切り裂き魔と精霊ちゃん達   作:ぼけなす

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やりたい放題(笑)


第十一話 雨の日に出会った少女

 

 

 

 雨が降る――――ぽつりぽつりと降る雲の涙が、しだいにざーと降る。

 

 そんな雨の中で一人の少女が水溜まりの道路を歩いていた。ウサギの耳フードで顔は隠れ、左手には眼帯ウサギのパペットがはめられている。

 

 彼女はピチャリピチャリと水溜まりを羽上がるのを楽しみながら、街道でたまたま聞いた音楽の鼻唄を歌いながら、歩いていく。

 

 彼女は精霊である。人類で言う災厄。そんな彼女が出会うのはヤツ――――変人である。

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 五河四季は記憶喪失である。頭の中には記録として『士道』と十香のことを知り、再びかつての自分を取り戻そうとしている。今日も彼はそのために行動する。

 

「さあ、十香。このケーキを召し上がれ」

「…………」

 

 十香の机の上にはそれはそれは美味しそうなイチゴのショートケーキがある。しかしそれは皿ではなく、プラスチックの犬の餌によく使われる皿である。

 

「し、四季……フォオクは?」

「ん? お前は犬だぞ。ペットに食器は必要か?」

 

 それは手掴みで食えと言っているのだろうか、と十香はそれを行おうとしたが四季に手を掴まれた。

 

「犬は手など使うのか?」

「ッ……ではどうすれば!」

「口を使って食べろ」

 

 強い命令を言われ、十香はその圧力に負ける。

 

「あとは『いただきます。ご主人様』と言えばパーフェクト。さあ、できるな? かわいいかわいい十香」

「ッ! いただきます。ご主人様!」

 

 十香は覚悟を決めて皿に口を近づける――――

 

 

 

「って待てやコラァァァァァ!!」

 

 しかしそれは殿町が皿を取り上げることで阻止される。クラスメイトの亜衣、麻衣、美衣も十香を羽交い締めで止める。

 

「夜刀神さん、そんな自分の社会的立場を自ら堕とすことなんかやめて!」

「そうよ! 五河くんも本気じゃないから!」

「てか、これはガチでやっちゃったら戻れなくなるから!」

「なんだ? 本気じゃないって。俺は常に全力全壊の大マジだ」

「「「この人でなし!」」」

 

 ケケケ、と悪魔的な笑みを浮かべながら彼は「まあ半分は冗談だ」と言って十香にフォークを渡す。

 

「十香、今のはジョークだ。そのフォークを使っていいぞ」

「ぬ? そうなのか。それは少しホッとした」

「そうだ。それは食べる前に殿町の頭に刺してから使うのが正しい殺り方だ」

「なんで嘘を教えるんだお前!?」

「すまない殿町。お前の犠牲は無駄にしない。ケェキのために刺されてくれ!」

「夜刀神さァァァァァんッ!?」

 

 殿町にフォークを刺そうとする十香を彼はなんとか堪えて刺されないようにしていた。

 

「ククク、さすが前の俺。殿町弄りは最高のスパイスだ」

「いや何殿町くんで遊んでるのよ。あとなんで夜刀神さんにあんなことを教えたのよ」

「いや十香の忠誠心を確かめようと。断じてペットプレイをしたかったわけではないぞ。…………ククク」

「こいつ本当にひどい……」

 

 十香の純粋な気持ちでさえ彼にはおもちゃである。本当にひどい男である。すると、彼が「さてと」と呟いて三人娘に気にせずノートを開いた。

 

「次は殿町に教えられた萌えについて探究せねば」

「いや何を探究してんのよ。というか、女子の前でイヤらしいもんを考えるな」

「山吹。お前は何を勘違いしている。『萌え』とはそんなエッチなモノと一緒にするな。好意・恋慕・傾倒・執着・興奮等のある種の感情だ。萌え元来の意味である芽が出ることから何かに芽生えるという意味で使われていったとされてたが、『好き』とは同一されない広い概念だ。とても興味深いではないか。十香にコスプレさせればさせるほど、新たな萌えが生まれてくることなのだぞ」

「夜刀神さんは了承したの?」

「きなこパンはすばらしいな。十香の等価交換の材料として」

「食べ物で手を打ったか……」

 

 亜衣は嘆息を吐いた。記憶を失った四季に最初に関わったのが殿町だ。彼から教わった『萌え』という概念を知り、彼に興味を持たせてしまったのだ。

 

「それにこの萌えは俺の感情を刺激させてくれるかもしれない。ゆえに俺は『萌え』を極める!」

「なんか台無しよ」

 

 今日も平和に変人は人々を振り回していく。ちなみに殿町は無事で、十香はおいしくケーキを食べていたそうな。

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 天気は雨。四季は傘をさして歩いていると、左手にパペットをはめた少女がいた。

 

 普通の人ならば傘なんてささずに歩いていることを異質に感じるが、四季は違う。なんとなくだが、微かに見えた水色のヘアーカラーを見て似合うと感じたのだ。

 

(俺と同じ変人? いや変態か?)

 

 などと失礼なことを考えていると、少女がこけてパペットが手から離れる。少女はキョロキョロと何かを探しているような辺り、先ほどのパペットだろうと四季は推測した。

 

 彼は「やれやれ」と呟いて落ちてたパペットを拾い、少女の前に出した。

 

「大切なものならば無くすな、ドジッ子」

 

 四季が少女に声をかけると、彼女はビクッと反応した。恐る恐るながらもパペットを受け取り、彼女がパペットをはめると腹話術が聞こえた。

 

『いやー、助かったよおにいさん』

「む、人形がしゃべった? いや合体したのか。少女と人形が合体――――名称を与えると『少女人形』か?」

『よしのんはリカという人形じゃないよー?』

 

 ぱくぱく動くパペットをまじまじ見ていると、少女の方は少し引きぎみだった。

 

 四季は「悪いな」と呟き、おわびに傘を渡す。

 

「え……?」

「それをさして家に帰りな。俺は少し濡れたい気分だから」

『おー、おにいさん紳士だねー♪』

 

 四季は少女が何か言おうとしていたことに気にせずさっさとその場から歩き去った。

 

 家に帰ったときには四季はずぶ濡れだったが、気にせず中に入った。それから脱衣所の扉を開けると、夜色の髪が舞っていた。

 

 絶世とも言える少女が振り返ったからだ。その少女は四季のペット(?)的な立場にいて、<フラナクシス>に滞在していたはずの十香だった。

 

「な、ななななな!」

「……ふむ」

 

 異性に裸を見られたことにより十香はショートしていた。四季は腕を組み、どのような言葉をかけるべきか考えた。そして浮かんだフォローの言葉を十香に言った。

 

「ごちそうさま?」

「早く出ていけー!!」

 

 四季の頭に桶が直撃したのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

「さあ、琴里。なぜ十香がここにいるのか簡潔に三十字以内で答えろ」

「<フラナクシス>で十香不安定。四季と一緒なら安定。よって滞在」

「把握。そしてベリーグット。できなかったらおやつのケーキを我がペットの胃袋に与えるつもりだったが、ご褒美だ。お前にはチョコのトッピングを与えよう」

「わーい。お兄ちゃん大好きー♪」

「シン、私のこともツッコまないのか?」

 

 何を今更とばかりに四季は呆れた息を吐いた。令音は十香の同伴しているので、十香がここにいたら令音もここにいるのは必然だ。ゆえに四季にとっては些細なことでしかない。

 

「まさか<フラナクシス>では十香の精神が不安定になるなんてな。まあ、予想していたと言えば嘘ではないが」

「ありま。わかってたの?」

「十香は世間に疎い上に、これまでの所業で警戒心が強くなっている。つまり<フラナクシス>では知っているヤツがいても警戒心は外せない。よって信頼されてるこの俺と一緒にいることが優先された」

「正解。十香の精神が不安定になれば精霊の力が逆流するのよ。だから四季と一緒にいれば精霊の力の逆流の心配はなくなるのよ」

「一つ屋根の下で男女を暮らすのは俺の精神上よろしくないと思わないのか琴里」

「どのくちで言うか変人」

 

 四季が十香との間違いは絶対ないと確信はあった。記憶が消去されたとは言え、彼が異性と一つの屋根の下で暮らしても対して変わらないビジョンが浮かぶ。

 

「し、シキぃ……」

「お? 着替えたか」

 

 十香の弱々しい声が扉から聞こえた。琴里は開かれた扉から現れた十香を見てギョッとした。

 

 彼女の首には首輪とそれと繋がるリードに、なぜか際どいミニスカートのメイド姿だったのだ。

 

「なぜこんな格好を……うぅ」

「お仕置きさ。ご主人様に手を出した罰だ」

「ねえ、四季。そのカメラは何?」

「記録。十香の萌え萌えな写真をいずれアルバム化するから」

「するな。アルバム化するな!」

 

 何を考えてやがると琴里は四季のカメラをとりあげる。しかし第二、第三のカメラがポケットから取り出された。

 

「俺が求めるのは至高の萌え――――ゆえに十香の萌える写真を撮るのはこの俺の義務だ!」

「そんな至高いらないわよ!」

 

 琴里が十香の写真を撮らせることを阻止するのに、一時間費やしたそうな。

 

 




殿町の立ち位置変わらず……。あ、ちなみに四糸乃は常識的な無垢な少女なのでいじられません。

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