緋弾のアリア その武偵……龍が如く   作:ユウジン

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龍達の逃走

チュイン!っと風を切りながら一毅の足元に穴が開く。

 

「アブね!」

「そこの森に逃げるぞ!」

 

突然の狙撃だがそれくらいであれば武偵であれば日常だ。だが気になるのは敢えて相手は外してると言うことだ。

 

「恐らくこの森に誘い込みたかったんでしょう」

 

レキがドラグノフを抜く。

 

「相手は自尊心が高いようです。ここに誘い込んで私と対決が望みでしょう」

「何でそう言いきれるの?」

「簡単ですよ理子さん。先程から相手は一毅さんのみを集中的に……それでありながら完全に当ててはいない。つまり当てようと思えば簡単だと暗に言いながら同時に一毅さんを狙うことで私へ挑戦しています」

 

木に隠れながらレキはドラグノフをリロードする。

 

「ならば受けましょう。どちらにせよこの狙撃の中を搔い潜りながら逃げるのが難しいでしょう」

 

そう言いながらレキは懐からカロリーメイトの箱を出して中身を手に取る。

 

「持っていてください」

「う、うん」

 

アリアにカロリーメイトを渡すと空になった空き箱を放り投げた……そして次の瞬間、

 

『っ!』

 

空き箱に穴が開いた。

 

「方角は北東やや高い場所から撃ってますね。距離は2180メートル」

「お前より大きいじゃねえか」

 

一毅が驚く。レキの狙撃の距離は2050メートル……この距離だって武偵高校内ではトップだ。それを上回るとは……

 

「大丈夫です。空き缶の中心部に当てられなかっただけで2180メートル位なら何度か撃ってます」

 

レキの目が細まる。

 

「本来なら相手が油断するのを時間を掛けて待ちたいところですが相手の戦力が未知数です。短期決戦と行き狙撃主を撃破後ここを離れましょう」

「そうだな」

 

キンジも同意した。

 

「では……」

 

レキがドラグノフの引き金に指を掛ける。

 

「ここは暗闇の中 一筋の光の道がある 光の外には何も見えず、何もない私は光の中を駆けるもの……」

 

レキは何時もの暗示を掛けると一気に飛び出す。

 

「っ!」

 

発砲音と共にレキが後ろに倒れた……

 

「レキ!」

「だい……じょうぶです……」

 

レキがコメカミを抑えながら立ち上がる。ドロっと血が出る。

 

「敵の狙撃銃を破壊しました。もう大丈夫です」

 

一毅が手拭いでレキの傷口を抑える。

 

「とにかく逃げるぞ。レキの治療もここじゃ危険だしな」

 

キンジが言うと皆はうなずく。なので一毅がレキを背負い脱出に動き出そうとした……だが、

 

「おおっと~ここからは行き止まりだ」

「止まれ」

 

そこに現れたのは二人の男……一人は眼帯にジャケットとジーンズと言う出で立ちに長刀に近い形の鞘に仕舞われた剣を肩に乗せている男……もう一人は鼻を掛けて両頬へ通った横一文字の傷が特徴的で服装はTシャツにスラックスだ。武器は両の腰につけたククリ刀と言ったところだろう。

 

「あ~どうせここの正体はそこの峰 理子から聞いてるだろ?だけど自己紹介はさせて貰うぜ?俺は夏侯僉(かこうせん)……お前らにはこう言った方が良いか?三国志で曹操の配下だった夏侯惇の子孫だ」

「なに……」

 

一毅の驚愕も他所にもう一人が名乗る。

 

「俺は周岑(しゅうしん)……周泰の子孫と言えばわかるか?」

 

確か周泰は呉の孫権の配下だった男だ。

 

「まさか香港藍幇には三国時代の子孫がいるのか?」

「結構な。まあ言っとくが今は先祖の出自が蜀とか呉とか魏とかでごちゃごちゃだぞ?」

 

夏侯僉は言う。

 

「まあ無駄話の時間はない。お前たちには投降して貰う。手荒な真似はしたくない」

「言ってくれるじゃん。たった二人でさ」

 

そう理子が言うが警戒している。気付いているのだ……この二人は高い実力を持っている。油断すれば負傷者を抱えているこちらでは不利だ。

 

「抵抗しても良いが極力生け捕りしろって言われててな。できればして欲しくないんだが?」

「生け捕り?」

 

あんなことをしておいて生け捕りが狙いとは……どういうわけだ?

 

「分からないようだな。とは言え説明する義理はない。後でココにでも聞け」

 

そういった周岑はナイフを抜く。

 

「ま、大人しくはなさそうだし仕方ないな」

 

夏侯僉も剣を抜いた。

 

「アリア、理子……レキを頼む」

 

一毅はレキをアリアと理子の二人に預ける。

 

「さて……どうす……――っ!」

 

キンジたちが周りを見ると幾つもの眼光……

 

「犬か!」

「残念狼だ。お前ら襲うように調教されてるけどな」

 

グルルルと牙を剥き出しにする。

 

「ちっ……」

 

皆は構える。

 

「やるしかないか……」

 

狼とこの目の前の男達を何とかしなければ逃げ場はない。

 

「耳を……塞い……でくだ……さい」

 

レキの呟き……何故?と聞く必要はなかった。キンジたちはその言葉のままに耳を塞ぐ。

 

『っ!』

 

その動きをみた夏侯僉と周岑もとっさに耳を塞いだ……対したものだ。中々こうは行かない。そして次の瞬間爆音……衝撃波も光もない。ただの巨大な音が辺り一体を包んだのだ。

レキが使ったのは武偵弾の音響弾(カノン)……人間は良い…どうす生物のなかでは比較的耳が聞こえない種族で耳を塞げる……だが、

 

『キャイン!』

 

突然の爆音に狼たちは(ひきつけ)を起こし倒れた。耳の良さが災いしたのだ。

 

「あとは任せます」

 

レキの声を背に次の瞬間一毅とキンジは跳躍……

 

「やべっ!」

「くっ!」

 

反応が遅れた夏侯僉は一毅の拳が顔に刺さり、周岑はキンジの飛び回し蹴りで吹っ飛んだ。

その隙にアリアと理子はレキを連れて戦いの場を離れる。

残るのは一毅とキンジと夏侯僉と周岑だけだ。

 

「流石にいってぇな」

「もっと痛くしてやるよ」

 

夏侯僉が構え直すと一毅も殺神(さつがみ)を抜く。

 

「お前の相手は俺か?」

「そうなるみたいだな」

 

周岑の問いにキンジは答えながらナイフと銃と蹴りの構え……そして今は甘く掛かったヒステリアモード……

 

(かなりキツいことになりそうだが……やるしかなさそうだ)

「行けるかキンジ?」

「まあ何とかするしかないだろ?」

 

ここを通せばアリアたちも危険なのだ。

 

「ならやるぞ!」

「おう!」

 

次の瞬間一毅とキンジは走り出した……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「らぁ!」

「ふん!」

 

一毅と夏侯僉の刃が激しくぶつかりあい火花を散らす。

 

「くっ!」

「ちぃ!」

 

押し合いになるが素早く夏侯僉切り返しながら左手に持った鞘で一毅の頭を狙う。

 

「っ!」

 

一毅は上半身を逸らして躱すがそこに夏侯僉は蹴りを放って狙う。

 

「ぐっ!」

 

一毅の脇腹にめり込んだ蹴りは一毅のバランスを崩すのには十分でそこに夏侯僉は剣を振り下ろす。

 

「っ!」

 

一毅は素早く神流(かみなが)しを抜いて弾くと二刀流で相対する。

 

「面倒だな……」

 

夏侯僉の剣は初めて見る形だった。

剣だけではなく鞘も使い蹴りも放つ。キンジの型に似ているが純粋に剣術として昇華させた物は初めてで戦いにくい。

 

「中国はそれこそてめえらが石を削って斧とか作ってた時代には既に鉄を加工して剣を作っていたんだぜ?同時に武も作り始めた。お前の剣術だって精々200年ちょっとが限界だろ?だけど中国は四千年の歴史があるんだ。格が違うぜ」

「長けりゃ良いってもんじゃあるまい」

「武の研鑽は長い方がいいぜ?」

 

そういった次の瞬間夏侯僉の突進からの鞘での突き…それを一毅は躱し切り返すが剣で防がれ蹴りが放たれた……だが一毅もそれを足で止めると頭突きを撃ち込む……

 

「がっ!」

「日本の歴史舐めんな中国四千年の歴史!」

 

夏侯僉は後ろに後ずさった……が、

 

「効いたぁ~……」

 

ニヤリと笑いながら夏侯僉は一毅を見る。

 

「面白くなってきたじゃねえか」

「タフな野郎だぜ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………来ないのか?」

「隙探してんだよ……」

 

キンジと周岑の戦いは一毅たちと違い派手さはなく静かな物だった。だが……

 

「来なければいくぞ」

 

その沈黙を周岑は破った。

 

「っ!」

「ふっ!」

 

周岑のククリ刀がキンジの首を狙う。

ククリ刀とはくの字に曲がった刀身で内側に刃があるのが特徴でインドのネパールに伝わる大型の湾刀と呼ばれる刀剣に分類される。

どちらかと言うと切れ味よりも重さで叩き斬るに近い切り方で斬るものであり作りによっては非常に頑丈だ。

そして周岑の両手に持っているククリ刀は二本とも頑丈だ。

 

「ちっ!」

 

キンジは体を捻って躱すと周岑の顎に蹴りを放つ。

 

「しゅっ!」

 

だがそれを周岑も顔を引いて躱しククリ刀を振り上げる。

 

「うぉ!」

 

キンジはバタフライナイフで防ぎながら発砲……

 

「っ!」

 

周岑が着ていた服は防弾仕様だったようで痛みを与えるにとどまったがそれでも一度歩みを止めさせた。だがそれでも……

 

(強い……)

 

キンジは冷や汗を流した。今までの攻防は全てギリギリの綱渡り……なんとか凌いで銃で動きを止めたもののダメージと言うにはあまりにも心細い……

 

「ベレッタは……」

 

周岑が口を開く。

 

「痛いことは痛いし効かないわけではない……だが……」

 

口径が自分を相手にするには小さい……と言う。

 

「…………」

 

キンジは視線を返すだけにした。それに関しては少し考えていた。ベレッタは今や自分の相棒で手にも馴染んでるし使いやすい。だがアリアとの決闘?やシャーロック戦にてもう少し銃の威力が欲しかったのもまた事実なのだ。

まあその辺に関しては一応対策を高じたが今は無い。無い物ねだりしても仕方ないのでキンジは構え直す……

 

(さて……一毅の方も膠着状態だしこっちも決め手がない訳じゃないが……まだ練習中だし甘ヒスではまず無理だ……)

 

だがそこに突然キンジの顔の真横を何かが通った。

 

「なっ!」

「そこまでです」

 

キンジの背後には和弓を構えた黒髪のスラッとした美少女……キンジには見覚えがあった。確か……

 

「ええと確か……風雪?」

「はい、お久しぶりです。遠山さま」

 

白雪の二番目の妹である風雪はキンジを一瞬見ると夏侯僉と周岑をそれぞれみる。

 

「ここは退いていただきましょう。それとも藍幇はフライングした上に星伽と一戦を交えますか?」

 

そう言うと森の暗闇から気配を感じる……星伽神社の方には白雪の一家以外にも多くの巫女がおり全員戦闘能力が高い。

 

「ちぇ!」

 

夏侯僉は剣をしまう。

 

「行くぞ周岑」

「……ああ」

 

二人はそのまま森の中に消えていった……

 

「……ふぅ~」

「大丈夫かキンジ」

 

一毅がキンジに駆け寄る。

 

「ああ、風雪のお陰だ」

「ん?おお~白雪の」

「桐生様もお久し振りです」

 

そこにドドドドドドド!!!!!!!!と砂塵を上げながら人が走ってくる。

 

「キィイイイイイイイイイイ!!!!!!!!ンンンンンンンンンンン!!!!!!!!ちゃああああああああああああん!!!!!!!!!!!!!!!!」

「しらゆごうっふ!!!!!!!!」

 

走ってきた白雪に体当たりに近い抱きつきを喰らったキンジは変な声を出した……

 

「キンちゃん大丈夫!?怪我はない!?斬られてない!?撃たれてない!?殴られてない!?蹴られてない!?投げられてない!?」

「だ、大丈夫だって」

 

キンジがどうどうと手を出して白雪を制止する。

 

「でもなんで……」

「うん……さっき銃声やすごい爆音が聞こえたって騒ぎになって調べたらそこにはキンちゃんにつけておいた発信器が反応――もとい嫌な予感がして占ったらキンちゃんが危機って出て大急ぎで来たの」

「そ、そうか……」

 

なんか前半の部分でとんでもない言葉が出掛けた気がしたが気にしないでおこう。

 

「ありがとな。白雪」

「良いんだよカズちゃん。キンちゃんの危機だったもん」

 

主軸そこですか?一毅は突っ込みたくなったがスルーだ。

 

「あ、あとレキさんは星伽神社で匿ったからね?お医者様も呼んだしもう大丈夫だよ」

「そうか……良かった」

 

一毅は刀を仕舞いながら一息つく。

 

「とりあえず二人も星伽神社の社に行こう。事件の話も聞きたいしね」

「ああ」

 

キンジがうなずくと白雪の案内の元数年ぶりに星伽神社に向かった……


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