切り裂き魔と精霊ちゃん達   作:ぼけなす

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第一話 この男はチートである

 

 五河四季はいつものように気だるそうな顔で学校に来ていた。まあこれがデフォルトだ。そんな彼に近づくのはクラスメイトの殿町だ。

 

 エロゲーやらギャルゲーやら四季に与える残念イケメンだ。今、彼の手にはギャルゲーの携帯ゲーム機が握られている。

 

「おーい、四季。今日は」

「ちょうどいい殿町。お前の髪を剃らせろ」

「さっそく俺の頭皮の危機!?」

 

 髪を押さえて後ずさる殿町に鼻で笑いで「冗談だ」と四季は言った。

 

「よ、よかった。てっきりマジで剃られるかと」

「冗談に決まってるだろ。というわけで俺を楽しませろ。さもなければ冗談を現実にする程度の能力を発動する」

「それって実行するってことなの!? てか、なんで俺がお前の道化みたいにしなきゃならない!」

「え? お前って俺を楽しませる愉悦型ロボとはお前のことだろ?」

「お前ホントにひどいな!」

 

 四季はクククと黒い笑いを浮かべる。彼はこうして殿町(おもちゃ)を使い楽しむという日常も好きだが、彼は何より『非日常』を求める。

 

『というかお前に平和を求める心はないのか?』

(悪いな『士道』。俺は平和を求めるよりばか騒ぎを求める)

 

 『士道』と呼ばれる四季の第二の人格は呆れたと言わんばかりに嘆息を吐く。今の彼の状態は四季の中ではなく、彼の鞄の中にある埴輪である。

 

 彼が錬金術で埴輪と『士道』の魂を定着させることも造作ではない。

 

「うわー……またあの二人下品なものを見せびらかせてるわ」

「ホント最低」

「マジ引くわー」

 

 通称アイマイミーという三人トリオは四季と殿町をボソボソと批難する。まあ、彼としてはどうでもいいがこうも陰険に貶されて心が穏やかになるものではない。

 

「オイ、そこの英語一人称共」

「「「私達をそれでまとめるな!」」」

「黙れ。殿町の髪を削ぐかお前らの身体をサイボーグにされるか選べ」

「「「殿町……あんたの犠牲は無駄にしない!」」」

「オイこらテメェら! なに人を生け贄に――――ってマジで電動バリカンを構えるなァァァァァ!!」

 

 四季はマジである。ブブーと動く電動バリカンが彼の頭に迫るとき、アラームが鳴り響く。

 

「空間震!?」

 

 空間震――――空間の地震と言われる広域空間震動現象。

 発生原因、発生時期が一切分かっていない、被害規模不確定の爆発、震動、消失などの現象の総称だ。

 この現象が初めて確認されたのは30年前のユーラシア大陸のど真ん中。当時のソ連、中国、モンゴル一帯がくりぬかれたかのごとく消失したのだ。

 

 そしてそれは五年前に皮切りにあちこち起きる現象となっている。

 

『これは訓練では、ありません。これは訓練では、ありません。前震が、観測されました。空間震の、発生が、予想されます。近隣住民の皆さんは、速やかに、最寄りのシェルターに、避難してください。繰り返しますーーーーー』

 

 学内放送が何度か伝えられ、生徒達は訓練通りに避難し始める。何度も訓練してきた四季は退屈そうな顔をしていた。

 

(面倒だな……いっそのことこれを気に爆破テロとか起きないだろうか)

『物騒すぎるわ!』

 

 四季はやれやれと呟きながら席を立つと、肩に触れるか触れないかぐらいの髪に人形のような顔が印象の少女が彼に話しかける。

 

 名前は鳶一折紙。今日彼のクラスメイトとなった学校一の美少女らしい。まあ殿町の情報によれば才色兼備で優秀な生徒だが、四季にとっては特に変わらない一般市民だ。

 

「なんだ電波女」

「私にアンテナはない。それより五河四季。早く避難して」

「ええー……面倒だって」

「問答無用」

 

 四季は折紙に背中を押される形でシェルターへ向かわされる。

 

(コイツと俺はどこで知り合ったんだ?)

 

 四季は折紙に会ったという記憶はない。しかし彼女は四季を知ってるように見える。いつどこで知り合ったのかは定かではないが、四季はどうでもいいと考えた。

 

(それにこの女……あえて俺をこのシェルターを誘導して空間震から遠ざけてるように見える)

 

 普通の一般市民ならばそれはどれほど危険なことなのか理解しているが四季は『普通』ではない。ゆえに彼は一般論を述べても言うこと聞くことはない。しかし折紙は一般論で言いくるめて四季を遠ざけてる。

 

(何か隠しているな……)

 

 色々と隠している折紙の『未知』に四季の好奇心は刺激された。彼は面白いことがあれば危機だろうが、なんだろうがそこへ赴く。

 

 シェルターへ向かい、折紙がどこかへ行ったところで確、とりあえず四季は携帯のGPSで自分の義妹こと五河琴里の安否を確認する。

 

 今日は『士道』が約束をこじつけられ、ファミレスに行くことになっていた。琴里の位置先はファミレスだった。

 

 つまり危険な状況の外で琴里は外にいることになる。

 

「あー……悪い殿町。琴里が外にいるみたいだー。早く捜しに行かないと大変だー(棒読み)」

「ちょっと待て。なんだその棒読み。絶対琴里ちゃんのこと心配じゃねぇだろ」

「あー心配だ心配だ。……電気代がどうなっているかくらいに心配だ」

「どうでもいいことじゃねぇか!!」

 

 胸ぐらを掴まれて揺さぶれる四季を殿町は怒鳴る。

 

「お前はホントに琴里ちゃんの家族かよ!」

「安心しろ。さすがに琴里と言えどそのファミレスにいるほど間抜けではないはずだ。だから既に避難しているかどうか確認するためだ」

「それを確認するためにわざわざ行くつもりか?」

「いやぶっちゃければ琴里の携帯電話が心配だ。アイツのついこの間変えたばかりの新機種だ。それを今失えば俺の小遣いが減る」

「守銭家かお前は! 泣くぞ。琴里ちゃん泣くぞ!?」

「安心しろ。五年間伊達にアイツを振り回して泣かしてない!」

「この人でなし!」

 

 過去に琴里が泣いた数はクマに追われることや怪しい薬の実験台にされかけたことやキメラと初対面したなどなどと泣かせた数は数えきれずだ。

 

 『士道』に身体を明け渡したときに彼女が泣いて甘えて来る日など当たり前になっていた。

 

 ちなみに琴里の四季達の印象は『恐いお兄ちゃん』が四季、『優しいお兄ちゃん』が士道となっている。

 

 

(俺のいったいどこが恐ろしいのだ?)

『振り返ってみろよ……ほとんどの原因がお前に被検体にされかけたことだから』

 

 殿町と別れた四季は隣に埴輪をフワフワ浮かせて、ファミレスに向かう。外は恐ろしいほど廃墟に変えられていた。

 

 いったい何があったんだと彼が思っていると大きな爆発が起きて視界を遮られる。

 

 視界が戻ったときそこには大きなクレーターと鎧をつけた少女がいた。

 

 夜色のような綺麗な黒髪で凛々しそうな顔立ち。まるで騎士のように見えるのは手にある大剣だからか。

 

『ヤバいぞ四季。たぶんあの子がこの騒ぎ――――あ″』

 

 埴輪の『士道』は四季を見た。そして愕然した。今の彼の顔はとても輝いていた。

 

 未知を目の前にして彼は獰猛とも言えるくらいの笑みを浮かべて言った。

 

 

 

「興味深い……」

 

 それが『切り裂き魔』と精霊の初邂逅だった。

 

 

 




五河四季

容姿:五河士道そのままだが、瞳の色が金色。『士道』のときは焦げ茶の瞳

性格:自分勝手でマイペース。邪魔する者は排除か無効化するのが信条

特技:解剖、実験、研究、錬金術などなど

趣味:萌えの探究!(元凶は殿町)

解説:マッドサイエンティストという言葉が似合う高校生。前世では『切り裂き魔』と呼ばれる凄腕の錬金術師であり、戦士だった。ある目的のために錬金術の真理にたどり着いたが、『抑止の存在』という圧倒的な存在に前にしてそれが不可能だと知り、代償行動にいろんな発明をした。

何者かの計らいでまた生を受けたが何を目的に生きたいか理解しておらず、第二の人格の『士道』と共に生きていたが殿町とのきっかけに『萌え』という『未知』の概念に興味を持ってしまった。『士道』はこれは失敗だったと語るくらい彼の『萌え』の情熱はコスプレだけでなくマジの猫耳メイドを再現するほどである。

幼い頃にプラモ感覚でCR-ユニットに絶対緩和というシステムを作ったが何者かに盗まれ、憤慨している。

彼はアレを某女性型ISにするつもりだったとかそうじゃなかったのか

一人の人間をコンピューターに置き換えると『四季』は思考するという機能しかないが、『士道』は感情の機能も備わっている。

つまり五河四季には『二つの魂』が一人の人間に備わっているらしい。憑依したのは『四季』だが、彼は消えた士道がいなくなることを良しとせず『感情』という機能を切り離して『士道』を復活させた。

以来、考えるのは『四季』で人付き合いは『士道』という役割分担している。


という設定です。
さて次回はどうしようかな……。


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