てか、前世の四季って女の子だったようです……。
ではどうぞ!
それは一つの悪夢だった。
町は戦火で燃え、建物至るところは崩れ去っていた。中世の町並みが何発モノ砲撃で瓦礫に変えたのだ。
周りには動かなくなった老若男女の遺体がある。砲撃の衝撃で亡くなった者や戦火で焼殺された者ばかりだ。
そんな空間の中で一人の少女が自分より歳が離れた女性に泣きながら呼び掛けていた。
「死なないで……死なないでくれよ姉ちゃん!」
金色の瞳で中性的な顔だちの少女が涙を流していた。
彼女の姉と血が繋がっていない。彼女は孤児だったところを姉の両親に拾われ、今日まで幸せに過ごしてきた。
なんでも知っている彼女にとっては退屈な毎日が多かったが姉との生活は唯一の楽しみだった。
しかし姉の両親は先程の砲撃で死に、そして第二射により姉は助からない重傷を負った。もはや彼女は死ぬのは避けられない。
「錬金術……そうだ。人体錬成で身体を構築すれば……!」
妹はそうと決まれば、と手合わせをする。しかしそれは姉の手により止められた。
「駄目だ。君がそんなことすれば君の身体が持っていかれるよ……。それに身体を錬成することも『抑止』が黙っていない……ゴホ、ゴホ!」
血を吐き出しても彼女の手を離さなかった。姉は無理な笑みを浮かべて、彼女の頬を触れた。
「ジャック……君は生きなきゃいけない……。アタシのためにも、死んだ両親のためにもどうか生きて……」
「姉ちゃんがいない人生なんてつまらないよ! だから俺は!」
「ふふ……ああ、うれしいわ……。こんな妹を持ってお姉ちゃんは――――ナツミはうれしいわ……」
段々と彼女の目蓋は重くなっていく。彼女の体温が冷えていく。ジャックは悲しみのあまり涙が止まらなかった。
「ジャック……約束して。これから会う人と、特に女の子との約束は守るってことを約束して……」
「約束する。約束するから! だから俺も姉ちゃんと約束。姉ちゃんを生き返らせて見せるよきっと!!」
その希望は不可能であることをナツミはわかっていた。自分が蘇ること、ましてや死者蘇生が『抑止』が許すはずがない。
それでも彼女は、
「わかったわ……約束よ。ホントに、今まで…………ありが、とう……」
最後の最後で彼女の希望を否定しないように嘘をついたのだ。そしてお礼の言葉と共に、姉は事切れる。息を引き取ったナツミの遺体を抱えてジャックは決意する。
「約束は守るよ姉ちゃん。俺はきっと成功させてみせる!」
ジャックの始まり――――それは『切り裂き魔』という錬金術師の誕生である。
はじまりは希望だった。理想を求めた少女だったのだ。
されど彼女は死者蘇生の皆無さに絶望し、代償行動をとるかのようにあらゆるモノを作り出し、とある実験の末に亡くなったそうな……。
☆☆☆
青空の広がる空中にて、折紙はガトリング砲を校舎に撃ち続けていた。彼女がにっくき宿敵精霊を誘き寄せるためである。
インカム越しに日下部燎子に彼女が出てこないと報告したとき、壁から先に精霊に襲われてる(ように見える)四季の姿を目撃し、近接戦闘用の対精霊レイザーブレード<ノーペイント>を引き抜いて校舎へ向かう。
『単独行動は危険です。戻りなさい』
しかし折紙の耳には燎子のインカム越しの声は聞こえてなかった。彼を助けるために彼女は全身全霊を持って突撃する。
閑話休題
そんな折紙の気持ちなどつゆ知らずに、四季は椅子に座る十香に茶菓子とお茶を用意した。
「シキ、どうやってその飲み物や食べ物を出しているのだ?」
「手品だ。最近の上級手品師は光と共にお茶や茶菓子を出すのが容易いのだ」
「おお! そのテジナとはスゴいだな!」
『騙されるなよ十香……』
『士道』はこれが手品ではないことを知っている。『召喚術』だ。四季があらかじめ用意していたお茶と茶菓子にマークをつけて、召喚できるように設定していたのだ。
「『士道』、うるさいぞ。四季が嘘をつく輩ではないぞ」
「いや嘘だ」
「嘘なのか!?」
えへんと、胸を張る十香に四季は茶菓子を食べながら言った。ショックを受けてリアクションをとる十香に四季はクスクスと笑う。
『お前も嘘をついてやるなよ。この子純粋なんだぞ』
「何を言う。こんな純粋でかわいい美少女をからかわなくて、なんという? それに俺は陥れる嘘などは付かんぞ」
『悪人以外はな』
「十香は悪人ではないからそんなことはしないが、からかうためなら全力で嘘をつく!」
『堂々と言うんじゃねえ!!』
ははは、と四季は『士道』のツッコミを楽しむ。不満顔だった十香だが茶菓子のクッキーを一口含むとほにゃーと口元を緩ませる。
「俺の自作のクッキーは如何かね?」
「――――は! ふ、ふん。まあまあだな。……四季、これはなんという食べ物だ?」
「クッキーという食べ物だ」
「クッキィ……うむ。美味だな!」
四季の目がキラリと光る。何かを思い付いたと『士道』は思った。
「そうだな。明日、デートと言うものしてみないか?」
「デェト? なんだそれは?」
「男女が楽しく食べ物や買いたいものを買う。まあ主に遊びにいくことだな。お互いが楽しむのが目的としたものだ」
「ほー!」
「明日、行こうか?」
「行く!」
十香がデートというものに興味を示してくれたことに、琴里達はインカム越しで喜びが聞こえる。
四季は満足と言った顔で「よし、じゃあ」と時間と場所を言おうとした一瞬あと、折紙が十香に斬りかかる。
十香はそれを防ぎ、「無粋!」と言って折紙を飛ばす。
「やれやれ……十香。すまないが俺はここでお別れだ。お前の邪魔をするわけにはいかないからな」
「なっ!? くっ、おのれェェェェェ『メカメカ団』めェェェェェ!」
なぜか激昂して折紙に斬りかかる。四季は首を傾げていると、『士道』がツッコむ。
『いやフラグ立ててるからお前』
「わけがわからないよ」
そんなこんなで回収される四季だった。
☆☆☆
四季はのんびり歩いていた。埴輪な『士道』もフヨフヨと浮いている。
「十香と別れてから翌日。学校も休校か」
『青空教室で授業が行われるわけないだろ』
「そうか? タマちゃんならやりかねない。なぜなら彼女は教師の鏡だから」
『なんでそんなに自信あんの? てか、教師なら危険地帯にわざわざ生徒を送られねえし』
歩いていると、ふと四季は足を止めた。『士道』は「ん?」と首を傾げていると、四季は唇を動かした。
「なあ、『士道』。十香ってあの人に似てるよな……」
『…………お前の記録からすれば、容姿はそっくりだ』
「ああ……ホントに。違うと思ってるのに、どうしても重なってしまうんだよ……」
『……もう考えるなよ前世のことを。お前はもう五河四季なんだから』
「そうだな」と呟いて彼は足を進めようとしたそのとき風が吹いた。突然の風に彼は髪で目を閉じなければならなくなり、次に視界が入ったときには見覚えのある夜色の髪の少女が写る。
「シキ、デェトをするぞ!」
「こういう行動力のあるところもそっくりなんだよな」
『……ホントにそうだな』
喜んでいいのやら悲しんでいいのやら、四季と『士道』は複雑な気持ちになる。
「だが、グットタイミングだ十香。さあて――――俺達の
彼は彼女の手を引いて、楽しむためにどこに行こうかと思考するのだった。
ガールズラブもタグに入れようかな……。
でも今の四季はなんか男に染まってるし。