切り裂き魔と精霊ちゃん達   作:ぼけなす

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黒いアレ=G

恐ろしい宴が始まっているだろうねこれは……。


第十三話 よし親子丼食うか

 

 

 

(四季side)

 

 ASTに嫌がらせに黒いアレマシーンを送り、俺はホクホクとした顔で歩いていた。今ごろ彼女達の阿鼻叫喚な空間が展開されてるだろう。ザマァ。

 

 にしてもせっかくのデートを誘えたのに、飛んだ邪魔が入ったものだ。おまけに十香も不機嫌だ。子どもの嫉妬に萌えを感じるが、霊力の逆流を考えれば厄介この上ない。

 

 まあ村雨解析官――――令音に任せているから、一先ずは心配ないだろう。

 

「さて目の前にいるウサミミ少女。どう見ても四糸乃ですね、わかります」

 

 なーんてくだらない実況しながら近づいてみると、何やら探しているようだ。

 

「財布を落としたのか四糸乃」

「!」(ビクッ)

「いや何もしないから。安心しろガール」

 

 俺は四糸乃の左手を見てすぐに気づいた。よしのんがいないのだ。

 

「よしのんがいないのか?」

「…………」(コクッ)

「検討はついてるのか?」

「…………」(フルフル)

 

 ふーむ。仕方ない。こうなったら琴里に連絡するか。スマホから琴里の連絡先を通話すると、数秒してやっと出た。

 

『ふぁい、五河琴里。五歳でしゅ』

「なんだその萌える寝起きは? いや、そんなことより琴里。昨日の精霊を見つけた」

 

 琴里はそれを聞いて、パチーンと頬を叩きしばらくしてから電話に出た。

 

『本当ね?』

「マジだ。まあ四糸乃のパペットことよしのんがどこで落としたのか調べてほしいんだ」

『わかったわ。こちらでも調べてみるわ』

「あ、ちなみにさっきの寝起きかわいかったぞ」

『忘れなさい。ぜーっっったいに忘れなさいよ!』

 

 何やら強く電話を切った琴里。照れ隠しのつもりだが、残念ながら録音済みだ。結婚式には流してやるつもりだぜ、ケケケ。

 

 と悪い笑みを浮かべていると四糸乃がドン引きしていた。いかんいかん。いつもの外道っぷりが覚醒していたようだ。

 

「ま、これはいつもの感じさ。とにかく安心しろ。よしのんがどこにいるか俺も探してやる」

「……!」(パアッ)

 

 彼女は嬉しそうな笑みを浮かべた。おうふ……花のように喜ぶ彼女に少し浄化されそうだ。

 

 俺って以外に邪悪? まあいいや。とにかくさっさと探しに行きますか。

 

 俺はポケットに手を入れながら、四糸乃と並んで歩き始めるのだった。

 

 

 

閑話休題

 

 

 

 とは言ってもなかなか見つからないものである。そんな中で四糸乃のお腹が鳴いた。そろそろ昼頃だし、仕方ない。

 

 顔を赤くする四糸乃に提案し、俺は自宅に案内した。台所に立った俺は材料を確認する。

 

 ふむ、これならば親子丼が妥当だな。その間、四糸乃が暇そうだったのでテレビを見るかと聞いたが、首を傾げた。

 

「テレビを知らないのか?」

「は、い……」

「ふむ……まあ百聞は一見にしかずという言葉がある。一度、見て嫌ならば消してくれればいいか」

 

 俺はリモコンのスイッチを押すと画面では漫才が行われていた。ビクッと四糸乃は反応したが、マジマジと興味津々だった。

 

「さて、ダシも良し。あとは卵をこのダシで煮込んで、と」

 

 親子丼の完成だ。うむうむ、さすが天才が作る料理はすばらしい。まあ、時には凡人の料理も恋しいが。

 

 四糸乃にスプーンを渡して、親子丼の入ったどんぶりをテーブルに置く。

 

「いただきます」

「…………」(コクリ)

 

 一口、四糸乃が親子丼を食べるとテーブルをバンバンと叩いた。

 

「む、熱かったか?」

「…………」(ブンブン)

「ではおいしいと?」

「…………」(コクコク!)

 

 首がとれそうなくらいに頷く四糸乃がとても微笑ましい。親子丼を食べ終わったとき、俺は疑問に思ったことを口に出した。

 

「四糸乃、よしのんって何者だ?」

「よしのん、は……四糸乃の、理想の強さ、です」

 

 四糸乃曰く、強い自分だそうだ。なんでもできて頼れる存在――――よしのんは四糸乃の理想で憧れらしい。

 

 もう一つ俺は質問した。四糸乃はASTと戦わず、逃げたそうだ。その理由を聞いた。

 

「……ASTから逃げてる理由はなんだ?」

「私、は傷つく、のが嫌です……。向こうの人、達も傷つくのも、嫌だから……」

(だから戦わず逃げていた……ふむ)

 

 優しい。それが俺の見解だ。それもかなり歪な優しさだ。

 

 間違いとも言えず、正しいとは断言できない。

 

 

――――普通、自分を殺そうとしたヤツらに心配するか?

 

 冗談ではない。俺なら即に抹殺だ。害悪なる存在を許せるはずがあるまい。

 

 しかし彼女は違う。敵も含めて傷つくのは嫌なのだ。思いやりがとてもある少女――――四糸乃が弱いとは思えない。

 

 歪な優しさが弱いと言えるはずがない。ゆえに俺は否定した。

 

「四糸乃、お前は弱くない。お前はスゴく強い」

「そんな、こと……ありません。私、逃げて、ばかりで……臆病です……」

「だが、それは傷つけたくないからだろう? ならば臆病ではない。それにお前の歪な優しさが弱さとは限らない」

 

 例えば勇気。四糸乃が求める立ち向かう勇気は、見方によっては無謀な蛮勇だ。

 

 絶対勝てない者に挑むのは愚かなことだ。かなわないのに勝とうと戦うのは無謀だ。

 

「その優しさを持つありのままのお前は好きだぞ俺は」

「…………」

「なんだポカーンとして」

「はじめて、そんなこと言われました……」

 

 なるほど。それは確かに嬉しいな。言われたことのない誉め言葉を言ってくれるのはうれしいモノだ。すると、四糸乃がチョンチョンと何かを聞きたそうに指をさした。

 

 その先にはテレビがあるな。画面には昼ドラの不倫現場でキスシーンをしている光景だ。

 

「あれがなんなのか聞きたいのか?」

「は、い……」

「あれはキス。口づけだ。仲の良い男女関係が行う愛の証明だ」

「……!」(ボッ)

 

 愛という言葉に何やら恥ずかしそうに俯く四糸乃。はて、何かまずいことでも言ったのかな?

 

『四糸乃はどうやら愛という言葉に敏感なようね』

「ほう。なるほど。で、琴里。場所がわかったのか?」

『ええ、場所は……』

 

 琴里が言いかけたとき、バタンと扉が開き十香が現れた。そして四糸乃と俺を見比べて冷蔵庫からありったけの食料を持って二階に上がった。

 

「…………琴里。どうよコレ」

『ジーザス』

 

 なお、四糸乃は十香に驚いて家に飛び出したそうな。

 

 

 

 

 

閑話休題

 

 

 

 

 

 さて、十香のご機嫌とりに部屋に向かうが扉は固く閉ざされていた。徹底交戦というわけですなあの子も。

 

「十香ー、いるなら返事しろー。いなければワンと鳴けー」

『ワン』

「うん、素直に反応しちゃうんだ」

 

 まさかの冗談に反応するとはこの四季くんも予想外である。十香が嫉妬しているのは恐らく俺だろう。飼い主が他の女にとられるのは快くないのだろう。

 

 ……ん? なんか違うって。あいにく俺は自分がモテるなど微塵も考えてないからこれが正解だろう。

 

 鈍感系オリ主などうちの知り合いだけで充分である。

 

「十香。無視してくれてもいいし、返事しなくてもいい。俺の単なる言い訳だけど、言わせてくれ」

 

 俺は壁にもたれ掛かり、扉の向こうにいる十香に言った。

 

「さっきいた女の子。あれは俺の知り合いだ。別に恋人や大切な人というわけではない。だけど、彼女は孤独で一人ぼっちなんだ。しかも孤独に強くない」

『…………』

「俺としては単に彼女はお前と同じ精霊だから、という好奇心で近づいただけだ。それ以外は何もないと思っていたが、彼女には意外な強さがあった。その強さに俺は興味深いと思った」

『…………強さか?』

「ああ、敵をも思いやる優しさだ。俺や十香にはない強さだ。……そんな少女が苦しんでいる。救われないし、報われない――――冗談じゃない。世界は理不尽で残酷だが、救いのない物語を『はい、そうですか』と納得するつもりない」

 

 俺はそう言ってると、マナーのスマホが反応した。琴里からだ。たぶん、よしのんが見つかったのだろう。

 

「俺はお前のようにヤツに手を差し伸ばさなければならない。それが俺の役目であり、前の俺がしていたことだ」

 

 前の俺はどんなヤツなのかは覚えていない。俺と同じ変人だったが、精霊を見捨てることなど容認しなかったはずだ。

 

 家族や友――――そんなモノを守るために戦えと、『士道』なら言うだろうな。

 

 まあそれはさておき、俺はスマホに出て十香の扉から離れるのだった。

 




とか言ってますが四季は合理的です。家族や友は例外ですが簡単に人を切り捨てます。

彼の恐ろしさはその後の展開に出そうですね……。

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