緋弾のアリア その武偵……龍が如く   作:ユウジン

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龍の戦闘後

「それにしても中々怪我ひどかったみたいだな」

「まぁな」

 

一毅はキンジの病室に来ていた。

 

「と言うかお前本当になんともないのか?」

「あ?おう。骨は完全にくっついてるし肋骨も繋がってるってよ」

「いやいやいや……」

 

あの時間違いなく骨が折れる音が聞こえた……

 

「そう言えば後三日ほどで退院だろ?」

「ああ……それまで暇だぜ」

「そう言うなよ」

 

それから一毅は立ち上がる。

 

「じゃあ俺はレキたちの所に行くよ」

「ああ……そう言えば」

「ん?」

 

一毅は手をドアに掛けて止まる。

 

「お前はブラド倒したときの記憶無いって本当か?」

「……ああ、全く覚えてない」

 

そう言って廊下に出た。

 

 

 

 

無事、ブラドを捕縛してから早くも三日……一毅にボコボコにされたブラドは警察に引き渡された。

今回の窃盗については一応学校に報告はしておいたが代わりに分厚い書類を渡された。内容としては、今回の一件は特別に不問としてやるから他言はしないようにとのこと。

アリアが言っていたイ・ウーという組織の影響だと思うが随分なVIP待遇だ。涙が出てくるね。

 

(だが……)

 

一毅は歩を止めた。

ブラドの魔臓を撃ち抜いたのはキンジの機転と策だ……だが最終的に倒したのは一毅だ……とブラドを倒した次の日に目を覚まして教えられた。だが一毅にはその時の記憶が一切ない。コレっぽちもない。そのお陰で目を覚ました時まだ夢の中では戦ってて「ブラドォオオオオ!!!!!」と叫びながら診察のために自分の顔を覗いていた衛生科(メディカ)の男子生徒を体を起き上がらせつつ上半身のバネと捻りのみで作り出す渾身のパンチを決めてしまいその生徒の方が入院することになった。

まあそんな話は横に置いておくとして、一毅の記憶がはっきりしてるのはブラドにレキとライカがやられた辺りまでだ。それ以降の記憶がない。正確に言うと記憶がゆっくりとブラックアウトしていっている。お陰で聞くまで理子が既に逃走してたことをしらなかった。何処に行ったのやら……だが頭がピリッとした感覚だけを残こってる……だが怪我はその場で治したとキンジに聞いたときは一体何の冗談かと思った。言っておくが自分はプラモデルじゃないしそんな滅茶苦茶高い塔のてっぺんに住んでる猫の神様に一粒で十日飯を食わなくても生きていける豆を貰って食ったわけでもない。

しかし骨を折られた記憶ははっきりとある。なのに 骨が既にくっついているとは……もしかしたら本当にその場で治したのだろうか……

いや、それは無いかと思い直す。だがキンジ曰くあの時の一毅は本当に強かったらしい。

何でもブラドと力比べで押し返すほどで終始圧倒……だが一番驚いたのは見てもいないのに避雷針の落下を躱し、ブラドが放った石礫の弾幕を全て回避したことらしい。しかも石礫の弾幕は突進しながらで掠りすらしなかったらしい……

 

(ううーん……)

 

一毅としては全く記憶がなくはっきり言って本当に自分がやったのか自信がない。

だが、見てもいないのに避けたと言うのは一つ心当たりがあった。

アリアとの組手である。完全に死角からの一撃でその上アリアを見失ってたというのに頭にピリッと電撃というか針で軽く突かれたような物が走ったかと思うと完全に無意識に体を動かし避けて反撃していた……未だに謎だがあの時と少し似ている。

 

「……まあ、良いか」

 

考えても仕方ないとばかりに再度歩き出した。考えて思い付くなら最初から思い付いてる。

考えるのは他の皆に任せる。自分は突貫するだけだ。

そうこうしていると着いた。

 

「おうっす。入るぞ」

 

一毅が入ると、

 

「ああ!レキ!あんた私の桃饅食べたでしょ!」

「知りません」

「ってよく見ると二つともなくなってる!ライカ!あんた食べたわね!?」

「ワカリマセン」

「なんつぅ棒読み加減よ!嘘言うならレキみたいにもう少し演技しなさいよ」

 

どったんばったんと病室で暴れまわる三人……元気だ。

 

「ああ!一毅!あんたのところのレキとライカが私の桃饅取ったわ!ちゃんと教育しときな……」

「アリア、桃饅買ってきたんだが……」

「食べるわ」

 

凄まじく早い変わり身だ。

 

「レキにはカロリーメイト、ライカにはリーフパイだ」

「ありがとうございます」

「やった!」

 

二人に見舞品を渡すと一毅も適当に椅子に座る。

 

「だけど一番怪我が酷かった筈の一毅が入院無しで私達が入院って何か腹が立つわね」

「あ~?仕方ないだろ。後とっとと退院してくれ特にアリア。間宮が俺が怪我させたと思って闇討ちしようとしてくるんだよ。戦妹(アミカ)の手綱はしっかり掴んでおいてくれ」

「それは悪かったわ……」

 

何気に間宮は暗殺スキル高めで急所を普通に狙ってくるししかも狙わせると上手いのだ。命の危機を感じる。

すると、

 

「おねぇええええええさまぁああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!」

 

病院だというのに全く気にも止めずドドドドド!!と言う音と共に何かが走ってきたかと思うと入ってきた。

 

「き、麒麟!?」

 

ライカが上擦った声で入ってきた人間の名前を呼ぶ。

 

「遅れてご免なさいですの!ちょっとCVRの方で合同で3日間ほど全身ヨガ&エステに加え鍼にマッサージのフルコースを無理矢理やらされていたのですの!」

「わ、分かったから!だから抱き付くな!!!!!」

 

ライカは抱き付いていた麒麟という少女を強引に引き剥がす。

 

「もう!麒麟と御姉様の仲じゃないかですの」

「気持ち悪いわ!私はそう言う趣味は無い!」

「んも~ツンデレですの」

「本心だよ!」

 

ライカは疲れたような顔を浮かべる。

 

「あ、そう言えば桐生……何でございましたっけ?御姉様と付き合うお方は」

「一毅だよ」

「いらっしゃるのですか?」

「え?後ろに居るのが……っておい!なんだよその銃!!!!!」

「ウフフ……既にお付き合いしてる方がいながら御姉様にまで手を出すクズを射殺するために購入した物ですわ」

 

麒麟には不釣り合いな馬鹿デカイ回転式(リボルバー)拳銃をにっこりと笑いながら持ち上げる。

 

「あら?あなたは誰ですの?」

 

麒麟は一毅を見た。

 

「お、俺は鈴木 太一だ!」

 

とっさに偽名を使い誤魔化す。

 

「ほう、鈴木さんですの。一つお聞きしますが何故ここに?」

「あ、アリアに強襲科(アサルト)の課題渡しに来たんだ。そうだよな!?」

「え、ええそうね!そうなのよ!」

 

アリアは乾いた笑みを浮かべる。

 

「取り合えずそんな銃しまえよ。どちらにしたって防弾制服の上じゃ当たっても痛みはある……程度だぜ?それにそんな馬鹿デカイ銃一発でも撃てればラッキーだぞ?」

「そこは御姉様の愛で何とかしますの」

 

絶対無理である。

 

「本当はもっと居たいのですが用事があるのでここで失礼しますの」

 

そう言って麒麟は出ていった。

 

『……ふぅ』

 

全員揃って嫌な汗を掻いた。

 

「何だあれ……」

「インターンの島 麒麟……所属は特殊捜査研究科(CVR)よ」

 

アリアが説明してくれた。

 

「一度事件で助けたことがあったんですけどなつかれちゃって……すいません」

「いや、別に良いんだけど……」

「恨まれてましたねぇ」

「だよな……」

 

めっさ普通に命狙われてた……

 

「はぁ……どうするか……」

「大人しく撃たれなさいですの」

『え?』

 

一毅がギギギと効果音がつきそうな動きで背後を振り替える。

 

「あんな下手くそな演技で麒麟を騙せると思ったんですの?」

 

忘れていた……CVRこと特殊捜査研究科はハニートラップを専門に勉強する学科……ハニートラップとは分かりやすく言えば相手から情報を得るため色気で相手を騙す高等技で無論そういった際の演技も磨く。つまり相手を騙す事に長ける学科なのだ。そりゃ死ね死ね団の一毅とアリアの大根役者二人による即興劇など幾らインターンでも簡単にバレるに決まってる。

口より先に手が出る強襲科(アサルト)……手より先に口が出る特殊捜査研究科(CVR)……意外とこの二つの科は仲が良くなかったりする。

因みに余談だがCVRは美人しか入れないと言う制限がある。確かに麒麟は背が低いものの顔やスタイルが良い。

 

「ま、待て、話し合……」

「汚物は消毒だーですの!」

「聞けよ!」

 

一毅は瞬時に振り替えると銃身の回転する部分を掴む。

基本的にこれで撃てなくなるのだ。とは言え撃鉄が動くと危ないので撃鉄と銃身の間に指も入れておく。

 

「う……」

 

麒麟は銃が撃てないことを悟る。

 

「よっと」

 

一毅はそのまま銃を奪うと流れるような手つきで弾を全部出し銃と弾を別方向に捨てる。蘭豹に殴られながら覚えた技術がここで役に立つとは……

 

「あ……」

 

麒麟は呆然とした。

CVRは基本的に戦いはない。基本的に自らの体を晒すことが多いしその為か銃もあまり持ち歩かない。あくまで基本的な扱いが精々だろう。と言うか体に傷一つでも付くと大騒ぎになるのがCVRだ。普段から銃弾の雨に晒される一毅にすれば制圧するのは簡単だがこんなの癇癪だろう……目を見ればわかる。それにレキがいるのにライカにも手を出してるのは事実だ。否定は出来ないし、する気も更々ない。

 

「く!」

 

すると、麒麟が掌打を繰り出す。

 

(ん?理子の構えに似てるな)

 

そう思うが威力は殆ど無い一毅の腹にポスポス音を立てて終わる。見た目通り力がないようだ。

まあアリアのように見た目に反した怪力がなくて良かった。

 

「うーうー!!!!!」

 

麒麟が猫で言うなら毛が逆立っているだろうな……という風に足を床に叩きつける。

だがそこに、

 

「いい加減にしろ!」

「はぅ!」

 

ゴチン!っとライカの拳骨が降った。

 

「言っただろ!レキ先輩と納得した上だって!!!!!」

「御姉様!一体どんな弱味を?こんなヤクザも仏に見えそうな顔の男と……しかも彼女持ちの男と一緒に居るなど弱み握られてるとしか」

「ねぇよ!大体なんだお前は、いきなり来て一毅先輩にあんな銃をぶっぱなそうとする何て……一毅先輩じゃなかったら止めるのが間に合わなくて当たってたぞ!」

「うー!」

 

麒麟がバタバタ暴れだす。

 

「御姉様!何でですの!戦妹(アミカ)にもしてくれないし麒麟は不満ですの!」

「あのなぁ……」

 

麒麟はギロッと一毅を睨む。

 

「全部あなたが悪いんですの!」

「まあ……否定はしない」

 

一毅は頭を掻く。

 

「麒麟!!!!!」

 

ライカが声をあげると麒麟は一瞬俯くと声を震わせ……

 

「麒麟は寂しいですの……ふぇえええええん!!!!!」

(あちゃ~)

 

泣かせてしまった……さてどうするか……

 

「あ、いや、麒麟……」

「ああ~あのさぁ……」

 

一毅は近寄る。そこに、

 

「おい一毅。ちょうど良いから俺の制服クリーニングから引きと……」

 

キンジが入ってきて一毅がそっちに気を取られた瞬間……

 

「騙されたですの!!!!!」

『え?』

 

素早くしゃがみこみ麒麟は大きく足を振り上げながらジャンプ……その足は一毅の足と足の間を通り……

 

「はがっ!」

『いい!?』

「ひ!」

 

一毅は固まり……アリア、ライカ、さらにレキですら驚愕し、キンジは無意識に一毅が蹴られた部分を手で押さえた……

 

「あ……が……」

 

つま先で何の遠慮もなく一毅の股間を蹴りあげた麒麟はあっかんべーすると、

 

「男なんて皆死んじゃえば良いですの!!!!!」

 

そう言い残して飛び出していった……

 

「あ……ぎ……」

 

幾ら一毅でも……流石に効いたらしくそのまま一毅は後ろにぶっ倒れた……

 

「一毅さん!?」

「一毅先輩!?」

 

レキとライカは驚きと悲鳴に近い声を出す。

 

「き、キンジ医者よ!医者を呼びなさい!」

「あ、ああ!ええと……何科だ?ああくそ!誰か!」

 

キンジが出ていく。

遠くなる意識の中一毅はその光景を見ながら思った……女の恨みは怖い……


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