ハイジャック事件から三日後…キンジは寮の屋上に居た。
「何黄昏点のよ」
「アリア…」
キンジは振り替えると目の前にはアリアが居た。
「ちょっとな」
あのあと理子は逃走を許したが宝蔵院はきっちり裁判の場に出せるようにしてある。
「理子は逃がしたけど一人は一毅がきっちり捕まえてあるわ。ママの裁判も高裁まで差し戻せたし…これで一歩近づいたわ」
「そうか」
するとアリアはキンジを見る。
「後…ありがとね。助けに来てくれて」
「あ、ああ…」
珍しく見せた笑顔にキンジはドキマギしてしまう。
「それでね…今回で分かったわ。私にはパートナーが必要なのよ」
アリアはどこか寂しげな目となる。
「本当はあんたがいいんだけど…約束したもんね。武偵憲章2条…依頼人との約束は守れ…だもんね。だから私イギリスに帰るわ。今日女子寮の屋上に迎えが来るから…」
「ああ…」
「ねぇキンジ…もし…もしもよ…武偵を続けようと思ったら…会いに来て…」
そう言ってアリアは屋上を出る。
(すまないアリア…俺は…ん?)
アリアの気配が遠ざからない…おかしく思ったキンジはドアに聞き耳をたてると、
「ねぇ…あんた以上のパートナー何ていないよ…キンジ……私のパートナーになってよぉ…キンジィ…」
ズキン!とキンジの心臓に痛みが走るような感覚が走る。
「っ!」
キンジは振り払うようにフェンスの方に向かう。
やめると決めていたはず…なのにアリアに請われると決心が簡単に揺らぐ。だがアリアと共にいれば確実にヒステリアモードからも逃げられなくなる…兄を死なせた忌まわしい力を…普通の人間になるんだろう?殉死何てものからはほど遠い人生を歩むんだろ?なのに何で…アリアを相手にするとそんなものがどうでもよくなるんだ…勝手に人の領分に入ってきて…一方的にパートナーにしてきたとんでもないやつなのに…何でこんなに悲しいのだろう…何で…
「キンジ…」
「っ!………なんだ一毅か」
声の方を見るとドアの前に一毅が居た。
「アリアじゃなくて残念だったな」
「そんなんじゃねぇよ……」
キンジは一毅から視線をそらす。
「アリア…今日帰るんだって?」
「ああ…」
「行かねぇのか?」
「何にだよ」
「迎えにだよ。止めに行けよキンジ」
「ふざけんな…俺は武偵を辞めるんだ…」
「お前は本当にそれで良いのか?」
一毅はキンジの方を向く。
「それでお前は満足なのかよ…ええ?遠山 キンジ」
キンジの中で何かが切れた。
「うるせぇんだよ!俺は武偵を辞めるんだ!何したって認められない…不遇のままで終わる武偵から足を洗うんだ!兄さんを死なせたヒステリアモードからも離れて暮らす。普通の会社で普通に仕事をして普通に死んでいく!そう決めたんだよ!」
キンジは肩を上下させながら捲し立てるように言う。だが一毅には…必死に言い訳してるようにしか聞こえなかった…誰にではない…自分自身にだ。分かっているんだろう…だが…一歩が踏み出せないんだろう…なら出来ることは一つだ…一毅なりのやり方で…教えてやる。
「キンジ…歯ぁ喰い縛れ」
「あ?……がはっ!」
キンジが唖然とした次の瞬間一毅の拳がキンジの顔面にめり込みバキィ!!!っと言う音と共にキンジが吹っ飛んだ。
「か、一毅?」
キンジが呆然とする中一毅は上に着ていた服をバッと脱ぎ捨て上半身がさらけ出される。。
元々恵まれた体躯に加えて鍛え込んだ筋肉質の裸体を春特有の暖かな風が包む。
「言いてぇことはたくさんある…沢山ありすぎっからよ……
「……マジかよ」
「ああ…マジだよ」
キンジは頬を抑えながら立つとキンジも上に着ていた服をバッと脱ぎ捨て上半身裸になる。
一毅と違い細身ではあるが決して貧相ではなく寧ろその体格から考えればかなり鍛え込んである。そんな体も春特有の暖かな風が包む。
「鍛えては居たみたいだな」
「まぁな」
それから一毅は拳と握りキンジは蹴りの構えを取る。
「手加減なしだぞキンジ…」
「上等だ…」
そして二人は駆け出す。
「行くぞぉおおおおキンジィイイイイ!!!」
「上等だぁああああ一毅ィイイイイイ!!!」
一毅の拳とキンジの脚が交差した。
『ウラァ!!!』
バキィ!と互いの拳と脚が相手に同時にぶつかり二人は後ずさる。
「オゥラァア!!!」
一毅はキンジの腹部をぶん殴る。
「ぐぉ!」
「ウラウラウラウラァ!!!」
怯んだキンジに一毅は更に追い討ちをかけるように顔・脇腹・最後にアッパーを決めてキンジを吹っ飛ばす。
「がはっ!」
「おいおいそれでおわ…」
「ライズキック!」
「うぉ!」
一毅が近づいた瞬間キンジは素早く起き上がりながら足払いを掛ける。
「シャア!!!」
キンジは素早く馬乗りになると一毅に拳を叩きつける。
「がっ!」
「ヨォオオッシャアアア!!!」
キンジは両手を合わせて指を絡ませそのまま相手に落とす格闘技の技・ダブルスレッジハンマーを一毅の顔面に叩き込み昏倒させると立ち上がり一毅の頭の方にたつ。
「ウッシャア!!!」
そこからサッカーボールのように一毅の横顔を蹴っ飛ばし独楽のように一毅は一回転する。更にキンジは一毅の頭を掴むと逆立ちし…そのまま膝を落とす。
「ぎがっ!」
「追い討ちの極み…」
さすがの一毅でも落ちたと思ったキンジは一息吐く…が、
「うっらぁ!」
一毅はキンジの両膝に寝転がったまま蹴りを入れる。
「がっ!」
「二天一流 喧嘩術!逆転の極み!」
更に一毅はキンジが怯んだところをぶん投げて地面に落とすと馬乗りになり思いきりぶん殴る。
「ぶっ!」
更に立ち上がると一毅はキンジの両足を掴み、
「ウォオオオ!スイングの極みィイイイイ!!!!!!」
思いきりジャイアントスイングの用量でぶん投げた。
「ぐっ!」
キンジィはとっさに受け身を取るがダメージはあるらしく足元はふらついている。
「はぁ…はぁ…」
だが一毅も先程の一連の攻撃が効いているらしくフラフラしている。どちらも体力の限界は近い。
本来ならもっと持つ筈だ…だが二人とも先程から互いの攻撃を避けていない。理由は単純…馬鹿と言われようが…なんと言われようが互いに言いたいことは一撃一撃に乗せている。ならば避けてはならない。相手の一撃を避けるのは伝えたいことを聞いてないのと同じだから…全部受け止めてやるし全部聞いてもらうため一毅とキンジには避けると言う選択肢はない。
「うらぁ!」
一毅の右フックがキンジの頬に刺さる。
「ぐぉ…ウッシャア!」
キンジは後ずさるが逆に蹴り返す。
「がは!…ウォオ!」
一毅のボディーが…
「シャア!!!」
キンジの回し蹴りが…
「らぁ!」
「シャ!」
「オラァ!」
「イヨッシャア!」
「オオオオラァ!」
「ウォオオオ!」
互いの攻撃を交互に入れていきだんだん加速していく…
『ウォオオオオオオオオ………』
一瞬静かになり…
『ウォラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!!!!』
一毅の拳とキンジの脚が次々放たれていく。
痛いし吹っ飛びそうだ…だがそれでも負けたくなかった。折れるわけにはいかなかった。親友のため一毅はキンジに負けられなかった。
その思いに答える様に一毅の体からブルーヒートが現れる。
「ウッシャア!!!」
キンジの拳が迫る……だが、
「勝機!!!」
一毅は目を光らせると敢えて祖手を顔で受けた……そして、
「二天一流 拳技・奥義!!!究極の…」
一毅は大きく振りかぶる。
「極みィイイイイ!!!!!!」
キンジが気がついたときには既に一毅の拳が自分の体をぶっ飛ばした次の瞬間だった。
「がっはぁ!」
キンジはゴロゴロ地面を転がり止まる。
「ごほ…」
その隣に一毅もぶっ倒れる。
「………俺さ…」
キンジは口を開く。
「本当は怖かったんだ…分かっていたんだ…普通普通言ってるけど本当は途中で気づいてた…本当は逃げてるんだって…でもさ…同時に思ってしまうんだ…俺にとって兄さんってのはその程度だったのかって…」
「………………」
「誰も分かっちゃくれなかった…武偵ってのはそんな人を助けたって恨まれるような仕事を…俺はできる気がしない…兄さんのような聖人君子みたいなことを俺は…できない」
「……誰だって…そうだろう」
「え?」
「誰もそんな慈善事業で出来やしない…誰もが理由があるんだと思う。金のため…強いやつと戦いたいから…銃を撃ってみたいから…色んな奴がいる…この東京武偵高校だけでもな」
「……………」
「アリアは母親のために…俺はレキと一緒にいたいから…お前だって合っただろ?ここに入ったときに…思いがさ」
「……ああ…」
そうだった…あの時は何時かは自分も兄のように強く…そして自在にヒステリアモードを使いこなせる日が来ると思っていた。兄が死んでからはすべてを諦めたが…
「俺は思うんだけどさ…武偵に限らず人間ってのは夢とか…思いがないと生きていけない生物なんだと思う…そういう原動力があるから…胸張って生きられるんだと思う…そして叶えたときに思うんだと思う…やってよかったってさ…」
「……一毅」
「まあ俺は馬鹿だしまだまだ餓鬼だ…偉そうには言えないけど…そう思う」
「……夢とか思い…か」
「キンジにもあるんだろ?と言うか出来たんだろ?が正しいか」
「何でそう思うんだよ」
「お前との付き合いがどれだけになると思っているんだ?分かるさ…それにお前昔レキに言われただろ?」
「ん?」
「あなたは超がつくほどのお人好し…」
「……ああ!」
キンジはやっと思い出す。確かに昔一毅が不在でレキと偶々会って寮まで帰ったときにポツリと言われた言葉…
【キンジさんはお人好しですね】
【はぁ?】
【気を付けた方がいいですよ。誤解を招きますから】
【なんの話だよ】
【まあ無理ですかね。貴方は一毅さんと同じで超がつくほどのお人好しで馬鹿みたいに優しくして人を拒絶できない…例えヒステリアモードでなかったとしてもね】
【……………】
【ですから頑張ってくださいね?数多くの女難に巻き込まれるでしょうが】
よくわからん一言だったからも忘れていた…どうも自分は他人から見るとお人好しらしい…自分ではよくわからないが…
「だからキンジ…行ってこいよ…どうせお前はここでアリアを見捨てられるような自分の意地を守る強さはないんだ。お前の嫌いなヒステリアモードが示すようにお前は結局誰も見捨てられず誰も厳しくできない…馬鹿何だからよ」
「お前にだけは言われたくない馬鹿」
そう言って一毅とキンジは笑う。
そしてキンジは立つと制服を着る。
「寂しがりやな女の子を……迎えにいってくる」
「ああ…行ってこいよ」
キンジはサムズアップを一つして走っていく。
それから…
「いつつ……あの野郎…本気で蹴りやがって…」
「じゃあ治療してあげましょう」
「うぉわ!レキか…」
「はいレキです。ここのところアリアさんに出番奪われていて出番が少なくなっていたレキです」
「そ、そうか…」
確かに少なかったよな…出番…
「さて、包帯と消毒液とガーゼはたっぷりあります。傷を見せてください」
「準備いいな」
「そりゃあ一毅さんとキンジさんがオホモダチワールド展開し始めた頃から準備開始してましたから」
「誰がオホモダチだ!」
確かにあいつと仲が良すぎて一部の女子からそういう風に妄想されているのは風の噂で聞いてはいたが自分的にはレキが好きだしキンジだって多分色んな女の子落としまくる割りにはアリア一筋何だろうし…その妄想は色々とあり得ない。
等と治療を受けながら考えていると、
「間に合いますかね」
「間に合うさ…ん?」
すると電話が来た…光一からだ。
「はいもしもし?」
「おう、分かったぞ。神崎 H アリアの実家がな…」
その頃キンジは女子寮の階段をかけ上がっていた。寄りによってエレベーターが壊れていたのである。そのため自慢の脚力を全開にして階段を2、3段すっ飛ばしながらかけ上がっている。
今なら世界を狙えるかと思える早さだ。
「はぁ…くそ!こうなるなら
やっと決めた…アリアに思わされて…一毅に背中押されて…やっと決めた…やっと思えた。自分は大したことはないかもしれない。ヒーロー何てとんでもない…でも…それでもたった一人の女の子の味方にはなれる。その女の子の背中を守ることはできる。守って…共に戦える。誰も認めてはくれないかもしれない。いや、敵は強大だがアリアの言葉の端々から察するに表だっての功績にはならない。だがそれがどうした。そんなものなくたってアリアが生きて行けるならいいじゃないか。アリアにお疲れと言って貰えれば良いじゃないか?死ぬかもしれない…酷い目に遭うかもしれない。でもそれでもアリアの苦労を半分は背負ってやれる。一人では無理でも二人ならどんなやつにも負けない。
「シャ!」
キンジはドアをぶち破らんばかりに開けると既にヘリが飛び立とうとしていた。遅かったか…いや、まだだ!
「アリア……」
行くな…
「アリアァアアアア!」
するとヘリのドアが開く。
「来るのが遅いわよ!馬鹿キンジ!!!」
そういうが早いか迷い無く呼び降りる。
「なっ!馬鹿!」
落下地点に先回りするがアリアが落下前にヘリに着けていたワイヤーが長かったのか地面に付く前にアリアが止まる。
「あーもう!邪魔!!!」
アリアは背中から小太刀を抜刀するとワイヤーを切り裂きキンジの胸に落下する。
「馬鹿かお前は!」
「あんたにだけは言われたくないわよ!」
バチバチ火花を散らしながらにらみ会うがヘリの方も騒がしいことに気づく。恐らくつれ返す筈のアリアが突然帰国拒否したため焦っているのだろう。
「ったく…」
「どうする?キンジ」
「ドンパチやって日英両国の仲悪くするのは得策じゃない」
そう言ってキンジはドア方にいくと渾身の力で蹴っ飛ばす。
ドゴン!っと派手な音を立てドアは歪み取っ手は外れる。
「ちょ!あんたどういうキック力…じゃなくて何考えてんのよ!」
アリアが驚いてるが説明してる暇はないため無視してフェンスの方にいく。
「アリア…」
「な、何よ…」
キンジが見せた真剣な顔にアリアの心臓が跳ねる。
「俺はたいした男じゃない。一毅みたいに腕力はないしお前みたいな勘もレキみたいな目もない…精々蹴り技とバタフライナイフの高速開閉とか位が能の男だ。でもな…お前の隣に食らい付いて居ることはできる。一緒にいて…
「キンジ…」
アリアの顔の赤みが最高潮になる。
「ほらいくぞアリア!!!」
キンジはアリアを抱えあげると屋上の縁にベルトのワイヤーを引っ掛ける。
「ちょ!どうするのよ!」
「跳ぶんだよ!!!」
キンジは飛び蹴りでフェンスを歪めるとそれを台に跳ぶ。
それはまるで今まで雛だった鷹が成長し、大人になったかのようだ。
とは言えキンジは人間なのでアリアをかけたままそのまま落下してそのままベルトの方も千切れる。
『嘘…』
思っていたより劣化していたらしいベルトは二人を支えきれずついに切れる。
「嘘だろおおおお!!!!!!!!!」
「あんた装備の点検はちゃんとしときなさいよおおおおおお!!!!!!」
すると運良く温室の上だったらしくビニールの上で大きく羽上がるとビニールを破りながら落下した。
「いっつつ…」
「あんた馬鹿じゃないの…」
「まぁ…なぁ…」
全く否定できなかった。
「まぁ…こんな男をパートナーにする私も馬鹿よね」
「お互い様ってやつか?」
「そうね…」
そういうとアリアは立ち上がる。
「キンジ…本気なの?」
「ああ、武偵を辞めるのもやめだ。俺は今度は普通の武偵を目指すぜ」
するとアリアがプーッ!と吹く。
「あんたが普通?無理に決まってんでしょ?あんたみたいな普通とか絶対に普通じゃないから。でなきゃナイフで銃弾真っ二つとかあり得ないわよ」
「何!?」
「それに…あたしのパートナーになるのよ。普通じゃ困るわ」
「むぅ…」
キンジは不貞腐れる。
「そういえば理子の奴も言っていたがオルメスって何なんだ?」
「は?」
アリアの持つ雰囲気が固まる。
「あんた分かんないの?」
「全く」
「あんたも天然記念物級の馬鹿ね!私は!神崎…」
アリアは息を吸い込むと、
「神崎・ホームズ・アリア!あのシャーロック・ホームズ四代目子孫よ!」
「……………え?」
「遠山 キンジ!あんたを現代のJ.Hワトソンにしてあげるから覚悟しなさい!」
「はは…こりゃ光栄です…ってか?」
キンジは冷や汗を滴ながら顔を引き攣らせていた。