緋弾のアリア その武偵……龍が如く   作:ユウジン

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第六章 最強の名探偵
龍と金の殴り込み


「初めまして……だろうね。まあ君たちは僕の顔を知っているだろう。あ、これは別に自意識過剰とかではなく僕の場合映像や書籍……更には伝承と言う形で知られているからね。だが一応礼儀として名乗らせて貰おう。私はシャーロック・ホームズだ。現在はイ・ウーの艦長をしている」

『………………』

 

誰も動けなかった。アリアに至っては呆然と座り込んでしまい動けなくなっていた。

いや、正確にはパトラはカナが徹甲弾(アーマーピアス)で撃たれた直後に駆け寄り何かしていたがカナとパトラ以外はシャーロックから目を離せなかった。

あり得ない……と言うのが第一感想。生きているとしたら一体この男は今いくつだ?しかもアリアの曾祖父の筈なのに見た目は20代……だがそれを全て否定するには……彼と言う存在がでかすぎた。

立ち振舞いや喋り口調は英国紳士と言った風情だ。なのに体から放つ覇気……それは人間ではないような気がした。

すると同時に周りの温度が下がり始める。

 

『っ!』

 

足元に氷を作りそれを悠々と歩くその様は誰もの目を奪った。

そしてスッと音もなくボートの上に降りる。

 

「アリア君。君を後継者として迎えに来た」

 

手を差し出しながらシャーロックはアリアに近づいていく。

 

「君にイ・ウーをあげよう。さすれば母親の件も解決する」

『っ!』

「んの!!!!ふざけんな!」

「ちっ!」

 

動き出したのはキンジと一毅。キンジの蹴りと一毅の拳がシャーロックに迫り……二人の視界が反転した。

 

『え?』

 

投げられた……そう判断するのに少々時間が掛かった。

 

「若さゆえに戦力比が分からないのは仕方がないが今は少し通してもらうよ」

「この!」

「たぁ!」

 

ライカと佐々木が間合いを詰める。

 

「やぁ!」

 

佐々木の横凪ぎを手に持っていたステッキの先で止める。

 

「らぁ!」

 

ライカのトンファーは首を横に倒して躱すと足を払ってライカ転ばせその上に佐々木を投げる。

 

『がっ!』

「志乃ちゃん!ライカ!」

「くぉおおお!」

 

間宮と辰正が走り出す。

間宮は体の中の電磁パルスを集約……同時に増幅させてシャーロックに放つ。

辰正も体から深紅のオーラ(レッドヒート)が僅かに出ると、

 

鷹捲(たかまくり)!!!!」

「俺流 流星タックル!!!!」

「はぁ!」

 

迫る二人のうちまず辰正をシャーロックは軽く蹴り飛ばす。その技術はキンジが使う【カウンターキック】に酷似……いや、そのものだ。

 

「ふっ!」

 

更にシャーロックは間宮の一撃は余裕綽々と言った雰囲気で避けるとそのまま海に落とした。

 

「そんな……鷹捲(あれ)を避けるなんて」

「残念だが君の動きは見えていたからね。それに触ると痛そうだ」

「ここは暗闇の中 一筋の光の道がある 光の外には何も見えず、何もない私は光の中を駆けるもの」

 

レキは暗示と共に銃弾を発射……だがシャーロックの狙撃銃が同時に発射され弾かれると次の瞬間レキの首筋を叩いて気絶させた。

 

「アリア君。君はちゃんとホームズ家の淑女としてその髪型を守っていたようだね。嬉しいよ」

 

圧倒的……としか言いようがなかった。窮鼠猫を噛むなんて言う言葉があるがシャーロックとの戦力比はアリと巨像……いや、ヘタしたらティラノサウルスとかそんなレベルかもしれない。

 

(これが偉人……)

 

キンジや一毅、佐々木にレキや風魔のような子孫ではなく偉人本人……

 

「さあアリア君。都合が良ければおいで、悪くても……おいで」

「あ……」

 

アリアはまさにされるがままと言った感じでそのままシャーロックに抱き上げられるとそのまま潜水艦の方にいってしまう。

 

 

 

 

 

「ふざけるな……」

 

キンジは呟く。

 

「む?」

「ふざけんなシャーロック……」

 

キンジは立ち上がる。だが持つ雰囲気が違う。一見ヒステリアモードに近いが明らかに違う。それはシャーロックや隣にいた一毅だけで無く後ろにいた一年生達も感じており震えていた。

まるで獣……野獣の如きその雰囲気は力強さと同時に危険さを感じさせる。

 

「アリアから……手を離せ」

 

キンジも自分の変化に驚きつつも関係なかった。今のキンジにはアリアを奪い返すことしか頭にない。そのためならどんな危険でも犯せる気がした。

更に同時にキンジの視界が変わる。

今なら見える……シャーロックの動きが、

 

「ほう……やはり君もその眼を持っていたか」

「ふん、まるで全部俺は見抜いてますと言わんばかりだな」

 

一毅も立ち上がりながら見据える。

 

「ああ、卓越した推理は何時しか推理越えて予知に変わる。僕は条理予知(コグニス)呼んでいるよ」

「そうかよ」

 

すると、

 

「シャーロック……遂に時が来たな……」

「っ!」

 

カナが……いや、声からして金一に戻っている。

 

「待て金一!傷が……」

「いいんだパトラ……これ以上治すな」

 

バッと服を脱ぎ捨てると黒のアンダーウェアに身を包んだ金一に変わる。

 

「兄さん……?」

 

同時にキンジは気づく。今の金一はヒステリアモードだ。だがカナになることでしかヒステリアモードに成らなかった(パトラでも成ったがあれは例外だ)金一が……しかもトリガーであるはずの性的興奮をしてはいないはずだ。

 

「キンジ、お前は知らないだろうがヒステリアモードにはいくつかの派生がある。普段のはヒステリア・ノルマーレ。そして今の俺のはヒステリア・アゴニザンテ、通称死にかけの(ダイニング)ヒステリア……お前達もこの力は一度見たはずだ」

「ブラドのことか?」

 

金一はうなずく。

確かに魔臓を撃ち抜いた後に急な覚醒をした……あれがヒステリア・アゴニザンテだったのか……

 

「そして今のお前はヒステリア・ベルゼ。女を奪うヒステリアだ。ノルマーレの凡そ1.7倍の力を持つがその分攻撃思考になり性格が凶暴化する。気を付けろ、飲まれるぞ」

 

そう言って立ち上がるとコルトSAAを抜く。

 

「キンジ、一毅……合わせろ」

『っ!』

 

それに呼応するように一毅は腰を落とし殺神(さつがみ)に手を添え、キンジもベレッタを抜く。

 

「お前らはここに居ろ」

 

一毅の言葉に一年生達は頷く。

邪魔にしかならないのは今の一戦で明らかだった。

 

「いくぞ!」

『おぉおおおおおおお!!!!』

 

キンジと一毅は金一に続き走り出した。

 

 

 

 

 

 

『うぉおおおおお!』

 

金一とキンジは銃を乱射する。

 

「っ!」

 

それを狙撃銃で全て銃弾撃ち(ビリヤード)でシャーロックは弾きつつ二人に銃口を向け撃つ。

 

「はぁ!」

 

キンジはベレッタをフルオートにすると、同じく銃弾撃ち(ビリヤード)で撃ち抜く。

 

「うぉおおお!!!!」

 

金一も弾を空中に投げ銃を叩きつけるようにして空中リロードしながら銃弾撃ち(ビリヤード)……恐ろしいまでの数の弾丸がぶつかり……弾かれていく。名付けるならば冪乗弾幕戦だ。

 

「く……」

 

一毅も今度はちゃんと持ってきたジェリコ941を抜くと撃つ。

 

「ふっ!」

 

全部で三つの銃口から放たれるがそれを全てシャーロックは弾く。

それと共に周りが凍りだし風が吹く。明らかに人為的な力。

 

「魔術か!?」

「気にするな!あんなものはまやかしだ!」

 

金一が叫ぶ。

 

「人間にはこれがある!フルメタルジャケットの弾丸が!それを音速で放つ銃が!これこそが人間作った至高の武器!それをもっとも扱えるのがヒステリアモードだ!」

 

金一の言葉にキンジは頷く。するとシャーロックの動きが止まった。

 

「耳を塞いでおきなさい。アリア君」

「はい……」

 

そう言うとシャーロックの胸が膨らんでいく。これは!

 

『くっ!』

 

キンジと一毅は耳を塞いで身を低くする。これはヒステリア破り……本当の名は、

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!!!!!」

 

ワラキアの魔笛が辺りに響く。

キンジと一毅は必死の耐えると……収まった。

 

「いくぞ兄さ……」

 

キンジは眼を見開く。何故なら金一は……倒れていた。

 

「なっ!」

 

ヒステリア・アゴニザンテが消えている。そう、金一は喰らったことが無かったのだ。それ故にまともに喰らった。そして今はヒステリア・アゴニザンテでは無くなっている。

 

「兄さん!」

 

キンジは駆け寄る。

 

「き、んじ……追え……」

「え?」

「今までシャーロックは表に出てこなかった。だが今は違う。アリアを連れていくため外に出た。シャーロックを捕まえるには今しかない」

「…………」

「拳銃にナイフしかない今の状況で行かせるのは狂ってるかもしれない。だが、今しかないのだ!」

「…………分かった」

 

キンジは頷く。

 

「最後にキンジ……お前は視界が可笑しくなってないか?」

「あ、ああ」

「それはお前の力は次のステージに行こうとしている兆候だ。恐れるな。惑わされるな。自分の見たものを信じろ……見て、見据えて、見抜くんだ……お前なら見ることができる。俺は見ることが出来なかった世界を……」

 

キンジは立ち上がる。

 

「一毅……いくぞ」

「……おう」

 

そしてキンジは背を向けると、

 

「死ぬなよ……死んだらあんたの弟辞めるからな!!!!」

 

そう言ってキンジと一毅は走り出した。

 

「ふ、なら安心しろ……お前はこれからも俺の弟だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っと!」

 

一毅とキンジは潜水艦の中に進入する。

 

「ったく……今度は潜水艦に潜入かよ」

「しかも原子力潜水艦だ」

 

キンジが指で示すとそこには写真と共に【イ・ウー歴代艦長】と書いてある。

 

「ボストークって言うとこの間武藤が語ってた悲劇の原子力潜水艦だったな」

「ああ、多分理子の時の飛行機の翼ぶっとばしたミサイルもここから発射されたんだろう」

「成程ね」

 

一毅は軽く首を回す。

 

「行くか」

「だな」

 

二人は歩き出そうとすると、背後でなにか物音がした。

 

『っ!』

 

一瞬幽霊かと思いビクついたがある意味幽霊以上に会いたくないものがいた。

 

「これは……」

 

恐らく元はパトラの砂人形と同じだろう。だがその姿は身長は一毅と同じくらいだがパトラの物とは違い鎧兜(よろいかぶと)を着込み、更に日本刀を持っていた。しかもその立ち振舞いは相当な実力を持っていることを物語る。

 

「キンジ……お前は先に行け」

「え?」

「こいつ切ったら俺も追う。お前はアリアの救助を急げ」

「……分かった。またあとで合流しよう」

 

キンジは走り出す。

 

「っ!」

 

鎧武者はこれはキンジを止めようとするがそれを一毅が殺神(さつがみ)で弾いて止める。

 

「お前の相手は俺だぜ?」

 

一毅は構える。

頭はピリピリ言っている。

 

「来いよ」

 

一毅は不敵な笑みを浮かべると走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キンジは扉を開ける。そこは礼拝堂のような作りになっておりそこには、

 

「アリア!」

「え?キンジ!?」

 

アリアは驚いたような顔で振り替える。

 

「ったく、探したぞ。しかしシャーロックもお前をここに置いたままにしとくとはな。だが丁度良かった。一回戻って一毅と合流……」

「帰ってキンジ……」

「……あ?」

 

キンジは我が耳を疑った。

 

「まて、何つった今」

「帰ってと言ったのよ。私はここで曾祖父様と暮らすわ」

 

何で…と続けようとしたがアリアはその前に答えた。

 

「あんたには分からないでしょうね。言ってなかったから……私ね、ホームズ家で唯一直感だけで推理力が遺伝しなかった。だからママ以外には居ないものと扱われたわ。今まで誰も私を認めなかった」

「……」

 

その辺の事は薄々気づいていたがキンジは黙って聞く。

 

「だけど私は認めて欲しかったから敬愛する先祖である曾祖父様に追い付くように武偵になったわ。分かる?私はその敬愛する人から認められて後継者って言われた気持ちが!ママ以外に初めて認められた私の気持ちが!」

「だけどお前自分が言ってる意味分かってんのか!?お前は母親に罪擦り付けた奴と暮らすって言ってるんだぞ!?」

「分かってるわ!!!!でもそうすれば曾祖父様はイ・ウーをくれると言った!そうすれば冤罪は晴らせる!解決するのよ!!」

「それこそ本末転倒じゃねえか!罪晴らすために犯罪犯すなんざ、かなえさんが望むのかよ!」

 

一瞬アリアは詰まるが直ぐに立て直し、

 

「じゃあどうするの!?曾祖父様は最強よ!あんただって分かったでしょ!あかりたちが幾ら未熟だからってあんなあっさり負けたのよ!あんただって一毅と一緒にあっさり投げ飛ばされたじゃない!!!!あの人倒して罪を認めさせるのなんて無理よ!」

「……………」

「何よ…なにか言いなさいよ!」

 

キンジは息を吸う。

 

「無理、疲れた、めんどくさい……人の可能性を妨げる良くない言葉なんじゃないのか?」

「っ!」

「ついでに言ってやるよ。シャーロックは年食い過ぎて頭がどっかイカれてる時代遅れの爺だ。さっきは遅れとったがもう負けねえよ」

 

こっちはヒステリアモード(切り札)を切らせてもらったから……

 

「俺はお前のパートナーだ……ここで退けねぇ……」

「じゃあその契約を解除するわ!」

「勝手に居着いて勝手に辞められたんじゃたまんねぇな……悪いが拒否だ」

「なんなのよあんた……なにも知らないくせに!!!!」

 

違う……本当のアリアの言葉じゃない。アリアは未だ暗い道で歩いて迷い続けてる。敬愛する人物が現れて……でも既にここには居たくない理由があって……

 

「ああそうだ知らないね。当たり前だろ?お前はなにも教えてくれなかった。俺は神様でも何でもねえんだ。分かるかよ」

 

でもな……とキンジは続ける。

 

「お前は誰も認めてくれなかったって言うけどな……それは絶対違う!俺はお前を認めてるぞ」

「っ!」

「一毅だって……レキだってそうさ……間宮なんかお前を敬愛し過ぎてちょいと犯罪臭がし始めたくらいだ。お前はそんなやつらの思いを裏切るのかよ!」

「っ!」

「お前には俺が居るんじゃねえのかよ!俺を現代のJ.Hワトソンにするんだろ?」

「…………」

 

もう潮時だ……

 

「口で言い合うのはもういいだろ……?」

 

キンジは蹴りの構えをとる。

それを見てアリアもキンジが言わんとしてる事が分かった。

 

「ヤル気?一度だってあんた私に勝てた試しないでしょ?」

「アホか……俺は一度だってお前に本気だしたことはねぇよ……」

 

幾ら一方的でしかもこちらに比が無いからって言っても女に本気でやり返すにはどうかとか……怒ってるアリアも可愛いとか建前は色々あるけど……本音は秘密だ。

 

「俺たち武偵は何時だって何か決めるときは喧嘩で決める……それでいいだろ?」

「ええ」

 

アリアは銃を抜く。

 

「俺はお前をシャーロックから奪い返す……」

「私はあんたには帰って貰うわ……」

 

そうして二人は疾走……

キンジとアリアは硝煙の中での出会いから初めて本気の喧嘩を開始した。


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