緋弾のアリア その武偵……龍が如く   作:ユウジン

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番外編
番外編 桐生 一明の事件


「………」

 

男は墓の前に花を置くと手を合わせる……男の名は桐生 一明……そして墓にはこう刻まれていた……【遠山家】と……

 

「久し振りだな……金叉……」

 

一明は口を開く。

 

「昨日はキンジに会ってきたぞ……ありゃ強くなる……当分は無理でも経験積んで強くなっていけば俺やお前より強くなるかもだ。まあ一毅には負けるがな……」

 

一明は俯く……

 

「へ……親バカっては突っ込んじゃくれねえか……ま、死人に口なしだもんな……お前死んでどれくらい経ったよ……もう長いぜ……そっちでは元気にやってるのか?もしかしたら俺の親父がいるけど親父も元気か?」

 

返事はない……

 

「ったくよ……返事くれぇ寄越せよ……」

 

一明は頭をガシガシ掻く。

 

「まあ良いさ。またくるよ」

 

一明は何処かイラついたような足取りで歩いていった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遠山 金叉……遠山 キンジの父であり一明唯一無二の親友(とも)であった……だが……ある事件で死んだ。

一明と金叉は共に様々な事件を解決したしいろんな無茶も馬鹿もやった……楽しかった……

 

「でももう楽しくねえなぁ……」

 

一明は誰に言うわけでもなく呟く。

昔は喧嘩が好きだった……殺し合いは嫌いだったが強いやつと戦うのは好きだったし……暴れて憂さ晴らしもした……だが金叉が死んでからそんな気持ちもなくなった……共に戦って背中を合わせてくれる奴はいない。戦いたいと思わなくなり思えなくなった……

だから武装検事も辞めて沖縄に隠居するように一毅や由美を連れて移り住んだ。

 

「全く……まだ俺は引きずってんのかよ……」

 

すると、

 

「タ、タスケテ!」

「ん?」

 

声の方を振り替えると二十歳前後と思われる女性が一明に抱き付いてきた。

 

「てめえ何もんだ!」

「?」

 

女性が走ってきた方を見ると数人の男たちが囲んできた。

 

「誰だお前ら……」

「てめえこそ引っ込んでろよ!俺たちはそこの女に用があるんだ!」

 

一明はスッと女の前に出る。

 

「ふ……ナンパか何か知らねえが女に揃える頭数じゃねえな……情けねえとはおもわねえのか?」

『っ!』

 

男たちは歯を噛み締める。

 

「さっさと失せな……どうしてもやるってなら俺を倒してからにするんだな」

「……ちっ!お前ら……」

 

男達はナイフを出す。それを見た女は身を竦ませた。だが、

 

「そんな玩具で良いのか?」

 

一明にとっては持ち方が既に素人丸出しのナイフなど玩具同然だ。

 

「へ、へ!お前みたいなのは大体見かけ倒しって決まってんだよ!やっちまえ!」

 

男たちが襲いかかる。

 

「っ!」

 

数は六人……まず先頭の男のナイフを掴まないように手を掴むと捻り上げる。

 

「いででで!」

 

男はナイフを落とし顔を下げ、そこに一明は膝を叩き込む。

 

「ぶべ!」

「この!」

 

一明の顔に向かって降り下ろさせるナイフは横に飛んで避けると脇腹にパンチで沈める。

 

「ちぃ!」

 

一明の腹にナイフを突き立てるべく走り出す男……だが、

 

「ふん!」

 

クルっと回転しながら躱すとその遠心力を利用して肘鉄をコメカミに叩き込む。

 

「ぐご!」

「てめぇ!」

 

再度ナイフが一明に迫るが……

 

「二天一流 喧嘩術……」

 

一明は拳を握って思いきりぶん殴るとナイフが手から離れて空を舞う……それを綺麗にキャッチした。

 

「強奪の極み……」

「な……!」

 

最後の男が唖然とするが一明は切っ先をゆっくり相手に向ける。

 

「まだやるか?」

「す、すいませんでしたぁ!」

 

慌てて仲間たちを起こすと逃げ出した。

 

「ったく……最近のチンピラは戦力差の計算もできやしねえ……」

 

昔のチンピラはそういうのが分かるやつらだった。手を出しちゃヤバイ奴や越えちゃならない一線を弁えていた。

だが最近のは武器あれば勝てると思うやつらばかり……正直いつか死ぬぞあいつらと思いつつ一明はナイフを路地裏のゴミ箱に捨てた。

 

「ア、アリガトウ」

「いや、別に構わない」

 

少し八つ当たりもあったし……等とは言う必要はないだろう。

 

「ア、ワタシ……」

用自己的言词说(自分の言葉で喋れ)……我知道中文(俺は中国語が分かる)

 

↓ややこしいのでこれより下は和訳

 

「え?」

「そんなに不思議か?」

 

一明は首をかしげる。

 

「ううん。でも流暢だったから驚いただけ」

「一応英語と中国語とフランス語は必修だったからな」

「?」

 

武装検事の試験に受かるため人生でもっとも勉強したときのことだ。

 

「だが何であんなチンピラに?」

「……ここじゃまた見つかる……こっち!」

 

女に引っ張られながら一明は着いていった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一明が連れていかれたのは耐震性とか言ったものに絶対引っ掛かってるボロアパート……

 

「私は紅花(フォンファ)って言います。さっきはありがとうございました」

「別に良い。だが穏やかそうな連中でもなさそうだしいったいどういう状況だ?」

「私は中国の田舎から稼ぎに日本に来ました……悪い方法で……」

「不法入国か……序でに不法滞在もだな」

「わ、私はお金をたくさんもらえるお仕事だって言われました。怪しい気もしたけどお金を貰えるんだったらって……」

「そんなに金がほしいか?」

「私のうちは貧乏……でもお母さん病気です……薬買うお金ない……病院にもいけない……」

「そう言うことか……」

 

恐らく裏にはチャイニーズ系のマフィアが絡むタイプだろう。

 

「でも日本に来てからご飯あんまりもらえないしお金ももらえない。それどころか帰しても貰えない……もう裸になって知らない男に抱かれるのはいや……だから店から逃げ出した……」

「紅花……ん?」

 

そこに突然男たちが乱入してきた。

 

「お前らは……」

 

それぞれバットや刃物で武装してる……

 

「成程口封じに来たか……」

「いえいえ交渉です」

 

そこにいかにもインテリ系と言った中国人が姿を見せる。

 

「交渉?こんな中でか?」

「ええ。内容は簡単です。彼女をこちらに渡してください。そうすればあなたの身の保証をいたします……ですが断れば……言うまでもないですね?」

「……」

「先程逃げ帰ってきた部下に聞けば偶々居合わせただけみたいですしね……元は赤の他人……どうですか?」

「……まあ確かに赤の他人だ……」

 

紅花が息を飲み男が笑みを浮かべる。

 

「だからよ紅花……俺に言ってくれないか?」

「え?」

 

一明は優しい笑みを紅花に向ける。

 

「助けて……その一言で俺はお前を助ける理由になる」

「っ!……」

 

ポロポロと紅花は涙を流す。

どれだけ苦労したかが良く分かると言うものだ。

 

帮助(助けて)……」

好啦(良いぜ)托付(任せろ)

 

一明はにっと笑うと男たちをみる。

 

「そう言うわけだ。悪いがお節介……焼かせてもらうぜ」

「ちっ……これだから日本人は嫌いなんだ。こっちが優しくしてやればすぐに付け上がる。女もろとも殺せ」

『了解』

 

そう言って一明に飛びかかった……が、

 

「オラァ!」

 

まず一人を【二天一流 拳技 虎落とし】で沈めると次の男の鼻、鳩尾と拳を叩き込み沈むその男を台にして跳ぶと後ろにいた男に飛び蹴りで更に沈める……

「二天一流 喧嘩術!」

 

最後に二人の男の頭を掴み……

 

「双頭の極み!!!」

 

一明のパワーにものを言わせて二人の男は頭を打ち付け合わされ目を回して気絶する。

 

「ば、馬鹿な……どれもさっきのやつらと違い戦闘訓練を積ませたやつらだぞ……」

 

あっという間に10秒程で倒されたためかインテリ系の男は驚愕する。

 

「さてと……」

 

一明はインテリ男の襟首を掴みあげる。

 

「質問はひとつだ。仕切ってる奴はどこにいる?」

「ば、馬鹿め!いうとおもへぶし!」

 

一明は迷わず殴る。

 

「どこにいる?」

「へ、へへいうわけなべぶ!」

 

殴る……

 

「どこにいる?」

い、言うわけない(ひ、ひふふぁふぇふぇふぇ)ぶべび!」

 

殴る……

 

「どこにいる?」

ま、まて(ふぁ、ふぁふぇ)……いくらお前が強くても(ふぃふらおひゃへひゃひゅひょひゅふぇふぉ)……何人いると思ってんだ?(にゃんにんひふふぉふぉふぉっふぇふふぁ)

「関係ないな」

 

一明はインテリ男の襟首を更に締め上げる。

 

「言え……まだ殴られたいか?」

 

一明の殺気の籠った目に逆らえるわけはなかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一明は東京湾埠頭に足を着ける。

あの後、誠意を込めたお話し合いにより教えてくれた(殴って殴って殴りまくって吐かせた)場所はここの三番倉庫……の地下に作られた隠し場がそうらしい。

一応紅花の部屋に警察を呼んだ。後は警察の仕事……だからあそこをぶっ潰すのは本来警察がやるべきなのだろう。だが純粋に一明は自分の手で元凶を潰しておきたかった。

先程みた涙を……もう流させないために……

 

「悪いな」

 

一明は三番倉庫のドアを開ける……

 

「ん?」

 

そこには相当量の人間が居た……総勢100人程……成程、連絡が来ないから何かあったのだと発覚し待ち伏せを喰らったらしい。別に良いのだが……

 

「ふん……上等だ!全員纏めて掛かってきやがれ!!!」

 

一明は走り出した……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オラァ!」

 

先制手はやはり一明だ……

最初に飛び蹴りから相手を吹っ飛ばすと手当たり次第に殴り飛ばしていく。

一件無茶苦茶だが一対多数戦において大切なのは一人に時間をかけないこと、そして可能な限り全体を見てもっとも近い人間から潰していくことだ。

一毅も一度武偵高生100人を相手にしたがあの時は相手が興奮していたため攻撃が基本直線的だった。

だが今回の一明の場合は違う。相手は比較的統制がとれた相手だ。その場合は崩しにくく普通にやっても拉致が空かない。なので……

 

「あそこだな……」

 

一明はほんの一瞬だけブルーヒートをだして加速し敵の視界から消える。

 

「消えた?がごっ!」

『なっ!』

 

突然顎に横から鋭い掌底が叩き込まれ意識が飛ばされた。

 

「まず一人……」

 

一明はまたほんの一瞬だけブルーヒートを使って加速し次々とリーダー格の男を潰していく。

一毅と違い微細なヒートのコントロールが可能な一明にとっては造作もないことだが敵にしてみれば急に消えたり現れたりするため妖怪か何かに近い存在に見えた。

 

「く、くそ!」

「しゅ!」

 

更に一瞬の隙を突いてリーダー格の男を倒す序でに雑魚も少し削っておく。

 

「この!」

 

すると一人がマシンガンを出す。

 

「くらぇえええええええ!!!」

 

マズルフラッシュと共に銃を乱射……しかし、

 

「っ!」

 

一明の体を電撃のようなものが走り飛来する弾丸が全て躱される。

更に無茶苦茶に撃つため同士討ちにまで発展した。

 

「二天一流……拳技!」

 

その隙間を縫うように走り出すと掌打を繰り出す。

 

「煉獄掌!!!」

「うげふぅ!!!」

 

元来の者とは違い全身の捻りを加えることで威力をあげた一明版の煉獄掌に吹っ飛んだ男は白目を向いて気絶した……

 

「こんなもんか……む?」

するとそこに青竜刀と呼ばれる刀剣を持った中華系の男が出てきた。

 

「お前がお山の大将か?」

「何やら上が騒がしいと思えば……日本の特攻と言う奴か?」

「まさか……おまえら全員ブチのめして警察につき出すだけだ」

「ふふ、それはないな……何故なら」

 

そういった瞬間男の青竜刀が一明の顔に向けて突き出される。

 

「ここで死ね!」

 

だが一明は首を傾けて躱すと男の顔に拳を叩き込んだ。

 

「ぶっ!」

「てめえのせいで泣いた女がいる……」

 

一明は足元に転がった角材を蹴って拾いながら言う。

 

「だ、騙される方が悪いんだよ……」

「そうだな……明らかに怪しいもんに突っ込む紅花も紅花だ……だがそれでも僅かな光にすがり付きたかったんだよあいつは……」

 

男の青竜刀を一明は角材で受け流す。

 

「そうでもしなきゃ母親助けられないってわかっていたから……なのにてめえは……」

 

一明の瞳に怒りの炎が灯る。

 

「それに漬け込んでこっちで随分な事をさせてたみたいだな……」

「言っただろう!騙されるのが悪い!そして弱いから騙される!悪いのは俺じゃなく騙されるような弱さを持ってる方だ」

「違うね」

 

ギィン!っと一明は受け流しから弾きあげる。

その時男は気づいた。一明の角材がいつの間にか削れて木刀の形になっていることに……

 

(当たる角度を全て調整しながら受け流しきったと言うのか!?)

 

男は戦慄する……何者だこの男は……と、

 

「そいつらは必死に今を生きてるんだ……わりぃのはいつだってその必死な人間の弱い部分に漬け込むやつらさ……俺はそういうやつらが大っ嫌いでね……」

 

一明は腰を落とす。

 

「何者だ貴様……」

「沖縄で孤児院を経営しながら主夫やってる一般人だよ」

 

一明はそういうと疾走……

 

「っ!」

 

男は急いで防御したが、キン!っと言う音を発て次の瞬間には一明が後ろにいた……

 

「え?」

「良いことを教えてやろう……木刀でもある程度以上の速度と重さ……そして角度とか色々な条件をクリアした場合にな……斬れるんだよ」

「な……ごふっ!」

 

男の青竜刀が柄本から斬れて男の肩から脇腹にかけて切り傷を生む。

 

「うちの馬鹿息子にはまだ無理な芸当だけどな……木刀だって刀だぜ?」

 

一明クラスの剣豪が使えば木刀も名刀に変わる。

 

「弘法筆を選ばずってな」

 

そういって一明は笑った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「派手にやりましたね。桐生さん」

「大したことはないよ。佐々木」

 

佐々木と呼ばれた男は長刀を片手に肩を竦める。

 

「全く。さっき行きなり貴方から電話が来たときは驚きましたよ。しかも武装検事がずっと追っていた奴をあっさり見つけてぶっ飛ばしてるなんてね」

「仕方あるまい。人の出会いは一期一会だ。大切にしないとな」

 

そういって一明は立ち上がる。

 

「じゃあ事後処理とかは適当にやっておいてくれ……その代わり俺の名前は秘密な」

「はいはい。それにしてもまだ強さ延びてますね。化け物ですか?」

「お前も腕をあげたようだが?お前に付けられた古傷疼くときあんだぞ?」

「結局負けましたけどね……たった一度の真剣勝負……まあ娘には負けたって言えなくて桐生さん逃げ回ってたところしかいってませんけど」

「おい」

 

一明は佐々木に突っ込んだ。

 

「まあ良いさ。アバヨ」

 

軽く手を降りながら一明はその場を去る。

 

「被害者に会っていかなくて良いんですか?」

「良いんだよ。通りすがりのお節介やいただけだ」

 

そういって一明は闇に姿を消す。

 

「全く……相変わらず強いけど……」

 

佐々木は目を細める。

 

「まだあの事件引きずってんだな……」

 

佐々木の呟きは誰にも聞こえることはなかった……




勝手な想像ですがキンジの父ちゃんが殉職した事件は多分相当ヤバイ事件だったと思うんですよ。
だってランキング8位の人が殉職ですよ?しかもイギリスの某超人を任した人がですよ?
なので一明が武装検事を辞めた辺りはその辺が絡んでると言う設定です。

ちなみに今回の一明にとっての事件の難易度……「例えるなら……行き慣れた酒場に行って帰ってくるくらい?」でした。

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