情なくこちらを見る。
「先ほどの回診では、担当医をはじめとした関係者も驚きの回復力で、経過は良好との事。丈夫で回復力があるという事は、資源として大変に理想的です」
「そりゃどうも」
「貴方がウドノタイボクでないことが証明されて、本当に良かったです」
「やかましいわ」
自分の事を棚上げしてロクでもない事を言っているようなので言い返す。
そこで気付いた。
こいつ、こんなやり取りが出来るような奴だったか? もっと判で押したような定型文ばかり口にするような奴だと思っていたが。
まあいい。今はそれよりも聞きたい事は山ほどある。
水をひと口飲み、疑問に思った事を口にした。
「ウィルオードライブの破損と体から取れた事が、そんなにまずい事だったのか」
「正確には、ウィルオードライブの使用中に剥離した事が深刻な事態なのです。再教育時、ウィルオードライブの取り扱いをご説明をした時に、その件にも触れました」
「……ああ、そんな話もあったな」
記憶の片隅に追いやられ、だいぶ薄れてはいるが確かに存在する知識だ。
「そもそもウィルオードライブは、ウィルオードライブ内にウィルオー磁性流体を充満させ、武装の制御を可能としているだけでなく、ウィルオー通信にも深く関わる重要兵装の一つです」
相変わらず変なイントネーションで、アクセサリは話はじめる。
ウィルオードライブを用いた兵装の所持と切り替え、ウィルオー通信は、荊以上の多くの情報伝達を必要とすることから、ウィルオー磁性流体を、ウィルオー受容体を介して、人体に『高密度非接触通信』が可能となる擬似神経にすることで実現している。
それを何らかの原因で引き剥がされた時、擬似神経を通じて激痛を引き起こす現象が『幻痛(ファントムペイン)』だ。
ウィルオードライブ使用中の剥離による幻痛と、それに伴う事故は当然問題視されており、今でも改良が続けられているらしいが、未だ解決には至っていない。
また、幻痛は人にもよるそうだが、後遺症として残る場合もあるらしい。
俺を一週間以上ベッドに縛り付け、何度も無様に悶絶させた原因がこれだった。
頻度は減っているものの、それでも時折り起こる痛みは、心身を容赦なく苛み続けている。
「幻痛の影響がなくなったと判断されるまで、安全保障局発行ボランティア参加権、平時におけるアクセサリ監視外行動権は差し止めとなります。また次回の精密検査にて経過良好の判定が出るまで、平時における五歩以上の自立歩行権、平時における独房外行動権も差し止めとなります。療養を拒否した場合も、懲罰の対象となりますのでご注意下さい」
「さいで」
最下層時代の権利開放に近い状態になったわけか。懐かしいくらいだ。
「療養の期間って無期限なのか? んなわけないだろうが」
「療養期間の日数は、最大三ヵ月間です」
「仮に三ヵ月間経っても治らなかった場合はどうなる」
「三ヵ月経っても回復しなかった場合、選択肢は二つあります。一つは、ウィルオードライブ剥離時とその前後の記憶除去、及び改竄を行い、再教育を経た後、貢献活動に復帰する方法」
初っ端からえぐい方法だな、おい。
「しかし、その方法を取ったとしても、後遺症は残った上に精神に悪影響も出たという報告もあり、もう一つの選択肢、薬物治療を継続をしつつ復帰する例が多いようです」
後者を選択する咎人が多いのも頷ける。
成功するとは限らない上に、他人に記憶を弄られて気分が良いわけがない。
少なくとも俺は嫌だ。
しかし、三ヵ月で治るのだろうか。
筋肉が落ち、細くなった腕を見て溜め息をつく。
焦りは当然ある。元の状態に回復できるのか不安もある。
だが、このままの状態でボランティアに行くのは、自分はもちろん友軍をも危機に晒す事になる。
水を飲み干すと、ベッドに身を横たえた。
「メシ時になったら起こしてくれ」
「了解しました」
ちゃんと治そう。治る事を信じるしかない。
目を閉じて、意識を無理やり闇の底へと沈めた。
◆
それからは、おおよそ模範的な療養生活を送っていた。
仲間と通信のやり取りをしたり、プラントをまわしたり、五歩以上は歩けないからベッドの上でストレッチをしたり。
ユリアンが、毎日見舞いに訪れてくれたのは、良い気晴らしになった。
一番最初に訪れた時は、俺の人相の変わりように仰天し、比喩でも何でもなく腰を抜かしていた。
俺も意識回復後、久しぶりに鏡で自分の顔を見た時は、叫び声を上げて刑期加算──独房内での騒音・振動規制に違反したため──をされたくらいだ。
決してユリアンを責められない。
「本当は、皆見舞いに来たがっているんだけど、咎人は他人の独房へ立ち入る事が出来ないからね。それに僕はもちろん、妻も君の事を心配していたし」
「奥さんにまで気ぃ遣ってもらって悪ぃな」
「気にしないでくれよ。僕らとしては力がいたらなくて申し訳ないくらいなんだから」
そんな事を言っていた。
基本的に何でもできる超人市民のユリアンだが、幻痛については現状お手上げらしい。
それをユリアンが詫びる必要は本来ないはずで、逆にこちらが申し訳なくなる。
そんなユリアンだが、俺が意識不明の間に、俺のアクセサリに看護プログラムを仕込んだという。
俺が意識不明にも関わらず、ベッドが足りないからと病院から出る事になり、ならば独房内でも看護が出来るようにとの計らいだった。
勝手にそんな事をしてPT法に触れないか気がかりだったが、上司のジーンとともにPTに掛け合って、三ヵ月間のみという条件で許可を得たらしい。
さすがは超人市民、そつがない。
そしてアクセサリは、一通りの看護の知識と技術を身につけ、俺はその恩恵に与れることになった。
特筆すべきは、看護プログラムに付随する、ホスピタリティプログラムの存在だ。
これのおかげで、情緒はともかく、マナーを知り、語彙は飛躍的に増え、会話の幅も広がり、今よりも人間的なやり取りができるようになるはずだった。
はずだったのだが、現実は極めて理不尽で不条理だ。
このプログラムを搭載したポンコツの言動は、一言で言えば、クマもどきとシズカがかけ合わさったような、極めて面倒くさい方向へと進化を遂げたのである。
さすがはポンコツ、嫌な意味での期待を決して裏切らない。
だがそんな一人と一体のおかげで、時折り後遺症に苦しみはしたものの、意識が戻ってから初めての精密検査は見事クリアし、独房から出る事ができるようになった。
「次回の精密検査にて経過良好の判定が出るまで、平時におけるPT内の疾走権は差し止められていますのでご注意下さい」
「あいよ」
俺は素直に頷く。
ずっと独房にこもりきりだったから、走りたくても走れない状態になっている。
体力も筋力も削げ落とされている事は、今まで着ていた服が緩くなっている事からも明らかだった。
さて、どうするか。
ひとまず、自分の体の状態を知るためにも、ロウストリートを歩いてみようか。
久しぶりにアクセサリを伴って、独房を出た途端、見知った顔が目に飛び込んできた。
小柄な少女が、俺の名前を呼ぼうとして凍りつく。
予想していた反応ではあった。
だが、俺はその表情がおかしくて、思わず笑う。
「エルフ先輩、久しぶりっスね」
「あ、ああ。ていうか、その呼び方は止めろって言っているだろ」
エルフ先輩こと、エルフリーデが、俺の前に立っていた。
腰が引けていないのは、さすがと言うべきだろう。
立ち話もなんだからと、そこら辺の階段に座った。
「ユリアンから話は聞いていたが、本当に大変だったようだな」
「おかげ様でな。これでも経過は良好らしいけど」
「そうか。しかし……」
エルフリーデは俺の顔を改めて見て、そして言葉をなくす。
俺は顔をなでた。
「これでも大分マシになったんだ。市民の面会が許された直後にユリアンが来てくれたけど、髪はボサボサだわ、激やせして瞼が窪んで顔色も最悪だったわ、ヒゲも伸び放題だったわで、アイツ腰抜かしちゃって」
「だろうな」
ようやくエルフリーデは笑顔を浮かべた。
その笑顔が、自分でも驚くほど胸に染み入った。
自分が、他人の笑顔に飢えていた事に気付かされる。
ああ、笑顔って良いもんなんだな。
俺の思いなど知るよしもないエルフリーデは、いつもの生真面目な表情に戻った。
「本当は、皆で顔を見に行こうって話はしていたんだが、ボランティアがあるからな。モザイク街に行けば会えるだろうが」
「病み上がりの状態で行ったところで気を遣われそうだし、今日は体の調子を知りたくて出ただけだから、日を改めて会いに行くよ」
「そうだな。ある程度は元気になって姿を見せたほうが、皆も安心するだろう」
エルフリーデはすっくと立ち上がり、俺を見下ろす。
「さて、今日来たのはな、今日から私がお前のトレーニングに付き合う事になったからだ」
「え!?」
驚く俺に、エルフリーデは眉根を寄せる。
「不満か?」
「滅相もないっスよ、エルフ先輩」
「その呼び方止めろ」
しかし何でまた。
いや、その提案は自体は大変に有難いわけだが。
「いいのか?」
「構わん。親父に頼まれたって事もあるが、お前がどんな状態か正確に知りたいし、不肖の後輩の面倒を見るのも立派な貢献活動だろうからな」
幼く直線的な細い腰に手を当て、薄い胸を張るエルフ先輩。
年下なのにこの言動、どこぞのスチャラカなセンパイにも聞かせてやりたい台詞である。
聞かせたところで、からかいの種にしかならないだろうが。
「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらってもいいっスか」
「ああ。お前のアクセサリと一緒にちゃんとサポートするから安心しろ」
すると、今まで棒立ちになっていたアクセサリが動き、エルフリーデの前に立った。
「咎人エルフリーデ・“サカモト”・カブレラ。事故とはいえ、ただの消費するだけの真核生物以下に退化した彼を、清く正しい人類へと進化させる支援は、立派な貢献活動です。ご協力、お願いいたします」
エルフリーデは目をしばたたかせる。
普通、アクセサリは監視対象の咎人以外とは会話をしない。
だが、今のポンコツは看護プログラムの影響が強く出ているため、三ヵ月間だけだが、俺以外のやり取りも積極的に行おうとする。
何でも、患者の関係者とも情報交換を行い、そのフォローをする事も看護師には求められているらしい。だからそのような行動をとるのだと、ユリアンは言っていた。
他にも難しい事を言っていたが、俺にはほとんど理解できなかった。
そんなわけで、しばし固まったエルフリーデだが、ユリアンから話は聞いていたのだろう。すぐに笑みを浮かべた。
「ああ。こちらこそよろしく頼む」
「では、早速参りましょう。エルフ先輩」
「……その呼び方は止めてくれないか」
「了解しました」
どこまで了解したんだか。
ここ数日のポンコツのノリを思い出し、思わず溜め息をつく。
そうして、まずは第六階層のロウストリートを歩くことになったのだが、一周した時点で歩けなくなってしまった。
長距離を走った後のような足取りで、フラフラと独房近くの階段に座り込む。
「下半身が痛ぇ。特に股関節と膝、足の裏がヤバイ」
「三週間、まともに歩いていなかったからな。むしろ一周できた事が驚きだ」
「彼のクマムシの如き強靭な肉体と、アメーバの如き脅威の回復力は、彼の数少ない価値ある資源なのです」
「おい、そこの。少し黙ろうか」
「その指示は実行できません」
「うぜぇ……」
唸るように呻くが、ポンコツは表情なく佇んでいるだけだ。
この際、ポンコツの物言いはどうでも良い。
自分の体の衰えが、冗談じゃないレベルだった。
ある程度予想していたとは言え、実際に経験するとショックはかなり大きい。
「焦るなよ。とは言っても焦ってしまうだろうが、必ず回復できるはずだ。私も時間を見て付き合うから、着実に進めていこう」
「エルフ先輩」
「だから、その呼び方は止めろ」
すまないと思うと同時に、やはり嬉しくもある。
焦る気持ちはあるし、当分消える事もないだろう。
それでも、ちゃんと支えてくれる存在がいる事は、本当に心強い。
「ユウ! エルフ先輩!」
エレベーターから、まっすぐこちらに向かって歩いてくる人物が手を上げている。
派手な色をまとうその男は、遠目でも正体は一目瞭然だった。
エルフリーデが、苦い表情で腕を組みマティアスを出迎える。
「お前らな、いい加減その呼び方は止めろって何度言ったらわかるんだ」
「いやだって、先輩なんだろ」
「そうじゃない。名前を略すのは止めろといっているんだ」
「だって、呼びやすいし、なあ」
マティアスが俺の方を向いて同意を求め、表情が強張った。エルフリーデと同じだ。
その表情がやっぱりおかしくて、俺は笑みを浮かべて片手を上げた。
「お疲れちゃん。久しぶりだな」
「ああ。……話は聞いていたけど、本当にshazだったんだな」
「エルフ先輩と同じ事言ってるぞ」
「私はそんな造語は使わん」
「チャレンジしてみたら? 新世界の扉が開くかもしれねーぞ」
「だが断る」
マティアスの提案に、エルフリーデはそっぽを向いた。
何か話が変な方向に行きそうなので、話題を変えることにする。
「休憩か?」
「ああ。夕方にまたプラントで市民奪還のボランティアが入ってる。でもエルフ先輩からお前が独房に出れるようになったって聞いたんで、顔見に来たんだよ」
「そうか。わざわざありがとうな」
良い奴らなんだよ、本当に。
「さすがに、まだボランティアには出れそうにないか」
「ああ。時間はかかるだろうな」
エルフリーデが代わりに答える。
俺も続けて答えようとして、悪寒と共に目がチカチカしだした。
あ、これって。
「脳波の乱れを確認。後遺症の前兆と判断しました。薬を服用して下さい」
そう言って、アクセサリは薬と水を差し出す。
ここであの大醜態を晒すわけにはいかない。
手渡された液剤と錠剤をまとめて飲み込んだ。
この液剤がまたまずくて吐き出しそうになるので、水をひと口含んで無理やり胃袋に流し込む。
ふー、やれやれ。
「大丈夫か?」
心配げに見る二人に、俺は笑って答える。
「薬を飲めば大丈夫だ。ただ、激しい運動をすると出やすいらしいし、そうでなくてもまだ結構な頻度で出るから、軽い運動しか許可してもらえてねぇんだけどな」
「そうか……」
マティアスは、真面目な表情で黙り込む。
「深刻になる話じゃねぇから。治療を続ければ、大体治るらしいからさ」
余計な心配をかけさせまいと、あえて明るく振舞うが、マティアスの表情は変わらない。
エルフリーデは真面目な表情でマティアスを見た。
「無闇に心配する必要はない。コイツは必ず復帰する。信じて待ってやれ」
「いや。俺は待たねぇよ」
「何?」
マティアスは毅然と顔を上げた。
腰に手を当て、今までになく真剣な表情で俺達を見わたした。
「俺、第七情報位階権限、取得考試を受ける」
「は!?」
突然の宣言に、エルフリーデは声をあげ、俺も思わずマティアスを見つめた。
「お前、突然何言って──」
「本当は待とうと思っていたんだけどな。でもコイツの様子を見て、待ってちゃダメだって事に気付いた」
マティアスは俺に視線を定め、軽薄な、しかし不敵な笑みを浮かべた。
「俺は先に行く。だから早く体治して、追いついて来いよ。相棒」
……なるほど。
恐らく今回は復帰に時間はかかるだろう。
その途上で、凹む事も、歩みを止めてしまうこともあるはずだ。
だからこそマティアスなりに、俺を信じて発破をかけてくれたのだろう。
本当は悔しい。
だが、マティアスを目指して追う事で治療の励みにはなる。
俺は頷いた。
「必ず追いついてみせから、先に行っててくれ」
「おう! 華麗に一発で通過してやるからな」
マティアスは歯を見せて笑い、拳を突き出した。
その拳に、俺も拳を作って軽く当てる。
「うーむ。何だかなー」
エルフリーデがジト目でこちらを見ている。
音もなく、アクセサリがエルフリーデに並び立った。
「どうかしましたか、エルフ先輩」
「どうもしない。羨ましいとか思っていない。それと、その呼び方は止めろって言ったよな」
「その指示は実行できません」
しれっと答えるアクセサリに、エルフリーデのこめかみに青筋が立った。
「さっきは了解って言っただろ!」
「この会話は貢献の役に立ちますか?」
「……っ! ……っ! ユウ!」
悪ぃ、俺にはどうする事もできんよ。
エルフリーデから目線を逸らし、
「苦情はユリアンに言ってくれ」
クレーム対応を、超人市民に丸投げする事にした。
今までは一話完結でしたが、今回のお話は四回ほど続きます。
話の内容自体は、ちょっとしんどくなるような内容ですが、最後までお付き合いいただけましたら幸いです。
原作にない設定が出てきていますが、活動報告に多少補足をさせていただきますので、気が向いたら覗きに来てくださいませ。
それではまた。