レイルは正直頭を悩ませていた。
入学式の後、旧知の仲である女性教官サラ・バレスタインに案内されて連れてこられたのは学院の裏手、森林の奥にひっそりと構える旧校舎だった。
既に校舎として利用されてはおらず見てくれは正に古い建物だったが、しっかりと保全されているため、廃墟というイメージは浮かんでこなかった。
その旧校舎の中、ホールに設けられた舞台の上でサラから自分達の教官であること、そして深紅の制服を着る自分達が今年から設立された特科クラスⅦ組に配属されることが告げられた。
ここまでは特に問題はなかった。
レイル達4人は、その話を踏まえた上での入学だったからである。
問題はⅦ組の在り方に異を唱える存在だった。
本来であれば貴族と平民は区別され、それぞれⅠ・Ⅱ組とⅢ~Ⅴ組という形でクラス編成が行われるのだが、Ⅶ組では貴族や平民という身分に関係なく選ばれているのである。
そのことを聞いた瞬間に異議を申し立てる男子がいたのだ。
「まさか貴族風情と一緒のクラスでやって行けって言うんですか!?」
「うーん、そう言われてもねぇ」
マキアス・レーグニッツと名乗る濃緑色の髪をした眼鏡男子がサラに不服を申し立てている。
食って掛かられたサラの方は、さも面倒臭そうに溜め息を漏らしている。その様子を傍目に、レイルはある人物を思い出していた。
カール・レーグニッツ。帝都ヘイムダルの知事にして帝都庁長官。平民出身でありながら多数の大プロジェクトを成功に導き、帝都庁でのし上がった優秀な人物である。そして重要なのは、革新派の筆頭で鉄血宰相と称されるギリアス・オズボーンの盟友であるという点だ。
もしマキアスがカールの息子であれば、革新派の立場にある帝都知事の子が貴族に対して反感を抱くのも分からない話ではなかった。
――それにしても、度が過ぎているようだが。
何か事情があるのかと推測出来るが、現状では判断の付けようがなかった。
そしてもう1つの問題。
「ふん……」
マキアスとサラのやり取りを聞いていた金髪の男子が鼻で笑ったのだ。それに気付いたマキアスが険のある声音で問い詰める。
「……君。何か文句でもあるのか?」
「別に。“平民風情”が騒がしいと思っただけだ」
金髪の男子が履き捨てるように言うと、マキアスがこめかみに皺を寄せた。
「これはこれは……どうやら大貴族のご子息殿が紛れ込んでいたようだな」
マキアスもマキアスで言葉の端々に棘を含み、金髪の男子に誰何する。
それに対し、金髪の男子が端的に己の名と出自を告げる。
「ユーシス・アルバレア」
“貴族風情”の名前ごとき覚えてもらわなくても構わない、と不遜な態度で返すユーシスに殆どの者が驚きを露わにした。
それはレイルも同様だったが、彼とエミナだけは別の理由で驚いていた。
2人が顔を見合わせ、自分達の聞き間違いでなかったことを確認する。
その間にもマキアスとユーシスの口論めいたものが続けられていく。
「アルバレア……確か、四大名門だったけ?」
彼らの諍いを気にも留めず、フィーがレイルに確認してくる。
「ああ。よく覚えていたな」
レイルが褒めてやると、フィーが得意げに微笑む。
「いっぱい勉強したから」
「じゃあ、補足説明を……リューネ、出来るか?」
「えっ!? わ、私?」
矛先を向けられたリューネが動揺するが、少し思案した後、落ち着いた様子で説明を始めた。
「えっと、アルバレアは帝国東部クロイツェン州を治める公爵家で、その力の表れとして、≪四大名門≫と呼ばれる帝国貴族の筆頭格に数えられている、だよね」
「よしよし。ちゃんと覚えてるみたいだな」
「偉いわね、リューネ」
それを聞いていたレイルがリューネの頭を撫でながら、そしてエミナが優しげな表情を向けて彼女を褒める。世間一般の事に疎かったリューネがこの半年の猛勉強の成果を発揮出来たことに、2人は喜びを覚えていた。
リューネもリューネで2人に褒められて、非常に喜んでいる様子だった。
しかし、レイルの頭には疑問が残されていた。
なぜ彼がユーシス・アルバレアなのか……?
それはエミナも同様のようであり、彼女も怪訝そうにしていた。
「…………むぅ」
「どうかしたか、フィー?」
考えに耽っていたせいでフィーの言葉を聴きそびれてしまう。聞き返したところでフィーは別に、と呟いてふいっとそっぽを向いてしまう。
「はいはい、そこまで」
突然サラが手を叩いて注目を集める。そこでようやくマキアスとユーシスのやり取りが中断される。
「色々あるとは思うけど、文句は後で聞かせてもらうわ。そろそろオリエンテーリングを始めないといけないしねー」
それを聞いて金髪の女子と眼鏡の女子がサラに尋ねるが、サラは笑みを溢すだけで答えることはなかった。
すると黒髪の男子が何かに気付いたようで、
「もしかして……門の所で預けた物と関係が?」
と質問すると、サラは嬉しそうに彼へと視線を向ける。
「あら、良いカンしてるわね」
それだけを告げて、サラが後ろへと下がっていく。その段階でレイルは言いようのない悪寒を覚えた。
サラが舞台後方に聳える柱に近付くと、その側面に人差し指を添える。こちらから詳しくは見えないが、それはさながら何かのボタンを押すような仕草だった。
――まずい!
レイルが危険を感じ取った直後、ホール内に振動が伝わってきた。これから起こるであろう出来事を予測して、レイルはサイドステップでその場から離れる。
直後。先程までいた床一帯が急勾配に傾き、地下へと生徒達を飲み込んでいった。
「あぶなー」
冷や汗を拭いながら周囲を確認すると、レイルの近くにはエミナとリューネが、天上の梁にワイヤーフックを引っ掛けてぶら下がっているフィーの姿が確認出来た。
「心配しなくても大丈夫よ。怪我しないように調整してあるから」
そう言ってサラが舞台から降りてレイル達に近付いてくる。
「手紙で連絡取り合ってたけど、こうして会うのは2年振りね」
元気にしてた? とサラが微笑を浮かべて尋ねてくる。
「まぁな。サラ姐も元気そうで」
「でも最初に聞いた時はびっくりしたわ。まさかサラ姐がトールズの教官してるだなんて」
エミナの言を受けて、サラが色々あってねと苦笑する。
「それと……その子がリューネ、だったわね」
「は、はい! 初めまして、リューネ・クラウザーです」
リューネが慌ててお辞儀をすると、サラが嬉しげに頷いた。
「礼儀正しい良い子ね。さて……積もる話はあるけど、あんた達も下に降りてちょうだい」
もちろんあんたもよ、とサラが未だぶら下がったままのフィーを見咎める。
「えー」
と渋るフィーだったが、サラが投擲したナイフによりワイヤーを切断され、地下へと落とされた。
その後を追い、レイル達も大口を開く穴へと身を飛び込ませた。
◆
地下に降り立つと、既に何人かは身を起こして状況を確認しているようだった。
先程サラが言っていた通り、怪我をしている様子は見受けられなかった。
しかし未だ床に倒れている者もいたので、レイルは安否を確認するために声を掛けようとした。
「だいじょう――」
倒れている生徒の様子に気付き、後の言葉を飲み込んでしまう。
――何と言うか……
倒れている生徒は2人。まるで抱き合うかのような状態で、黒髪の男子が下敷きになり、金髪の女子が彼に覆いかぶさっているのである。
更に言えば、男子の顔は女子の胸元に埋もれている様子だった。
「ううん……何なのよ、全く……」
金髪の女子が呻きながら上体を起こそうとする。
そこで彼女の動きが停止する。
どうやら自分がどんな状態であるのか気付いたようである。彼女は息を呑み、沈黙してしまう。その様子を周囲が固唾を呑んで見守っていると、下敷きになっている男子がくぐもった声を漏らした。
その声に反応した金髪の女子が飛び退き、黒髪の男子も起き上がる。
金髪の女子が俯き肩を震わせているのに対し、黒髪の男子が申し訳なさそうに謝罪している。
「でも良かった。無事で何よりだった――」
彼がそう告げた瞬間、頬を打つ乾いた音が静まり返った空間に反響した。
◆
「あはは……その、災難だったね」
「ああ……厄日だ」
黒髪の男子はくっきりと手形の跡が残った頬を押さえ肩を落としており、その近くにいた小柄な赤毛の少年に慰められている。
片や金髪の女子は彼に背を向けてご立腹の様子であった。
――と言うより、照れているの方が正しいか。
今日初めて会った異性の顔に胸を押し付けるといった出来事は、男性であるレイルから見てもその恥ずかしさを想像するに難くなかった。
そのことはさて置き、レイルは現在自分達がいる場所について確認してみる。
先程までいたホールよりも広さも高さもある円形上の広間。その壁沿いに台座が左右に6台ずつ設けられ、上のホールよりも薄暗くてはっきりと確認できないが何かしらの荷物が置かれているようである。
状況を確認していると、不意に懐から音が鳴り響く。
他のメンバーも同様で、それぞれ音の出所を探っている。
そして取り出したのは、学院から送られてきた戦術オーブメントである。しかし大半の者が、それが何なのか分かっておらず、首を傾げている。
『――それは特注の戦術オーブメントよ』
すると戦術オーブメントからサラの声が聞こえてきた。
各々が通信機能を内蔵している事に驚いているのを他所に、金髪の女子が手にしている物の正体について感付いたようである。
「ま、まさかこれって……」
『ええ、エプスタイン財団とラインフォルト社が共同開発した次世代の戦術オーブメントの1つ。第五世代戦術オーブメント、ARCUSよ。結晶回路をセットすることで導力魔法が使えるようになるわ。というわけで、各自受け取りなさい』
サラの声に呼応するかの様に、視界が急に明るくなった。
部屋の上部に取り付けられた照明が灯り、部屋全体を照らし出す。
先程まで確認出来なかった細部まで見通すことが可能となり、台座に置かれていたのが校門で預けていた荷物だと判明する。
『君達から預かっていた武具と特別なクオーツを用意したわ。それぞれ確認した上で、クオーツをARCUSにセットしなさい』
サラの指示でそれぞれ自分の荷が置かれた台座へと向かう。
台座には武具と宝石類を収めるのに丁度良い大きさの小箱が置かれていた。レイルはまず武具に異常がないか確かめてから、小箱の中身を確認した。
中に収められていた特別なクオーツは、通常のクオーツの倍近くはある代物だった。しかも普通のクオーツとは違い、中心に何らかの紋様が描かれていた。
――これは、羽根だよな。
レイルが特別なクオーツに描かれた紋様を眺めていると、タイミング良くサラから説明が入った。
『それはマスタークオーツよ。ARCUSの中心に嵌めればアーツが使えるようになるわ』
言われてみて、ARCUSの中央には通常の物より大きいスロットが設けられていたことを思い出す。
普通のクオーツを嵌めるには大き過ぎるため、用途が不明だったが今の説明で得心する。
そしてサラに促されマスタークオーツをセットすると、ARCUSと身体が淡い光に包まれる。これにより、自身とARCUSの共鳴・同期が完了したことになる。
『これでめでたくアーツを使用出来るようになったわ。他にも面白い機能が隠されているんだけど……ま、それは追々って所ね』
「隠された機能?」
レイルにとってそれは初耳だった。事前に大まかな説明を受けていたのだが、自分達にも知らされていないことがまだまだあるように感じられた。
レイルはやれやれと溜め息を溢した。
――あいつのことだ。きっと面白がって伝えなかったんだろうな。
道楽好きの音楽家のことを思い、当たりを付ける。恐らく、問い質したところで『何でもかんでも教えてしまったら、君達へのお楽しみが減るじゃないか』などと答えるに違いない。
『――それじゃあ、早速始めるとしますか』
サラの合図により、広間の奥に設けられていた扉が自動で開かれた。
そこから先はダンジョン区画となっており、ちょっとした魔獣が徘徊していると告げられる。
そのことに緊張する者もいたが、流石に死人が出るような凶悪な魔獣がいるとは考えられない。
『――それではこれより、士官学院・特科クラスⅦ組の特別オリエンテーリングを開始する。各自、ダンジョン区画を抜けて旧校舎1階まで戻ってくること。文句があったらその後に受け付けてあげるわ』
何だったらご褒美ホッペにチューしてあげるわよと付け加え、それを最後にサラからの通信が切れた。
「え、えっと……」
「……どうやら、冗談という訳でもなさそうね」
オリエンテーリングの開始を告げられたものの、大半の者はどうしたものかと困惑しており、自然とダンジョン区画の入り口前に集まる形となった。
サラの説明ではチームを組んではいけない、とは言われていないので、数人に分かれて行動するのが妥当だろうとレイルが考えていると、
「フン……」
と鼻を鳴らしたユーシスが1人で奥に進もうとする。
マキアスが慌てて引き止めるが、ユーシスは馴れ合うつもりはないと突っ撥ねる。先程マキアスから“貴族風情”と言われたことを根に持っている様子である。マキアスが言い淀んでいると、更にユーシスが彼を煽る様なセリフを言い放つ。
「貴族の義務として、力なき民草を守ってやっても良いが?」
「だ、誰が貴族ごときの助けを借りるものか!」
ユーシスの単独行動を見咎めたはずのマキアスだったが、頭に血が上ってしまったのか、冷静さを失い、そのまま1人で奥へ進んで行ってしまった。
それを見送ったユーシスもマキアスに続いてダンジョン区画へ入っていく。
「えっと……」
「ど、どうしましょう……?」
赤毛の男子と眼鏡の女子が困惑していると、エミナが1歩前に進み出る。
「仕方ないなぁ……あの2人は私とフィーが追うわ。皆は適当にチームを組んで行動して」
「了解」
とフィーがエミナに応じる。
「気を付けてね、お姉ちゃん、フィーちゃん」
「2人のこと、頼んだぞ」
リューネとレイルに手を上げて応え、エミナとフィーが2人の後を追いかけて行く。
彼女達を見送った後、腕を組んで成り行きを見守っていた青髪の女子が口を開いた。
「では、先程の彼女も言っていた様に我々は数名で行動することにしよう」
そう言って彼女は残った女子メンバーに声を掛けていく。
金髪の女子や眼鏡の女子が快諾する一方、リューネが戸惑いの視線をレイルに送る。
レイルが笑みの表情で頷いてやると、リューネも意を決してラウラに答えた。
「よ、よろしくお願いします!」
「うむ。こちらこそよろしくお願いする。――では、我らは先に行く。男子ゆえ心配無用だろうが、そなたらも気を付けるがよい」
「あ、ああ……」
青髪の女子のあまりにも堂々とした言葉を受け、黒髪の男子が少し緊張した様子で頷き返す。
そして彼女が踵を返し、ダンジョン区画へ入っていく直前。
「…………」
レイルに対して視線を送ってくるが、特に何かを告げることなく、歩を進めていった。
「?」
レイルはいぶかしがるも、疑問符を浮かべるだけでその背中を見送った。
――なんだったんだ?
そして、青髪の少女に少し遅れ、眼鏡の女子、金髪の女子、リューネが後に続いた。
「…………フン」
金髪の女子が去る際、彼女は黒髪の男子を睨み、すぐにそっぽを向いて奥へと消えて行った。
「……はぁ…………」
彼女達の姿が完全に見えなくなったところで、黒髪の男子が深い溜め息を吐いた。
「すっかり目の仇にされたみたいだな」
「あぁ、後でちゃんと謝っておかないとな……」
レイルが気遣って声を掛けると、黒髪の男子が一層肩を落とした。しかしすぐに気を持ち直したようで、残ったメンバーで一緒に行動しないかと提案してくる。
「うんっ、もちろん!」
先程から黒髪の男子と仲良さ気にしていた赤毛の男子が真っ先に同意する。
「異存はない。オレも同行させてもらおう」
「俺もだ。よろしくな」
長身で褐色肌の男子に続き、レイルも提案を受ける。
他のメンバーは先に行ってしまったが、レイル達はまずこの場で自己紹介を済ませておくことにした。
「ガイウス・ウォーゼルだ。帝国に来て日が浅いから宜しくしてくれると助かる」
聞けば長身の男子ガイウスは留学生とのことである。
「こちらこそ、よろしく。リィン・シュバルツァーだ」
「エリオット・クレイグだよ」
続けざまに黒髪の男子と赤毛の男子が、そして最後にレイルが名乗る。
一通り名乗りを終えると、エリオットがガイウスの持つ得物に興味を示した。すると、ガイウスが手馴れた手つきで得物を操り、構えをとる。
「十字の槍……」
「随分と様になっているな」
「へぇ、何だかかっこいいね」
「故郷で使っていた得物だ。そちらはまた……不思議なものを持っているな?」
次に、ガイウスがエリオットの持つ杖のような得物に興味を抱いたようだ。
「あ、うん、これね」
エリオットが説明するにそれは、新しい技術で作られた導力杖と呼ばれる物で、入学時に適正があると言われて選択したとのことである。
――帝国でも実用化に向けて動き出したか。
クロスベルでそれを用いる少女のことを思い出しながら、レイルは初見を装い、エリオットの話に耳を傾ける。
「何でもまだ、試験段階の武器なんだって。それで……リィンとレイルの武器はその?」
2人同時に聞かれる。それもその筈である。先程からお互いに気付いてはいたが、リィンとレイル、2人の持つ武器が酷似していたからである。
「それって……剣?」
「帝国で使われている物とは異なっているようだが……?」
エリオットとガイウスが首を傾げるのを見て、リィンとレイルが誇らしげに自らの武器の説明をする。
「これは太刀さ」
「東方から伝わった武器で、剣以上の切れ味がウリだ」
その分扱いが難しいんだが、と同じ太刀を使う者同士で苦笑する。
エリオットとガイウスにはそれ以上に、その刀身が放つ輝きに目を奪われているようだった。
自己紹介やそれぞれの武器についての確認が済んだところで、そろそろ出発することになった。
緊張感もそこそこにダンジョン区画へと足を踏み入れていく一行。その殿を務める形で、レイルは皆の後をついていく。
「!? ……………………やっぱりな」
ある気配を感じ、足を止めて離れて行く背中を見つめながら、誰にも聞こえない声量で呟くレイル。
その表情は、緊張と――歓喜。可能性が確信に近付いたことにより、口角が僅かに釣り上がっていた。
――感じる。ここに間違いなく、アレがある……
やはり、ここに来て正解だったと感じたレイルは、足早に先を行く3人を追った。
◆
サラの説明にもあったが、ダンジョン区画とは正にその通りだった。
薄暗い石造建築に、入り組んだ内部構造。脅威とは言い難いが、時折襲い掛かってくる魔獣の存在など、正しくダンジョンと呼べる場所だった。
エミナはフィーを引き連れて、先行していったマキアスとユーシスを探しているのだが、中々見つかる様子がない。
内部構造が入り組んでいるせいか、どこかで追い越してしまったのではという懸念もあるが、それならそれで後続のメンバーと出会う可能性もあるので、今は奥を目指して歩を進めていく。
「そう言えば、エミナ」
「なに?」
エミナがフィーへと振り返る。その表情には何か問いたげな雰囲気が滲んでいた。
すると案の定、フィーの口から疑問が発せられる。
「あのユーシスって人のこと、何か知ってるの?」
「……どうしてそう思ったの?」
「エミナとレイル、ユーシスの名前を聞いたとき凄く驚いてたから」
「そりゃあ、ね。四大名門のご子息だなんて思わなかったし」
「……2人がそれだけで、あんなに驚くとは思えない」
「う……」
フィーの鋭い指摘を受けて、エミナは言葉を詰まらせた。
――すぐに平静を装ったつもりだったけど、よく見てるわね……
ふぅ、とひとつ息を溢すと、エミナは改まってフィーを見やる。
「別に隠すことじゃないんだけどね……あの子とは、顔馴染みなの。ただ……」
「?」
エミナが次の句を繋げようとしたところで、通路の奥から2人の耳にある音が届いた。
「! エミナ、これって」
「あの2人かもしれない。急ぎましょ!」
魔獣の咆哮に嫌な予感を覚え、2人は先を急いだ。