緋弾のアリア その武偵……龍が如く   作:ユウジン

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金と泥棒

「……理子、何の用だ?」

 

キンジは努めて冷静に聞いた……強引に押し返せないこともないとは思うが今のキンジはヒステリアモードではない。Cランクがそこそこの普通の男だ。押し倒されてるこんな密着状態では得意の蹴りは勿論銃やナイフは懐から出す前に殺られる可能性がある。

ならば交渉で時間を伸ばしアリア達が帰ってくるのを待つ方が良い……

 

「んも~キー君そんな怒らないで。理子はキー君と仲良くしたいんだよ?」

 

理子は体を密着させてくる。モミュウ……っとその小柄な体からは考えられないほど柔らかくて暖かい……まるで大福みたいな胸がキンジの胸に押し付けられる。アリアにはないな……等とふざけたことを考えてる場合ではなく一気にキンジのヒステリアモードが促進される。

 

(不味い不味い不味い!)

 

キンジは無理矢理そこは距離をとらせるように理子を押すが理子は更にキンジにくっついてくる。

 

「理子はキー君に手伝ってほしいことがあるの……」

「ふざけるな……兄さんを殺しておいて……」

「まだ言ってるの?何度も言うけど理子は殺してないよ。金一はイ・ウーに居るんだよ」

「ふざけるな……」

 

キンジの目が細まり怒りに染まる。

 

「でもさぁ……」

 

だが理子はそれにも関わらずに話を進める。

 

「カナの美貌って反則だよねぇ~」

「………は?」

「まあ中身は男でさ……しかもカナに成ってヒステリアモードを使うと金一は恥ずかしいんでしょ?どうせだからずっと成っておけば良いのに」

「っ!」

「そう言えばキー君昔喧嘩して泣きながら帰ってきたんだって?今じゃ考えられないね」

「っ!」

「あ、もしかして黒歴史?じゃあ……昔二人でキャッチボールしてたら庭の地蔵割ってア●ンア●ファでくっ付けたってのは?それともキー君の初恋は実は初めてみたカ……」

「わーわーわー!」

「信じてくれた?全部金一に聞いたんだよ」

「……………」

 

確かに最後のに至っては文字通り誰にも言っていない。無論兄でもだ。バレていたのには驚愕だが……逆に現実味はある。

 

「他に何を言って欲しい?好きな食べ物?趣味?それとも使う技?使う銃?得意な武器?今の年齢?」

「……………じゃあ…兄さんは今何処に居るんだよ…」

「だからイ・ウーだよ」

「そうじゃない……居場所だ……」

 

同時にヒステリアモードに成り掛けて来ていることに気づく。残念ながら掛かりは甘い。甘ヒス(メザヒス)と呼んでいる状態だ……それでも通常より思考は早いし理子相手に倒すのは無理でも時間稼ぎの自己防衛位ならギリギリ行ける筈だ。

 

「うーん……教えても良いんだけど……」

「金か?言っておくが持ってないぞ」

「じゃあ……キー君頂戴」

「………は?」

「理子分かるんだ……キー君は絶対にもっと強くなる。今よりもずっと腕をあげ……いずれ世界に名を轟かす男になる」

「バカ言うな……俺は普通の武偵になるんだ……」

「バカ言ってるのはキー君の方だよ。キー君がなんて言おうと世界はキー君程の逸材を絶対に放っておかない……まあカズッチもそういう意味では同じかな……理子はお母様の血のお陰か将来大物になる人間が分かるんだ。キー君とカズッチは将来とんでもない化物になる。でもカズッチとは戦闘能力的に相性が悪いしね……キー君はその分女性の機微に敏感だ」

「………………」

「化物が二人居るなら……相性が良い方と組む……それが普通でしょ?」

「ふざけるな……俺はアリアのパートナーだ」

「お前に拒否権はない……」

 

ゾクッとするほどの理子の笑み……理子の細い指がキンジの体を伝う……

いつも子供みたいなやつだと思っていたが今の理子は……妖艶……背筋が凍るような可愛さだ。

アリアはドキドキさせられる……白雪は暴走しなければ安心する……だが理子にあるのは……背徳感……

触れてはならないのに触れたくなる。触れれば最後……戻れなくなるとわかっているのに触れてしまう。

同時に理子の体から甘いシュガーミルクみたいな香りが来る……今日ほど祖父から遺伝した嗅覚の鋭さを恨んだことはない。

 

「私はオルメスから貰うとも頂戴するとも言っていない……奪うって言っているんだ……キンジ……お前をな…」

 

耳で囁かれ抗う力が勝手に抜けていく。

キンジは困惑するが理子は美しくもどこか恐ろしい笑顔をする。

 

「ほら……キンジは私を求めている……口では何て言っても男だからねキンジは……お母様に聞いていたんだ、男はその気になれば簡単に落とせるって……」

 

そう言うと理子は胸のリボンを弛める。

 

「な!お前なにする気だ!」

 

とっさに正気に戻りが理子は笑って…

 

「イ・イ・コ・ト♡……さあキー君……ここで理子を受け入れる?そうしたらお兄さんの情報あげる。但し断れば……分かるよね?」

「っ!」

 

キンジは自分の体が強ばるのを感じた。

ここは断るべきなのだろう……だがここで押し返せば兄の情報源は無くなる。

どうするべきか…分からない。

悩んでいる間に理子を押していた手の力が緩まる。

 

「さすがキー君……懸命なご判断」

 

理子は服の裾をあげて……

 

「キンジただ…え?」

「遊びに着た…え?」

「……………ほぅ?」

「お邪魔し…あれ?」

 

上から順にアリア、一毅、レキ、ライカが入ってきた…

 

「ふぅん……そう……」

 

アリアはコメカミをビクンビクンさせながら銃に手を掛ける。

 

「人の部屋で何してんのよ!風穴疾走(かざあなドライブ)!!!!」

 

お前の部屋でもないけどな!っというキンジの至極真っ当な突っ込みはアリアの銃声でかき消えた。

 

「うわぁお!」

 

その中理子は飛び上がって素早く躱すとワルサーPPKを抜いて近接拳銃戦(アル=カタ)に持ち込む。

 

「一毅!」

「…あ、おう!」

 

一毅は拳を握ると理子の襟を掴む。

 

「やば!」

「うっらぁ!」

 

ただ投げるのではなく上から下に投げ落とすように投げる。だが、

 

「甘いね」

 

理子は逆さになってるのを利用し一毅のコメカミに蹴りを入れる。

「ぐっ!」

 

そのまま理子は転がって衝撃を逃がすと不適な笑みを浮かべる。

だが、

 

「しゅ!」

「いい!」

 

レキはドラグノフに着けた銃剣で何の迷いもなく理子の顔を突こうとした。

 

「今本気だったよね!?」

「人の彼氏の頭蹴っ飛ばしておいて手加減を期待しないでください」

 

更に、

 

「よくわかんねぇけど敵なのは分かった!」

「っ!」

 

ライカのトンファーが理子を狙い、理子の鳩尾を的確に穿つ。

 

「がっ!」

 

理子が後ろに後ずさると一毅が後ろ首を掴む。

 

「良くも人のコメカミ何ざ蹴りやがって…結構痛かったぞ」

「いや流石に力弱い理子でもコメカミの蹴りは普通命に関わるんだけど…」

「んな蹴り使うんじゃねぇよ!」

 

一毅は理子の腰に手を回すと持ち上げ…

 

「二天一流 喧嘩術!引き起こしの…」

 

そのままジャーマンスープレックスで床に落とす。

 

「ぐぉ…」

 

だがそれで終わらず一毅は回り込みもう一度持ち上げると再度ジャーマンスープレックスで落とした。

 

「極み!!!!」

 

さすがの理子もこれには堪らず意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よぅっし要約するぞ?お前は俺たちを殺そうとした奴の色仕掛けに落ちかけた…死刑だな」

「死刑ね」

「死刑ですね」

「遠山先輩最低ですね」

「待て待て待て!違う!」

「キンジ…介錯なら任せな…きっちり殺してやる」

 

一毅は殺神(さつがみ)の鯉口を切る。

 

「だから待てって!落ちてねぇし落ち掛けてもイねぇ!」

「どうかしら…こいつは女と見れば見境ないもの」

「アリア…お前の俺のイメージどうなってんだ…?」

「白雪にキスしたんでしょ?…私にもしたくせに…」

 

キンジはヒィっと飛び上がった。

 

「う…ん…」

 

ついに理子が目覚めた。

 

「んもーカズッチ手加減がないんだから」

「やっと起きたわね理子…あんたにはきっちりママの裁判に出てもらうんだから」

「じゃあこの手錠外して」

「できるわけないでしょ!!!!」

「え~しなきゃ不当逮捕だぞ~」

「何?」

一毅が眉を寄せると理子が手錠を着けたままバックを顎でしゃくる。

 

「…………」

 

一毅はバックを逆さにして中身をぶちまける。

 

「ちょっと!もっと大事に扱ってよ!」

 

理子の抗議を無視して見てみると…

 

「司法取引?」

 

よく分からない書類の束があったが要するに理子が司法取引に応じたと言うのを証明する書類だ。

 

「んふふ~分かった?もう理子は真っ白なのです!」

「ふ、ふざけんじゃないわよ!司法が許したって私が許さないわ!」

 

アリアは理子に飛び掛かりそうだったため一毅が猫みたいに後ろ首をつかんで持ち上げると身長差凡そ40㎝…いや、下手したら50㎝ほどあるため少し持ち上げるだけで空中でジタバタ暴れている。

 

「落ち着け……レキ外してやれ。その代わり理子……変な動きをしたら捕まえるからな」

「はーい」

 

レキは黙って手錠を外すと理子は手をプラプラさせながら立ち上がる。

 

「あー楽になった」

「それで理子さん。わざわざ何しに来たんですか?何の理由もなく来たわけではないんでしょう?」

「まあねぇ~一つはキー君貰いに来たんだ」

「はぁ!?キンジは私のパートナーよ!」

 

また暴れだしそうだったため一毅がアリアを持ち上げつつ……

 

「じゃあ二つ目は?」

「うん、でもねぇライカ要らないや」

「っ!」

「だってライカよわっちぃし~」

「上等だ……さっきよりキツいの入れぐえ!」

「お前も落ち着け」

 

一毅は残った手でライカを捕まえる。

 

「ライカ……確かに今のお前では単独撃破は多分8、9割無理だ。さっきのは不意打ちがうまく決まっただけだし本気の理子はもっと強い」

「【今は】……って言ったね」

「ああ、【今は】……だ」

「ふぅん…まあ良いや」

 

皆の視線が理子に集まる。

 

「ねぇ皆、理子と一緒に泥棒やろ?」

『………………はい?』

 

全員があんぐり口を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たっだいま~!理子りん帰ってきました~!」

『理子りん!理子りん!理子りん!理子理子理子りん!理子りん!理子りん!理子りん!理子理子理子りん!』

 

何故かアイドルよろしく合唱が始まった。何故か理子は次の日普通に武偵高校に帰ってきた。表向きはアメリカまで武偵活動しに……と言うことになっている。

キンジは固まってるしアリアはボールペンをへし折っている。

だが一毅は眠かった。関係なしに眠い……何故なら昨夜はライカに現在巻き込まれてる事件の概要を説明していたためだ。だがそれを聞いてもライカは一人の武偵としても協力したいと言う返答を返してきたため嬉しい反面やはり危険もある……どうするべきか……とりあえず眠ろう……

そうして一毅は眠りの世界に落ちていった……


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