「…………」
ライカは穴があったら入りたい気分だった……無いならすぐそこに見える海に飛び込んでどこまでも遠くまで泳いで逃げたかった……まあそれをやろうとしたら一毅に捕まったが……何せ彼氏の父親に初対面でカツアゲ犯(内心では最初強盗かその筋の人かと思った)扱いしてしまったのだ。
「気にすんなよライカ。この人いつもそういう風に言われてるから慣れてるよ」
「そうですよ。私なんか初めてあったときは鬼と間違えましたから」
「まあ鬼みたいに強いけどな」
一毅とレキがフォローする。
「別に気にするなよライカちゃん。俺は気にしてないから」
「は、はい……」
それでもやっぱりライカは罪悪感があった。
「て言うか親父は堅気じゃないしな」
「今は堅気だ!」
「あが!」
一毅が言うと一明は拳を飛ばした。
「いってぇな!ちゃんと運転してろよ!」
「ハンドルは離してないから安心しろ」
「そう言う問題じゃねえ!」
「仲良いですね」
「ええ」
ギャイギャイと仲良く喧嘩する二人を見てレキとライカは笑った……
「よし着いたぞ」
孤児院【アサガオ】は目の前が浜辺ですぐそこに海が見える。そのため比較的涼しいし遊び場にも困らない。更に裏は道場にいる。だから立地条件最高で数十年前のある日に巨大な陰謀渦巻く土地買収事件に今は亡き一明の父……と言うべきか一毅にとっては祖父に当たる男である桐生
(なにやってんだうちのじいさんは……)
一毅と一明は荷物を持ちながらアサガオに入る。
「今帰ったぞ」
一明が入ると……
「一毅兄ちゃんが帰ってきたぞ!」
「すっげぇ!ホントにもう一人いる!」
ワラワラと子供達が出てきた。
「まずいれろー!」
一毅が叫ぶと皆で入っていった。
「まず年長組からな」
そう言って髪を下ろした一番年上の女の子。
「澤村 遥です。今年で15になります」
次に細身の少女がたつ。
「綾子です。中学では陸上部をしています。今年で14になります」
次にガタイのいい男子。
「太一だ。将来はプロレスラーになること!今年で12だ!」
次に整った顔立ちの男子、
「宏次です。運動全般が得意です。今年で12になります」
次はハーフと思われる男子、
「三雄です。警察戦隊ピーポニャンが好きで、今年で11になります」
続いて少し暗い女の子、
「エリです……11です」
次にこの暑い時期に長袖の少女、
「理緒奈です。11になります」
次に眼鏡をかけたヒョロっとした男子、
「志朗です。医師になるのが夢です。今年で10になります」
最後にちょっとわがままそうな女の子、
「泉です。犬が好きです。今年で10歳です」
そしてライカも自己紹介する。
「一毅先輩とは同じ学校の後輩の火野 ライカです」
緊張した声音でライカは言う。すると、
「じゃあお部屋に案内しますね」
「じゃあ俺たちは荷物持ちする!」
「レキさんも行きましょう」
子供たちに連れていかれた。基本的にあの子達は聡い……何故ならあの子達は裏切られたり親に先立たれたりと年に合わない事件に対面してきた。そのためか相手の人間の感情に対してひどく敏感でありその分信用できるとわかった相手にはとことん信用を捧げられる。良いことか悪いことかは分からないがどちらにせよライカはあの子達の信用を勝ち取れたと言うことだ。それが分かっていた一毅は心配してなかった。
「ふむ……」
すると一明は荷物を置きつつ、
「強襲系か……銃は長銃で連射タイプ……後近距離用にトンファーでCQCが得意だな。格闘もいけるな」
「え?」
「ライカちゃんだよ。目も良いみたいだし耳も良さそうだ。背も大きいから大概の男子じゃ相手にもならんだろう。近いうちA……きちんと誰かを師事すればSは楽勝だな。しかしアサルトライフルは俺は苦手でな」
「へえ銃弾は全部弾けば問題ないとか豪語したあんたがね」
「流石にアサルトライフルは弾ききれねえから避けるよ」
「……」
問題そこだろうか……?
「さ、流石元武装検事様だねぇ」
「これくらいの戦力分析は出来た方がいいぞ。ただあの子は……ん?」
そこに誰かが帰ってきた。まあ今帰ってきてなかったのは一人だ。それを聞き付けて皆も降りてきた。
「ん?ああ、貴女が火野 ライカさん?」
「あ、はい……」
ライカは息を飲んだ。
穏やかな瞳……ほっそりと背は高くでも出るところは出ている。どれくらい高いかと言うと170前後のライカと視線が同じところにある。だが全体的な雰囲気はゆったりとしている。何と言うかオーラ自体は日常生活のレキに似ているが見た目はライカにも少し似ているような気がした。
「初めまして、一毅の母親の桐生 由美です」
「び、美人……」
ライカが呟いてしまうと由美は笑う。
「ありがとう。さ、ご飯作……」
「よし、俺が作るから任せろ」
一明がストップをかけた。
「良いじゃない。たまには作らせてよ」
「お前はライカちゃんに来て早々トラウマ植え付けるのか?」
そう、一毅の母親の由美は料理が
「今夜は沖縄料理を腹一杯食べさせてやるからな」
一明はエプロンを着けつつ言う。
「そうだ、一毅。丁度良いから少し近所案内してやれよ。一時間くらいで帰ってくれば良いから」
「あ、うん。行こうぜレキ、ライカ」
一毅は二人を連れて外に出た……
「あれが琉球街だ」
「へぇ~賑やかですね」
一毅たちは商店街に来ていた。
「あれぇ?一毅じゃねえか」
「あ、八百屋のおっさん」
一毅は声をかけてきた男の方を見る。
「なんだいさっき由美さんがえれぇ量の食材買っていったがお前が来て……おお!両手に花かよ!しかも去年見てねえ子がいるし!」
「はは。でしょ?」
「かぁー!羨ましいなおい!うちの母ちゃんと交かあが!」
八百屋の親父は背後から飛んできたボウルで頭を強打して倒れた。
「何だってあんた!……あら、一毅君も来てたの?」
「あ、おばさん久し振り」
「あらあら去年の子と初めて見る子ね。どっちも可愛い子連れて~青春してるじゃない」
「おばさんもおじさんと仲良いままだね」
「なーに言ってんの!この解消無しは困ったもんだよ!」
「んだとこのアマァ!」
「あ?」
「イ、イエナンデモナイデス……」
おじさんは仕事に戻った。
「今度は買いに来ます」
「待ってるよ!」
三人は歩き出す。すると今度は、
「お?坊主じゃねえか」
「名嘉原さん!」
突然声をかけて来たこの男は
「なんだ?お前別の女も引っ掛けたのか?」
「まあ……」
「ふ、良いじゃねえか!ちゃんと大事にしろよ?そう言うのはきっとお前の力になる」
そう言って名嘉原はライカを見る。
「そっちの嬢ちゃんにもいったがよ。こいつを頼むぜ?
「い、いえ……」
名嘉原の器に圧されつつもライカはしっかり頷いた……
「でも一毅先輩ってこっちにもヤクザの組長さんと知り合いなんですね」
「祖父ちゃんの義弟なんだよ。いまだにうちには色々力を貸してくれてさ」
「一毅さんのお祖父さんですか……色々武勇伝がありそうですね」
「んー……昔戦争に出てたことがあるのは知ってるけどあんまり知らないんだよ。俺の物心がつく前に死んじゃったし……ただ親父が言うには今でも祖父ちゃんには戦っても勝てる気がしないってさ」
一明の強さであれば一毅も身を持って知ってる。その一明に未だに勝てないと言い占める祖父……一つだけ知ってるのはキンジの祖父と色々ヤンチャしてたらしい事くらいである。後チラッと聞いたが土地買収事件で祖父は東京の総理官邸までキンジの祖父を連れて行って待ち伏せていた今で言う公安0課(昔はもっと仰々しい名前だったらしい)や武装検事達と大立ち回りを繰り広げた挙げ句全員積み木みたく積み上げて堂々と総理まで謁見して土下座させて事件を強制的に収束させたらしい。
因みにそれに関しては一明は口が重いためキンジの実家に居候させて貰ってた際にキンジと一緒にキンジの祖父に聞いたところ……
「あ~……そんなヤンチャもしたような気がする」
と言う返事が帰ってきた。国相手に喧嘩してもヤンチャ程度なのが怖かった。因みに後に二人は捕まらなかった。そりゃそうである。たった二人に警備全滅させられて総理に土下座までさせられたのだ。そんなもの闇に葬るしかなく一心は平穏な日々を過ごせたらしい。
(無茶と言うかバカと言うか……)
何時かそんな事態になったら……自分達では死ぬ。
因みにそれを話したらレキとライカにドン引きされた。
そりゃもう人間を見る目ではなくなった。
「流石一毅さんのお祖父さん……人間ではないですね」
「あと流石キンジ先輩のお祖父さん……こっちも人間じゃない」
「えー……」
一毅はガックシと肩を落とす。
「俺は人間だって……」
一毅の呟きは二人には聞こえなかった……
気が付けば総合評価が100を越えていた……スッゴク感動し得ます。これからもよろしくお願い致します。