「ギブギブギブ!!」
「乙女の純情を利用した罰と!」
「乙女を弄んだ罪を!」
「「受け取れぇぇえええ!!」」
「WARYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!」
目を覚ました私の視界に映ったのは、殺されたと思っていたエンネアとアイネスにアイアンクローを掛けられながら、無理矢理エビ反りに固められて床で悲鳴を上げるリィンの姿でした。
私が茫然としていると、部屋の扉が開いてある人が入ってきました。
「どうやら、無事に目が覚めたみたいですね」
「アリアンロード様!?」
「うっすアリア」
「まだ懲りぬか!」
「くらえやぁぁ!!」
「ユニバァァアアアス!!」
現れたのは、私が敬愛して止まないこの世界の武の頂点に立つ御方、《槍の聖女》アリアンロード様でしたわ。
その御方に気軽に声を掛けたリィンは、また二人から制裁を受けてましたが。
「デュバリィ、申し訳ありませんでした。まさか、あんなことになるとは」
「え、ええ!?ど、どうしたんでしか、アリアンロード様!?」
リィンを見ていたら、急にアリアンロード様が謝罪をされ、頭を下げられました。
理由が分からず、私は狼狽するだけでした。
「実は、彼に貴女達を襲うように依頼したのは私です」
アリアンロード様の突然始まった暴露話に、私は目を白黒させることしかできませんでしたの。
「貴女達の鍛練に丁度良いと考えたのですが……」
「だから申したであろう。闇より深き深淵より生まれし、“可能性の獣”、またの名をユニコーンたる俺の実力を持ってしても、未だ眠れる獅子たる俺が勝つには奇襲に搦め手を使わないと無理だと」
「ようは、まだ未熟だと。主に《道化師》や《怪盗紳士》、《殲滅天使》、《死線》から気にかけられ、《剣帝》や《却炎》から教えを受けているから、と過大評価し過ぎましたか」
「その通りッス。だから執行者並みの実力を持つ《鉄騎隊》と正面から戦うなんてムリムリ。ぶっちゃけ、レンやシャロなんかは研究仲間ですしおすし」
自慢することではない筈なのに、胸を張って主張する彼に、イラッときた私は悪くない筈ですわ。
「ま、そういうことにしておきましょうか。それでは、デュバリィ」
「は、はい!!」
不意に名前を呼ばれ、身体を強張らせてしまいました。
「貴女に新たな任務を与えます。そこの少年を鍛えなさい」
「えぇ!?な、何故ですの!?」
私にとって、理解できない任務に思わず声を上げてしまうのでした。
「理由ならば、簡単です。貴女と彼が似ているからですよ」
「似ている?」
「ええ。そういうわけで、似ている二人で切磋琢磨すれば伸びるのでは、と考えたわけですよ」
「確かに一理ありますが……」
「期限は一年。無事達成できた暁には、私が直々に相手をしましょう」
「もちろん、やらせていただきますわ!このデュバリィに、お任せくださいですわ!!」
「ふふ。頼りにしていますよ」
アリアンロード様と直接手合せできるという名誉に、私は目が眩み引き受けることにしましたの。
「ではデュバリィ、一年後を楽しみにしていますよ。それと、貴方もですよ。執行者No.番外《虚刀》のリィン・シュバルツァー」
「遠慮します。というか、俺は一言も《蛇》に入るといった記憶なんてございませんが」
「当然です。ブルブランが変装した貴方が代わりに、加入式に出席しましたから」
「アイェェエエエエ!ナンデ!?皆の天使、レンちゃんとキャッキャウフフしてたからなの!?」
「いえ、カンパネラ曰く、その方が面白いから、だそうです」
「おのれ、これもゴルゴムって奴が変身したクラシスの仕業なんだ!全部、あいつのせいなんだ!!」
番外とはいえ、執行者として数えられたことは初耳であったらしく、リィンは、いあいあ、などと呟きながら現実逃避に入ってしまいました。
「アイネス、エンネア。許可します」
「さーて、患者さん」
「診察のお時間でーす」
「オデノガラダハ、ボドボドダァー!!」
そう言えば、ここ病院でしたのね。
なぜか看護服を着ているエンネアとアイネスに担ぎ上げられて連れ去られるリィンを見ながら、私は今更ながらそんなことを思うのでした。
そういうわけで、退院した私は早速リィンと共に修行することになりましたの。
帝国各地を走り回ったりしましたが、主にリィンの故郷であるユミルに滞在していました。
で、色々ありながらも一年が過ぎ、私の任務は終わりました。
その後はご存知の通り、結社から指令を受けて再びリィンの元に参ったわけですわ。
あら、どこで惚れたのか、ですって?
うふふふ。流石にそれは恥ずかしいので、お話できませんわ。
そうですわね。強いて言うならば、私にも王子様に助けられるお姫様の願望があった、ってことですわね。
え?最後に何故、リィンと話す時だけ口調が違うのか教えて欲しい?
クス。それぐらいでしたら、構いませんわ。
単純ですわよ。彼の隣では、私はただのデュバリィですもの。
この口調は、私が武の頂点に立つ者としてのたしなみとして、自身に課したものですので。
ええ。それではご機嫌よう。