緋弾のアリア その武偵……龍が如く   作:ユウジン

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龍と魔弾の初仕事

暴走車と遜色ない車に揺られて一時間ほど後……一毅は廃ビルの入り口を見ていた。

情報が正しければここで取引が行われているらしい。

 

「レキ、準備は?」

「完了です」

 

レキに通信機を使って連絡を取ると準備オーケーとの返事が来る。因みにレキは今別のビルに狙撃銃を構えながら待機している。

 

「よし、援護は頼むぜ……」

 

一毅は抜き足差し足でこっそり入る。すると、話し声が聞こえてきた。

 

「だけどこれってバレたらヤバイよな?」

「大丈夫だよ、あの人は案外お人好しだしな、気付きやしねえよ」

「?」

 

何の話だろう……まあいい。相手は……1、2、3……10人だ……戦闘能力は見たところ鍛えてる感じもないし喧嘩慣れしている感じが余り無い……更に何となく感じで分かるが下っ端の下っ端と言ったところだろう。

 

(大丈夫だな……)

 

一毅は息を吸う……

 

「ウォオオオ!!!」

 

そうして一毅は足元の木箱を台に跳んだ。

 

「何だ!?」

 

全員が怒声と共に飛び出してきた一毅を見る。だが同時に一毅の拳が一人の頬にメリ込んだ。

 

「がほっ!」

「な、殴り込みか!?」

「てめぇどこの組の者だ!」

「いやヤクザじゃねぇよ……」

「んなわけあるか!どう見たってその顔はヤクザの人間だ!」

「ああ!?」

 

滅茶苦茶失礼な奴だと一毅はキレる。

そして一毅は近くの相手を掴むと力を込め……

 

「二天一流・喧嘩技!人柱戯の極み!!!」

『ぎゃあ!!!!!』

 

この技は正確には二天一流の技ではない。

だが先祖代々喧嘩も多くこなしてきた桐生の一族は無骨だが同時に相手を一発で沈める我流の喧嘩術をいくつも作ってきた。

その技を総称して二天一流・喧嘩技と呼び様々な状況に置いて使える。

そしてこの技は相手を持ち上げて複数人の中に向かって思い切りぶん投げてドミノ倒しのように薙ぎ倒す技だ。

 

「死ねぇ!」

 

投げ飛ばした硬直を狙うように一人後ろから来たが、そこに銃弾が放たれそいつは沈む。僅かな窓の隙間から狙ったのだろうが流石レキである。狙撃科(スナイプ)のSランク武偵の称号は伊達じゃない。

「糞が!」

 

そんなことを思っていると今度は木刀片手に一人突っ込んでくる。

 

「だぁ!」

「っ!」

 

そいつは顔に渾身の突きを放ってくる。

それを一毅は横にスウェイして躱す……だが更に脇腹を狙った横凪ぎを放って追撃してきた。それを一毅は肘と膝で挟んで止めると言う一種の真剣白羽取りで防御した。

 

「オッラァ!」

 

そして一毅は相手をぶん殴って相手を離させると腰を落とし……

 

「二天一流・拳技!煉獄掌!!!」

 

これは相手の胸に渾身の掌打を叩き込み、戦意消失させ同時に瞬間的に呼吸困難に陥れる技だ。例え心臓から外れても一毅の恵まれた体格と突進から放たれる掌打……それだけで充分高い威力となる。

 

「ぐぇ……」

 

そして一毅は煉獄掌で吹っ飛んだ相手の木刀を掴むと、それで一人殴り飛ばす。

 

「がっ!」

 

更に二人目、三人目と次々叩いて沈めていく。

一毅の無茶苦茶な腕力によって為す術もなく沈められていくが……

 

「糞が!」

 

最後の一人が一毅に銃を向け……発砲する。だが……

 

『え?』

 

一毅と相手の声が重なる。何故ならば相手が放った銃弾は別方向から来た弾丸に弾かれると言う普通なら考えられない事が起きたからだ……

だが誰がやったのかは直ぐに分かった。

 

(嘘だろ……レキの奴は銃弾を狙撃したっていうのか!?)

 

流石の一毅も驚愕した。同じ人間のやる技とは思えない。

とは言え直ぐに相手方を見ると木刀を思い切り投げつけた。

 

「ひ!」

 

相手は驚きつつも慌てて身を逸らして躱すがその間に一毅は間合いを一気に詰めると拳を握る。

 

「この!」

 

相手は至近距離でなら外さないと向けた……だがそれは甘かった。

二天一流は江戸時代の初期から端を発している古流剣術である。更に桐生は昔から事件に巻き込まれる体質と言うか事件が向こうからやって来るような体質の人間であった。故に拳、刀のみならず鎖鎌に長刀、槍、弓矢……そして鉄砲……それらを返したり持った相手の戦いは日常茶飯事であり同時に代々対人で作ってきた。

 

そしてこれは一馬之助が使っていた技でその名も……

 

「二天一流・拳技!火縄封じ【短銃】!!!」

 

相手の銃を持った手を掴み銃口の先を自分からずらして外させるとそのまま相手の鼻っ柱に渾身の裏拳を叩き込むこの技……因みにこの技は【短銃】にたいして使うが元々長銃と言うかこの技の原型は火縄銃用の技のため一毅の三代前の桐生が現代用に改良した技だ。

 

余談ではあるが意外と桐生の技は時代に併せ改良したものやその代その代が作り出したオリジナルもある(一毅も何個か作っている)ため初代のと違う場合が多いらしい。流石に先祖に聞いたわけではないため本当かどうか分からないが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい……ではそう言うことで」

 

一毅は蘭豹に電話して報告する。

後は島に武偵高校まで運ばせれば良いと言うことなので車に犯人を詰め込むと後は任せて一毅たちは別れる。

どうせだからそのままレキと何処かに行こうかと思っているのだが…

 

「何処か行きたいところ無いか?」

「一毅さんが行くところが私の場所です」

 

そう言われてしまい、どうするべきか……と一毅は頭を悩ませる。

一毅は女性と親しく付き合ったことは殆ど無い処か同世代の女性とは皆無と言っても遜色ないほどだ。

しかも見ての通りこの娘はこの無表情と無感情っぷりである。機微を読み取って移動という手段が使えない。

これから先付き合うかもしれない以上はやはり向こうにもこちらを好きになってもらいたいと思う……だがしかしヒステリアキンジのように女性にたいして口が特別上手いわけがない一毅は必死に考える。

すると歩きながらもそこに見えたのは……

 

「これだ!レキ、ここに入ろうぜ!」

「?」

 

一毅が指差したのは……

 

「ラーメン屋……ですか?」

「ああ」

(こう言うときは食い物屋に入って会話をそこから広げる!)

 

確かにそこは一毅にしては素晴らしく頭が働いたが明らかに若い男女の二人でラーメン屋はミスチョイスである。

 

まあどちらにせよそこらへんには全く気が付かない一毅と全くその辺りに関心がないレキは入っていく。

 

 

「じゃあ……醤油ラーメン大盛りで……ああレキ、今日は奢るから好きな物の頼めよ。あ、カロリーメイトは無いからな」

 

一毅にそう言われてレキはメニューに目を落した。そして、

 

「では野菜増々麺アルティメットメガ大盛りエベレストラーメン下さい」

 

次の瞬間その場が凍りついた。今言ったレキのメニューは所謂一時間以内に食べきれば無料+賞金系メニュー……だがまずこれは麺だけでも座ってる一毅の目線くらいある…更に野菜もそれくらいの高さに盛られるため圧倒的に座っているレキより高いのだが……店員さんが下がると俺は素早くレキに耳打ちする。

 

「食い……きれるよな?」

「当たり前です」

 

暫し待つと一毅のが来た。延びるといけないので先に食べている……うん、魚介系のスープに麺は少し固め、さっぱりしていて非常にうまい。初めて来たがこれなら贔屓にして良いな。等と思っていると……

 

(うん、うまいな……ん?)

 

すると店員さんが二人掛かりで運んできた……もしかしなくてもお盆に乗っている謎の巨大物体は……

 

「御待たせしました!」

 

二人でよっこいしょと席に下ろす。うそでしょ……一毅が唖然としながら見上げれば天井に届かんばかりの野菜と麺、更にチャーシューにメンマもたっぷりと乗せてあり、スープもかなり油多めのギットリタイプときている……麺もスープとどっちが多いか勝負できそうだ……これは絶対クリアさせる気が無い。

 

「では行きますよ……」

 

店員さんがストップウォッチを持ち、レキは黙って箸を持つ。

 

「ではどうぞ!」

 

レキはツルツル食べる。麺を一本ずつ……おいおい!

店員さんは明らかにこれは楽勝と言う顔で周りのギャラリーもダメかと言う顔だ。一毅もである……

だが開始五分程で違和感を覚える。レキさん……麺ずっと啜ってませんか?

周りもそれに気づき始める。そんな中でもレキは一人冷静にツルツルと全く速度を落とさず食べ続ける。名付けるならば間を断って食べつつける食べ方……【間断喰い】だ。

全く間がなく……目に見えて減っていくラーメン……店員さんなんか顔色真っ青だしギャラリー興奮ぎみだ。

そして、

 

「ごちそうさまでした」

 

レキは三十分で食べきった……本当の制限時間は一時間なのにスープまできれいに飲み干されていて非の打ち所がない……

 

(あ、今後ろで店長が倒れた……)

 

一毅は冷や汗を垂らす。この体の何処にあれだけの量入っていくのだろうか……見てみるがお腹が膨らんだ様子も全くない……

 

「じゃ、じゃあお会計を……」

「は、はい」

 

一毅は未だ現実を信じられていない店員さんにお金を払い賞金の一万をもらうとレキに渡す。

ここは贔屓にして良いといったが前言撤回……ここにはもう此処には来れそうにない……

そんなことを考えながら二人で外に出た……

因みに余談だがその場にいたギャラリーはレキをこう呼ぶようになったらしい……【ビューティフルブラックホールガール】……美しき無限の胃袋を持つ少女……と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「い、イヤーよく……食ったな!」

「はい」

 

一毅は完全に呆気に取られ目的であった会話をしてないことに全く気づいてないがその辺りはそっとしていてあげて欲しい。

 

「うまかったか?」

「はい……また行きませんか?」

「あ、うん!そ、そうだな!贔屓にしても良いな!」

 

ドキッと心臓が跳ねる。反則だ……何で何時もみたいな無表情じゃなくて珍しくホンの僅か……本当に僅かにだけど笑うんだよ……

 

(ヤバい……顔が熱い……)

「顔が赤いんですが何かありました?」

「ナンデモナイデス……」

 

その後一毅は終始レキの顔が見れなかった……仕方ないよな?これでは……

 

 

 

 

 

その後レキと別れた一毅は自室に宛がわれた寮の部屋に入る。

一応部屋は四人用なのだがちょうど一緒に住む人が居らず一人だ。

因みにキンジも何故か運良く一人であるし隣の部屋だ。だったら一緒の部屋にしても良いんじゃないだろうかと思うがこの高校は相当適当であり更に部屋が余っているかららしい。

まあ実家では(沖縄で孤児院をやっている)大所帯だったため静かすぎて少し寂しいと思わないこともないがキンジが居るしそこまで寂しいわけでない。それに電話すれば声くらいならすぐに聞ける。

まあメールと言う手もあるのだが父親は携帯が電話くらいしかできないためメールは専ら母親とばかりだ……

そんなことを考えながら一毅はシャワーを浴びて風呂に浸かる。序でに今日は大暴れしたからマッサージもする。

一応明日は土曜日である。武偵高校も休みだし、土日の間にレキを何処かにつれていこうか……等と考えている。

 

すっかり仮のカップルと言うことで付き合い始めたことを忘れ始めている一毅であった……とは言えあの笑顔ですっかり参ってるのかもしれない。

 

「そろそろ上がるか……」

 

一毅は出ると体を拭き部屋着を着る。丁度良いからキンジのところに遊びに行くか……そう思ってるとチャイムが鳴った。基本的に訪ねてくるのはキンジくらいだし今回もそうだろう。

そんなことを思いながらドアを開ける。

 

「はいはい、何だよキン……」

 

一毅はパタンとドアを閉めた。

 

「あれ……?」

 

一瞬一毅は自分の目が悪くなったのかと疑う。自慢じゃないが小さい頃から視力2.0で眼疾も患ったことはない。と言うか虫歯や風邪などといった物とは昔から無関係なのだ。キンジは昔奥歯を両方とも虫歯になったことがあるが……そんな現実逃避をしているとするとまたチャイムが鳴った。

 

「はぁ……」

 

一毅は観念してドアを開ける。

 

「なあ……ここは男子寮だよな?」

「そうですね」

「もう……夜だよな?」

「そうですね」

「そうですねしか言えないのか?」

「いいえ」

 

適当に言ってる訳じゃないそうだ……ってそうではなく!

 

「じゃあ……何でお前が此処に居るんだ?レキ……」

 

一毅の目の前には旅行バックとドラグノフ狙撃銃を持ったレキが居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃ある場所では……

 

「んで?そいつがやったんやな?木島」

「は、はい!」

 

木島と呼ばれた男は目の前にいる眼帯をつけた男に返事をした。

 

「そいつは突然やって来て俺たちをボコったあとに捕まえて行きました。俺は皆が逃がしてくれました……」

「あんがとな、お前が居らんかったら誰がやったか分からんとこやったわ」

 

眼帯の男は座っていたソファーの手を乗せる所を握る。

 

「まあワイ等は職業上武偵に睨まれやすいっちゅうのはある……だが適当に罪作ってしょっ引くのはやりすぎなんとちゃうかぁ?ああ!?」

 

眼帯の男は鎌を一毅が写った写真に降り下ろす。

 

「あいつに大切なもん無いか調べろ……そんで連れてくるんや……ただし絶対傷つけんやないで?傷つけた奴を殺すからな!!!!!!」

「おす!」

 

眼帯をつけた男は立ち上がる。

 

「宍戸組組長!宍戸 梅斗様に喧嘩売ったこと後悔させたるわ!!!糞ガキが!!!!!」

 

男の声が響いていった……


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