なんというかこの作品を楽しんでもらえてうれしいです。
まあ残念な話ですが第一巻はご都合主義があります。そこは目を瞑っていただくと幸いです。
ではどうぞ!
『切り裂き魔』――――それはジャックの異名だ。
全てを切り裂く怪人。
全てを斬り殺す女性。
殺人鬼とも呼ばれるその者は最初は泣いていた。何かを思い出していたのか、はたまた殺すことを辛く思ったのか、彼女は泣いていた。
いつの日か彼女はなくなった。戦争中にとある一般兵士が彼女を見たとき、冷たい目で死体を見ていた。
辺りに散らばる血の遺体に、その中央に冷たい彼女がいる。
――――ああ、なんて美しいことか
兵士曰く、それは美しく恐ろしい者だった。血の芸術に恐怖よりも美しさを感じたのだ。
血濡れた彼女はいつの日か去るとき、彼は悲しく思う。
彼は聞きたかったのだ。
夕陽を見るたびに悲しそうに見ていた理由を……。
☆☆☆
十香が撃たれた。そのことを現実とは思えなくなってしまった。
このときの四季は前世の姉と重ねてしまったのだ。だからショックで思考が止まってしまった。
このままでは十香は死ぬ。しかしトラウマの再来で動けない。
そんな中で『士道』は叫んだ。
『四季、目を覚ませ!』
『士道』の言葉にハッと目を覚まし、彼は十香の容態を見た。
胸がやられていた。心臓が消し飛んでいた。普通の人間なら即死だが、十香は精霊だ。まだ簡単には死なない。
短い時間だがまだ助かる可能性はある。四季は手合わせ錬成を開始しようとしたとき、十香はそれを手をつかんで止めた。
「いいんだ……シキ」
「いいわけあるか! お前はまだまだこの世界のことを知るべきだ。いや知ってほしい! お前はここで死ぬヤツじゃないんだ!」
「わかるのだ……私は助からない。自分でも不思議なくらいわかるのだ……」
ゴホゴホと血を吐く十香に四季はせめて胸の傷だけでも、と思い錬成で塞ぐ。しかし消し飛んだ心臓を再構成するには人体錬成が必須だ。
それは前世のときと同じ状況を意味していた。
「死なせない。お前を死なせてたまるか! 姉ちゃんのような最期をまた見るなんて嫌だ!」
「……はは、おまえには姉がいたのだな。しかし、おまえは泣いてる顔は女っぽいぞ……」
「黙ってろ! 女なんて前世の話だ。今は関係ない!」
四季は再び手合わせ錬成しようとしたが十香にまたしても止められた。
「シキ……おまえがしようとしてるのは自分の命を使うこと……そうだな?」
「ッ……!」
「馬鹿者。私はな、ホッとしてるのだ。おまえが無事なことが……ここでやっと終われることが……」
十香がポツリポツリと語りだしたのは自分のこれまでことだ。いつの間にかここにいて、誰かに命を狙われる毎日。
傷つくのは嫌で抵抗した。酷い怪我を与えることもあった。けれど、やればやるほど悲しくなっていた。
自分は必要ないって言われてるようだった。
しかし理解者が現れた。それこそ四季なのだ。
彼はなんでも知っている。
彼はなんでも肯定してくれた。
そして家族という絆を与えてくれた。
それが孤独な少女にどれだけの希望と活力を与えたことか。
徐々に力を失う少女に四季の握る力が籠る。どうしようもないことはわかってるのに、彼は諦めきれない。
「シキ、泣いてるのか……?」
「あ、れ……」
胸が苦しい。こんなことは姉を失って以来だ。
四季の目から涙が溢れ落ちる。十香はそれを見てうれしそうだ。なぜなら、自分のために泣いてくれている彼がうれしいからだ。
愛しい。彼の全てを捧げたいと思えた。しかし自分の命はもうない。彼とはもう一緒にいられない。
だから最後に言おう……。彼に、彼だけに与える言葉を。
「――――ありがとう……私のために泣いて……くれ、て…………」
十香は目を閉じ、手が四季からスルリと抜け落ちる。彼は呆然とそれを見ていた。
自分はまたしても失った……。姉を失ったように十香を失ったのだ。
それを自覚したとき彼の感情――――『士道』から生み出して、なくなったはずの感情が復活し、虚無に支配された。
『四季……お前……』
彼は十香を抱きしめて泣いていた。血で汚れることを気にせず、彼は静かに泣いた。
「…………五河四季。そこから離れて」
『ッ、AST!』
ASTの部隊が四季を保護するため、十香の遺体を処分するために降りてきた。四季は折紙の言葉など耳が入ってなかった。
『十香をどうするつもりだ鳶一』
「処分しなくちゃならない。彼女の遺体、死んでも精霊である限り私達ASTはそれを処分しなければならない」
『お前ら……それはどういうことかわかってるのか!?』
『士道』の感情が爆発した。いくら職務とは言え、亡骸でさえ自分の手で埋葬させないことに彼は許せなかった。
『十香を撃ったのは誰だよ! 四季をこんな風にしたのは誰のせいなんだよ!』
「ッ………………それは」
犯人である折紙はその答えに素直には言えなかった。仲良くなったのは精霊という災害とは言え、彼はひどく悲しみ傷ついている。
目の前で死んだ友人を殺したのは自分だとは言えなかった。すると、四季は十香の口にキスをしていた。最後の別れと言わんばかりに。
そして彼女の亡骸を寝かせて立つ。彼の顔は見えなかった。
「……誰だよ。十香を殺したのは」
『し、四季?』
『士道』には四季の前世の記録を知っている。彼はこの状態の四季と似た状態を知っている。だから戸惑った。
まさか、と『士道』が考えた瞬間、四季は手合わせした。
「どこのどいつだ……人の大事な家族に手を出したクソヤローはァァァァァ!!」
感情が爆発した。それがないはずの四季が手合わせ錬成で突起を作り出す。ASTはすぐに空中に避難した――――が、彼女達の上空に影ができる。
「な、何よ……あれ」
燎子は目を疑った。上空には飛行機くらいの大きさの龍が目を閉じて、浮いていた。
突起の錬成は囮で、本来の狙いは召喚だったのだ。四季は最強の怪物を喚んだのだ。
「殺せ神龍。コイツらみんな殺せェェェェェ!!」
神龍は雄叫びを上げて目覚めた。もはやASTの対象は精霊ではなく、この龍だ。彼女達は決死の覚悟で龍に挑む。
一方、折紙は神龍を喚び出した四季と対面していた。彼ならあの龍を止めることができる。だから説得するべきと判断した。
「四季、あの龍を止めて。このままだとみんなが死ぬ」
彼女の願いに四季は鼻で笑った。くだらない、と言わんばかりに。
「なぜだ? お前らは敵だ。殺すべき敵だ。だから死んで当然だろう?」
「四季! あなた……!」
「そもそも誰が十香を殺したんだ? 俺はソイツさえ死んでくれれば――――いやソイツらの仲間や親族みんな死んでしまえばそれでいい」
「ッ……!」
四季の目は完全に正気ではなかった。復讐者がする目。
それは折紙がよく知る憎悪の目だ。彼は十香を殺した女やその関係者が死ぬまで止まらない。
四季のインカムから琴里の泣き声の懇願が響いていたが、今の彼にはただの雑音でしかない。
「仕方ない。お前を切り刻んで、復讐対象を誘き寄せるか。どのみちここにいる女は皆殺しだけど」
四季は地を蹴り、折紙はバックステップをとる。折紙は<ノーペイン>を構える。レーザブレードのこの剣なら四季の持つナイフが切れるはずがないと判断したのだ。
「『斬殺の刑に処す』!!」
しかしあっさりと<ノーペイン>はバラバラにされた。それに目を見張るが、すぐに思考を切り替えるはめになる。
四季のナイフが顔面に迫ってきた。折紙はそれを身を屈むことで回避したが、今度は強烈な蹴りを受けてしまった。
(ここまで……できるなんて)
信じられない。ただのクラスメイトがこのような戦い慣れにしていることが信じられない。
しかし四季の行動全ては完全に人を殺すために特化している。絶対に殺すためだけに磨かれた殺人技術だ。
「死ね」
処刑宣言を述べ、四季は地を蹴る。折紙は死を覚悟した。この男の逆鱗に触れてしまい、自分達は死ぬのだ。
なんという皮肉なことだろう。守りたい少年を怒らせてしまい、その少年に殺される結末。折紙は目を閉じて覚悟した。
キィン!!と金属音が鳴った。折紙の目の前には自身の身体だった埴輪でナイフを受け止めた音だ。
「『士道』、お前!」
「復元したらできちゃったみたいな!」
同じ容姿だが瞳の色が違う少年達。天才と素人。勝負は明白だが、この勝負は武力では決まらない。
『士道』は苦笑しながらも『最凶』に挑むのは――――説得なのだから。
ボツ案
「やれやれ……転移された挙げ句、喚ばれたのはジャックの転生先かよ」
「良いじゃん雷斗。楽しいそうじゃん!」
金色の瞳の青年とエメラルドの綺麗な髪をした女性が四季と対峙していた。四季は彼と彼女ではなく、『士道』を睨み付ける。
「『士道』……お前、まさか」
『召喚術。まさか成功するとは思わなかったけど、結果オーライかな』
埴輪な『士道』は召喚された者達に願うのは一つ。
『お願いです。彼を止めてください、「閃光」さんと「混沌」さん』
「はいよ」
「ミックミクしてやんよ!」
雷斗はクナイを構え、エールは龍に向かっていく。
『最凶』に渡り合えるのは『最凶』のみ。『最凶』の二人が勝負が始まった。
このボツ案採用されたらハルマゲドンが起きる。
変態がデアラを汚染する……。
まあ一番の理由はご都合主義だったり。