緋弾のアリア その武偵……龍が如く   作:ユウジン

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金の決意

「あ……」

「ん?ああ、かなめお早う」

 

朝……昨夜の一件で流石に気まずかったかなめだがキンジの姿を見たらそんな意識も吹っ飛んだ。

 

なぜか良い匂いがするなぁと思って起きたのだ……そこにはかなめから見たら兄に当たるキンジがクッキングパパ宜しくエプロン着けてクッキングである。

振り返ったキンジの手には少し焦げた目玉焼きとソーセージが乗った皿があった。

 

「顔洗ってこいよ。朝飯にするぞ。今日は学校休みでも早寝早起き朝御飯は健康の基本だ」

「う、うん」

 

かなめはキンジの行動の意味が良く分からなかったが顔を洗うため洗面所に向かった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いただきます』

 

キンジとかなめは朝食を口に入れていく。

 

「…………」

「旨くは中々出来ないもんだな……一毅とかは旨いんだけど如何せん小学校の調理実習以来だもんなぁ、自分で料理を作るなんて」

「お兄ちゃん」

かなめが話しかけるとキンジはかなめを見る。

 

「なんだ?」

「何で急に朝御飯なんか……」

「たまには良いだろ?何時もお前が作ってたんだからさ」

「そうだけど……昨日私は……」

「気にすんな……家族だろ?」

「……え?」

 

かなめは一瞬キンジが言った言葉が理解できなかった……

 

「だってお前は俺の妹なんだろ?だったら家族じゃないのか?」

「…………」

 

呆然とかなめはキンジを見た。

そしてキンジは真剣な表情になる。

 

「まあ色々あんだろうけどさ……血とかそんなのは抜きにして兄妹にならないか?」

 

キンジがそういった瞬間ポロっとかなめが涙を流す。

 

「え!?そんなに嫌だったのか?」

「違うよ……嬉しかったの……本当は追い出されると思った」

「何でだよ」

「だって包丁を向けて……」

「何時もピンクの髪の武偵に小太刀やガバメント向けられてる」

「重いかなって自分でも思うくらいくっついて……」

「寝込みに夜襲をかけてくる黒髪の巫女に比べれば軽い」

磁気推進繊盾(P・ファイバー)で拘束して……」

「人の足元に地雷を置いて逃げられなくしたところに「キー君の貞操いただきぃ!」とかいって襲いかかる金髪怪盗よりマシだ」

 

大概そのあと三つの事案とも全部三つ巴の大戦争に成るんだからな。かなめ一人の暴走くらい楽勝だ。

 

「だからかなめ……なにも心配しなくて良い……」

 

むしろ心配するのはキンジの今までの生活の方である。

だが、

 

「ダメだよ……私は失敗だったもん」

「失敗?」

「私はロスアラモスって言うアメリカにある研究施設で作られた……私が今まで存在できたのは【双極兄妹(アルカムディオ)】の可能性があったから……それがなくなったら私の存在意義なんて」

「アホか。ヒステリアモード何て能力無しでもお前普通に強いじゃねえか。俺としてはそっちの方が羨ましいけどな」

「でも……」

「でもも糸瓜もねぇ!そんなに存在意義が欲しいなら俺が与えてやる!俺の家族になれ!家族として一緒にいろ!」

「っ!」

 

ドキッとかなめは自分の心臓が跳ねたのを感じた。

無論キンジの言葉の意味は妹としてなのはかなめも重々承知している。だがそれであっても家族として……別の意味としても受け取れる言葉だ……これを意識して言わないのだから大したジゴロである。

 

「嫌か?」

「ううん……」

「なら良い。あと飯食ったら出掛けるぞ」

「何処に?」

「武偵校の近くにマックがあるんだ。そこにアリアたちと待ち合わせてる」

「……へ?」

 

かなめはソーセージを落としそうになった。

 

「これから俺の家族なんだろ?だったら俺の仲間たちとも確執はなくしとけ。別に仲良しこよししろとは言わない。でもお前は自分がやったことに対して謝罪する義務がある。違うか?」

 

かなめは首を横に振った。

 

「なら会ってどうするかわかるな?」

 

昔金一に一毅と喧嘩したとき同じようなことを言われたっけなぁとキンジが内心苦笑いしながらそう言った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい……」

 

武偵校近くのマックにてかなめは頭を下げた。

その殊勝な態度にアリア、白雪、理子の三人は困惑と同時にどうするかあたふたしだした。

まあレキは何時も通り無表情で一毅は新発売のビックライスバーガーを口一杯にいれている。

 

彼女たちとしては何れかなめを準備万端でボコボコにする予定だった。やられたらやり返すのが武偵……だがこんな風に頭を下げる相手に対してそういうのは気が引けると言うかやったらどっちが悪者だかわからない。

 

「まあそう言うわけだ……思うところもあるだろうが俺の顔に免じて許してやってくれ」

「でもどういう心境の変化だ?キンジ」

「妹のやったことに兄が頭下げるの当たり前だろ?」

『ぶっ!』

 

レキ以外全員がジュースを吹いた。

 

「あれだけ否定しといてどうしたのキー君!風邪!?頭打った!?それとも本当にタラシこまれたの!?タラシこむのはキー君とカズッチの専売特許でしょ!?」

「おい理子!最後のは聞き捨てならんぞ!」

 

一毅が理子に文句を言うがレキが話が進まなくなるためストップをかけた。

 

「全部ちげぇよ!上手く言えないんだが色々あったんだ……まあお前らにとっても妹みたいなもんになるんだぞ?」

 

キンジは、俺とお前らは仲間なんだからこいつだってお前らの妹分的な立ち位置に成るんだぞ?的な意味で言ったが、別の意味でアリア、白雪、理子の三人が受け取りかけたのは言うまでもないだろう。

 

「で?どうなんだ?」

 

三人は顔を見合わせた。

 

「まあここはサブリーダーのアリアが決めたらどうだ?」

 

ここで皆の総意を取っても色々と複雑な心情が絡み合ってグダグダとなるだろう。ならばリーダーの提案をサブリーダーがどうするか委ねた方が良い。

そう思って一毅が言うとアリアがかなめを見た。

 

「ひとつ聞くけどもうあんたは私たちを襲わない?」

「うん。もうアリアたちを襲わない」

 

じゃあもう良いんじゃない?とアリアがいってその場に漂っていた張り詰めた空気が霧散した。

 

「じゃあ取り合えずなにか食うか」

「そうだね」

 

キンジがそう言うと白雪も同意して両手を掲げて叩いた。

 

『?』

 

全員が白雪の奇行を見て首をかしげた。白雪のオロオロとした反応を見る限り何か思惑と違った状況になったらしい。

そして数泊の間を置いてレキがポソッと言った。

 

「白雪さん……言っておきますがここは高級料亭ではないので手を叩いても店の人は来ませんよ?」

『………ぷふ!』

 

全員が吹いて次の瞬間大笑いする。白雪は顔を真っ赤にした……

 

「白雪!お前笑いのセンスあるぜ」

「そんなの要らないよカズちゃん!」

 

一毅をベシベシと白雪は叩いて抗議したが壺に嵌まったらしく全く意味がないし周りも笑っている。

 

「い、いやー、ユキちゃんが箱入り娘なのは知っていたけださーアハハ!!!」

「し、白雪、私だってそれは違うの分かっていたわよ……プクク!」

「い、良いじゃないか白雪。ひとつ勉強したな……えふん!」

 

上から順に理子、アリア、キンジである。そして、

 

「プクク……ププ!」

 

かなめも体を震わせて笑っていた……

 

「仕方ない。適当に俺と一毅で買ってくる」

 

キンジはまだ爆笑したままの一毅を連れて立ち上がり、

 

「で?お前らも何か買ってくるか?言えば序でに買ってくるぞ」

 

そう隣の席に陣取っていた集団にキンジは声をかけた。その集団はビクッと体を震わす。

 

『……………』

「お前らバレてないとでも思っていたのか?おいこら。あかり、辰正、志乃、陽菜、ライカ、ロキ」

 

キンジが名前を呼んだ数だけギク!っと言う音が聞こえた気がした。

 

「な、何でわかったんですか?」

 

サングラスとマスクを外した武偵校の防弾制服姿のあかりがキンジに問う。

 

「寧ろその格好でばれないと思っていたお前らの方がすげえよ!」

 

二年生やかなめはウンウンと頷いた……と言うか志乃は探偵科(インテスケ)として将来が凄く心配になった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後2年と1年を交えてと言うか最近はいつもの面々で良くなりつつあるメンバーでハンバーガーを齧る。

 

「で?何であかり達がここにいたのよ」

 

ハンバーガーを飲み込んでから後輩の前では先輩振るアリアが聞くとあかりが頬を掻く。

 

「偶々ここを皆で通ったら皆さんと……キンジ先輩と妹さんがいて……」

「それでこれはただ事ではないとおもって見に来たの?」

 

一年生ズがその通りですと頷くと二年生達が溜め息を吐いた。心配してくれるのは嬉しいが相変わらず下手くそな尾行である。

 

「ちっとは進歩しろよ」

「しましたよ!サングラスとマスクと言う道具を使うようになったんですから!キンジ先輩頭大丈夫ですか?」

「なんだそのチンパンジーから猿になりましたみたいな進化すんな!もっと大きく人間に進化しろよ!あかり!」

 

ガルルルルとあかりとキンジが睨み会う。

最近は大体こんな感じだ。言い合いと言うかじゃれあいというかそんな感じ。まあ最近は名前で呼んでるのである意味では距離が縮んだと言うことなのだろう。

 

「仲良いなぁお前ら」

『良くない(です)!!!』

 

やっぱり仲良いだろと一毅は思ったが深く突っ込むと火に油を注いで大噴火した二人に余計に怒られそうなので黙っておこう。

 

「まあまあ、あかりさん。ポテトどうぞ」

「あ、うん」

「はい、あーん」

 

相も変わらずと言うか志乃は全くぶれずに百合百合しいなとか思っているとそれを見た面々が、

 

「じゃあ私も……キンちゃん!はい、あーん」

「あ!良いなぁ!それ理子もやるー!」

「ちょっとあんたたち何してんのよ!キンジ!あたしの奴隷ならこっち向きなさい!」

「ささ、師匠!どうぞこれを!」

「ちょっと!皆揃ってお兄ちゃんに何する気!!!お兄ちゃん!当然こっち食べるよね?あーん」

 

羨ましがってキンジに群がった。どうせいつもの一騒動かと思いきやかなめも混じって三角関係の発展版である六角関係?みたいになっている。

 

「お、おいお前ら!無茶苦茶な力で俺を引っ張るな!制服が壊れるだろ!」

 

キンジはあっちこっちに引っ張られフォワグラ作る際のガチョウの如く口にポテトを突っ込まれていっている。

 

(キンジの奴はまた苦労する羽目になるんじゃないだろうか……まああいつが苦労するだけだから別に良いけ……ん?)

「一毅さんあーん」

「先輩食べます?」

「お兄ちゃんにポッキーゲームならぬポテトゲームしよう!」

『させるか!』

「がふぅ……」

 

ポテトを咥えたロキはレキとライカにダブルアタックで沈められる。

 

(こっちもこっちで何時も通り……かな?)

 

一毅は内心苦笑いした。

 

 

因みに、

 

(羨ましくないけど世間では羨ましく見えるのかな?)

 

辰正は一人でポテトを食べる。

 

(でも……これは凄まじい程のボッチ感だな……)

 

巻き込まれることはなかったが一人寂しく辰正はポテトを消費していた……


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