ではどうぞ!
五河四季は歓喜した。理由は言わずもなが、目の前にいるこの美少女である。夜色の美しい髪をまとめ、なびかせ、布なのか金属なのかよくわからない素材がお姫様のドレスフォルムの衣装を着たこの少女は誰から見ても美少女だ。
そしてその目は悲しそうな寂しそうな言いようもない『憂鬱』がある。原作の士道ならば、この目の理由を聞くだろう。
しかしこの主人公にはどうでもいいことだ。人格、容姿、履歴など四季には単なる情報。
彼が知りたいのはこの少女が
「お前は何者だ? どうやってこの世界にきた」
「またか……」
少女は一気に近づき大剣を振り下ろす。四季はそれを飛んで躱し、質問を続ける。
「召喚術? いや送還術か? 未知の異世界渡航をお前は使えるのか?」
「おまえが何を言っているのかさっぱりだ!」
横への一閃。四季の胴体はこれで真っ二つと少女の頭にそんな未来が浮かぶ。彼は避けることなく受け止めた――――錬成した分厚い壁で。
「なっ!?」
「質問に答えろ。お前は何者だ? お前はなぜここにいる?」
少女は戸惑う。これまでにない防ぎ方で彼女は目を開く。
(何者なんだコイツ!?)
「ふむ……だんまり。仕方ない。ここは一旦――――あ、ヤベ」
ウォーンウォーンと埴輪から鳴り響く。それと同時に四季と埴輪から光が出て入れ換えるようにそれぞれ入っていく。
それから四季の身体に入った『士道』は冷や汗を流しながら埴輪の中にいる四季に聞いた。
「どゆこと?」
『今日は午後はお前が身体を使えるように設定してやった。それを伝えるのを忘れた。Final answer ?』
「アンサーじゃねェェェェェピンチじゃねぇかァァァァァ!」
発音の良い埴輪は「プークスクス」とわざとらしく笑う。楽しんでいる。『士道』の窮地を楽しんでいる。
少女は急に態度を変えた『士道』に剣を向ける。
「ヒィッ」
「おまえ、いったい何をした。あの壁といい先程の現象といいお前は何者だ?」
今の彼には戦う力はない。感情を感じとり、それを伝えるのが『士道』の役目。そして考え行動するのが四季の役目だ。
それが逆転し、身体がない四季にはどうすることができない。……まあ、それでも『士道』が脅されてるところを楽しんでいるが。
「四季カムバック!」
『断る。今まさにお前で愉悦を感じているところだ!』
「いや楽しんでいるじゃなくて助けろよ!?」
『楽しんでいるじゃない――――喜んでいるのだ! お前のピンチが面白すぎて!』
「こんの外道は!」
「やかましい! さっさと答えろ!」
剣を向けられ、怯える『士道』にそれを見てキャッキャッキャッと楽しむ埴輪な四季。この鬼畜は人のピンチを面白がっている。
すると突然、空からミサイルが少女に向けられた。『士道』を守るかのように埴輪の四季は防御魔法を展開し、少女はそれを斬撃を飛ばすことで切り裂いた。
「な、なんなんだ!?」
『む? 必要なかったか?』
上空から放たれたミサイルがまた少女に向けられる。少女は物憂げに嘆息を吐く。
「……こんな物が無駄だと、なぜ学習しない」
『士道』の次に視界に入ったのは上空にいる者達だ。機械を着ているという表現をとるべきか、彼女達がまとっているボディスーツを四季は剣呑な声で呟いていた。
『
忌々しそうに呟くのは無理もない。彼がかつてプラモ感覚で造り出した絶対緩和システムだ。人類が三十年前に手に入れた
この世界の魔法は機械を媒体にして想像することで使用できる。四季がこれを知ったとき、面白いと言っていた。
なお、このCRユニットには欠点がある。それは使用すれば三分くらい身体に重みを感じて動けなくなることだ。
それを緩和するために彼は絶対緩和システム――――『バファリン』を作った。名前に意味はない。彼のセンスがおかしいのである。
しかし、何らかの組織にそのデータと実験成果をとられた。
父親が売り込みをしようと考えたときに謎の組織に襲撃され、重症を負わされて奪われたのだ。その組織を彼が潰したのだが、そのときにはもう別の企業に売り込まれていたため、四季は憤慨しながらもそれを諦めた。
父親の傷のこともあったが、四季としてはCRユニットはもう理解した。ゆえに興味がなくなったのだ。
それから時が経ち現れたのがあのCRユニットだ。やはり頭が戦乙女が被っていそうな被り物をしていた。四季が開発した『
「五河、四季?」
「鳶一?」
『士道』を見て唖然としていたが、折紙はすぐに意識を精霊に向けて鋭い視線を向けたまま斬り込む。
衝撃波に『士道』は身体を飛ばされる。そのとき頭を打ち意識を失う。
『やれやれ……仕方あるまい』
第二波を防御魔法で『士道』を守る埴輪の四季。彼の興味は既にあの少女にある。折紙が離れたとき、ミサイルが放たれたが内側から押される形で見えない壁が少女をミサイルから守ったのだ。
『防御は現代科学以上。魔力の痕跡は無し。なんらかの力が使われてると仮定すると……これは益々興味が出てきた!』
埴輪の四季は少女が瞬きした瞬間に飛び込み、カッと辺りを目映い閃光を放つ。『閃光弾』として使われる魔法――――『
四季は少女に向けて言った。
『さあ、今のうちに行くがよい』
「貴様は喋るナニカ!」
『埴輪だ。まあいい、とにかく逃げろ。俺の閃光で今ならヤツら動けない』
「……なぜ助ける? 敵ではないのか?」
『敵? 別にお前と敵対したいわけでも殺しにきたわけでもない。俺はお前のことが知りたい。知るまで関わるつもりだ』
謎の少女は沈黙し、四季は彼女に向かって叫ぶ。
『さあ行け! お前を殺させはしない』
「ッ……!」
閃光が止み、謎の少女はそれからどうなったかは四季にはわからない。CRユニットを着た隊員達は「別の空間に逃げた」と口に出していた辺り、そこに逃げたのだろう。
四季は『士道』がのびているところに向かうと急に何者かに『士道』を抱えられ逃げられる。四季はそれに張り付き、再び四季と『士道』の身体を入れ換えた。
(面白い……この俺を誘拐する組織か。興味が出てきた!)
『はっ! 俺は何を!?』
……おそらくだが四季が誘拐されるところはろくなことにならないだろう。
☆☆☆
五河琴里は無事に四季を<フラクシナス>に到着し、医務室に寝かされたと知り、安堵した。あの兄のことだ。起きればすぐに事態を理解し、自分が交渉すれば協力してくれる。
五河四季は天才だ。そして異常人格者だ。埴輪の『士道』が彼の感情という役割で、四季は思考だ。
なぜこんなことになったかと言うと荒唐無稽な話になる。四季の元の名前は士道だ。しかし、この家に引き取られたときに彼は『憑依転生』で消えてしまい、それを良しとしなかった憑依転生で生まれた四季が『感情』を切り取り、造り出したのが『士道』という魂だ。
つまり五河四季には二つの魂が存在すると言っても過言ではない。まあ琴里も信じていなかったが、彼の異常ぶりを考えれば信じようと思える。
小学生がCRユニットのシステムをプラモ感覚で作れるモノじゃない。
(さあて、ここに来たら度肝を抜くかしら?)
琴里はワクワクしていた。自分がここまで登り詰めたのかは四季の驚く顔を見てみたいことあったりする。いったいどんな顔をするのか、そしてどのように自分の司令官っぷりを見せつけてやろうか考えているとチュッパチャパスを差し出される。
「ありがとう神無月」
「いんや、気にすんな。へー、宇宙戦艦ヤ○トっぽいなここ?」
あれー? 神無月ってこんな声だっけー?
と琴里が振り返るとそこには目を光らせる少年と憂鬱そうに俯く埴輪がいた。
「な、ななななんで四季がここにいるの!?」
「解析官出し抜いてここにきた。OK?」
「オーケーなわけあるか! てか、どうしてここが――――って話を聞けー!!」
ウナー!と怒髪天な琴里をスルーして周りを観察する。半楕円の床の中央にあるのが、この艦長席でその他にはモニタリングされている。
四季が興味を持つのはこの空戦艦が何で動いているからだ。
「なるほど……
「ッ!? わかってたの?」
「いや観察してみた結果だ。この空中艦はジェットエンジンが使われてるわけではないし、何よりこのモニタリングは軍とか使いそうな周りの監視だ。そして何より俺が感じる何かが広がっている感覚だ。これは
四季の答えに周りは唖然となる。いきなり誘拐され、しかも分析し、答えを出した。この少年は普通ではないということがよくわかることだ。
「さあて、司令官。今から話すことは俺の興味を持たせることか?」
そこにいる天才は異常人格者だ。しかし同時に味方であれば最強の助っ人だ。
――――歯車は動き出した
――――『切り裂き魔』が遂に動き出す
最初に言っておくとこの主人公はチートです。
力はそんなにないけど、経験と技術だけでなんとかしちゃう主人公です。
つまるところ頭脳チートなのかも?
次回は琴里との訓練です。
あのギャルゲーが!
あの黒歴史が!
今ここで邂逅されます!
――――でも黒歴史は『士道』しかないのよね(笑)