デュエル・アカデミア。
本来の高等教育の他に、デュエルを教えるという特殊な学校。
此処の卒業生は将来はプロ、ひいてはセミプロの決闘者として活動する者が大半だ。
本来優秀な決闘者を輩出する学び舎・・・なのだが、"私達"には緩くて仕方が無い。
「いけ『セイバーザウルス』！守備モンスターを攻撃だぁ！」
私は目の前で行われる、授業の決闘を眺める。方や・・・名前も分からない男の子(その2)。方や・・・。
「・・・破壊された『ピラミッド・タートル』、効果」
『ピラミッド・タートル』
効果モンスター
星４/地属性/アンデット族/攻1200/守1400
このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、自分のデッキから守備力２０００以下のアンデット族モンスター１体を自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。
「・・・これ『茫漠の死者』、特殊召喚」
『茫漠の死者』
効果モンスター
星５/闇属性/アンデット族/攻 ?/守 0
自分のライフが２０００以下の場合、このカードは手札から特殊召喚する事ができる。 このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、このカードの攻撃力は相手のライフポイントの数値の半分になる。
男の子(その2)のライフポイントは4000。つまりは・・・。
「くっ！攻撃力2000・・・」
・・・この程度で驚くのか・・・。そう、男の子とデュエルをしているのは私の友人、恵だ。
私と決闘する前、彼女のプレイは非常に地味な物だった。
当時からアンデッド族を使っていた彼女は、シンクロ召喚は勿論、特殊召喚すら滅多に行わない凡庸極まるコンボのコの字も無かった。
男の子 LP 4000 『セイバーザウルス』 伏せカード2枚
恵 LP 4000 『茫漠の死者』 伏せカード1枚
だが最近は・・・。
「ドロー・・・『ソーラー・エクスチェンジ』発動・・・」
『ソーラー・エクスチェンジ』
通常魔法
手札から「ライトロード」と名のついたモンスター１体を捨てて発動できる。
デッキからカードを２枚ドローし、その後自分のデッキの上からカードを２枚墓地へ送る。
「手札から・・・ライトロードと名のつくモンスターを捨てて・・・2枚ドローしてデッキから2枚墓地に送る・・・」
手札から『ライトロード・モンク エイリン』を捨てた。
「・・・『ゾンビ・マスター』、召喚」
『ゾンビ・マスター』
効果モンスター
星４/闇属性/アンデット族/攻1800/守 0
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、手札のモンスター１体を墓地へ送る事で、自分または相手の墓地のレベル４以下のアンデット族モンスター１体を選択して特殊召喚する。
この効果は１ターンに１度しか使用できない。
「・・・手札から、モンスター一枚墓地に送る、墓地からアンデッド族モンスター、特殊召喚する・・・『ピラミッド・タートル』を蘇生」
このまま攻撃すれば、相手に与えられるダメージは3100。致命傷ではある・・・しかしまだまだ続きがある。
「・・・墓地に闇属性モンスターが3体いるとき・・・特殊召喚できる・・・『ダーク・アームド・ドラゴン』」
『ダーク・アームド・ドラゴン』
効果モンスター
星７/闇属性/ドラゴン族/攻2800/守1000
このカードは通常召喚できない。
自分の墓地の闇属性モンスターが３体の場合のみ特殊召喚できる。
自分のメインフェイズ時に自分の墓地の闇属性モンスター１体をゲームから除外する事で、フィールド上のカード１枚を選択して破壊する。
・・・まさか『ソーラー・エクスチェンジ』で墓地に送られたカードが2枚とも闇属性モンスター？運良すぎでしょう。
「させるか！リバースカードオープン！『奈落の落とし穴』！」
『奈落の落とし穴』
通常罠（準制限カード）
相手が攻撃力１５００以上のモンスターを召喚・反転召喚・特殊召喚した時に発動できる。
その攻撃力１５００以上のモンスターを破壊し除外する。
召喚反応系の除去罠の筆頭に数えられるカードだ。相手主力アタッカーを出落ちさせ、更に除外する事で再利用を許さない。前世、大抵のデッキには採用されていたカードだが・・・こっちではあまり見ない。
「・・・手札から速攻魔法『禁じられた聖槍』」
『禁じられた聖槍』
速攻魔法
フィールド上に表側表示で存在するモンスター１体を選択して発動できる。
エンドフェイズ時まで、選択したモンスターの攻撃力は８００ポイントダウンし、このカード以外の魔法・罠カードの効果を受けない。
「・・・聖槍はあらゆる魔法、罠の小細工を看破する・・・『奈落の落とし穴』も同じ・・・」
『ダーク・アームド・ドラゴン』の攻撃力は下がり2000に。しかし、破壊は免れる事が出来た。
「『ダーク・アームド・ドラゴン』のモンスター効果、墓地の闇属性モンスターを除外、相手フィールド上のカードを破壊する」
『ダーク・アームド・ドラゴン』が墓地を漁り、何やら取り出してボリボリと食べる。そして・・・相手の場に向かって真っ黒な炎を吐き出した。なるほど、食べて燃料にするのね。
「『セイバーザウルス』が・・・」
まず消し炭になったのは『セイバーザウルス』。可哀想に。
「・・・もう一回・・・」
続いて伏せカード。おお、『次元幽閉』か。奈落といい、中々えぐいカードを伏せるな。
「くっ・・・！」
このまま攻撃されたら修理だな。というか、『ダーク・アームド・ドラゴン』は酷すぎるでしょう。自重して・・・どうせ手札に『異次元からの埋葬』とか握ってるんでしょ。
「手札を1枚デッキトップに戻して・・・墓地から特殊召喚・・・『ゾンビキャリア』」
『ゾンビキャリア』
チューナー（効果モンスター）
星２/闇属性/アンデット族/攻 400/守 200
手札を１枚デッキの一番上に戻して発動できる。
このカードを墓地から特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールド上から離れた場合ゲームから除外される。
完全なオーバーキルする気か。怖いなぁ。
「レベル4『ピラミッド・タートル』にレベル2『ゾンビキャリア』をチューニング」
恵の唇が僅かに形を変える。・・・一応、これが彼女の笑顔だったりする。
「シンクロ召喚」
現れるのは地獄より舞い戻った魔王。死の瘴気で染まった紫の長衣。
「『蘇りし魔王 ハ・デス』」
『蘇りし魔王 ハ・デス』
シンクロ・効果モンスター
星６/闇属性/アンデット族/攻2450/守 0
「ゾンビキャリア」＋チューナー以外のアンデット族モンスター１体以上
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、自分フィールド上のアンデット族モンスターが戦闘で破壊した効果モンスターの効果は無効化される。
あまり召喚した意味は無かった様に思えるが、恵のエースモンスターの一体だ。相手の効果モンスターを封じる事が出来、墓地発動からの展開やフィールド除去をさせない効果を持つ。フィニッシャーだ。
「・・・あと、墓地の闇属性モンスター一体と、光属性モンスター一体を除外する・・・」
まだ出すのか・・・。
「『カオス・ソーサラー』」
『カオス・ソーサラー』
効果モンスター
星６/闇属性/魔法使い族/攻2300/守2000
このカードは通常召喚できない。
自分の墓地の光属性と闇属性のモンスターを１体ずつゲームから除外した場合に特殊召喚できる。
１ターンに１度、フィールド上に表側表示で存在するモンスター１体を選択してゲームから除外できる。
この効果を発動するターン、このカードは攻撃できない。
恵が、チラリ、と此方を見る。
私には「次はお前だ」と言っている様に見えた。
なるほど、示威行為という訳か。
ふっ、と「やれるものならばやってみろ」と意を込め見返してやる。
視線を戻した彼女。哀れ、自重も何も無いモンスター達が男の子(その2)を叩き潰さんとその鎌首を擡げる。
「・・・ダイレクトアタック」
LP8000ルールでも即死だなぁ、と他人事に考察している自分が居た。
放課後。自分の教室で帰り支度をしていると、俄かに廊下が騒がしい。
一瞬興味を惹かれたものの、今重要なのは帰り支度。そして家に帰ってだらける事である。
決闘？挑まれれば兎も角、今は自分から声を掛ける気分では無い。別にデッキもそう大きくは代わり映えしないし。
が、どうやらその騒ぎの下手人は此方に近づいて来ているらしいのだ。何と無く、クラスメイトの雰囲気でそれは分かった。
「・・・・・・」
・・・恵さん、私に何か用があるのは分かるけど、横に無言で立ってじっと見つめて来るのはやめてくれませんかね・・・地味に怖い。
「何かな？恵」
こっちから話し掛けないと、彼女とは九割九分九厘九耗会話が始まらない。そして大体そういう時は、黙って横に立っていたり、後ろを、とことこ、と付いて来たりする。見る人が見れば、不気味な事この上無い行動である。
まあ、彼女は所謂、不思議ちゃんで通っているので、誰も驚きはしないのだが。
「・・・・・」
・・・無言で袖を、くいくい、と引っ張られる。来い、という意味で良いのか？
「あー・・・取り敢えず片付け終わってからで良い？」
こくん、と肯定の意。その可愛らしい口の方をもっと使おうぜ。別に下ネタじゃないけど。
私が片付けをしている間、ずっと横に立って、じーっと視線を向けて来ていた彼女を待たせた。別に悪いとは思わない。本人とて何の苦とも思っていないだろうし。
「お待たせ、じゃあ行こうか」
恵を伴い教室を出る。好奇の視線の嵐に晒されている感じもあるが、無視無視。慣れた事でもあるので構わない。恵も同様・・・の筈、というか内面が未だに全くわからないので、どうしようもない。
「・・・・・」
多分、歴代遊戯王主人公でもコミュニケーションに頭を抱える事になるであろう、最強クラスの無言ちゃん、恵。
無言で私の横を歩く彼女。結構精神的に来るものがあるので、何か話そうと試みるのだが・・・。
「『ダーク・アームド・ドラゴン』なんて何処で手に入れたの？アレ物凄い値段付いてたけど」
「・・・購買のパック」
無茶苦茶引き良いのな、と若干ドン引きする。確か『カオス・ソーサラー』もパックで当てていたよな？
それ以上は会話が続かない。悲しいかな、彼女の返答はただ一言。其れに続ける事は滅多に無いし、其処から会話を派生させる事も無い。
だが・・・今日は何時もとは少し違う様だ。
「・・・D・ホイールの認定考査、受かった？」
まさか此方の事を聞いてくるとは、と突然の事に思わず飛び退さってしまう。
「・・・どうしたの？何処か打った？熱でもあるの？」
何処か悪い所があるのか、とおでこに手を当ててみたり、腕をとって脈をとって見たり・・・いや、何か分かるわけではないけれども。
恵は心無しか、むっ、とする。
「・・・別になんともない」
珍しい。決闘を挑む時でも決闘中でもないのに。
「・・・受かったの？落ちたの？」
と、まだ質問に答えていなかった。
「勿論受かったよ、お陰様で」
受験の日、彼女には迷惑を掛けていた。・・・もしかして今日のコレはその埋め合わせに、と？
「・・・うち、来て」
返しはそれだけ、成る程、恵の家にご招待と。そういえば、アリバイで彼女の家に行った事にしている事は何度かあれども、実際に行ったのは・・・数える程、中に入った事は一度も無かった気がする。
我ながら、かなり失礼な事をしていたのではないか。
「・・・・」
気にしている様子が無いのは幸いだが。
恵の家。なんの変哲も無い、シティの一角に存在するマンションの一室だ。
「・・・お邪魔します」
娯楽用品を除いた、家庭にあるであろう殆どの物が揃っている、これまた個性の無い部屋。いや、この個性の無さが個性か？
彼女はテーブルに座るよう私に促し、台所に消えて行った。
テーブルクロスも何も掛かっていない木製の卓。その中央、裏返しになったカードが一枚置かれているのを発見する。
めくってみると・・・。
「・・・これは・・・」
『氷結界の虎王ドゥローレン』
シンクロ・効果モンスター
星６/水属性/獣族/攻2000/守1400
チューナー＋チューナー以外の水属性モンスター１体以上
１ターンに１度、自分フィールド上に表側表示で存在するカードを任意の枚数選択して持ち主の手札に戻す事ができる。
このカードの攻撃力はエンドフェイズ時まで、この効果で手札に戻したカードの数×５００ポイントアップする。
まだ持っていない氷結界のカード。探していたカードの一枚だ。
と、うっとり眺めていると恵が台所から飲み物を持ってやって来る。律儀だなぁ、とつくづく思う。
「・・・そのカード、あげる」
ピクッと身体が反応。今は自分でも目が輝いているのでは、と思う。
「・・・ただし」
・・・タダで貰える訳は無いか。
「・・・お願いがある」
「出来る事なら」
ピシッと背筋を伸ばし、条件を待つ。
恵は、ふっ、と一瞬目を閉じると、ぽつり、と言った。
「・・・トップスで行きたい所がある」
「そっか、トップスはこっちの人が一緒に居ないと中々行けないもんね」
入り口に居るセキュリティの警備員。一人でシティの人間が入るには相当面倒な手続きが要る。其れは同じセキュリティ内でも同様で、シティを担当とするセキュリティがトップスに捜査に入ろうとしても、手続き無しには踏み入る事が出来ない。
で、恵がトップスに何の用があるかと言うと・・・其れは彼女の受けたバイトに事を発する。
内容自体は簡単、とあるお宅にお邪魔して、決闘をするだけ。
しかし、場所を教えられたのが一昨日の夜の事。そして、その場所がトップスだった、と。
手続きすれば良いのだが・・・其れが通る迄、大体一日は掛かってしまうという。審査等も厳しい。
其処で私の出番。例外として身元の確かなトップスの者が付いて居れば、名と身元を明かす事で審査の過程をパスする事が出来る。身体検査はしっかりと行われるが。
だが、時間にして約二十分。一日かかる正規の手段とは雲泥の差だ。
因みに私自身も身体検査をされる。まあ、そんな手間にしても『氷結界の虎王ドゥローレン』の代金としては格安。素晴らしい。
「それにしても・・・例によってドゥローレンもパックで？」
こくり、と。何でこんなに理不尽な引き運をお持ちなのか。どうにかすればあやかれるだろうか。
「・・・ここ」
立ち止まったのはトップスでも有数の高層住宅。・・・あまり此処は良い思い出は無いな。
エレベーターに揺られ・・・といっても音一つ、揺れ一つも出ない代物なのだが・・・最上階に近い階へ。
・・・まさか。
「おお！来てくれたか！」
せっかちにもエレベーター前で出待ちしていたらしい、背広を着た肥満一歩手前の中年男性。私も良く覚えている。
「おや？其処にいらっしゃるのは氷輪嬢ではないですか？いやはや、お久しぶりですなぁ」
「ええ・・・ご機嫌麗しゅう」
彼の名は、鳩縫藤一郎(はとぬいとうじろう)。父親の友人で・・・彼の息子の・・・。
「あれ？雪ちゃんじゃないか！珍しいね！」
鳩縫裕一。私がかつて、ギャンブルデッキで敗北を期した相手だった。
「いやはや、ご学友の付き添いでしたか。数奇なものですなぁ」
若干此方には含みがあるものの、概ね違和感無く会話出来ている・・・此処で負けた後に痛い目に遭った事を思い出してしまうと、どうしても、ね。
「ねぇ、提案なんだけどさぁ・・・今日の決闘、雪ちゃんがやらないかい？」
雪ちゃんと呼ばれると、物凄くイラっとするのでやめて貰いたいのだが・・・一々こんな事に目くじら立てる女と評判が出てしまうのも嫌なので、黙ってはおく。ただしその鬱憤は他の所に顕現します。あしからず。
「構いませんが・・・恵のお役目ですので・・・」
社交界モードの私はきちっと作り笑いと丁寧言葉を忘れない。
「うーん・・・そうだね、わざわざ来てもらったんだから悪いよね・・・そうだ！」
どうせろくでもない事に決まっているだろうが。
「彼女のデッキを使って君が決闘すれば良いんだよ！」
何故そうなった。
「じゃあ、やろうか」
結局やることになった。恵のデッキで。
嫌がるかと思ったのだが、寧ろ決まった瞬間からデッキをぐいぐい押し付けて来た。・・・それでいいのか？
「・・・恵が良いならいいですけど・・・」
恵から受け取ったデッキをデュエル・ディスクに差し替え、随分と広いテラスで構える。
「「デュエル」」
裕一 LP 4000
雪 LP 4000
「僕の先攻だね、ドロー」
デュエル・ディスクが決めた先攻は向こうだった。まあ、後攻の方が私は好きだからいいけれども。
「『切り込み隊長』を召喚だ」
『切り込み隊長』
効果モンスター
星３/地属性/戦士族/攻1200/守 400
このカードが召喚に成功した時に発動できる。手札からレベル４以下のモンスター１体を特殊召喚する。
このカードがモンスターゾーンに存在する限り、相手は他の戦士族モンスターを攻撃対象に選択できない。
汎用性が高い高速展開用モンスターだな。だが、まだどんなデッキかは分からない。
「『切り込み隊長』の効果発動！手札から、『共闘するランドスターの剣士』を特殊召喚する！」
『共闘するランドスターの剣士』
チューナー（効果モンスター）
星３/地属性/戦士族/攻 500/守1200
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、自分フィールド上に表側表示で存在する戦士族モンスターの攻撃力は４００ポイントアップする。
「チューナーモンスター・・・」
「いくよ！レベル3『切り込み隊長』をレベル3『共闘するランドスターの剣士』にチューニング！」
さて、レベル6のシンクロ。何が出て来るやら。
「シンクロ召喚！『大地の騎士ガイアナイト』！」
『大地の騎士ガイアナイト』
シンクロモンスター
星６/地属性/戦士族/攻2600/守 800
チューナー＋チューナー以外のモンスター１体以上
思いつく限りではそんなに脅威になりそうなモンスターではない。火力はそこそこあるが。
「更に手札から永続魔法、『連合軍』を発動する！」
『連合軍』
永続魔法
自分フィールド上の戦士族モンスターの攻撃力は、自分フィールド上の戦士族・魔法使い族モンスターの数×２００ポイントアップする。
ガイアナイトの攻撃力が2800に。『一族の結束』とか使えば良いのに。
「僕はカードを二枚セットして、ターン・エンドだ」
伏せ二枚。だが相手の手札は初ターンで既に一枚。フィールドを制圧すれば一気に畳み掛けられる。
「私のターン」
・・・てっきり学校で使っていた暴力カオスアンデッドデッキを寄越されたかと思ったのだが・・・手札のカードを見るにちょいと違うらしい。
「『地砕き』を発動」
『地砕き』
通常魔法
相手フィールドの守備力が一番高いモンスター１体を破壊する。
ノーコストの除去魔法『地砕き』。相手フィールド上にはモンスターは一体しか存在しない。
「『大地の騎士ガイアナイト』を破壊する」
巨大な拳が現れ、彼の騎乗した騎士を地面ごと叩き潰さんとする。
「させないよリバースカードオープン！『魔宮の賄賂』！」
『魔宮の賄賂』
カウンター罠
相手の魔法・罠カードの発動を無効にし破壊する。
相手はデッキからカードを１枚ドローする。
突如現れたインチキ臭そうなおっさんが、『地砕き』の拳に小判を渡すと、その手は心無しか嬉しそうに小判を受け取って消えた。
「・・・『魔宮の賄賂』の効果で一枚ドロー」
まあ、この程度は折り込み済み。伏せカードを一枚割れて、しかも手札消費が無かった事を喜ぶべきだろう。
もう一枚の伏せカードは兎も角、ガイアナイトをどうにしなければならないな。
「『テラ・フォーミング』発動」
『テラ・フォーミング』
通常魔法
デッキからフィールド魔法カード１枚を手札に加える。
「デッキからフィールド魔法カードを一枚手札に加えます・・・『アンデッドワールド』発動」
『アンデッドワールド』
フィールド魔法
このカードがフィールド上に存在する限り、フィールド上及び墓地に存在する全てのモンスターをアンデット族として扱う。
また、このカードがフィールド上に存在する限り、アンデット族以外のモンスターのアドバンス召喚をする事はできない。
周りの景色が一変。毒々しい紫の瘴気が漂い始める。地はおびただしい数の骸に埋め尽くされ、酷く歪んだ木々が立ち並んだ。何度見ても不気味である。
「・・・これは・・・なんだ！？」
『大地の騎士ガイアナイト』の騎士、馬ともに肉が痩け、肌が死者を思わせる黒に変色する。
「・・・『アンデッドワールド』は生者の存在を許さない・・・フィールド上の全てのモンスターはアンデット族となる」
まあ、墓地も同じくアンデット族に変わるのだが、今はいいか。
「『ダーク・グレファー』を召喚」
『ダーク・グレファー』
効果モンスター
星４/闇属性/戦士族/攻1700/守1600
このカードは手札からレベル５以上の闇属性モンスター１体を捨てて、手札から特殊召喚する事ができる。
１ターンに１度、手札から闇属性モンスター１体を捨てる事で、自分のデッキから闇属性モンスター１体を墓地へ送る。
「『ダーク・グレファー』の効果発動、手札から闇属性モンスターを一枚捨て、自分のデッキから闇属性モンスター一体を墓地に送る」
手札から『真紅眼の不死竜』を捨て、デッキから『ゾンビキャリア』を墓地に送った。
「手札の『傀儡虫』の効果発動。このカードを手札から捨てる」
『傀儡虫』
効果モンスター
星３/闇属性/昆虫族/攻1000/守1000
このカードを手札から墓地へ捨てて発動できる。
相手フィールド上の悪魔族・アンデット族モンスター１体を選択し、エンドフェイズ時までコントロールを得る。
「・・・捨てただけ？なんで・・・」
この世界で面白いのは、皆態々テキスト確認をしない事だろうか。機械がしっかり効果を適用してくれるという信頼感もあるのだろうが、気になったりはしないのだろうか。・・・ところで何故こんなカードが入っているのだろうか。
「カードを一枚セットして、ターン終了」
手札の状態は此方の方がよろしく無い。まあ・・・場は・・・。
「っ！？ガイアナイト！？何故そっちに行くんだ！？」
『大地の騎士ガイアナイト』(アンデットバージョン)はゆっくりと歩き・・・此方のフィールドに立った。
「『傀儡虫』は闇の眷属を其の身を以って操る・・・このカードを墓地に捨てたターンのエンドフェイズ時、相手の場の悪魔族、もしくはアンデット族のコントロールを得る事が出来る」
「そんな・・・くっ、僕のターン！」
手札は二枚。伏せカードは一枚。さて、此処からどう切り返して来るか。
「・・・よし！来てくれ！『神獣王バルバロス』！」
『神獣王バルバロス』
効果モンスター
星８/地属性/獣戦士族/攻3000/守1200
このカードはリリースなしで通常召喚できる。
この方法で通常召喚したこのカードの元々の攻撃力は１９００になる。
また、このカードはモンスター３体をリリースして召喚できる。
この方法で召喚に成功した時、相手フィールド上のカードを全て破壊する。
来たか。コイツのエースモンスター。このタイミングで妥協召喚して来たという事は・・・。
「手札から装備魔法、『愚鈍の斧』をバルバロスに装備！」
『愚鈍の斧』
装備魔法
装備モンスターの攻撃力は１０００ポイントアップし、効果は無効化される。
また、自分のスタンバイフェイズ毎に、装備モンスターのコントローラーに５００ポイントダメージを与える。
なんと驚異、バルバロスの攻撃力は4000だ。さてどうしようか。・・・上手いこと来たな。
「バトルだ！『神獣王バルバロス』で『大地の騎士ガイアナイト』を攻撃！」
半ば迄不死者と化したバルバロスが、流麗な斧をガイアナイトを馬ごと叩き斬らんとする。
「リバースカードオープン。『あまのじゃくの呪い』」
『あまのじゃくの呪い』
通常罠
発動ターンのエンドフェイズ時まで、攻撃力・守備力のアップ・ダウンの効果は逆になる。
随分と懐かしいカードだ。だが・・・この局面では役に立った。
「バルバロスに装備されている『愚鈍の斧』の効果の攻撃力上昇効果はは攻撃力ダウンの効果へと変わる」
既に攻撃宣言後だ。気持ち動きが鈍ったバルバロスを、ガイアナイトの槍が迎撃する。
「うわっ！？」
裕一 LP 4000→3400
まあ、こんなカードが出てくるなんて誰も考えもしないだろう。私だってこんなカードが入っているなんて予想の斜め上もいいところだ。
「くぅ・・・ターンエンドだ・・・」
更地になったな。あの伏せカードは一体何なのだろうか。攻撃反応系か？
「私のターン」
手札はこれで2枚。場は『ダーク・グレファー』が一枚。さて、攻勢に入ろうか。
「手札からカードを一枚デッキトップに戻し・・・墓地から『ゾンビキャリア』を特殊召喚」
お馴染みのアンデット族チューナーの登場だ。
「レベル4、『ダーク・グレファー』に、レベル2、『ゾンビキャリア』をチューニング」
呼び出すは死竜。眷属を呼ぶ邪竜が一柱。そして、恵のエースモンスターが一体。
「『デスカイザー・ドラゴン』」
『デスカイザー・ドラゴン』
シンクロ・効果モンスター
星６/炎属性/アンデット族/攻2400/守1500
「ゾンビキャリア」＋チューナー以外のアンデット族モンスター１体以上
このカードが特殊召喚に成功した時、相手の墓地のアンデット族モンスター１体を選択し、自分フィールド上に表側攻撃表示で特殊召喚できる。
このカードがフィールド上から離れた時、そのモンスターを破壊する。
灰と赤の竜。骸を纏ったかの様な其れは顕現するや否や、聞く者を不快にさせるであろう、耳障りな事この上無い咆哮を放つ。
「『デスカイザー・ドラゴン』のモンスター効果、このモンスターが召喚に成功した時、相手の墓地のアンデット族モンスター一体を、自分フィールド上に特殊召喚する事が出来る」
「僕の墓地にはアンデット族なんて・・・まさか、『アンデット・ワールド』は・・・」
勘が良いな。まだ言っちゃいなかったのに。
「そう・・・墓地も不死者以外の存在を許さない・・・私が特殊召喚するのは・・・『神獣王バルバロス』」
アンデットと化した獣王が墓地より蘇る。不死となっても未だその攻撃力は健在だ。
此の儘攻撃しても構わないのだが、どうも虎視眈々とあの伏せカードを使おうと待ち構えている様にしか見えない。
だが・・・まあやってやるか。
「『神獣王バルバロス』でプレイヤーにダイレクトアタック」
「くっ！」
裕一 LP 4000→1000
「とどめ、『デスカイザー・ドラゴン』」
灰竜が、がぱり、と顎が外れているのでは無いかと思う程に口を開き、爆炎を吐き出す。
「させない！リバースカード『炸裂装甲』！」
『炸裂装甲』
通常罠
相手モンスターの攻撃宣言時、攻撃モンスター１体を対象として発動できる。
その攻撃モンスターを破壊する。
幾数の光の破片が『デスカイザー・ドラゴン』の胴に突き刺さり・・・息絶えた。バルバロスも操り主を失い倒れ伏す。
「よし！此処からだ！」
あらら、フィールドがまっさらになってしまった。
「カードを一枚セット、ターン、エンド」
やはり『ゾンビ・マスター』や『ピラミッド・タートル』、『馬頭鬼』が無いと回りにくいな。全部、恵のあのデッキに入っているのだろうが。
「ぼくのターンだ！」
此方の場もカードは伏せカード一枚だが・・・このカードは必殺の伏せカードだ。割られない限りはいける。
「来た！『死者蘇生』発動だ！」
『死者蘇生』
通常魔法
自分または相手の墓地のモンスター１体を選択して発動できる。
選択したモンスターを自分フィールド上に特殊召喚する。
クソ野郎め、私の持っていない阿呆高いカードをぽんぽんと・・・『死者蘇生』は本当に高い。パックでも出ないし、もう辛い。
「来い、『神獣王バルバロス』！」
本日三度目のバルバロス。というか、バルバロスも馬鹿みたいな値段がついているんだよな。別に『スキルドレイン』ビートダウンデッキとか組みたい訳では無いので、別に要らんけど。
「『神獣王バルバロス』でダイレクトアタックだ！」
再び現れたバルバロスがその槍を構え突撃して来る。が、甘い。
「リバースカードオープン、『死霊ゾーマ』」
『死霊ゾーマ』
永続罠
このカードは発動後モンスターカード（アンデット族・闇・星４・攻１８００／守５００）となり、自分のモンスターカードゾーンに守備表示で特殊召喚する。
このカードが戦闘によって破壊された時、このカードを破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。
（このカードは罠カードとしても扱う）
罠モンスターが一つのこのカード。シンクロ素材、前世ではエクシーズ素材としても使える上、バーン能力まで兼ね備える割と使い勝手の良いカードだ。この世界でもレアカードで、手に入りにくいものなのだが・・・恵、引き運、のキーワードでね。
「罠モンスター・・・？壁のつもりか！構わない！此の儘攻撃だ！」
テキスト読めよ！と思ったが、言っても仕方が無いよな。もうバルバロスくん、攻撃しちゃってるもの。
小柄な飛竜の様なアンデットが、バルバロスの槍に貫かれた。本来なら其処で消滅するモンスター・・・だが・・・。
「なんだ・・・バルバロス！？」
ゾーマだった物が放つ瘴気が、バルバロスを包み込み・・・其の矛先を"裕一"に向けた。
「・・・死霊は怨みを忘れない。このカードが戦闘破壊された時、このカードを破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを与える！」
数値にして3000。憑かれたバルバロスは容赦無く、其の槍を振り下ろした。
「恵、あれで良かったの？」
当然、代わりに決闘をしてしまった事だ。オマケにデッキまで借りて。
「・・・楽、お金もしっかり貰えた。満足」
ぐっ、と無表情ながらもガッツポーズ。シュールである。
「・・・そう」
気にしたら負け。そう思っている。
其れにしても負けた後のあの親子。親は若干悔しがって居たが・・・息子の裕一は矢鱈と馴れ馴れしかった。とても、とてもうざったい。
恵も恵、報酬である金銭・・・よく見えなかったがそれなりの額っぽい・・・を受け取った後は、後ろで空気になって傍観するのみ。少し薄情過ぎやしませんかね。
こっちも薄情に帰ってやろうかと思ったが、トップスの区画を出る迄は見送らねばならない。そういう決まりだからだ。
「・・・そういえば、なんで『あまのじゃくの呪い』なんて入れてたの？あんまりシナジー無かったよね？」
そう、なんであのカードが入っていたのか。其れが気になっていたのだ。
「・・・『ダークエンド・ドラゴン』、使いたくて組んだ」
『ダークエンド・ドラゴン』
シンクロ・効果モンスター
星８/闇属性/ドラゴン族/攻2600/守2100
チューナー＋チューナー以外の闇属性モンスター１体以上
１ターンに１度、このカードの攻撃力・守備力を５００ポイントダウンし、相手フィールド上に存在するモンスター１体を墓地へ送る事ができる。
「・・・そんなの入ってたっけ？」
『デスカイザー・ドラゴン』を召喚した時、エクストラデッキを確認したのだが、『ダークエンド・ドラゴン』など入っていなかった。勘違いか？
其処で恵は突如天を仰ぎ、目を閉じた。肩の力を抜き・・・言った。
「・・・忘れてた」
割と本気でぶん殴ってやろうかと思った。
当初、ダークエンド・ドラゴンのあまのじゃくの呪いコンボでオラァしようと思っていたのですが、どうしても死霊ゾーマを使いたかった・・・。
この間アポクリフォート・キラーを出されたところで「詰んだッ！」と絶望していたら、伏せていたゾーマくんに助けられました(自爆特攻)
※謎の勘違いで、傀儡虫の効果を「このカードを捨てる事で相手モンスター一体のコントロールをエンドフェイズに得る」と適用してしまっております。近々修正したいとは思いますが、ほぼ6000文字書き換える事になりますので・・・。