緋弾のアリア その武偵……龍が如く   作:ユウジン

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龍と吸血鬼 前半戦

「何であんたが……」

 

第一声はキンジだった……

 

「逃げ出した犬を連れ戻しに来ただけですよ」

「なに?」

 

この場合理子の事を指してるのは幾ら馬鹿である一毅でもすぐに分かった。

 

「そう言えば四世……貴方にはこの姿を見せてませんでしたね」

「まさか……ブラド!」

『っ!』

 

全員が小夜鳴を見る。

 

「ふふ、違いますよ。私と彼はとても近しく……それでいて別人であり一心同体なのです」

 

小夜鳴は一毅たちを見る。

 

「彼はもうすぐ来ます。それまで少し講義と行きましょう」

 

小夜鳴は理子の首を踏みながら話を続ける。

 

「強さは遺伝する。そして遺伝とは遺伝子の情報による能力の発露……才能や能力は如何にこの遺伝を引き継げるかに懸かっています。逆に言えば引き継げなければどんな親を持っていようとも唯のゴミです」

「何だと?」

 

一毅が眉を寄せた。

 

「言わばその者がどれだけ強くなれるかは決まっているのですよ……既に生まれたときから遺伝子でね。ですが彼女ときたらあれだけ有能な親から生まれながら……」

「やめろ……言うなぁあああああ!」

 

理子は叫ぶ。だが、

 

「有能な遺伝子を受け継いでいない。これっぽっちもね。故に無能……まさに落ちこぼれの大泥棒ですよ!初代のように一人で盗めず……父のようにチームを率いるリーダーシップもない!まさにゴミ以下の人間です」

「てんめぇ……」

 

一毅の額に青筋が走る。さっきから聞いていればゴチャゴチャ腹が立つことばかり言いやがる。

 

「ならなぜそうまでして理子を付け狙う」

「決まってんだろ……こいつからコレから良い五世を産んでくれるかもしれません」

「だがそんなやり方で理子が死んだら!」

「ふふ、彼を呼ぶためですよ」

「ブラドを?」

 

意味がわからなかった。理子をいたぶる事が何故ブラドを呼ぶことに繋がるのか……

 

「彼を呼ぶには強い興奮が必要なんですよ……ですが永い時を生きる中であらゆる興奮に慣れてしまい強い興奮を得られなくなりました……ですが……」

 

小夜鳴の雰囲気が変わっていく……

 

『っ!』

 

一毅とキンジはコレを知っている。

 

「ヒステリアモード……」

「そう、それに変革を与えてくれたのが遠山 金一武偵の血……ヒステリア サヴァン シンドローム……この血が私に新たな力を与えた」

「血だと?」

「ええ、私は血を摂取することでその物の力をコピーできるのですよ」

「はっ!吸血鬼かよ」

 

ライカが馬鹿にする。

 

「ええそうなんですよ」

『え?』

 

全員が唖然とした。

 

「私はルーマニア出身の純正吸血鬼です」

「おいおい」

 

キンジは冷や汗を流した。ルパンの子孫にジャンヌ・ダルクの子孫と来て今度は吸血鬼と来た。

 

「さぁ……来ましたよ……彼が……」

『っ!』

小夜鳴の体が毛むくじゃらになり肥大化していき更に牙が生える。

 

「はじめまして……だな」

『なっ……』

 

一毅たちは絶句した……

身長は軽く二メートルは超え……鋭い牙……爪……肩幅等から考えても腕力も高いだろう……

 

「よう四世……お前には人間に擬態してる時の姿を見せてなかったなぁ」

「や、約束が違う……オルメスに勝てば自由にすると言う約束が……まだ戦って……負けてない!」

「くく……お前は犬とした約束を守ると思っていたのか?」

 

小夜鳴……否、ブラドは理子の頭を掴むと持ち上げる。幾ら理子が小柄で軽い筈だとしても頭をもって持ち上げるなどどんな握力と腕力をしているのだろうか……

 

「しっかり目に焼き付けとけよ?お前が人生で見る最後の夜景なん……」

『うっらぁ!!!!!』

「ごば!」

 

ブラドの言葉は途中で断ち切られた……一毅の拳とキンジの蹴りがブラドの巨体をぶっ飛ばしたのだ……

 

「え?」

 

理子をキンジは優しく抱き止める。

 

「わりぃ……もう我慢の限界だ」

 

一毅は指をボキボキならしながらも体からは純白のオーラ(ホワイトヒート)蒼いオーラ(ブルーヒート)の中間位の色のオーラが溢れ出ている。

 

「さっきから聞いてれば胸くそわりぃ……まさに怒髪天を突くって奴だぜ」

「凄いな。一毅が諺を間違っていない」

「喧嘩売ってんのか?」

「冗談だよ」

 

それからキンジは理子に優しく微笑みかける。

 

「辛かったね……でも、もう大丈夫だよ」

「何で……私はキンジたちを騙して……」

「言っただろう?女の嘘は嘘に入らない。女性の嘘はその女性を彩るアクセサリーみたいなものだよ」

「っ!」

 

理子の頬が朱色に染まる。

 

「さあ、言ってごらん。君の言葉を……本当に君が言いたい言葉を……皆に伝えるんだ……」

「良いの?」

「ああ」

「キー君……カズッチ……レキュ……ライライ……アリア……助けて……」

 

涙声で声量は小さい……更にさっきから遠雷が聞こえるし雨も降ってきた……決して聞こえやすかったわけではない……だが、心に響いた。

 

『任せ(ろ)(なさい)(てくだい)!!!!!』

 

一毅は殺神(さつがみ)神流し(かみがなし)を抜き、キンジは理子を下ろすとベレッタとナイフ、アリアはガバメント二挺にレキはドラグノフを構えライカはトンファーをだす。

 

「虫けらがぁあああああ!!!!!」

 

ブラドは避雷針を引き抜く。

 

「串刺しにしてやるぜ」

「やってみな!」

 

一毅が疾走する。

 

「うらぁ!」

 

殺神(さつがみ)を一閃……

ザン!っとブラドの肩から反対の脇に掛けて傷が走る。

 

「なっ!」

 

だがそれは瞬時に治癒した。

 

「言っとくけどなぁ……俺は不死身だ!絶対死なねぇ!!!!!」

 

ブラドが避雷針を横に振る。

 

「くっ!」

 

ヒートで強化した身体能力で伏せて躱すがゴウッ!!と凄まじい音がした。当たったらただじゃすまないだろう。

 

「おら!」

 

足を斬る……だがそこも瞬時に回復した。

 

「効かねぇよ!!」

「っ!」

 

振り下ろしを一毅は刀を交差させて防ぐ……

 

「ぐぉ……」

「くくく。人間じゃその程度だよなぁ!!!!!」

「舐めんな!!!!!」

 

そこにライカのトンファーがブラドの鳩尾を突く。

 

「がっ!…………何てなぁ!!!!!」

「ぐぅ!」

 

ライカの首をへし折らんばかりにブラドは握る。

 

「甘いです」

 

レキの銃剣がブラドの腕を刺す。

 

「ぐぉ……」

 

腕の腱を寸分違わず貫いたらしく力が入らなくなりライカを落とす。

 

「ごほ!」

 

ライカは咽せながら距離を取る。

 

「大丈夫ですか?」

 

レキはライカに肩を貸しながら腱を刺し貫いたと言うのに全く痛がらない上にすぐに治ってしまうブラドを見て眉を寄せた。

腱は普通斬られたりすれば耐え難い苦痛があるはず……なのに変わらずと言うことは痛覚が鈍いか……いや、それでもやはり痛がらないのは可笑しいだろう。と言うことは……

 

「痛覚が無いようですね……」

「ああ、ついでに言っておくが俺は遺伝子をコピーし、塗り替えていくことで今や太陽光で灰になることはなく、ニンニクを食っても死なず……聖水でシャワー浴びることもできるしその気になれば十字架に面と向かってお祈りもできるぜ」

「面倒ですね……なら」

 

レキはライカと共に横に跳ぶ。。

 

「これなら……」

「どうよ!」

 

ベレッタとガバメント二挺の一斉放射……

 

「…………ふん!」

 

無数の弾がブラドの体に入る……だがそれを筋肉で押し出すとそのまま治癒してしまった。

 

「いやいや……痛覚ねぇわ直ぐ回復しちまうわ面倒だな……」

 

だが一毅はそう言いつつも避雷針に込められた力が抜けた瞬間に押し返し弾き返すと、

 

「二天一流 必殺剣!二刀陰陽斬!!!!!」

 

瞬時につけられる2連斬……無論回復してしまうが今つけたのは脊髄……ブラドは立てなくなり膝をつく。

 

「くぉ……」

「ウォオオオオッシャアアアアア!!!」

 

キンジは駆け出すとブラドの鼻に膝蹴りを叩き込む。

更に、

 

「喰らえ!」

 

キンジは空中バック転の構えになる。

痛みがなく傷が回復する……だがその回復する回数にも限界はあると考えたのだ。そして一気に削るならキンジのエアストライクが一番良い。

「エアストライク!!!!!」

 

深紅のオーラを顕現させブラドの顎に渾身の打ち上げ蹴りを叩き込む……だが、

 

「あ?」

「なっ!」

 

地面からホンの数ミリ浮いただけで空中に跳ぶことはなかった……

 

(エアストライクが……出来ない!?)

 

理子にもジャンヌ戦でも決め手となってきたエアストライク……だがブラドがでかくて重すぎる故に打ち上がらなかった。

 

「くそ!」

「ちっ……めんどくせぇ!【ワラキアの魔笛】に酔いな!!!!!」

 

ブラドが空気を吸い込み胸が異常なほど肥大化する……そして、

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

大気が震えるほどの声……咄嗟に皆が耳を抑える。

 

「っ!」

 

キンジと一毅は声が止まった後驚愕した……

一毅は体から出ていたヒートが消え、キンジはヒステリアモードが解けていた……今の二人は唯の人間だ。

 

「キンジ!!!!!」

「っ!」

 

一毅の声でキンジは正気に戻るが遅い。

 

「死ね」

 

ブラドはキンジの首を掴むとビルから投げ落とした。

 

「キー君!!!!!」

 

理子がそれを追う。だがそれを気にしてる暇はない。

 

「うら!」

 

ブラドの避雷針の横凪ぎが一毅を襲う。

 

「くっ!」

 

咄嗟に刀で防ぐがヒート状態ならまだしも今は何の補助もない。

一毅は肋骨が折れるのを感じながら吹っ飛び壁に叩きつけられた。

 

「が……っはぁ!」

 

口から鉄の味がする赤い液体……血が塊となって吐き出された。

 

(くそ……)

 

「ハハハハハハハ!!!!!脆いなぁ人間はぁ!!!!!」

「……が…う……」

 

一毅はヒューヒュー呼吸しながら刀を握る。

 

「この!」

 

肩に突き刺す……だが効果などあるはずもなく一毅はそのまま地面に叩きつけられた。

 

「が!」

「丁度良い……」

 

ブラドは肩に刺さった殺神(さつがみ)を抜く……

 

「自分の刀で……」

「こっちだ!」

「あ?」

 

ブラドは声の方を見る。そこには下着姿の理子がキンジを股で挟んで上がってきていた。そして、

 

「アリア!レキ!模様を撃て!!!!!」

『っ!』

 

アリアとレキは弾かれたように銃を構え……撃つ!

だが、

 

「【ピカ!】っ!」

 

雷にビビったアリアは銃弾を外す。

 

(いや……まだだ!)

 

キンジはベレッタの銃口をブラドではなく、アリアの撃った銃弾に向け……撃つ。

 

銃弾撃ち(ビリヤード)……」

 

キンジの撃った銃弾がアリアの撃った銃弾を弾きブラドの模様を撃つ。

 

「ブラド!!!!!」

「っ!四世!!!!!」

 

次の瞬間ブラドの口に理子が銃弾を撃ち込む。

 

「ごあ……」

「お前の不死身の力は魔臓に支えられてる……そして魔臓はその模様の場所にある。魔臓は一個でも逃せば直ぐ治るけど四個同時に壊せばもう戻らない」

「ウォオオオオ!!!!!」

 

そこにライカが駆け込む。

 

「そしてお前は痛覚も戻った筈だ」

 

理子の言葉はブラドには届かなかった。

 

「喰らえ!」

 

腰を落とし、全体重を一撃に乗せる二天一流の拳技……一毅もよく使う技、煉獄掌……それをトンファーで行うライカの改造版煉獄掌がブラドの眉間を穿った。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……おせぇよ」

「悪かったよ」

 

キンジは肋骨が折れて呼吸も苦しそうな一毅の肩を貸しつつ立ち上がる。

 

「まあ、何とかなったわね」

 

アリアが言うとレキやライカも頷く。

 

「勝ったんだ……」

 

理子は今だ信じれないといった顔だ。

 

「全く……夢じゃないよ」

 

キンジは理子を優しく撫でてやる。

 

「とりあえず病院だな俺は……だんだん気が遠くなってきた」

「ヤバイじゃないですか!」

 

ライカに言われて一毅は笑う。すると影が射した……

 

『え?』

 

全員が振り替えるとブラドが立ち上がっていた。

 

「伏せ……」

 

ろ……という前に一毅はキンジに突き飛ばされる……次の瞬間避雷針が振るわれ突き飛ばされてギリギリ間合いから外れた一毅以外吹っ飛ばされた。

 

『が!』

「くは……ハハハハハハハ!!!!!こいつはすげぇ……力が沸いてくるぞ!」

「馬鹿な……」

 

一毅が声を漏らす……

ブラドが持つ雰囲気はヒステリアモードだ……だがキンジや一毅が知るヒステリアモードを遥かに上回っている。

それに何故動けるのだ……魔臓は全て撃ち抜いた……少なくとも銃弾が四発も体に撃ち込まれている……更にライカの一撃が眉間に完全に決まっていた……

ダメージや傷を考えたって普通は立てる筈はない。頼みの綱のはずの回復も無い。傷がそのままなのが何よりの証拠だ……何が起きている……

 

(死に掛けても可笑しくない筈なのに……ブラドに何が起きている!)

 

一毅は困惑していた……




後半戦に続く……

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