魔弾の告白
「結婚を前提に付き合ってください」
誰もが一度は憧れるかもしれないプロポーズ……場所は屋上、夕日がその場を照らしている。良い雰囲気の中一毅と告白の相手を照らす……ここだけ聞けば何と素晴らしい告白風景だろう……演劇での演目であればお涙頂戴物だろう。
何故こんな事になったのか……それは少し時間を戻そう。
それは今から少し前……
「ん?」
「どうした?」
一ヶ月前に東京武偵高校に仲良く受かった一毅とキンジは下駄箱に居た。
後、武偵には其々学科でSからEまでランク付けされており一毅とキンジはプロ武偵を倒したためかSに格付けされた。
因みに試験の際のプロ武偵(あとで知ったがあれは在校生だったらしい)をボコボコにしたのが大きかったのだろうがキンジは普段はCランクいけば上々の戦闘能力なので結構苦労している。
そんなこんなで新入生としてそろそろ此処の無茶苦茶な校風も分かってきた頃一毅の下駄箱に手紙が入っていた。
「手紙だな……」
【放課後…屋上にて待っています】と中にはそう書かれている。
「果たし合いか?」
「かなぁ……」
キンジと一毅は首を傾げる。この文面を見てまず最初に果たし状かと勘ぐるのは世界広しと言えどこの二人くらいだろう。
「まあ良いや、行ってから帰る」
「一緒にいくか?」
「いや、大丈夫だろう」
「そうか?まあ、気を付けてな」
そんな会話の後に一毅はキンジと別れると屋上を目指し階段を上る。
意外とこの学校は広いので5分も学校を歩かなければならない。
まあ普段から体を鍛えるためとか色々理由はあるらしい。だが変な場所に間違っていくと暗器とか鳥居とか銃弾とか転がる危険地帯も多いため気を付けなければならない。
そしてそうこうしてる間に屋上に着くと扉を開ける。
「あれ?」
一毅は驚く。
屋上には何故か試験の時に蘭豹が間違えて試験を受けさせてた無口で無表情で無感情だが顔立ちはとんでもない美少女……確か名前は……
「レキ……だっけ?」
「お久し振りですね。桐生 一毅さん」
あの時と変わらぬ無表情でレキは言いながらこちらを見ると近づいてくる。
「何か用か?まさか試験時の意趣返しか?勘弁してくれ……俺は今日は疲れてんだ」
一毅も近づき屋上の真ん中辺りで二人は止まる。
「違います。ただ……私に約束してくれればいいのです」
「約束って……何をだ……?」
一毅が首を捻った次の瞬間予備動作なしでドラグノフ狙撃銃の銃剣を首筋に突きつけられる。
流石に油断してた一毅は反撃する暇処か腰に履いた刀に手を掛ける事も出来ずに驚くことしか出来なかった。。
「ど、どういうつもりだ?」
一毅は取り合えず聞く。どういうつもりか分からないがとにかく攻撃しに来た彼女に事情を聞いて見るしかない。
と言うか意趣返ししないんじゃなかったのだろうか……
「結婚を前提に付き合ってください」
「……はい?」
一毅は唖然とした。
血痕を前提に付き合う?……いや、それだと殺し合いに発展する。多分【血痕】ではなく……
「言っておきますが殺伐した方の血痕ではなく夫婦になると言う意味です」
「で、ですよね?」
先に言われた……だがいきなりどういう事だ?突然|結婚を申し込まれた?全く話の前後がわからない。
まあこんな可愛い子に言われて全くトキメかない程枯れてはいないが……だが、
「きょ、拒否権は?」
「ありますよ」
あ、あるんだ……等と思ったがところがどっこい、
「まあ断ったら撃ち抜きます」
「おい……」
先程までのトキメキは全部吹っ飛んだ。完全に脅されている。とは言え……
「俺はお前の事は何も知らないぞ……?お前だって何だってそんな男に告白どころか結婚まで申し込んでいるんだ?」
「そうですね、ですがいいのです……風の命令ですから」
「風?」
風……今も吹いてるこの現象の事だろうか……?試験の時も思ったがもしかしなくともこの美少女無表情ガンナーはやはり今流行りの電波系なのだろうか……って待て待て!
「もしかしなくともその風の命令で俺に告ってんの!?」
「ええ」
「それじゃあさよな(パン!)……OK、少し話し合おうか」
俺の顔の真横を弾丸がお通りなさった。ほんとに撃ち抜くのかよ……しかも撃つまでに迷いが一切ない。なんか狙撃用の機械みたいだ。
「ち、取り合えずその風に伝えろ……俺はその風とか言う奴の命令で好きでないもの同士で付き合える程の度量はない」
「成程……ならこういうのはどうでしょう」
「あ?」
レキは銃剣を離して一毅を見る。
「お友だち期間……所謂仮カップル期間を作るんです。その間に貴方は私を好きになってください。これならいいでしょう?」
「俺じゃなくてお前はどうすんだよ」
「私には必要ありません」
「で、でもそれでお前のことを好きにならなかったらどうするんだ?」
「その時はその時で考えます」
そう言ってレキの目が細くなる……まるで暗殺者のようだ。
「これ以上の譲歩案はありません。断れば今度こそ撃ちます」
そう言って再度銃を向けてくる……
(しかし何だよ風って……)
そう思いつつもレキを一毅は見る。
確かに愛想はないし背は低いし比較的幼児体型の部類の女だがそれらを差し引いてもくりっとした眼に透けそうな真っ白な肌……とお釣りがくる美少女だ。
そんな彼女が風とか言う謎の人物からの命令とは言え自分に対して結婚……はまあまだ勘弁願いたいが告白してきてる……一毅も年頃の男の子でありそんな状況で多少なりとも悪い気がしないのは仕方ないだろう。
それにここまでさせる風と言う奴の正体や目的も気になると言えば気になるのだ。
だが、彼女は自分の好み(一毅は活発ででも大人びた感じの年上の女性が好みだ)とはかけ離れてるし、態々仮カップルしてまで風の正体が気になる
訳じゃない。
「うーん……」
一毅は頭を捻る。
「駄目ですか?」
レキは銃を持つ手に力を込める。
「………分かった……分かったよ。取り敢えず物は試しだ」
命令とは言えここまでさせたんだ。
断るのはやはり男として不味いと言うか男としてここは腹を括るべきだろう。まあ試しに付き合ってみれば本当に好きになるかもしれないと言う気持ちもある。
よく言うだろう。自分の好みと好きになる相手は違うと……
「そうですか。ではこれからよろしくお願いします」
「あ、ああ……まあこちらこそ……」
そう言ってお互いに頭をペコリ下げた。
さて、脅迫と言う名の告白による一毅とレキの一年生同士の仮カップルは何故か次の日には学校中に知れ渡り、さらにその次の日には……
「桐生死ねヤァアアアアアア!!!」
「ウォオオオ!!!」
「【チュイン!】おわ!」
「逃げるなぁあああああ!」
「逃げるわぁあああああ!」
「……………」
「ウォップ!」
「喰らえ!」
「危な!」
そして極めつけは、
「死ね!」
「何で!?」
蘭豹に斬馬刀とM50の餌食にされかけた……
しかもこのすべての装備は
だがまさかレキにファンクラブ(通称RFC)が出来ていたとは……一部は合コンに失敗したとかだけどな。
(俺明日辺り死ぬんじゃねえかな……)
一毅はトボトボ歩きながら食堂に向かう。後ろにはテクテクと従者のようにレキを引き連れながらだが。
因みにレキが居ないときを見計らって襲ってくるのでレキがいれば襲われない。
「さて何食うかな……」
一毅がメニューを見ているとレキはテクテク歩いてカロリーメイトの自販機に向かう。
「待て、お前まさかカロリーメイトをここまで来て食う気か?」
一毅はレキの肩をガッチリ掴んでとめる。
「何か問題でも?食事とは必要なエネルギーを摂取出来れば問題ありません」
「……………はぁ……」
一毅は大きな溜め息を一つ吐くとレキの手を引っ張り列に並ぶ。
「あのなぁ……食事ってのはなにも栄養の摂取のみを目的としていないんだよ。旨いもん食えば色々と頑張ろうとか思えるだろうし元気も出る」
「そうですか?」
一毅が言うだけ言ってみるが反応は静かなものだ。
「あー……うん、とにかく今は何かカロリーメイト以外の物を食おうぜ?ほら奢ってやるから」
一毅がメニューを指差す。するとレキは、
「でしたらあの【激辛ドラゴンチャーハン】で」
「何でこの学校そんな必殺技みたいな名前の飯あんだよ……」
一毅は唖然とした……
その後昼食を終えて帰る途中に蘭豹に呼び止められる。
「お~いそこのリア充」
先程一毅を襲った恐ろしい教師が話しかけてきた。
「あ、蘭豹……先生何ですか?」
危なく呼び捨てで呼ぶところだった。間違ってでも呼べば恐ろしい体罰が待っている。
「なんや今の変な間は」
「き、キノセイデスヨ……それで何かようですか?」
「おお、ちょいとヤクザの密談潰してこい」
「………………はい?」
何かちょっとそこまでお使い行ってこいみたいなノリでとんでもないこと命令されたような……
「ここの廃ビルで薬の密売があるしい
んや。だから全員ブッ飛ばして捕まえてこい」
「いやいやいや、そう言うのって先輩やるんじゃないんですか?」
「今でばってるんや、ついでに言うと下手な二、三年いやらせるんやったらお前の方がエエわ、んじゃ今日は頼んだで」
蘭豹は一毅に概要を書いた書類を渡すとさっさと行ってしまう。
「って今日かよ!」
書類を見てみる……もう出ないと駄目だ。
「悪いけどレキ、俺行ってくる」
「私も行きます」
「え?」
一毅はレキを見る。
「狙撃による援護はできます。報酬はそうですね……一毅さんと私で7:3で分けましょう」
「……分かった……じゃあ頼む」
まあ断っても勝手についてきそうだ。
「はい」
一毅とレキは先ず装備を取りに行く。
「レキ……お互い気を付けようぜ」
「はい」
そしてそれぞれ装備をつけ終えると立ち上がり外に出る。
「今日の運搬を仰せつかった島 苺ですの」
「宜しくな……え?」
「………」
車に乗った一毅は目を丸くする。
アタリ前だろう。運転席に居たのはどう見ても小学生だ……アクセル踏めるのかからして怪しい……
「では行きますよ!」
だが次の瞬間アクセルを踏み込み飛ばす。
物凄い力のGが横から掛かり一毅とレキは横に揺さぶられる。
「お、おいもっと安全運転で行けよ!」
「それじゃ間に合いませんの!後、喋ると噛みますの!いよっと!」
「うぉっふ!」
それにしても仮にとは言え一応レキとはカップルだと言うのに二人の初めてのお出かけが薬の密売をしているヤクザへの殴り込みとは何と言うか如何にも武偵らしいと縦に横にと激しく自分達をシェイクしてくる車の中で一毅は口を抑えながらそんなことを考え現実逃避していた……