切り裂き魔と精霊ちゃん達   作:ぼけなす

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第四話 ブレイク

 

 

 

 五河四季は理解できない存在だ。全てにおいて普通ではなく、全てにおいて異常な行動力をする。

 

 彼の第一欲求は好奇心を満たすこと。それが満たされるのであれば相手がどうなろうが関係ない。

 

 ただ例外はある。彼は実はフェニミストなのだ。つまり家族とも言える、またはなれる存在には甘い。

 

 琴里が仮に家族ではなく他人ならば彼は実験素材(モルモット)にしようと考えないくらい、無関心だったはずだ。

 

 さて、最初になぜこのようなことを言ったのか?

 

 答えは簡単だ。後に彼が出会う精霊は家族になれる資格がある。

 

 それがもし……もしも精霊(かのじょ)達が消されることとなれば――――彼はどうなるのだろうか?

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 改造ギャルゲー事件が終わり、第二段階の訓練に入る四季。

 

 第二段階は実践――つまり口説いてこいということだ。そしてターゲットは岡峰珠恵(通称タマちゃん)、四季の担任である。先生と生徒とのラブストーリーは社会で言えば完全に背徳のレッテルである。

 

 ぶっちゃけ四季は珠恵のことはただの担任しか思ってないし、他の生徒などどうでもいい凡人達。それを口説いてこいなど気乗りしない。

 

『ほら、シャキッとしなさい。もうすぐターゲットよ』

「タマちゃん、三十路手前の嫁ぎ遅れだろー? なんで俺が口説かなきゃならん」

『文句は言わずにさっさと済ませてきたまえ、シン』

「シンじゃなくて四季だから」

『シンダロウではないのか? シン』

「アンタ覚える気ないだろ。てか、『死んだろう』はないだろ。『死んだろう』は」

 

 そんな名前つけられれば歩けば死亡フラグの祭りという未来しかなさそうだ。とは言え、四季も人のことは言えない。

 

 彼が錬金術で生み出した作品は『山田くん』などという機械らしくない名前である。ネーミングセンスがないのである。

 

 『士道』はそんなことを考えながらタマちゃんがどんな目に合うのか不安だった。

 

 そしてターゲットの珠恵は廊下を歩いているところを見かけた。四季は「ターマちゃん」と呼び掛ける。

 

「こらこら、学校では先生でしょ」

「ごめんなさい、タマちゃん先生」

「タマちゃんから離れなさい、もう」

 

 クスクス笑う珠恵に良い雰囲気だと琴里と令音はモニターで確認する。

 

「ところで先生って結構美人ですよね」

「す、ストレートに言うわね……」

「俺は正直なんですよ。というか美しいモノを醜いと言う人なんて一握りですよ」

「むしろ先生は四季くんがそういう人だと」

「むむ、失礼な。俺は人格はぶっ飛んでるけど、感性は普通ですよ」

 

 怒ってますよーと頬を膨らませる四季。これも計算とは言わないがなんとなくしている仕草である。

 

 天然に子どもっぽさを出しているのだ。

 

『いいぞ。彼女の機嫌は良さそうだぞ』

『というかあんな四季初めて見るわ……』

 

 インカム越しで感想を言われ、スルーする四季はふとある疑問が浮かんだ。

 

「そういえば先生ってモテてますか?」

「そ、それを聞いちゃいますか……? そうですね。実は全然なんです……。努力はしてるのですが」

「ということは結婚とは縁遠いと」

 

 ピシリと空気が凍りついた。この男は人には言えないことを平然とやってのける。

 

「……私だって、私だって! 結婚したいですよ! ウェディングドレスを着て友人達のようにヒャッホーとしたいのよ! でも……なかなか出会いがなくて……」

「タマちゃん、出会いってのは待つもんじゃないよ」

 

 泣き始める珠恵に四季は手を握る。彼は彼女の目を離さなかった。

 

「今まで待つのが女の子理想だったけど、現実は違う。理想なんて幻想に過ぎない。女の子が積極的にいかないと、どんどん周りに先に越されちゃうよ?」

「でも、私は怖くて……」

「そんなもの現実には通用しない言い訳さ。恋愛は戦い――――勝てばモテて、負ければフラれるという戦争さ。タマちゃんはこのままでいいの? 何もできずどんどん老いていくことを良しとするの?」

 

 四季の言葉に珠恵に闘志が沸き起こる。彼女は四季の手を振り払い、拳を握り天へ伸ばす。

 

「そうよね! 積極的じゃなきゃ何も得られないよね? なら、どんどんいくわ私!」

「その意気さタマちゃん」

 

 四季は彼女に背中を見せると、珠恵は言った。

 

「五河くんは生徒との恋愛は駄目だと思う?」

「いんや。したければすれば良いって思っている」

「じゃ、じゃあ……」

「ストップ。俺はタマちゃんのことはただの担任しか思ってないよ。だから気持ちは受け取れない」

 

 「そんな……」と珠恵が意気消沈してるところを四季は嘆息を吐いてから、ズイッと珠恵の顔まで近づく。

 

「一度フラれたくらいでへこたれるなよ。またがんばればいいよ、お嬢さん」

 

 ウィンクしてから背中を見せる四季に珠恵は「はわー」と言った感じで看取れていたが、すぐにブンブンと首を振って頬を叩いて気合いをいれる。

 

 四季は珠恵の前からクールに去ってから角を曲がる。

 

「失敗したな。フラグを立てることに」

『いや成功していたわよ!? てか、何あれ! どんだけダンディーなの四季!』

 

 大人の対応に琴里も思わずキュンときた。普段見せない四季のギャップにここまでの破壊力があるとは思わなかった。

 

「あんなのただの恋愛相談だ。タマちゃんの積極性の無さにムカムカしていたからついやってしまった。OK?」

『OKなわけあるか! それを普段通りにやりなさいよ!』

「やだよ。めんどくさい」

 

 いつもやるのは面倒だ。だからもうしばらくしない。それから歩いていると、折紙と遭遇。琴里からインカム越しに次の指令が出された。

 

『次はその子――――鳶一折紙を口説きなさい』

「やだよ。もう疲れたし」

『いいからする!』

 

 「はぁー……面倒」と四季は嘆息を吐いていると折紙から会話が切り始められた。

 

「五河四季、あなたに聞きたいことがある」

「んー? なんだ?」

「あなた、軍に勤めた経験がある?」

「オイオイ、中学生とかが陸軍や海軍に所属できるわけないだろ?」

「大丈夫。あなたの目の前に成功例がいる」

「……そういえばASTって陸軍だったな」

「答えて。あなたは軍に勤めていたの?」

 

 実は折紙の答えは『是』である。四季は元は軍であらゆる武器や兵器を考案、また軍医やハッカーとして勤めていた。いわゆるオールマイティーな衛士だったのだ。

 

 その雰囲気を感じとった折紙に「さすが」と内心感心する。とは言え、これはまだ琴里には話してないし、一番の問題は四季が軍に勤めていたのは前世の話だ。

 

 それをどう説明するべきかと悩んでいると警報が鳴り響く。

 

 

 『ウウウウゥゥゥゥゥ』と警報は収まると折紙は四季に背中を見せる。

 

「私は行く。あなたは早く避難して」

「ほーい。…………さて、琴里」

 

 四季はインカムの先にいる琴里に話しかける。それは普段には見せない真剣な顔だ。

 

「あの精霊か?」

『ええ、場所はここ――――来禅高校よ』

「場所は? 外か、中か?」

『中よ。ASTはそのため待機よ。施設内の戦闘にCRユニットは適してないの』

「広々とした大空でしか戦えない……か。ま、好都合だな。『士道』、いるか?」

 

 『はいよ』と返事して四季の周りをフヨフヨ浮く。準備万端だ。後は琴里の情報通りに行動するだけ。

 

『安心して四季。<フラクシナス>には頼れるクルーがあなたをサポートするわ』

「ほう、例えば?」

 

 『たとえば――――』と続き琴里は言った。

 

『五度もの結婚を経験した恋愛マスター・<早過ぎた倦怠期(バッドマリッジ)>川越!』

「要するに合計四回以上も離婚経験しているよな?」

『夜のお店のフィリピーナに絶大な人気を誇る、<社長(シャチョサン)>幹本!』

「ただの金持ちだろソイツ」

『恋のライバルに次々と不幸が。午前二時の女・<藁人形(ネイルロッカー)>椎崎!』

「呪術使い? 人を怨めば穴二つってことを覚えてろってネガティブ女に伝えてろ」

『百人の嫁を持つ男・<次元を越える者(ディメンション・ブレイカー)>中津川!』

「三次元をコンプリートしたか?」

『その愛の深さゆえに、今や法律で愛する彼の半径五百メートル以内に近づけなくなった女・<保護観察処分(ディープラヴ)>箕輪』

「法律に負ける愛など愛ではない。つーか、ホントに大丈夫なのかこのメンツ。明らかに不安定要素ばっかりなんだが」

『……皆、クルーとしての腕は確かなんだ』

 

 ぼそぼそと令音は呟く。なお、四季の指摘にクルー達全員グサッときた一言だったと追記しておく。

 

「まあいい。とにかくASTの女共が突撃指令が出る前にアイツに会う。OK?」

『OKよ。それに四季なら一回死んでもすぐにニューゲームできるから』

「そんな残機はないだろ。ま、コンテニューしないように気をつけておく」

 

 四季は歩きながら、<フラクシナスの下部にある>顕現装置(リザライア)を用いた転送装置という代物について考えていた。遮蔽物さえなければ転送できる装置らしいが、この転送装置がいずれ世界を渡らせるような改造を施すのも悪くない。

 

 そうすれば亡き前世の友――――ライトの墓参りくらいはいけるだろう。

 

(って言ってもそこについたときには既に何千年後とかもあり得るけど)

 

 四季はターゲットの近くまで接近すると、やはり廊下がゴッソリとクレーターが作られていた。これでは進めないな、と四季は嘆息を吐いてパンと手を叩く。

 

 そして地面に手を置くとパリパリと紫電を流しながらクレーターの廊下が再構築され、橋の形となった。

 

 これこそ四季の十八番(おはこ)――――錬金術である。材料さえあれば、彼はすぐに武器などを構築できる術式を頭の中にあるのだ。

 

 四季は産まれたときから錬金術の『真理』にたどり着いていた。『真理』を見ていたのだ。

 

 あらゆる錬金術の構築式や情報、そして錬成陣無しの錬成。脳内で錬成陣が組まれているので、手合わせすればすぐに錬成できる。

 

 前世では『真理』の情報がなぜ既に彼の中にあったのかはわからないが聡明な錬金術師――――つまり自分の本当の両親がその情報を引き継がせたのだろう。前世では四季は拾われた孤児だったため、真実はわからない。

 

 しかし前世の幼少期は新しい家族と幸せに過ごせていたのは紛れもない真実である。

 

 さて、説明はこれまでにして四季は橋を作り渡った。目的地は自分のクラス――――二年四組だ。

 

「どういう因果で俺の教室にきたのかはわかんないが……」

 

 四季は乱暴に蹴破る。スライド式のドアは既にボロボロだったため、蹴破ることが得策だった。そして四季は大空教室にしたお姫様の精霊に向かって言った。

 

「ここは俺の教室だ。少しは遠慮しろ」

 

 彼はニヤリと笑って再会できたことに喜んだ。

 

 

 

 

 




一応流れでは原作通りですがこの主人公は原作通りに動きません。もしかするとオリ展開があるかもしれません。

てか、四季って大人だ……。


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