緋弾のアリア その武偵……龍が如く   作:ユウジン

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龍の逆鱗

あの戦いから一週間…ここのところずっと雨だ…

 

「はぁ…」

 

あれ以来レキはいない…と言うか会ってもいない…二度と顔見せるなは言い過ぎたか…と思うもののレキに連絡を取る手段がないことを思い出す。

するとチラシが目に入る。そこにはレキと行ったラーメン屋が新しい大食いメニューを出したと書いてある。大方レキに負けて新しいのを出したのか…

 

「レキ…」

 

お前は今どこに居るんだ…

だがそこに電話が来た。電話してきたのは…キンジ?

「モシモシ…」

『一毅か?今すぐ武偵病院にこい』

「何でだよ」

『レキが入院した!』

「っ!」

 

一毅は自分の血が凍りついたような気がした…

 

 

この件については少し時間を戻そう…

それは池袋にて…

 

「くそ!」

 

木島はケースを蹴っ飛ばす。

肩の傷はすでに治療中…さらに宍戸を初めとした宍戸組には完全に追われる身…どうにかして逃げなければ…いや、その前にあの武偵に何かしらで復讐してやる…

木島には既に冷静な判断能力はなかった。

 

「ん?」

 

するとラーメン屋の前で佇むあのときのガキが居た。

今の格好は私服…

チキリと懐から銃を出す…木島の頬が上がった…

 

 

「…………」

 

レキは一人考えていた…もしかしたら今日の新商品を一毅は食べに来るかもしれない…ここで待っていれば会えるかもしれない…

あれから色々考えた…考え続けて出した答え…部屋にいけばいいだけなのだが顔を見せるなと言われた以上偶々行き先が被ったと言う方がいいだろう…

 

(私は…あなたに言いたい事が…)

 

パン!っと次の瞬間乾いた音が響く。

 

「え?」

 

レキは突然腹に走った痛みに思考が停止した…

ジワリと腹が熱くなっていく…見てみれば腹が紅く染まっていく…

 

「キャアアアアアア!!!!!」

「撃たれたぞ!」

 

周りから悲鳴と驚きの声が上がる。こんな大雨のなかでは人通りも少なかったがそれでも0じゃない…阿鼻叫喚は伝染していく…

 

「は…はは…」

 

目の前には銃を構えた木島が見えた…向こうも驚いている…まさか道路挟んで反対側に居たレキに本当に当たるとは思わなかったのかそれとも撃ってから自分のやったことが恐ろしくなったのか…それは分からないが木島はレキに着弾したのを見届ける路地の方に逃げ出した。

 

「あ…う…」

 

レキは傷口を手で抑え止血に取り掛かる。

死ぬわけにはいかない…死にたくない…

 

「おい!大丈夫か!」

「?」

 

レキに駆け寄ったのはネクラそうな目をした男…キンジと、

 

「大変!」

 

今時番傘と言う変わった傘を持った白雪だ。

 

「いま救急車呼ぶ」

 

キンジは携帯で電話を掛ける。

 

「ちょっと見せて…」

 

白雪はレキの傷に手をかざす…すると痛みが楽になった…だが血はまだ出ている。

 

「大丈夫、助かるよ」

「はい…」

 

レキは歯を食い縛る。

 

「そういや一毅は一緒じゃないのか?最近一緒にいなかったけど…」

「ちょっと…怒らせました…」

 

だから謝りたかった…やり直したかった…だから…死んでしまうわけにいかないのだ…

そしてレキはそのまま意識を手放した…

 

 

一毅が武偵病院についたのはキンジから連絡を受けて三十分後の事である。

乱暴に扉を開けレキの手術中のランプが点いた手術室の前に立つ。

 

「一毅、来たのか?」

「キンジ…」

 

キンジはベンチに座る。

 

「腹部に一発…だが防弾性の無い服の為完全に入っちまってる…」

「………………」

 

一毅もキンジの隣に座る。

 

「くそ…」

 

一毅の手が強く握りすぎてミキミキ言う。

 

「落ち着けよ一毅」

「落ち着いてられっか!!!!!」

 

怒鳴ってから一毅はハッとなる。

 

「わ、悪い…八つ当たりしちまった」

「いや、今のは俺も不用意だった…軽々しく落ち着けなんて言うもんじゃねえ…」

 

すると、

 

「あ、カズちゃん」

「白雪…」

「はいタオル…濡れててすごいよ」

「ありがとな…」

 

白雪からもらったタオルで頭を拭く。

 

「それで誰なんだ?」

「すまない…俺と白雪は銃声を近くで聞いて行ったが既に犯人は…」

「木島だ…」

『っ!』

「光一さん…」

 

突然声をかけられキンジと白雪は驚くが一毅は気にしない。

 

「済まんかった」

 

そこに宍戸も現れる。

 

「………あんたのせいじゃ…」

「いや…ワイがあいつの本性見抜けんかったからや…そのせいでお前の女傷つけた…詫びのしようもあらん!済まんかった!」

 

宍戸は頭を地面に叩き行けるように土下座した…

すると手術中のランプが消えた。

 

「ふぅ…」

 

救護科(アンビュラス)の矢所呂 イリンが出てきた。それに続いてレキもベットから運ばれてきた。

 

「手術は無事終了…内蔵もキズはないしもう大丈夫だ」

 

そう言うと一毅を見る。

 

「じゃあ彼氏君は少し一緒に居てあげなさい」

「はい…」

 

一毅は病室に入っていった。

 

 

「…………」

 

一毅はレキのバイタルサインの音だけを聞きながらジッとしている…

だが心の中では怒りが渦巻いていた…

 

「う…」

「レキ…」

 

一毅は身を乗り出して顔を見る。

 

「一毅さん…」

「大丈夫か?」

「……よ…」

「え?」

 

レキが何か言ったみたいだが聞こえなかった…するとレキは一度息を吸う…

 

「今度は諦めませんでしたよ?」

「え?」

「今度は…足掻きましたよ?」

「お前…」

 

一毅は俯く…

 

「だから…もう諦めませんから…一緒にいさせてください…」

「レキ…」

「…一毅さんには嘘をついていました…」

「何?」

「風が命令したといました…でも一毅さんと一緒になれと言われたとき…嬉しかった…」

「何で…」

 

一毅には分からなかった…

 

「女を守るのは…男の義務みたいなもんだ…」

「っ!」

 

一毅は驚く…忘れもしない…その言葉は自分が試験の時に言った言葉だ…

 

「すごく嬉しかった…いえ、嬉しいと言う心もその時にあなたが教えてくれたんです…他にも貴方はどんなときでも私を女扱いしてくれた…行きなり押し掛けたのに貴方は何だかんだと彼女扱いをしてくれた…」

「……」

「だから同時に風に言われるがままに死のうとして貴方に拒絶されたとき…悲しかった…」

「それは…」

 

冷静に考えればレキだけが悪いんじゃない…そんな命令を出す風も…

 

「いえ…それから考えたんです…私はどっちでいるべきなのか…前回のことで貴方から離れるように言われています…でも考えました…そして決めました…」

レキはそこまで言うと自分の手を一毅に手と重ねる…そしてジッと一毅の目を見る…その目には一週間前とは違いレキなりの強い意思が宿っている…

 

「私は…桐生 一毅さん…貴方とずっと一緒に居たい…一緒に笑って…一緒に泣いて…悔しがったり…他にも普通の恋人同士みたいに一緒に手を繋いで登校したり…キスしたり…そんなことがしたい…駄目ですか?」

 

レキも目には…必死で…どこか怯えている。

誰かじゃない…只のレキが言ってることが分かる…

 

「……………」

 

一毅はそっと手を離すと立ち上がる。

 

「ちょっとだけ待ってくれ…」

 

一毅は背を向けるとドアに手を掛ける。

 

「ちょっくら俺の女を撃った木島(カス)を後悔させてくる」

「………帰ってきますよね?」

「当たり前だ…だから返事も保留してんだ」

 

まあほとんど答えてるようなもんだけどな…等と自嘲気味に笑うと一毅は病室を出た。

 

 

「よう、俺ですらヒスッてたって言いそうにない台詞はいてきたな」

「うるせぇ…」

 

すると光一が立ち上がる。

 

「木島の居場所は既に掴んである。今回は金は要らねぇ」

 

次に宍戸が立つ。

 

「ほんまはワイがあいつやりたいんやけどまあお前に頼むわ…」

「ええ…」

 

最後に白雪が一毅に袋を渡す。

 

「はい、おむすびだよカズちゃん。腹が減っては戦はできぬだからね」

「白雪…」

 

これでキンジが絡んだときの暴走がなければ最高なのだが…

 

「木島はいま単独で行動中だ、他の奴の邪魔は気にしなくていいだろう」

「はい」

 

一毅は制服のネクタイを締め直すと、

 

「じゃあちょっと行ってきます」

 

一毅は病院を出た…

 

 

「へへ…ざまぁ見やがれ…この木島様を舐めるからあんなことになるのさ…」

 

木島はいまとあるホテルのスウィートルームにいた。既に逃げる準備をしている。あとは逃げるだけだ…そう考えながらバックに金を詰め込み背負う。

 

「あの女が死んであの男も悔しがってるだろうな…ひひ!」

 

木島はレキが死んだと思っているらしい。

だがそこに窓が割られる音が響く。

 

「へ?」

 

そこには窓で頬を切ったらしく血を軽く流した一毅が立っていた。

 

「よぅ…」

「お、お前!」

 

木島は腰を抜かす。だが一毅はそれを気にせず木島の方に向かう。

 

「く、くそ!」

 

木島は銃を抜き撃つ。

 

「ラァ!」

 

だが一毅は殺神(さつがみ)を半分抜いて弾く。

 

「ひっ!」

「てめぇはやっちゃなんねぇことをしたんだ…」

 

一毅の体から深紅のオーラが漏れ始める。

 

「ま、待て!か、金をやる!武偵は金で動くんだろ?なら幾らだ?あんな女よりいい女が買えるぞ?」

 

木島は一毅の最後に残った理性をぶっ壊した。

 

「んなもんいるわけねぇええだろうがぁあああああ!!!!!」

 

一毅の体から深紅のオーラが完全に出る。

これの名は【二天一流・絶技 怒龍の気位(どりゅうのきい)】又の名を【レッドヒート】…これは人間の限界以上の力を引き出すヒート…100を限界とするなら感情次第では200も300も引き出す…その分反動もでかく一毅も今まで意識的には引き出せていない。だがこれは激しい感情の揺らぎで現れる…木島の一言がどれだけ一毅の逆鱗に触れたか。それは推して知るべしだが…正しく今の立場は猫どころがライオンに睨まれたハムスターと言ったところだろう…

その証拠に木島はガクガク膝を震わせ失禁している。

 

「二天一流…」

 

そしてこれは今までのヒートが身体強化だけでなかったようにこれも二天一流の技を出すための前段階…この状態から出すのは二天一流の絶技…拳・一刀・二刀・小太刀・大太刀の五つの絶技のうちこれは拳の絶技…

一毅は歯を食い縛り拳を握る。

 

「絶拳…」

「ま、まって…」

 

一毅には既に木島の声は聞こえていない…やることはひとつ…こいつを気の済むまで殴ることのみ…怒りなどと言った激情をトリガーとしたこの【怒龍の気位】はこう言った一歩間違えれば殺してしまいかねない心も生まれる。だがそれだけは自制する…レキに…殺した手で触りたくないから…

 

龍翼ノ陣(りゅうよくのじん)!!!!!」

 

次の瞬間木島の顔に一毅の拳が刺さる。

 

「ぶべら!」

「ウォォォオオオオオオオ!!!!!」

 

一毅は反対の拳で殴る…

 

「ぶふっ!」

「ウォラウォラウォラウォラウォラウォラウォラウォラウォラウォラウォラウォラウォラウォラウォラァアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」

 

眼にも止まらぬ凄まじい早さでの乱打が次々木島に刺さっていく。

 

「ゴバブビブベゴバブフビヒハフ!!!」

 

木島は完全にサンドバックとなりいつの間にか壁に追い込まれる。だが一毅の怒りの乱打は今だ止まらず…

 

「ご、ごべんなしゃ…ぶべら!」

「ウォオオオラァア!」

 

一毅の渾身の右ストレートが木島の意識を刈り取った…


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