或る咎人の憂鬱   作:小栗チカ

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【前回までのあらすじ】
咎人の所属するパノプティコンに、敵性PTの一つ『ホウライPT』へ情報を送っていた内通者がいました。
しかもその情報には、ベアトリーチェが『棺の鍵』であることが明かされていたのです。
時間をおかず、世界でも最強と謳われるホウライPTの咎人『アーベル』と、最古に最強のアブダクター『憤怒の烈火(レッドレイジ)』が現れます。
応戦する咎人たちでしたが、圧倒的な力を前に敗れ去り、ベアトリーチェは浚われてしまいました。
自分の弱さを改めて思い知った咎人ですが、周囲の協力を得て、仲間と共にホウライPTへと向かいます。

★ 原作のネタバレが含まれています。

◆ 原作の設定に基本忠実ですが、捏造要素はしっかり含まれています。
◆ オリジナルの男主人公です。暴言を吐きます。
◆ 暴力描写、流血描写があります。今回からタグに追加しました。
◆ NPCのキャラが崩壊しています。
◆ アンチ・ヘイトの意図はありませんが、保険としてつけております。
◆ その他、不備がありましたらごめんなさい。



咎人、強者の望みを知る

これは一体、何なんだ?

己が手でいかようにでも作りかえられる不老の体。

他人の手によって、いくらでも改竄できる記憶と心。

継戦力がある限り、何度死のうとも蘇る命。

己の全てをPT法に資源として管理され、モノと同じレベルにまで低下した尊厳。

これって、ヒトなのか? 違うよな?

ヒトなんて生物、既に絶滅して実はいないんじゃないのか?

じゃあ、俺はモノなのか?

そう思うたびに心の奥底に猛るモノがある。

小心で臆病なくせに、この時ばかりは一人前に咆哮を上げ、あらゆるものを引きちぎり、全てのモノを振り切って飛び出そうとするモノがいる。

これは一体、何なんだ?

 

 

PTを出発して三時間が経とうとしていた。

作戦の打ち合わせも終わりオレンジ色の光が灯る薄暗い護送車は、いささか暇をもてあましている。

隣に座るマティアスは完全に眠ってしまい、俺自身もうとうとしていたところに、腕と足を組んでいる大女、ナタリアに声をかけられた。

 

「先ほどの見送りの中に警邏の連中がいたが、あれは貴様の知り合いか」

「知り合いってか、顔見知り程度だよ」

 

出発前に留守番組の仲間、ユリアンと顔見知りの市民、そして警邏と咎人が見送りに来た時の事を言っているのだろう。

後遺症のトレーニングの時に各階のロウストリートを行き来していて、その時に幾人かの警邏と顔見知りになった。

だが何故か、権力を盾に俺をクマもどきのファンと見なし、事あるごとにその話題を振ってくるのだ。

俺にとっちゃ、あのクマもどきはポンコツと並ぶ天敵である。

いつか、あの頭を鷲づかみにしてPTの外壁にめり込ませるのが、俺のささやかな夢の一つなのだ。

 

「その警邏連中からなんか袖の下もらってなかったか?」

 

目敏いなセンパイ。うぜえ。

 

「ちげーよ。『オマモリ』だとさ」

 

カルロスに向かって、もらったオマモリとやらを放る。

はぎれを器用に縫い合わせ、ちゃんとクマもどきをあしらった小袋だ。

中身は固いものが入っているが開けるなとの事。

『ゴリエキ』がなくなるのだそうだ。

 

「そう言われると開けたくなるのがヒトのサガって奴でなぁ」

 

俺の話を聞いたカルロスが、楽しげに小袋を弄りだした時だった。

カチリという小さくも硬い音と共に、小袋から光があふれ出した。

聞き覚えのあるジングルと共に俺達の目の前にホログラフィが映し出される。

 

『皆さん、こんばんは。超高機能汎用窓口係プロパくんです』

 

…………。

 

『今回の皆さんの自らを顧みない貢献と、皆さんを思う私の信奉者の気持ちは、私の胸を打つものがあります。素晴らしい。そんな皆さんと信奉者達の思いに応え、特別にスローガンを送る事にしました。その低機能で粗末な脳みそにしっかりと叩き込み、一言一句忘れないようにして下さいね』

 

水を打ったように静まり返る護送車。

アクセサリとマティアス除いたみんなの表情が、恐ろしいほどに一致している。ナタリアですらもだ。

多分俺も同じ表情をしているか、より酷いものだろう。

 

『『できる アーベル倒して 棺を守れ』『できる アーベル倒して 棺を守れ』このスローガンを胸に、このパノプティコンの未来を守りましょう。それでは、レッツ貢献!』

 

これで消えるのかと思いきや、同じ事を繰り返し繰り返し伝えてくる。

カルロスがクマもどきの腹の部分を押すと、忌々しいホログラフィも消え、音声も止まった。

俺の方を向いたカルロスは、どこか剣呑な薄ら笑いを浮かべ、

 

「なあ、ユウ。他ならぬセンパイからの提案なんだが、このオマモリとやら、俺がかかとで踏み潰してもいいか?」

「その役目は俺に任せて下さいっス、センパイ」

 

唸るように答えると、ナタリアが大きく溜め息をついた。

 

「緊張感のない奴らだ」

 

あんたも同じ表情で、スローガン聞いてただろうが。

今さらなに「私は関係はない」みたいなツラしてんだよ。同類だ。

そんな俺達を乗せて護送車は一路、目的地を目指す。

 

 

「やっとここまで来てくれタ」

 

青のフィルムがかかった護送車。

後部扉から波紋を描いて現れたのは、幽界からのメッセンジャーだった。

黒いパーカーに包まれたしなやかな肢体を動かし、女は労わりと喜びに満ちた笑顔を浮かべる。

 

「よく頑張ったネ。あと少しだヨ。あともう少しで、サイモンに会えル」

 

なあ、前から思ってたんだが、そのサイモンって誰よ。

俺の知ってる奴か?

 

「ううん、知らないと思ウ。だから会いに行きましょウ。ボクは棺の前で待っているからサ」

 

それはいいけど、また物騒な待ち合わせ場所だな。

 

「そウ? 運命的な場所だと思うんだけどナ。あ、後ちょっと痛い思いをするかモ」

 

またかよ!

突っ込むと女は面白そうに笑う。

 

「大丈夫。君は頑丈で回復力がある事は証明済みだしネ。サイモンも驚いてたんだヨ。あの人間の回復力はシカの角のようだなっテ」

 

全然大丈夫じゃねーよ。

しかも何? シカの角って。

俺に構わず、女は愛嬌のある笑顔を浮かべて手を振った。

 

「じゃあ、ちゃんと来てよネ。約束だヨ」

 

そう言って女が消えると同時に、俺の世界も暗転した。

 

 

突き刺すような寒さに目が覚めた。

ウィルオー通信の時刻を見れば、既に日付変更線を過ぎている。

夕方に出発して休憩を挟みつつのこの時間だ。中々の長旅だったな。

護送車の扉は開けられ、容赦のない冷気と砂ぼこりが入ってきていた。

ちなみに気温はマイナス五度。

やはり、ホウライPT周辺も砂漠なのか。

 

「うおおっ、クソ寒ぃ! ついでにケツ痛ぇ!」

「ケツもそうだが腰にも来てんな。道が悪ぃ上に椅子が固ぇから」

「さすがは最終決戦。shazだよなぁ」

「まさかこんな所で、一方的にダメージ喰らうたぁ予想外だ」

 

息を白く染め、ぼやきながら護送車から出て行くマティアスとカルロスに、ナタリアが鋭い視線を飛ばす。

 

「黙れ貴様ら。作戦行動中だぞ」

「そういうあんたも、やられてんだろ」

 

続いて護送車を出ながらナタリアを見る。

さっきこの女が腰と尻を叩いてマッサージしていたのを、俺は見逃していない。

 

「こんなに長旅になるんだったら、前もって言ってくれれば準備もして」

「貴様、どこを見ている」

「どこって、ホットパンツがぱっつんぱっつんになっている、あんたの尻だよ」

「そうか」

 

ナタリアの視線がこの砂漠の空気よりも冷たくなったと同時に、警告音と共に赤黒い通知書が現れた。

 

「管理者の意に反する性的言動をしたため、刑期を加算します」

 

無情に告げるポンコツアクセサリ。

こんなモザイク街のガキでも笑ってスルーするだろう話題もアウトとは、本当に世知辛いご時世だ。

溜め息をついて捺印をすると、ウーヴェがやはり腰を叩きながら声をかけてきた。

 

「悪い癖が出てるぞ」

「さーせん」

 

浅瀬に仇波、痩せ馬の声嚇し。

ウーヴェに教えてもらった言葉だが、さすがに一朝一夕には治らんか。

頭を掻いて、ウーヴェの後に続きながら周囲を見渡す。

漆黒に塗りつぶされた地平と、冷たく輝く月。そして全天を覆いつくし、淡く靄がかかり今にも降り注いできそうな星々。

壮大の一言に尽きた。

あまりのスケールのでかさに、俺達がこれからやろうとしている事など、この風に舞う砂埃のように思える。

すげぇなぁ。

敵性PTのいない砂漠の夜は、こんなにも暗くて寒くて静かで、澄み切った美しさを持っていたのか。

寝転がって見てみたいな。

きっとあの星空の中にいるような気持ちになれるんじゃねーのかな。

惜しむらくは寒すぎて立ち止まっていられない事と、現在は作戦行動中って事だ。

 

特徴的なメットとスーツを着た男二人が、ナタリアとウーヴェと話し合っている。

あのフラタニティが今回の作戦の案内人らしい。

自己紹介を済ませると、美しい星空を背景に原形をとどめていないプラントへ向かう事になった。

あの廃棄されたプラントから地下通路を使い、ホウライPTへと潜入するのだそうだ。

主要な地下通路は当然埋め立てられているそうだが、モザイク街の連中やフラタニティの連中が独自に開通した通路もあるらしく、抜け道の数はそれなりにあるらしい。

その全容はセルガーデン同様、PTですらも把握し切れていないとか。

あまりにも大きくなりすぎて、監視の目が間に合わないのだろう。

厳しい目でナタリアはそう言っていた。

それは俺達田舎のPTですら問題になっていることだ。

ナタリアにとっては頭の痛い話だろうが、まあ頑張れ。

 

地下通路内は、廃墟っぽいけど継ぎ接ぎで補修しながら未だに現役な施設という印象。

通路にいるのは通行人だけではなく、モザイク街に居を持てず、地下通路で生活する人間もいるようだ。

ウィルオー発電機による照明が設置されている上に、住人が熾した焚き火のせいで通路内は一定の明るさを保たれている上に、心なしか暖かい。

水と食料の確保、饐えた匂いが気にならなければ、生きていくには十分な空間かもしれない。

崩落したトンネルの瓦礫を乗り越えたり、陥没した路面に鉄骨を渡し、鋼板を積み重ねただけの粗雑な橋を渡ったり、漏水した一帯を荊だけで移動したり、エルフリーデと同い年か年下であろう物売りをガキどもをあしらったり。

十数名のガキ共が共同で寝泊りしながら、通行人相手に商いをしているそうだ。

ナタリアがいなかったら、もっと大変な事になっていただろうと案内人がこっそり教えてくれた。

良い悪いはともかく、生き残れたら将来はさぞ逞しい人間になりそうではある。

 

そうして歩き続けて二時間ほど経過。

ホウライPT内にいるフラタニティの連中の手を借りて、第一階層から侵入成功した。

入り組んだ迷路のようなセルガーデンを、巡回中のアクセサリに気付かれないよう慎重に素早く移動すると、随分と開けた場所に出た。

恐らくはセルガーデンの一番奥の部屋。

外壁に今までなかった巨大な窓が取り付けられ、セルガーデンを構成する小型ブロックが悠々と動いているのが見える。

案内人が奥の扉を指差した。

 

「あそこにエレベーターがある。あれを使えば、棺のある屋上まで一直線だ」

 

見慣れた隔壁は赤く点灯しているが、案内人が端末を素早く操作すると青色に変わった。

扉が開き、中央に俺達のPTでも見かけるエレベーターの端末がある。

 

「よっしゃ! いよいよだな!」

 

マティアスが真っ先にエレベーターに乗り込んだ時だった。

聞き馴染みのあるジングルと共に、クマもどきのアナウンス。

 

『安全保障局情報部より緊急連絡です。先程敵性PTの侵入報告がありました。現時刻よりこのパノプティコンの警戒監視レベルの引き上げを実施します。巡回中の職員と咎人の皆さんは、周囲に不審な人や物がないか確認をし、見つけ次第すぐ通報して下さい。さあ、レッツ確認!』

「気付かれたか」

「ここまで無事に来れた事自体、かなりラッキーだったからなぁ」

 

来た道を睨むナタリアに、案内人は肩をすくめる。

元々案内人達とはここでお別れなのだが、この状況で別れるのはかなり不味いんじゃねーのか。

口には出さないが雰囲気で察したのだろう、案内人の二人はメットの奥で笑った、ようだった。

 

「心配はいらねぇよ。俺達を誰だと思ってやがる」

「俺たちフラタニティは、あらゆるPTの、あらゆる道を把握してるからこそ、物流の王者たりえるんだぜ」

「帰って上司に報告するまでがお仕事だ。俺たちは最後まで仕事をこなす。あんたらもしっかり働いてこいよ」

 

何カッコ良さ気な事言ってんの、この非合法組織の構成員どもは。

やっている仕事はアレだが、この図太さとしたたかさは見習いたいところだ。

案内人たちはスパッと片手を上げた。

 

「んじゃま、ナタリアさん。俺らはこの辺で」

「今後とも我らフラタニティを是非ご贔屓に!」

 

そうして案内人の二人は身を翻し、素早い身のこなしで来た道を戻り始め、俺達も急いでエレベーターに乗り込んだ。

扉が閉まり、滑らかに上昇を始める。

 

「戦闘の準備をしておけ。恐らく次に扉が開いた途端にダンス会場にご到着だろうからな」

 

カルロスが好戦的な笑みを浮かべて俺達に告げる。

近づく戦いの気配に、俺の心と体が戦慄いた。

わかっている、怖えよな。

だが、一緒に前に進むんだ。どちらも置き去りにしない。

呼吸が浅くなっている事に気付いて無理やり深呼吸する。

ある程度落ち着いたところで、ポンコツに上層階のエリア探査を行うよう指示を出した。

粛々と準備を整え、各々が覚悟を決めている間にも、エレベーターは上昇し続けていたが、

 

「敵対勢力の振動センサに感知されました。エレベーターが緊急停止します」

 

不意に周囲が赤く明滅し、警告音が鳴り響いた。

 

「敵対勢力の反応を感知しました」

 

ナタリアのアクセサリが立て続けに報告をする。

ついに来た。

ウーヴェが荊をチャージし、入り口前に白く発光し鋭い杭の付いた鉄条網、防壁荊を設置した。

防壁荊はしばらくの間、外部からの銃弾を無効化することができ、その上で、こちら側の銃弾は通過することができる優れものだ。

設置完了と同時にエレベーターは止まり、扉が開かれた。

案の定、エレベーターに打ち込まれる容赦のない銃弾。

だがそのいずれも防壁荊の前に無効化され、代わりにこちらも反撃開始。

アクセサリ達とナタリアの正確無比な射撃により、敵は数を減らしていく。

 

「エリア探査が完了しました。結果を転送します」

 

索敵情報にエリアマップが展開された。

迷路状に入り組んでいないのは幸いだが、結構広いな。

ポンコツはロケランを構えつつ報告を続ける。

 

「一番奥のフロアに屋上へと通じる階段を確認しました」

「よし、まずはそこを目指すぞ」

 

防壁荊が消滅した頃には、周囲の敵は粗方倒していた。

ナタリアの号令の元、俺たちは駆け出し目標地点へと向かう。

途中に現れるホウライPTの精鋭たちを倒しながら、敵の持っていたお馴染みのバーバラを手にした。

どこかで予備の武器は入手したいと思っていたけど、これでいいかな。

しかし、

 

「何か、造りがいいような気が」

「ああ。しかもメッチャ良いモジュラーまでくっつけてやがんぞ。さすがは天下のホウライPT様だぜぇ」

 

いつの間にやら俺の手元を覗き込んでくるカルロス。

一目でモジュラーまで見分けられんのかよ、あんたの目は……って、威力アップ(特大)!?

すると、センパイが俺の肩を抱いた。

 

「なあ、センパイたっての頼みなんだが」

「恩義あるセンパイの頼みでもそいつぁ聞けねえな」

「貴様ら、そのモジュラーと一緒に刑期もつけてやってもいいんだぞ」

 

先ほどの砂漠の凍てつく空気を思わせるナタリアの声。

そそくさとかっぱらったバーバラを構えて目的地点へと目指す。

距離はあったものの、構造はシンプルだったため目的地点にはあっさりと着いた。

だが、着いた途端に体が竦んだ。

いる。

この上の階に間違いなく奴らがいる。

それでも無理やり足を動かして階段を駆け上がると、扉はあっさりと開いた。

 

眼前の光景に、俺はしばし言葉を失った。

うっすらと青とも紫ともつかない光が覆い、波打つ茶色のものが周囲を取巻く円形状のフロア。

鼻を突く血と煙と鉄の臭いは毎度のもの。

しかしその中に、何故か土の匂いと共に、今までかいだ事はないはずなのに体の奥底から震えるような感動をもたらす匂いを感じた。

さらに、陶然とするような甘い香りも仄かに感じるのは気のせいだろうか。

それらを持って、どこか幻想的なフロアに倒れ伏すのは、先ほどまで戦ってきたホウライPTの咎人とアクセサリだった。

 

「な、何だよ、これ。……仲間割れか?」

 

呆然と呟くマティアス。

そしてその死体の中で唯一佇む存在がいた。

今まさに味方である筈の咎人を鷲掴んで切り裂き、無造作に投げ捨てる奴。

 

「ああ、お前たちか」

 

アーベル・“シュトラーフェ”・バルト。

その背後には憤怒の烈火(レッドレイジ)。

再び、相見える事ができた。

 

「何してんだよ、あんた」

「こいつ等の事か」

 

奴を見据えながら声をかけると、奴はゆらゆらと歩きながら俺達に背を向け、両手を広げた。

 

「俺を阻もうとする者は全てこうなる。それだけの事だ」

 

ホウライPTの連中、アーベルを止めようとしたのか?

今になって何故?

だが、アーベルとレッドレイジのさらに奥にあるモノの存在に再び言葉を失った。

何だこりゃ?

隣で見上げるナタリアが口を開いた。

 

「これが、棺?」

 

周囲を取巻く茶色のものの先に、それはあった。

それは画像データでしか見た事のない『大木』のようでもあり、門のようでもあった。

そして、匂いの正体をここに来て察する。

この土の香りの中に混じるのは、樹木の香りだったのだ。

これが、そうなのか。

だが、感動してばかりもいられない。

あのコンテナの中にこんなものが入っていたのかよ。

どう考えてもおかしいだろ。

 

「棺の封印は既に解いた。『棺の鍵』たるこの娘の力でな」

 

アーベルが最悪の宣告をし、指を鳴らした。

今まで後ろで佇んでいただけだったレッドレイジが脇へと控えた途端、フロアの妙な光の正体がわかった。

 

「ベアトリーチェ!」

 

マティアスと共に叫ぶ。

あの時と同じだ。

ベアトリーチェは初めて俺達と出会った時のように、PTの単眼を模したオブジェに両手を広げ、荊で拘束されていた。

不気味な紫に染まるウィルオーは、荊をつたって棺へと注がれ続けている。

駆け出そうとする俺達を牽制するかのように、アーベルは得物をベアトリーチェの首筋に当てる。

そして、一閃。

荊は瞬時に解かれ、ベアトリーチェは崩れ落ちるようにアーベルの腕の中に倒れこんだ。

呻いて目を覚ましたベアトリーチェに、ヤツは口の端を釣り上げて笑い、

 

「お前のボランティアは完了した。ご協力、感謝する」

 

俺達に向かってベアトリーチェを放り投げた。

二人がかりでキャッチ。

良かった! 酷い怪我もなさそうだ。

ベアトリーチェの顔色は悪く疲労困憊のようだったが、それでも気遣うように俺達を見た。

 

「ユウ、マティアス、大丈夫? 他の皆も怪我はない?」

「それはこっちの台詞だってーの!」

「そっか」

 

マティアスの言葉にベアトリーチェは小さく笑い、俯いた。

 

「ごめんなさい。私のせいで棺が──」

「……それもこっちの台詞だってーの」

 

マティアスは苦く笑ってそう言った。

彼女のせいだけではない。

俺達はもちろん、俺達のPTが弱かったから棺とベアトリーチェを守れなかった。

だが今は、悔悟すべき時でも謝罪すべき時でもない。

棺の封印は解かれてしまった。

どうにかするにも、まずはアーベルとレッドレイジを何とかする必要がある。

 

俺とマティアスがベアトリーチェを介抱している間にも、ナタリアとアーベルとでやり取りが続いていた。

棺にくっついている青い花──バラという名前らしい。ガソリンにある奴と似ているような?──が夜明けまでに咲き乱れること。

花が咲いた時に棺は開かれ、その後に起こる『大消失』によって、ホウライPTが人間が文字通り死に絶えること。

そうなっても奴は一向に構わず、むしろその後のほうが大事だということ。

奴は獲物を巧みに取り回しながら俺達に問いかける。

 

「人間必要なものは何だ? 自由か? 仲間か? 愛情か? 全て違う」

 

奴はまるで舞うようにして俺達に問い続け、そして大きく得物を振るった。

 

「人間に必要なのは戦いだ!」

 

奴は高らかに朗々と謳う。

何かを得ようとして、何かを守ろうとして、そして何の目的もなく暴力を振るえるのが人間という生き物なのだと。

その根にあるのは、生物の原初的な感情である『怒り』と『恐怖』だ。

そしてその感情が露わになる闘争と殺戮の中でこそ、生物の生命と善性は輝く。

ならば、この世界の全てのものを戦いの坩堝へと落としてやろう。

法に縛られ、怒りを忘れ、腑抜けた人間とその生命を、本来あるべき姿へと戻すために!

 

「噂に聞いちゃいたが、何だか暑苦しい上にヤバそうな奴だなぁ」

 

相変わらずのカルロスに構う事なく、俺達の前に立っていたウーヴェが一歩前に進み出た。

その間にエルフ師匠に匿われ、ベアトリーチェが入り口まで後退する。

 

「お前は何をしようとしている? お前の望みは一体なんなんだ!?」

「この棺の向こうには太古から存在する怪物どもが封じられている」

 

ウーヴェの問いに答える事なく、悠々と歩く奴の姿の異変に気づいた。

高まるプレッシャーと共に、奴の周囲にどこからともなく火の粉が舞っている。

いや違う。ウィルオーなのか?

奴の狂気のような激烈な思いに、周囲のウィルオーが反応しているのか!?

何だよそりゃ! コイツどんだけなんだよ!!

すっかり気を呑まれて見守るだけの俺に、その狂った規格外は今まで見た中でも最凶の笑みを浮かべた。

取巻く炎がいよいよ勢いを増し、奴は顔の目の前で拳を握り締める。

 

「俺はそいつらをこの世界へと解き放ち、この世界を、戦いと殺戮の煉獄と化す!」

 

奴が拳を開いた途端、奴の周囲の炎が爆ぜ、奴の仲間だったであろう咎人とアクセサリの体が瞬時に消え失せる。

転送されたのか、それとも文字通り消え失せてしまったのか。

どちらにしても、最終決戦が始まるのだ。

それなのに。

アーベルのプレッシャーをまともに受けたこの心と体は、その戦いを忌避しようと抵抗をする。

体は急激に冷たくなり、ムラサメを握る手に必要以上に力がかかっているのを感じたが、緩める事ができない。

ここに来る前にあれだけ覚悟と準備をしてきたのに、その気概が萎縮している。

逃げたい戦いたくないロストしたくない。

その時、勢い良く背中を叩かれた。

 

「痛えっ!」

 

叩かれた! しかも二人に!

思わず叩いた主を見れば、マティアスと戻ってきたエルフ師匠が力強く笑っていた。

 

「一緒に戦うぞ」

「今度はヒヨるなよ、相棒」

「あーあー。若々しすぎてこっちが赤面するようなノリだねぇ、キミタチ」

 

やっぱりいつもの調子のカルロスに、エルフ師匠は鼻で笑った。

 

「さっきは断ったが、今から厚ーい友情を築いてやってもいいんだぞ」

「おいおーい、おじさんを羞恥のあまり灰にする気かぁ?」

「そしてそのまま土に還ってしまえ」

「お前ら、ナタリアが言語に絶する顔で見ているぞ」

 

何だかなぁ。

これじゃあ、まるでいつものボランティアだ。

でも、そうか。それでいいのか。

命のやり取りをするなら、俺が普段出ているボランティアだって同じだ。

敵はいつも強大にして理不尽。

油断をすればロストは必至。

だが、俺一人じゃない。

ポツリと、心に小さな火が灯った。

それは見る見る大きくなり、恐怖と忌避で凍えて縮こまる心と体を解きほぐしていく。

ムラサメを握る手が緩み、力みが取れた。

本当に小心で現金だな、俺。

それを見て取ったのだろうか、奴は口を端を釣り上げた。

 

「覚悟は出来たか、小僧」

「おかげさんでな」

 

律儀に待っていたらしい。

この男の思考回路が、全く持って理解できん。

 

「では、夜明けまで暴力という名の宴を共に楽しもうではないか!!」

 

それに呼応するかのように、語尾にレッドレイジの大咆哮が轟き、戦いの火蓋は気って落とされた。

 

 

ここに来る前に作戦は立てていた。

実にシンプルだが、二手に分かれてそれぞれ対応するというものだ。

俺とマティアス、俺達のアクセサリの二人と二体でアーベルの相手をし、残りのメンバーがレッドレイジと戦う。

俺達が連携を切り、残りの仲間でレッドレイジの兵装を最優先で剥いで完全に分断。

どちらかを倒したら、合流して残った奴を倒す。

言葉にすれば簡単なのだが、俺達の責任は重大だ。

アーベルを出来るだけ早く倒さないとジリ貧になるのは確実だが、焦って倒せるような奴でもない。

 

「俺らがあっさりくたばるわけねーだろ。だから、お前らは確実に奴を仕留める事に専念しろ」

 

カルロスが相変わらずの調子でそう言っていた。

アーベルに対する対抗策は、俺とマティアス、そしてポンコツも交えて考えた。

三人寄れば何とかの知恵って言うらしいが、さて、上手くいくだろうか。

 

『目標確認。速やかに排除してください』

『友軍、会敵。戦闘が始まっています。至急、応援に向かって下さい』

 

立て続けにポンコツの報告は続く。

それと並行してロケランを構え、実に軽い足取り、ともすれば暢気とも言える足取りでアーベルのとの間合いを詰める。

そして悠然と歩いてくるアーベルに向かって、ミサイルをぶっ放した。

お、アーベルが吹っ飛んだ。

ポンコツとはいえ、腐ってもアクセサリ。命中精度は抜群だ。

 

『一応、ミサイルに当たって吹っ飛ぶんだな、アイツ』

「でもダメージ与えてねーぞ」

 

まずは遠距離攻撃が無効になる状態を確認しようと、アクセサリを前に出して遠巻きに様子を見ていたマティアスと俺。

ウィルオー通信に表示されるアーベルのヘルスゲージは減っていない。

あれが一定の状態の時なのだろうか。

まだ確定は出来ないが、ポンコツの報告は正しかった。

それどころか、

 

『損壊率、規定値を突破。一時的に機能を停止します』

 

動体視力で追いつかないほどのダッシュからの切り上げであっさり機能停止。

鉄屑並みの耐久力しかないポンコツとは言え、どう考えても威力が桁外れだ。

 

「一撃かよ……」

『やべぇ。強ぇぞアイツ』

 

人から聞いて想像するのと、実際に見るのとでは、やはり大きな違いがあるのだ。

ましてや、同じ大剣使いである。

マティアスの声に余裕が全くなくなった。

ポンコツを荊で蘇生し、アーベルが構えを作ったのを見てすかさずステップを踏んだ。

繰り出される衝撃波をかわして荊を射出。

アーベルに接続すると、ダイブアタックを仕掛けた。

まずは一太刀浴びせる事ができ、そのまま荊で距離をとる。

だけど固ぇよ! コイツの体、何でできてるんだよ!

ウィルオー通信の奴のヘルスゲージもほんの少ししか減っていない。

今出来る限界まで強化したムラサメでも、これなのか。

 

『足掻いてみせろ!』

 

再び放たれる衝撃波を奴の側面に回りながら避ける。

その間に、マティアスが奴との間合いを詰めて攻撃を仕掛けたが、奴はあっさり体捌きでかわし、それどころか連続して袈裟切りを繰り出した。

マティアスはカンナギで受け止め続けるも、たまらず大きく間合いを取る。

 

『このクソがっ!』

『ユウ! 避けろ!!』

 

マティアスの悪態に重なって、ウーヴェの声。

反射的に荊で移動したその背に赤い塊が掠めていった。

なぎ払いかよ、あっぶねーな!

しかし着地した瞬間、反射的にダッシュ。

ミサイルが俺のいた場所に叩き込まれ、爆風のあおりを食らって体勢を崩したところに、何とアーベルが間合いを一気に詰めようとしている。

ヤバッ!

だが、鋭い弾道がアーベルの行く手を遮って、何とかフロアの端っこへ逃げおおせた。

ナタリアの精密射撃だ。

 

『もう少しで兵装を剥ぐ事が出来る。それまでは油断をするな』

「了解」

 

ナタリアに応答しつつ、レッドレイジの爆風に巻き込まれて機能停止したマティアスのアクセサリを叩き起こす。

近接戦は避けたいが、もっと積極的に前に出ないとダメだ。

ついでに俺の真のパートナーにもご登場いただくとしよう。

攻撃は当たったとしてもたいしたダメージにはならないだろうし、むしろ無効される恐れもあるが、かく乱するには十分だ。

瓦礫に紛れてオートBENKEIを設置し、アーベルに向かって荊を射出。

ダイブアタックを繰り返し、奴が体勢を崩すその一瞬の隙を突いてマティアスとポンコツ、マティアスのアクセサリ、そしてパートナーとで攻撃をし続ける。

だがそれでも連携は切れないし、決定的なダメージソースにならない。

 

『臆しているのか? 砂漠のときの威勢はどうした!』

「若気の至りの黒歴史だ、忘れろ!」

 

アーベルが挑発しつつ連続して袈裟切りをかましてくる。

ステップでかわしながら何とかして切り込もうと試みるが、間合いに入る事がかなり難しい。

ならばと先程かっぱらったバーバラに持ち替えて、ほぼ至近距離から銃撃したが、いない。

落下攻撃だ!

間一髪の体捌きでかわし、落下地点にすかさず銃撃する。

と、脳裏に閃く赤い光。

白い光が十重二十重と変幻自在に襲い掛かったと同時に視界が赤く染まった。

 

『簡易ヘルススキャン実行。バイタルの低下を確認。回復を提案します』

 

吹っ飛ばされ、一回転してフロアに叩きつけられる俺の耳に、アクセサリのお馴染みの提案が聞こえた。

な、何が起こったんだ!?

 

『ユウ! 早く起きろ!!』

 

マティアスの絶叫。

言われなくてもそうす……、肝が冷えたどころか凍りついた。

赤く染まる視界の向こうに、四つんばいになろうとしているレッドレイジ。

広範囲のレーザー攻撃、確実に俺も射程圏内に入っている。

体中が熱い、てか尋常になく痛え。

それでも起き上がろうと、力の抜けていく体に意識を集中。

そして右足に力を入れた途端、自分の流した血に足を滑らせて再び倒れこんだ。

何やってんだよ!

自分を罵倒するが、同時に脳裏にけたたましく警鐘が鳴り響く。

これは……本当にマズイ!

ロストの恐怖に痛みを訴える体を無理やり起こそうと、再び四肢に力を込めた時だった。

 

『させるかあああああ!!』

 

ヘッドフォンから聞こえる少女の雄叫び。

瞬時にレッドレイジの体が赤い荊に幾重にも拘束された。

エルフリーデの荊のチャージ技だ。

 

『今のうちに距離をとれ!』

『遅い!』

 

アーベルが再び衝撃波を放とうと構えを取った瞬間、奴はミサイルを喰らって吹っ飛んだ。

ミサイルの発射元にはポンコツ。

さらに、マティアスのアクセサリが追撃をしている。

 

「そぉら、回復だ!」

 

声と共に緑色の光に包まれ、全身の熱さ、痛みは瞬時に消え去った。

ヘルスゲージも一気に満タンになる。

 

「あんがとよ」

「気にすんな」

 

マティアスの手を借りて立ち上がると、アーベルに視線を飛ばす。

ヘルスゲージがそこそこに減り、残すところ半分となっていた。

至近距離からの直接掃射が効いたのだろうか。

と、拘束を解いたレッドレイジの大咆哮がフロア全体に轟きわたった。

もちろん、改良したハウリングキャンセルで全員が無事だ。

見れば、レッドレイジのヘルスも半分近くまで削られている。

 

『敵アブダクター、攻撃性増大。注意して下さい』

 

だが、ここからが勝負だ。

 

「よし、ここらでやるか」

「よっしゃ! 気合入れてくぞ!」

『了解しました』

 

俺の一言にマティアスは力強く頷き、アクセサリも感情なく応答する。

対抗策を実行に移す時が来た。

だが、出だしから難航を極めた。

この対抗策の課題だったのだが、とにかくこのアーベルという男は実によく動く。

目が奴の動きを追えるようになり、動きにもついて行けるようになったがそれだけだ。

動きを止めなければ意味がない。

追撃をかけていたマティアスのアクセサリは既に沈黙。

叩き起こすのは持ち主に任せて、再びアーベルとの直接対決に持ち込んだ。

ムラサメと体捌きで奴の攻撃を凌ぎ、荊とステップで移動しながら、時折りバーバラで攻撃を仕掛ける。

 

「死にかけて少しは目が覚めたか、小僧」

「手前は相変わらず、夢を見続けているようだがな」

「夜明けと共に夢は現実となる。目を覚ませ。そして思い出すがいい。人を突き動かす力を。闘争の中にこそ全てがある事を。お前の望む自由があるという事を!」

 

わかってしまう自分を全力で殴り飛ばしたいが、この男と俺は同じモノを持っている。

法と神の如き技術によって人の全てが管理され、よいよいになってしまったヒトの成れの果てと、ヒトをそんな風にしてしまった有象無象に、赫灼たる怒りを持っている。

俺の心の中で蠢き、時に声を上げ、時に突き動かすものの正体がこれだった。

その怒りと共に闘争に闘争を重ねた結果が、今のこの男なわけだ。

 

「戦いの中に自由がある? ああ、あるかもな。それは咎人だったら誰もが思いつく自由だろうよ!」

 

そしてこの男の言う自由とは、全てを更地にして得られる自由だ。

積み重ねてきたものを強靭にするでも改良するでもなく、徹底的に破壊して得られる自由。

何て短絡的でガキっぽい、だが想像するだけでも気持ちのいい自由だろう。

痛ぇなぁ、思い当たる節がありすぎる。

その自由への思いは、確かに俺も持っているものだ。否定できない。

でもわかっている。

それは積み重ねる必要のない絶対的な強者か、積み重ねる事のできない弱者の自由だ。

記憶にはないが、昔の俺も弱かったからこそ、そんな自由を求めて無茶をしていたのだろう。

その結果、何度も記憶をなくし、幻痛(ファントムペイン)の後遺症とトラウマとで身も心もガラクタ状態になった今の俺がいる。

ああ、これは本当に酷い。酷すぎる。

 

「でもそんな自由は願い下げじゃあ!!」

 

バーバラの射撃に距離を取ろうとする奴を必死についていく。

ムラサメに持ち替えて一気に踏み込んだ。

 

「俺ぁな、戦うことが大っ嫌ぇなんだよ!! 痛ぇわ辛ぇわ苦しいわ、何が好き好んでそんな思いをしなきゃならねーんだよアホか! 今だって仕方なく戦ってんだよこのクソが! 手前のイかれた妄想に俺を巻き込むじゃねえ!!」

「ならば抗ってみせろ! ヒトもどきの弱卒が!」

「いいから当たれよっ! スカした面して捌いてんじゃねーぞ、コンチクショウがあああ!!」

 

今の今まで溜め込んできた鬱憤が爆発し、八つ当たりのように怒鳴り散らしながらムラサメを振るい続ける。

ムラサメのコンボを凌ぎきった奴は大きく後方へとジャンプ。

畜生! チョロチョロチョロチョロ動きやがって、うぜえよ!

だが、マティアスが俺と入れ替わるように、奴に向かって攻撃を仕掛ける。

ポンコツも近くにいるし、今のうちに防御アップのチャージ技をかけておこう。

レッドレイジのほうを見れば、戦況は思わしくない。

攻撃性が増大したレッドレイジによって、レッドレイジ側のアクセサリは機能停止のまま放置されている。

持ち主たちがレッドレイジに押されている事もあって、叩き起こしている余力がないのだ。

だがそれは明らかに戦力の低下であり、持ち主のほうも相当にしんどい──。

 

「ナタリア!」

『ナタリア避けろ!』

 

俺とウーヴェが叫ぶが遅い。

レッドレイジの大きく振り上げられた左腕がナタリアを直撃。

大きく吹っ飛ばされて、棺の根っこに激しく激突。ずるりとフロアに落ちてピクリとも動かない。

すぐさまアクセサリコマンドで蘇生の指示を出す。

 

『了解しました』

 

ポンコツは応え、やっぱり緊張感に欠ける駆け足で蘇生行動に移った。

レッドレイジの攻撃に当たらなければ、速やかにナタリアの蘇生を行うだろう。

誰がどう見ても暢気な後姿を見届け、他のアクセサリを叩き起こそうとした時、フロアの床を振るわせる重い音が轟いた。

嫌な予感に再びポンコツに視線を向ければ、

 

『損壊率、規定値を突破。一時的に機能を停止します』

「だーかーらー! 何で回避せずに素直に突き進むんだよ手前は!」

 

レッドレイジの連続ヒップスタンプを避けるどころか素直に喰らい、いつものように吹っ飛ぶポンコツの姿。

本っ当に悪い意味での期待を裏切らねーな、あのポンコツは!

 

『カルロス、エルフリーデ!!』

 

しかもこのヒップスタンプで、消耗しきっていたカルロスとエルフリーデも沈黙。

残ったのはウーヴェだけだ。

総崩れじゃねーかよ!

膝を抱えて泣きたくなったが、アーベルを抑えているマティアスの事もある。

さっさと全員叩き起こして、マティアスのサポートに回らねーと。

荊を射出してポンコツを真っ先に叩き起こし、放置状態のほかのアクセサリを起こして回る。

その間に、ポンコツも他の連中の蘇生を行っていた。

 

『ウィルオー残存量減少、荊の使用限界が近づいています』

 

そらそうだろうよ。

苦々しい思いで舌打ちをし、今度こそマティアスのサポートを──。

 

『露と消えろ!』

 

アーベルの目を疑うような連続の袈裟切りと、あまりにも鮮やかな突きを喰らい、赤い尾を引いてマティアスが無残にフロアに転がった。

もしかして、さっき俺が喰らったのって、あれなのか!

 

『悪ぃ……相棒……』

「マティアス!」

 

とっさに右腕を伸ばし、マティアスに向けて荊を射出するが、途中で掻き消えてしまい届かない。

荊ゲージは空っぽだった。

これじゃあ、蘇生どころか荊での移動も出来ない。

 

「クソが!」

 

蘇生はマティアスのアクセサリかポンコツに任せ、俺はできる限りアーベルを引き付ける事にしよう。

再びレッドレイジのフロアを揺るがす大咆哮が轟いたが、もちろんみんな無事だ。

だが、これで大咆哮の完全無効化は終了。

どうにか建て直しは出来たが、このままグダグダ状態が続けば形勢は再び不利になる。

今さらながら、自分の考えの甘さと覚悟の足りなさを自覚した。

ダメだ! 自分の身を守ろうとしたら、生涯かかっても奴には届かない。

不意に閃いた考えに、体と心が一瞬竦む。

でも、今こそ覚悟を決める時だ。

一分間だけのパートナーを再び瓦礫の合間に設置。

棺の前に傲然と立つアーベルの下へ向かう。

 

『見るがいい! もうすぐだ。もうすぐ俺の欲した新世界が』

「知るかあああっ!!」

 

奴の台詞を遮って、バーバラを撃ちこむ。

だが効いていない。

あの何も構えていない時は遠距離攻撃は効かないのだ。

どんなからくりだよ、おかしいだろうが! 俺にも教えろ!

バーバラからムラサメに切り替えて、ダッシュで奴に突進。

チャージ攻撃を仕掛ける。

 

『よせ! そいつはカウンターを──』

 

珍しく鋭い声を上げるカルロス。

それと同時に警告の赤い光。

さっきの奴だ!

まるでスローモーション映像のように、鮮やかに無数の弧を描いて襲い掛かる死の軌跡を見る。

全身を切り裂き、確実に死を呼ぶ止めの突きがフィニッシュの、カウンターと言うより必殺の技。

先程と同じように切り裂かれながら、だが突然、死の芸術とも言えるその見事な弧が崩れた。

それでも勢いは落ちぬまま、残影の刃は俺の脇腹近くに速やかに突き刺さる。

 

「いっ」

 

脳に叩き込まれる灼熱の衝撃。

 

「でえええええええええああああああ!!」

 

絶叫しながら右腕を伸ばした。

白い荊が射出され、アーベルの左腕から胴体に巻きついて接続。

痛みと出血で真っ赤に染まりながら遠のく意識の向こうに、奴の顔が見えた。

その面は、紛れもない驚愕の表情。

俺が喰らい、マティアスが喰らったのを見て、このカウンターには大きな落とし穴があることに気付いていた。

フィニッシュの突きの後、極めて大きな隙ができるのだ。

だから切り刻まれるのを持ち堪えて、突きが放たれる前に荊で背後に回りこもうと考えていたのに何故こうなった。

だがまあいい。

構わず左手をウィルオードライブに持ってくると、武装を切り替える。

この時のために用意した火炎放射器エゼルリングから派生した武装、フルンティングを残影を避けるようにして構え、トリガーを引いた。

ごつい緑の銃身から、唸り声のような起動音と共に気合十分な振動が腕に伝わってくる。

奴の顔が、驚愕からどす黒い怒りの表情へと変わった。

 

「貴様!」

「とりあえずこれでも喰らっとけえええええ!!」

 

銃口から奔流のように炎が噴き出した。

アーベルは硬直し、残影を持つ手にも力が抜けていく。

この火炎放射器を使うと、炎のダメージと共になぜか人を動けなくする効果があるのだ。

嘘のようなその効果は、咎人だったら誰もが身をもって知っているだろう。

アーベルは完全にこの炎に取り込まれ、身動きが取れないまま、緩やかにヘルスゲージは減っていった。

 

『簡易ヘルススキャン実行。バイタルの低下を確認。回復を提案します』

「まってろ! 今回復を」

 

事務的な声で告げるポンコツの声と共に、マティアスが荊をチャージしながらやって来るが、首を振った。

 

「追撃、してくれ!」

「……わかった! ちょい我慢しろよ!」

 

一瞬躊躇したマティアスだが、チャージを中断。

武装をカンナギからアリサカに切り替えると、アーベルに向かって銃撃を開始した。

所有者に倣って、マティアスのアクセサリもバーバラで追撃する。

奴の動きをそれなりの時間止めていられるのは、この炎が出ている間だけだ。

リロードする間に確実に振り切られる。

そして二度も同じ手に引っかかるほど、奴もお人好しでもマゾでもないはずだ。

火炎放射器の射程距離は短い上に、奴もそれを警戒した動きをすることになり、攻略はかなり難しくなるだろう。

だからこそこの対抗策は、ヘルスゲージが半分以下になるまで温存していたのである。

 

「ア、アクセサリ……、対人、重視」

『了解しました』

 

何とか言葉にできた命令に、無機質な声で応答するポンコツ。

即座に命令を実行に移したポンコツのミサイルが、無慈悲なまでの正確さでアーベルに直撃。

ゴリゴリと奴のヘルスゲージが削られていく。

だが、決して良い事ばかりではない。

この不可思議な炎のせいか、ミサイルの直撃を受けても派手に吹っ飛ぶ事もないが、少しずつ射程圏内からずれていき、軸あわせをしなくてはならなくなったのだ。

残影が刺さったままの脇腹からの激痛と出血で意識がすぐに飛びそうな上に、刺さった残影のせいで不自然な体勢での攻撃だ。

ごつい銃身を支えきれずに取り落としそうになる。

んだよ! 何で俺こんな目にあってんだよ!!

 

『敵アブダクター、損壊率七十パーセント。あと少しで撃破できます』

 

奴のヘルスゲージも残りわずか。

早く、早くくたばれえええ!!

 

『奴を止めろ!!』

 

ナタリアの声と共に地響きを立てて向かってくる足音。

レッドレイジだ。

今の状態では奴に当たっただけで、確実に戦闘不能。

後もう少しだってーのに、こっち来んな!

 

『ユウ!!』

 

ベアトリーチェ!?

 

『すぐに回復するから!』

 

だが、視界の端に恐怖の赤が見える。

来るな! 来ちゃダメだ!!

声に出したくとも、声を出す余力がない。

鮮やかな緑の光に包まれた途端、ピンク色の人影と共に黄色の塊に薙ぎ払われた。

とっさにピンクの影を抱きかかえるが、面白いように何回転かして床に倒れ伏す。

 

『ユウ! ベアトリーチェ!』

 

マティアスの声が聞こえるが、答えられない。

床に叩きつけられた痛みのせいもあるが、物理的に顔をふさがれているせいだ。

骨を取巻いている肉の柔らかさ、肌の質感、脳の芯を揺さぶる汗と女の匂い。

それらを増幅させる生きている人間の温かさ。吐息。鼓動。

ベアトリーチェの程よいおっぱいが、俺の顔に遠慮なく押し付けられていた。

古代では、このような大変に幸運で貴重な状況に置かれた男の事を『ラッキースケベ』と呼んだそうだ。

体中の痛みを一瞬でも忘れさせるこの貴重な状況を、ベアトリーチェが退くまでしっかりバッチリ積極的に堪能したいところだが、さすがに自重する。

すぐさまベアトリーチェを起こし、自分の体をチェック。

残影の刺さった脇腹はジクジクと出血と痛みを訴え続けているが、致命傷には至っていない。

ベアトリーチェのほうもダメージは受けているものの、まだヘルスゲージに余裕はあった。

 

「ちょっと待ってて」

 

起き上がったベアトリーチェは俺の脇腹を見て、すぐに荊のチャージ体勢をとり、茨の力を俺に向けて解放した。

瑞々しい光を受けて、脇腹の傷も瞬く間に回復する。

 

アーベルのほうを見れば、奴はフロアに倒れ伏していた。

まだ生きているようだが、起き上がれていない。

だが奴の目の前に、レッドレイジが立ち塞がっていた。

ベアトリーチェが口元を押さえる。

敵味方関係なく、アブダクターに並々ならぬ愛着のある彼女にしてみれば、今のレッドレイジはあまりに痛々しい姿なのだろう。

兵装は剥ぎ取られ、頭部はすでになく、全身の間接部分、そして鳥篭からウィルオーの火花と煙が立ち昇っている。

満身創痍とはまさにこの事だ。

自身のヘルスゲージも残りわずかだというのに、アーベルを守ろうと果敢にも俺達に立ち向かうその姿は、プログラムされた行動であったとしても、人の勝手な思い込みだとわかっていてもグッとくるものがある。

だが、そんなちゃっちな情など消し飛ぶ事実を見た。

コイツの左腕がフロアの片隅に転がっているにも関わらず、なぜか左腕が装甲がパージされた状態で復活してる。

俺達が吹っ飛ばされたのは、あれのせいだろうが、だが何でだ? 何で復活できちゃうんだよ、所有者共々チートすぎんだろ! マジどうなってんだよ!

 

『引き倒すぞ!』

 

ウーヴェが叫び、荊を射出。

それに倣うように、エルフリーデも、ナタリアも、マティアスも、そしてあのカルロスも、一斉に荊をレッドレイジに接続。

続けて俺とベアトリーチェも荊を射出し、全員でドラッグダウンを仕掛ける。

レッドレイジの巨体に計七本の荊が巻き付き、さしものレッドレイジも瞬く間に体勢を崩した。

 

『敵アブダクター、一時的に無力化。追撃を提案します』

 

バーバラに持ち替えて鳥篭めがけて一斉に射撃開始。

と、マティアスがレッドレイジの傍らで大剣のチャージ体勢に入った。

 

『前のお返しだあああああっ!』

 

雄叫びと共に回転斬り落としが見本のように綺麗に決まり、レッドレイジは仰け反って断末魔の咆哮を上げた。

瞬く間にその体は深い緑色へと変色し、崩れ落ちていく。

 

『おおっ!』

『よくやった!』

 

仲間が口々に賞賛の声を上げるが、その時見た。

レッドレイジに庇われていたアーベルが起き上がろうとしているところを──。

させるか!

右腕の荊を即座に射出し、奴に向かって飛び出す。

お前のケナゲなオトモが待っているぞ、さっさと逝ってやれ!!

ダイブアタックが決まり、奴のヘルスゲージはなくなった。

着地を決めた時、鋭い気配を感じて視線を飛ばせば、苦い表情で槍を構えるカルロスの姿があった。

 

『なんだよ。やっぱ美味しいところ持ってきやがって』

「さーせん。早い者勝ちってことで」

『何だかんだで、お前はいっつもそうだよなぁ。たまにゃあ俺にも譲ってくれよ』

 

肩をすくめ、それでも笑うカルロス。

どうやら俺同様、アーベルの起き上がる気配を察してチャージ攻撃を仕掛けようとしていたようだ。

アーベルに背を向け、荊でみんなの元へ戻った時だった。

 

「嘘でしょ」

「何で生きてるんだよ、アイツ!」

 

ベアトリーチェとマティアスの声に振り向いて、本気で仰天した。

アーベルが立ち上がろうとしている。

残影を杖代わりに立ち上がろうとして、しかし血を吐き、膝を落とす。

だが俺達を見据える目には、まだ力がこもっていた。

 

『フッ……ハハハハハハ!』

 

心底から愉快な様子で笑い声を上げる奴に、後退りしたくなるのを懸命に堪える。

コイツ、どこまでバケモノなんだよ!

 

『これが敗北……。敗北の味というものか。初めて知ったぞ』

「あーそうかい」

 

今まで負け知らずだったのかよ。

何それ、俺ツエーの自慢スか?

内心悪態を付く俺に、奴は目を見開き叫んだ。

 

『悪くない!! 悪くないぞ、小僧!!』

 

心底から愉快そうに笑った奴だが、一瞬、その不遜な面を悔しげに歪ませた。

そして、ふらつきながらもどうにか立ち上がると、俺達に背を向け、棺に向かって歩き出す。

 

『ああ、だが惜しいな。新たな世界で、この思いを、再び、味わえないとは……』

 

その台詞で気付く。

血まみれの自分の服の匂いで気付くのに遅れたが、戦う前に感じた甘い香りがやけに強くなっている。

 

「あらら、遊びすぎちゃったかね」

「間に合わなかったか」

 

ウィルオー通信で拡大表示される棺の花は、満開を迎えていた。

花はハラハラと青い欠片を散らし、まるで奴を祝福するかのように咲き誇る。

奴は残影を引きずりながら、棺に向かって手を伸ばした。

 

『これで、これでようやく、ようやく叶う。俺の長きに渡る望みが、今叶う!!』

 

叫ぶその声に、この男がどれほどこの瞬間を待ち望んでいたかがわかる。

その姿は、最強と謳われる咎人とは思えない、滑稽で惨めで弱々しい、あまりにも人間らしいものだった。

だが滑稽だというのに笑えない。

奴の天地を燃やし尽くすような怒りと、狂的なまでの切実で真摯な望みに勝る思いが、今この世にあるのだろうか。

その思いに応えるかの様に棺の扉が、このフロアを、このPTを、この世界をも震わすであろう荘厳な音を立てて開かれた!

 

『ヒトが、ヒトらしく生きられる無法の新世界! 阿鼻叫喚の諍いの楽園『煉獄』!!』

 

棺の向こうは、炎に溢れていた。

たちまちフロアが赤く染まり、急激に周囲の温度が上昇する。

硬い音がした。

奴がどんな時も決して手放さなかった残影がフロアに落ちていた。

それに続くように、奴も倒れこむ。

倒れこんだ奴が俺を見ていた。

 

『弱いという事は、この世界で何よりも罪深いのだという事を』

 

その表情は、あの時の表情。

俺を見ているようで見ていない、その上で浮かび上がった苛立ちと哀れみと何か遠くを見るような奇妙な表情。

ムカつくわ。

コイツは俺に何を重ねてんだ? 俺に何を訴えたいんだ?

だが奴は薄い唇を動かして何事かを呟き、そして今度こそ事切れた。

 

「おい手前、何満足そうに死んでやがんだよ!」

「ユウ! 下がれ!!」

 

思わずアーベルに駆け寄ろうとする俺を、ウーヴェとマティアスとが押し留める。

炎の勢いに押されるように、扉が大きく開かれた。

叩きつけられる熱風に顔を庇い、後退しながら俺は見た。

炎の向こうに、今まで聞いた事のないような駆動音を立てて傲然と現れる丸くて四角いもの。

そして唐突に周囲が連鎖的に爆発を起こす。

レッドレイジとアーベルを跡形もなく消し飛ばし、箱が花のように大きく開いた。

どう考えても、アーベル以上に話し合いなど通用しそうにない相手だ。

そう。

俺達の意思に関係なく、戦いはまだまだ続くのだった。

 




ここまでお読みいただきましてありがとうございます!
毎回の事ではありますが、誤字、脱字、言い回し等の変更がある際は、都度手を入れていきます。

アーベル戦はこれにて終了になります。

まずはアーベルさんのファンの方、申し訳ありませんでした。
設定資料集が発売される前でアーベルさんの人物像が全くつかめず、と言うか今も掴みきれておらず、何とかテーマに落とし込もうとした結果の、このアーベルさんです。
思っているのと違う! 全然オサレでもスタイリッシュでもない! と言われましたら申し開きも出来ません。
ご容赦いただければと思います。
ていうか、現在のイデオロギー戦でダントツのトップを突っ走るアーベルさんのファンの反応が本当に怖いです。

そしてやっぱり火炎放射器の出番となりました。
そもそも、ガチンコでのやりあいは考えていませんでした。
社会人一年か二年目の若造が、いきなり会社のカリスマエースに真っ向から勝負しかけて勝てるわけもなく、そもそもこんな小僧にガチンコ勝負で負けてしまったら、地上最強を謳う咎人としてあまりにも情けなさ過ぎると思ったのです。
創作だったらそれもありなのでしょうが、私が書きたいお話はそういう類ではないので。

アーベルさんについては、まあそこそこに書けた感じですが、そのあおりを食らってレッドレイジについてはあまり描写が出来ませんでした。
書く機会がありましたら、アブダクター戦については改めて書いてみたいですね。
上手く書けているかはともかく、戦いの場面は書いていて楽しいですので。

今回の話については、活動報告のほうに少し書かせてもらおうかと思っていますので、お時間とご興味があれば、ご覧いただけたらと思います。

今年の投稿はこれにて最後になります。
来年はいきなりの箱戦です。
箱についても、ちょこっと手を加えてお披露目する予定になっております。
お時間のある時に目を通していただければ幸いです。

八月の末から投稿を始めて四ヵ月ほどですが、お読みいただきまして本当にありがとうございました。
それでは、メリークリスマス!
活動報告をご覧にならない方は、良いお年を!

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