次の日……ワトソンはキンジにたいして喧嘩を売るようになった。
例えば金欠のキンジはコッペパンを一つで済ましていたところにステーキ持ってきて食べたり、体育の時間のバレーでスパイクを後ろを向いていたキンジに向かって事故に見せかけながら放ったり……まあ、バレーは咄嗟にキンジがボールを蹴り返して逆にワトソンの顔面に炸裂させたが……
と言うわけで完全にキンジとワトソンは水面下で激戦……と言うかワトソンが仕掛けてきてキンジがあしらってる感じだが……
「そんなに仲が悪いんですか?」
「まあ相当な」
一毅はライカの問いに答える。他にもレキ、更にあかり、辰正、志乃、陽菜に夾竹桃と武偵高校近くのカフェを占領している。
「ふむ、師匠に対するそのような暴挙……許せぬでござる。ここは一つ風魔一族秘伝の毒でワトソン殿には藻掻き苦しませながらポックリ逝って貰うでござるよ」
「秘伝の毒?まさか符丁毒じゃない毒じゃないでしょうね。ならば教えなさい。ワトソンと言うやつで実演して良いから私に見せなさい。私の知らない毒があるのは許せないわ」
「すとーっぷ!」
慌てて陽菜と夾竹桃の暴挙を辰正が止めた。
「それ確実に9条に引っ掛かるよ!」
「証拠は残さぬから安心召されよ谷田殿」
「別に毒の効果を見るだけよ」
「そこが一番の問題と言うか寧ろ武偵としてそれどうなの?」
そんなことを呟きながら肩を落とす辰正を一毅は同情を込めた目で見る。
「でも遠山先輩と神崎先輩特に問題無さそうですよね?」
「そうですね。取り合えず二人なりに決着つけたという感じでしょう」
「…………」
(ああ、嫉妬でほっぺ膨らませるあかりちゃん可愛い……)
志乃はレキと会話しながらも隠しカメラであかりの写真を撮る。
「でもワトソン先輩って結構良い噂聞きますよ?」
「うまく取り入ってるからな。顔良いし一見性格も良好で頭も良い。自分のファンがあっちに流れたってジャンヌが怒ってたし……」
「アハハ……」
確かにジャンヌも同姓にモテる奴なので結構周りに女子が多かったのだが最近減った気はしていたがそういう理由だったのか……とライカは納得しつつ、
「そう言えば理子先輩見ないんですけど休みですか?」
「ああ、何か一昨日ヒルダに会ってから来ないんだよ」
一毅は理子を思い浮かべる。
ブラドの娘とくれば理子とは因縁浅はか成らぬ相手だろう。いや、因縁どころか理子の怯えかたをみたらトラウマといっても過言じゃないだろう。
「んでよ夾竹桃。どうなんだ?」
「何が?」
「理子とヒルダの関係」
一毅の問いに夾竹桃は顎に手を添える。
「ヒルダが……と言うかブラドも含めてイ・ウーに来たのは理子が15の時よ。その時には理子も既にイ・ウー人間であったのだけど今でもブラド達を見たときの怯えかたは覚えてるわ」
プハァーっと煙管から煙を夾竹桃は吐き出す。 未成年だろお前とか色々突っ込みたいところはあったが黙っておこう。
「結果的にイ・ウーに所属したのはブラドだけだったけどその直後に理子は潜水艦から去ってこの武偵高校に入学して帰らなくなった。思えば普段の楽天的な部分は根底にある恐怖を考えないようにするための一種の事故防衛なのでしょうね」
『……………』
「気を付けておきなさい桐生 一毅。ヒルダが来てワトソンが来てタイミングが怪しいでしょ?何か裏があると考えて良いと思うわ」
「え?じゃあワトソン先輩って実は」
「そこまでは言わないわ間宮 あかり。ただ警戒はしておきなさいって言うことよ。少なくともチームバスカービルでは貴方が最強なのよ?いざと言うとき敵に向かって一番最初に斬りかかれる覚悟はしといた方がいいでしょ?」
「ま、そうだな」
一毅は頷く……そして、
「でもな夾竹桃……」
「え?」
一毅は握り拳で夾竹桃の頭を挟む……
「先輩には敬語使わんかい!」
「イーダダダダダダダ!!!!!」
グリグリと頭を締め上げられ夾竹桃は悲鳴をあげた。
「ちょ!この!離しないたたたた!!!」
「いって!付け爪で引っ掻くな!ぬお!何か体が痺れてきたような……」
「残念だったわねぇ。プロレスラーも倒す痺れ薬よ!」
「てめぇなんつう毒仕込んでやがんだ……」
ギャイギャイ一毅と夾竹桃は喧嘩する。
「平和ですねぇ」
「ほんとですね」
他の皆はそんな光景をBGMにケーキを食べ進めた……
「ふぅ」
キンジは銃の整備を終えると息をつく。ベレッタもデザートイーグルも改造銃のため暇潰しには良い。
白雪は合宿だし一毅たちは何処か行ってるしアリアは用事があると言ってた。
「腹へったな……」
何か下のコンビニで買うかと立ち上がると、
「ヤッホー!キー君」
ごく自然に当たり前のように理子が入ってきた。
「ようサボり女」
キンジが言うと理子がテヘっとベロを出す。
「まあまあ。理子はキー君やカズッチと違って成績は優秀なので少しサボったって大丈夫だもんね~」
そうなのだ……こいつは座学の成績も結構良い……腹が立つが仕方ないだろう。
「で?どうしたんだ?」
「はいキー君」
理子はキンジにコンビニ弁当を渡す。
「今カップルサービスしてるんだって~。だから彼氏のキー君にあげる」
「……」
彼氏……と言う下りは否定させてもらいたいがここで理子の機嫌を損ねると弁当がなくなる。
「ありがとな」
キンジはソファに座り直すと理子が弁当ごと一緒にキンジにくっついてきた。
(う……)
理子の体から甘いミルクの香り……アリアと良い白雪と良い理子と良い何で女って良い匂いさせるのだろう……
「はいキー君」
「あ、ああ」
理子から弁当を受け取ると開けて割り箸を割る。
「ま、可もなく不可もなく……平常通りだな」
「雪ちゃんとかカズッチみたいなのを望んじゃダメだよ~」
だからなんで態々
「どうしたのキー君」
「ナンデモナイ……」
だが指摘してもやぶ蛇にしかならない気がするため無言で少し離れる。
「くふ……」
なのに来やがった……
いつも理子はこうやってくっついてくるが今日は何時にも増して激しい気がする。
「……で?何か用か?」
「何かって一緒にご飯食べたいだけだよ~」
「おい……」
キンジの目が細まる。
「……いまヒスってないよね?」
「当たり前だ。でもお前との付き合いは昨日今日じゃない。それにお前が休んだのは昨日からでヒルダってやつが絡んでるのは丸分かりだ」
「…………ねぇキー君……」
理子が撓垂れ掛ってきた。
「胸借りて良い?」
「え?」
理子は返事を聞く前にキンジの胸に顔を埋める。
「理子は昔ブラドに監禁されていたことだ……その時にさ……ヒルダは……あいつは……」
理子の肩と声が震える……
「理子……」
「やっと自由になったと思ったのに……なのに……!」
「理子!」
理子はハッとしてキンジの顔を見る。
「大丈夫だから……何かあったら俺や一毅にアリアだっているだろ?」
「……………」
「何かあったら守るから」
「キー君……」
「と言うわけでそろそろ離れろ……そろそろヤバイ」
ヒス的な意味で……
「……くふふ……やだよー!」
「ちょ!お前!」
理子は髪の毛を使ってキンジを縛り上げると……
「……と言うわけで……キー君をいただきま~「させるわけないでしょ!」ふげぇ!」
そこにアリアがドアをぶち破り乱入して理子をドロップキックで吹っ飛ばした。
「あんたねぇ!少し汐らしいから許してやれば調子乗るんじゃないわよ!」
「ちっ!良いとこだったのに」
「あ!?」
アリアと理子の間にバチバチ火花が散る。
「やっぱりあんたとは決着着けなきゃいけないみたいね」
「くふふ~良いの?理子が勝っちゃうよ?」
二人は銃を二丁抜く……
「…………はぁ」
キンジはよかった反面これから起こる惨劇を想像すると頭がいたくなる。
「片付けもお前らがちゃんとやれよ……」
キンジはベランダにある防弾倉庫に入ると次の瞬間銃声が響き渡る。
(平和だなぁ~)
キンジはこんな状況も慣れてしまった自分に涙しつつ自分の世界に入っていった……