或る咎人の憂鬱   作:小栗チカ

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◆ 原作の設定に基本忠実ですが、捏造要素はしっかり含まれています。
◆ オリジナルの男主人公です。暴言を吐きます。
◆ NPCのキャラが崩壊しています。
◆ アンチ・ヘイトの意図はありませんが、保険としてつけております。
◆ その他、不備がありましたらごめんなさい。


咎人、再確認をする

記憶を失う前のアクセサリは大破し、資源となっていずこへと流されたと聞いた。

それ以外の事はわからない。

 

 

アクセサリ。

記憶を失い、PTの最下層に逆戻りした時に、百万年の罪と共に俺に一方的に与えられた、監視カメラにして看守にして、ボランティアにおけるパートナー。

個人的に最後の部分は全力で否定したいが、そういう名目だという事だ。

 

主な仕事は、咎人を監視し、刑期を管理すること。

携行兵器や携帯端末として、咎人の命を守り生活を支えること。

人の形を模り、人の心と欲望を埋めること。

そして、咎人にPTへの連帯と服従と勤労を促し、PTへと教化すること。

 

咎人の存在よりも価値の高い道具。

俺はそう認識している。

 

咎人の数は、全世界で一億二千六百万人ほどいるらしい。

当然、アクセサリもその数は確実に存在する。むしろ咎人より多いはずだ。

だとしたら、その中に、当たりやハズレがあってもおかしくはない。全てが同じクオリティである保証はどこにもない。

そうでなければ、俺が武器プラント絡みで独房の壁を蹴り飛ばし、刑期が加算される事もないはずだからだ。

 

普段のポンコツぶりからして、俺のアクセサリはハズレだと思う。

でも、己を省みて思いなおすこともある。

ポンコツでハズレなのは、もしかして俺のほうか?

 

 

火はいいものだ。

見ているだけで、心が落ち着き癒される。

薪のはぜる音も心地良い。

薪が燃える匂いと、炎が伝えるぬくもりは、暖かく豊かな安心感を与えてくれる。

 

夜の帳が下りようとしているモザイク街の広場の片隅。

このドラム缶の中で燃えている薪はどこから拾ってきたのか? 資源がないんじゃないのか? 薪だと思っているこれは、本当に薪なのか?

そんな疑問を持ちながらも、俺はひたすらそれを見つめていた。

 

火によって起こる熱と光は、遥か古代の人々の生活を支え、夜の闇や危険な外敵から守ってきた。

さらに火がもたらす恩恵と破滅は、信仰の対象にもなった。

人が火を見て癒されるのは、そんな古代からの遺伝子が今なお受け継がれ、触発されているからではないか。

そんな事を、先ほどまで一緒にいた怠け者の市民が言っていた。

ついでに、この火の燃料についても聞いてみたが、明確な回答は得られなかった。

 

「お! こんな所にいたのか」

 

声のかけられた方向を見れば、マティアスとビリー、そしてその後ろにウーヴェがこちらにやって来たところだった。

 

「今から皆と一緒にガソリンに行こうと思って……て、どうしたよ?」

 

マティアスの気遣わしげな表情に、俺はゆらりと立ち上がった。

何故か顔を引きつらせ、退こうとする二人の肩を素早く掴む。

 

「聞きてえか?」

「あ、いや、その、あのな?」

「聞きてえんだな? そうか、それなら仕方がねぇな。長くなるけど聞かせてやる。ここ数日の出来事をな」

 

背後でウーヴェが溜め息をついているのが見えたが、問答無用で話し始めた。

 

 

【一昨日 放置市外区域 昼】

 

「ちょっと、もっと丁寧に大切に運びなさいよ、このグズ! 私は市民なのよ!」

 

市民奪還ボランティア。

俺が運んでいるこの市民様は、資源消費量が少なく調整された体型の上に、女のためさらに体が小さい。

しかし気の強さと気位の高さは、その体形に反比例している。

 

「さーせーん」

「何よ、その気のない謝り方! いい? 本来なら私は、あんたみたいな社会不適合者がお目にかかる事すらない存在なのよ。できる限り紳士的にエスコートなさい!」

 

紳士的。俺の辞書にはない単語ですな。

さっきまではビルの部屋の片隅で、ガチガチに震えて泣きべそかいていたのに、すっかり元気を取り戻したようで何より。

 

「こんな、こんな目つきの悪いチンピラ咎人に触られるなんて」

「悔しい、でも感じ」

「キモイ! うるさい! いいから黙って丁重かつ迅速に運びなさい!」

 

罵詈罵声を浴びつつ、丁寧丁重というリクエストなのでお姫様抱っこで運んでいるわけだが、背後で敵と戦う仲間の事もある。

さっさと運んで合流しなければ。

 

『おい。そっちに敵が何人か行ったから気をつけろ』

「了解」

 

セルジオに応じ、背後に着いて来ているアクセサリに声をかける。

 

「敵が来たら足止めしろ」

「了解しました」

 

護送機は見えてきている。あと少しってところだが。

程なくして銃撃戦が始まった。

アクセサリの耐久力を鑑みるに、大した足止めは出来ない。

急いで運んで──。

 

『損壊率、規定値を突破。一時的に機能を停止します』

 

だから早すぎんだろがよおっ!!

後ろ見てねえからあれだけど、どうせリロード中に撃ち込まれたか、謎の棒立ち状態になって射撃の的になったかのどちらかだろうがな!

 

「ちょっ、あんたのアクセサリやられちゃってるわよ! 来た、来たわよ敵が!」

 

悲鳴と銃声と弾丸が耳元を掠める。

護送機まで後五十メートルもない。足元を遮る障害物もない。ならば。

 

「あらよっと」

「なにすんのよ!?」

 

お姫様抱っこから、肩に担ぐ方法に変更。

 

「揺れますので、手すりつり革におつかまり下さーい」

「何言って、キャア!」

 

後はダッシュで、この市民様を護送機にダンクショットするだけだ。

 

「もっと慎重に安全に運びなさいよ! このおたんこなすうううっ!!」

「あんた、胸はペッタンコだがいいケツしてんだな」

「セクハラ! セクハラよ! 私をどうするつもり!? 咎人の分際で、いきなりそんな事許さないんだから!」

『現在、ダメージにより機能停止中。回復を要請します』

 

さっきまで市民を運べって散々言ってただろうが! ちょっと待ってろ!

 

「どうするってこうするんだよ。そおれっと」

 

護送機に市民様を放り込むと、可愛らしい悲鳴を残して市民様は即時転送された。

 

『現在、ダメージにより機能停止中。回復を要請します』

 

あーあー、今行くよ。この敵兵倒してからな。

今度はアクセサリを助けるべく、戦闘を再開した。

 

【昨日 砂漠 夕方】

 

夕方になって、ようやく気温が下がり始めた砂漠。

動きやすくなったものの、あと一時間もすれば完全に日は落ちる。

そうなれば、再び戦況は苦しくなるのは明らかだった。

 

『敵増援、接近中。まもなく会敵します』

「次こそ出てきてくれよ」

 

エルフリーデが、疲れを滲ませた険しい表情で、前方を睨んだ。

今回のボランティアの目標は、敵性PTが鹵獲した天獄アブダクターの排除。

だが、敵性PTの混成部隊は何をもったいぶっているのか、一向に目標を出さずに増援を呼び続けている。

先ほど、三度目の増援だった咎人連中を全員を倒し、バリケードで次の増援を待ち構えているところだった。

 

「あ! あの音は!!」

 

ベアトリーチェが歓喜の声を上げる。

その声に応えるかのように現れたのは、目標の虎と蜘蛛のアブダクター。

 

「ようやくお出ましか」

「赤光(グレア)と錆朱(ヴァーミリオン)!! あの子達はね、普通の子達とは違う特徴があるんだよ。まずグレアはね」

「これがラストだ。皆行くぞ!」

 

エルフリーデの号令の元、俺達は本日最後の戦いに身を投じた。

皆は虎を叩くようなので、分断狙いで俺は蜘蛛のほうを叩く事にする。

蜘蛛に向かって荊を射出。ドラッグダウンで蜘蛛の注意をこちらに向ける。

 

本日のアクセサリの装備は、AAW-M2。

アブダクターの排除が目標だったのでロケラン持たせたんだが、ようやく役に立つ時が来た。

アクセサリならではの精密な射撃は健在で、センサーに向かってロケット砲はクリーンヒットを続けている。よしよし、この調子を維持してくれよ。

 

切実に願いつつ、鳥篭(ケージ)に張り付き溶断開始。

時々吹っ飛ばされたり、中断させられたりしたものの、後もう少しで溶断は完了する。

取りたいな、大ダウン。

回復もしたいし、防御力も上げておきたい。

 

ところが、本当に後わずかなところで中々溶断が完了しない。

これはヤバイぞ。嫌な予感しかしない。

スピンアタック、足のミサイル、ジャンピングプレス。

どれを取っても溶断は中断。フラストレーションが溜まる未来しか見えない。

早く終われやあああ!

 

『まずい! 虎がそっちに行ったぞ!』

『損壊率、規定値を突破。一時的に機能を停止します』

 

虎うぜえええっ!

そんで、お約束のように機能停止か!

毎度毎度、変なタイミングでポカしやがって。それがお前の仕事なのかそうなのか!?

 

いつもなら溶断が済むまで放っておくところだが、今回ばかりはそうもいかない。

蜘蛛ならともかく、腹に鳥篭がある虎に捕まると救出が困難になる。

アクセサリが掻っ攫われたら、ボランティアは即失敗になってしまい、今まで労力と資源は水の泡だ。

 

怒りと無念を抱えて鳥篭から離脱。アクセサリを叩き起こすべく行動を開始した。

 

 

夜の帳はモザイク街に降り立ち、ドラム缶の中で燃え盛る炎は、いよいよその真価を発揮し始めていた。

その炎を囲んで、俺はマティアスとビリー、そしてウーヴェに話を聞かせていた。

 

「よくあるよな。肝心な時にドジを踏むって言うか」

 

話が一区切りすると、マティアスがしみじみと感想を述べ、ビリーも何度も頷く。

 

「ぶっちゃけ、狙ってるんじゃねーかって思う時もあるっスよ」

「だな。ま、オレは問答無用でシカトしてるけど」

 

そうだな、マティアス君。君のアクセサリのフォロー、俺がしているもんな。

胡坐をかき、膝に手を置いた状態で、ウーヴェは俺達を見渡す。

 

「あれの耐久力は鉄屑クラスだ。高い命中率で攻撃も当てるがヘイトも稼いで、敵の攻撃を喰らったら即沈黙。そんなところだろう。ただ」

 

ウーヴェは頭を掻いた。

 

「何故棒立ちになるのかは、俺にもわからん」

「それって戦力としてどうよ?」

 

ウーヴェを抜かした三人で、盛大に溜め息をつく。

でもここだけの話、君らもよく棒立ちになるよな。

それはともかく。

 

「アクセサリにシールドジェネレーター、くっつけてぇなあ」

 

俺は呟く。

 

「ついでに、肘にはガトリング砲か荷電粒子砲。俺ならガトリング砲かな。ギミックもそうだが、速射と連射で、火力を一点に集中砲火は燃えるしな。そして背中にはブレードシューター。もちろん換装は自由。おお、スゲーぞ、アクセサリ! 攻守共に万能じゃねぇか!」

「それって、ほぼアブダクターだろ」

 

現実逃避して興奮する俺に、冷静に突っ込むマティアス。

瞬く間に現実に引き戻され、あまりに無情な現実にうなだれる。

 

「アブダクターと交換できねぇかな」

「それ以上はやめとけ。空しくなるだけだ」

 

ウーヴェが溜め息と共に宥めた。

 

「まだあるんだろ?」

 

マティアスが苦笑いと共に促すと、ビリーも拳を握って俺を見る。

 

「もうこの際、吐いちまえよ。おっかねぇんだよ、体育座りして火ぃ見ているお前がさ。特に目! いつかこのストリートにビッグファイアー・フェスティバルしそうでよ」

「お前の言っている事、たまに訳わからんぞ」

 

マティアスとビリーのやり取りを聞き流しつつ、本日起こった事を話す事にした。

 

【今日 ロウストリート 昼】

 

このPTを襲ったいつぞやの天罰にて、記憶を失って初めて天獄アブダクターと戦ったこのロウストリートは、今ではボランティアの時以外は立ち入り禁止区域となっている。

何故なら、たまに虎が出現するようになり、一向に修復を進める事ができず、このPTでも有数の危険地帯となっているからだった。

 

PT上層部も頭を悩ませているこの場所だが、俺達咎人にとっては極めて貴重な資源を獲得できる人気の場所となっている。

そして例に漏れず、俺もカイを伴ってやって来た。

 

「ついにお前も、セレニウム集めに精を出すことになったか」

「ボランティアの内容も厳しくなってきたからな」

 

セレニウムとは、武器改良の際に使うとプラス効果の付くモジュールを三つ継承できる効果を持つ素材である。

武器改良の際につくモジュールは、ランダム要素が極めて強い。

何故安定しないのか全く持って謎なのだが、ともかく、セレニウムは必要なモジュールをつけたい時には必須とも言うべき素材なのだ。

 

「悪ぃな。つまらんボランティアに誘っちまって」

「前にプラントで使う低資源素材を集めてもらった事があったろ。お互い様だ」

 

他の仲間は別のボランティアに出払っていて、本日の同行者はカイだけだ。

この虎、比較的弱いタイプらしいのだが、万が一の事もあるので、助けがあるのはとてもありがたい。

 

「おい」

 

背後に控えるアクセサリに声をかけた。

本日の武器は、アリサカ Mk.1。これには理由があったりする。

 

「俺とカイ達とで虎の相手をするから、その間に資源を集めてきてくれ」

「了解しました」

 

ホントかよ。

連日のポンコツぶりと、先日、コイツはこの指示でポカをしたため、どうしても疑心暗鬼になる。

その時の兵装はAAW-M2で、移動速度を上げるモジュールも付いていなかった。

鈍足でへばってあのミスをしたのではないか。

そう考え、今回は個人携行火器にして移動速度を妨げないようにしたのだ。

 

「いいか。ここのフィールド資源を全て集めてこいよ」

「了解しました」

 

不安だ。

 

「そろそろ行くか」

「ああ。よろしく頼む」

 

こうして、ボランティアはスタートした。

 

『資源回収を開始します』

 

アクセサリは早速行動を開始した。

俺も荊チャージで防御力を底上げし、戦闘開始。

 

半分以下のメンバーではやはり歯ごたえが違う。

カイが翼の溶断をし、俺もバーバラで翼や頭を狙い打つ。

 

カイが振り落とされ、俺は荊を虎の足に接続。ドラッグダウンを仕掛ける。カイも受身で即座に立ち上がり、すぐさま援護をする。

後もう少しで引き倒せる!

 

『指示を続行できなくなりました。基本行動に移行します』

 

……なあ、アクセサリさんよ。

俺の目にはフロアの片隅に資源があるように見えるんだが、あれはユメマボロシか?

 

とりあえず、ドラッグダウンは成功した。

すかさずアクセサリコマンドを実行。もう一度、行って来い!

 

『その指示は実行できません』

「ふざけんな!!」

 

反射的にアクセサリに向けて怒鳴った。

お前のそのカメラは節穴か!? カバー付けっぱじゃねえのか!?

 

「お前が行ったほうが確実だぞ」

「悪ぃ。ちょっと行ってくる」

 

カイのお言葉に甘え、アクセサリにはパーツ破壊の指示を出し、俺は資源回収を開始した。

アクセサリは資源を拾ってはいた。ただ取りこぼしてもいる。

そこで思った。

もしかしたら、セレニウムだけは拾ってくれたとか?

戦闘に集中していてログを見ていなかったが、万に一つの可能性としてはあり得る。

……だったら良いのになあ。

 

五階の通路の資源は取れていないようだった。

精神的な疲労感を抱え、通路の端へと荊で移動する。

そして通路の隅っこにあったものは、よっしゃキタコレ! セレニウムゲットだぜ!!

通路の壁に、渾身の力で前蹴りを食らわした。

 

『セレニウムは見つかったか』

 

全てを察しているかのような、カイからの通信。

俺は静かに答えた。

 

「おかげ様でな」

『そうか。なら、この虎を片付けて帰ろう』

「了解」

 

カイと再び合流し、虎を沈めてボランティアは終了したのだった。

 

 

「俺、その指示やった事ないけど、そんな事があるんだな」

「マティアス、お前はもうちょっとアクセサリを活用したほうがいい」

 

初めて知った事実に驚くマティアスに対し、ウーヴェが呆れ半分で助言をする。

前述したが、このミスは初めてではない。

成功する時もあるが、失敗する事も同じくらいにある。

高台にある資源が取れないのは仕方がないにしても、平地にある資源をどうして取りこぼしてしまうのか。

 

「この件で改めて学んだよ」

 

自戒を胸に、虚空を仰ぐ。

 

「人任せにせずに自分の事は自分でやる。大切な事だよな。PTはアクセサリを通して、俺達おたんこなすに、この事を学ばせようとしたに違いない」

「いや、だったらアクセサリコマンドに資源回収なんて、そもそもつけねーんじゃ」

「んなの、知らねぇよ」

 

ビリーのツッコミに、俺は唸るように答えた。

思いの他ドスの利いた声が出て、ビリーが怯んでいる。

感情的になってきているのを自覚して、

 

「悪ぃ」

 

一言謝り、そして嘆息した。

 

「アクセサリがポンコツだとしても、それを使いこなせてこそ一人前だと思うんだ。でも満足に使いこなす事のできない俺も、同じくらいポンコツじゃねえかってな。で、一人反省会にも疲れて、ここにいるわけですよ」

「あー……」

 

心からの労わりがこもった皆の眼差しが痛い。

ふと、マティアスの表情が素に戻った。

 

「お前、アクセサリに期待しすぎなんじゃねーの?」

「期待」

「そう」

 

マティアスは大きく頷く。

 

「本当に戦力として成り立たせようとするなら、お前が言うようにアブダクター並みの兵装にするか、そもそも人の形を取る必要はねーじゃん。それをしないのは、それが本来の役割じゃねーからだろ」

「マティアスさん、何か今日はクールっスね」

「普段もクールだっての」

 

マティアスがビリーを睨むその横で、ウーヴェも頷いた。

 

「アクセサリの本来の役割は監視者だ。それ以外に役割があるとするなら、このPT全体の幸福希求と発展を促す事だろう」

 

ウーヴェは彫りの深い顔に皮肉な表情を浮かべる。

 

「PTにとって俺たちは、低資源な社会不適合者以外の何者でもないが、低資源でも利用はしようと熱心だ。アクセサリは、俺達を効率的に運用するための一つの手段と言える」

 

長い闘争を戦い抜いてきた歴戦の咎人は、俺達を見渡しながら静かに続けた。

 

「パートナーを名乗り、好みの容姿で独房で常に二人きりでいれば、敵愾心は持ちにくい。さらに、戦場で四六時中一緒にいれば、吊り橋効果とやらで親近感も沸きやすくなる。咎人の、PTへの不満や反抗の意思を削ぎ、貢献活動へのモチベーションを維持できるという点で、一定の効果を果たしていると思うがな」

 

神妙になる俺達を見て、ウーヴェはバツ悪そうに頭を掻いた。

 

「何か説教臭くなりそうだから最後にするが、俺が言いたいのは、外に期待するのは止めておけってことだ。ここで己の意志を通し、何かを成したいと思うのなら、自分自身が強くなるしかねえんだよ」

 

マティアスやウーヴェの言葉は、俺にとっては既知のものだった。

世知辛く息苦しい理不尽な現実と、己の未熟さの再確認。

 

道具が欲しかった。

自分の願いが遠すぎて、一人で進むにはあまりにもハードで、焦燥と孤独に耐えながらの道行きはあまりに不透明で、進む覚悟がブレそうで。

だからこそ、未熟な自分を支え、後一歩を補ってくれる道具が欲しかったのだ。

 

アホなことに、その役割をアクセサリに期待した。

アクセサリの存在理由は、俺の願いとは全く別の位置にいるのに、それでも期待したのは、俺がポンコツであることの証に他ならない。

だから、最後のウーヴェの言葉はストンと胸に落ちた。

 

「ああ、そうだな」

 

噛みしめるように呟く俺に、マティアスが俺の肩を叩いた。

 

「またいくらでも愚痴は聞いてやんよ。アクセサリもPTも変わらないだろうからな。でも俺達に出来る事は、まだまだあるはずだぜ」

 

陽気に歯をむき出して笑うマティアス。

この男は、連戦に継ぐ連戦で心身を消耗し、ずいぶんと気を落としていた時もあった。

だがそれでも踏ん張り、戦い抜いてきた奴は、咎人として着実に成長をしていたのだろう。

その笑顔は、この理不尽な世界においてもへし折れない、強かな生命力に溢れるものだった。

 

「マティアスさん、かっけーっス!」

「俺はいつでもshazでかっけーんだよ」

 

ビリーが憧れと尊敬のマナコでマティアス見つめ、それを受ける奴もまんざらでもない表情でふんぞり返っている。

ウーヴェはのっそりと立ち上がった。

 

「さて、お前も来るか? ガソリンでこいつらと飲む事になってるんだが」

「お前も来いよ。食って飲んでガス抜いて、明日に備えようぜ」

 

続けてマティアスとビリーも立ち上がる。

ようやく心と体に活力が戻り、歩き出す事が出来そうだった。

 

「んじゃま、ご一緒させてもらいましょうか」

「よっしゃ!」

「そうこなくっちゃな。行こうぜ、デュード!」

 

そうして皆は、ぞろぞろとガソリンへ向かって歩き出す。

根本的な解決には至らない。だから心の奥底にある憂いは晴れる事はない。

そして願いは遥か彼方にあって、未だ手は届きそうにない。

だがそれでも、背後で燃え続ける炎の光と熱に背を押されるように、俺もまた歩き出した。

 

 

記憶を失う前のアクセサリは大破し、資源となっていずこへと流されたと聞いた。

想像するに、そのアクセサリもポンコツで、俺はそれ以上のポンコツだったのだろう。

どこかで再利用され、再びアクセサリになっているのか、はたまたアブダクターの一部か、兵装か、日々の生活を支える物資か。

何にしても道具として生まれ変わって、この世界に存在しているのだろうか。

 

だとしたら、俺は願っている。

人が何かを成すための、後一歩を補うために生み出されるのが道具であるならば、今度こそは心ある優秀な持ち主の下で、道具としての役割を全うできる様にと。

人の生活に寄り添い、笑顔と幸福を与え、壊れて廃棄する時には惜しまれ、感謝される道具であって欲しいと。

心から願っている。




pixivで投稿した内容と同じものです。

ここで描かれている事は、バージョン1.0時のものです。
アクセサリの行動については、ゲーム内で起こった事を脚色して書いております。
三つ目については、検索しても中々出てこなかったので焦りましたが、極まれに発生するもののようです。
バージョンアップでアクセサリとNPCの耐久度が上がったようで、少なくともここまで極端にやられなくなったとは思います。

第二話にしてすでに再確認かよ、アクセサリの設定に無理あるんじゃ? という感じですが、助走のようなものですので、次のお話もご覧いただけたら嬉しく思います。

ここまでお読みくださり、ありがとうございました。

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