緋緋神への覚醒から次の日……キンジとあの後すぐに目を覚ましたアリアに一毅はアリアの母、かなえさんがいる拘置所に来ていた。
さっさと手続きを済ませ、面会場所に通され待つこと五分……かなえさんは監視役に連れられてやって来る。
かなえさんはアリアを見たあとキンジと一毅も見た。こうして直接会って話すのは四月ぶりだ。だがかなえさんもこっちを覚えていたらしく、
「あら?貴方たちは前にも……アリアはまた友達をつれてきたのね?」
ふふ……と柔和な笑みを浮かべるかなえさんにキンジは時間がないとアリアに眼で合図し了承を得ると口を開いた。
「昨晩アリアが緋緋神に覚醒した」
「っ!」
そうキンジが言葉を発した次の瞬間、浮かべていた柔和な笑みが一転し、かなえさんの笑みが凍りつく。事態を飲み込むのに少しの間を置き、かなえさんは先程までの笑みをやめ、表情を引き締めた。
「戦い……ではないでしょうね。誰でなったの?」
「俺でだ……多分……」
自分でなった……それはつまり戦ではない以上アリアは自分に恋心があると公言するようなものなため最後の語尾が思わずキンジは弱くなる。
因みにアリアは既に顔が真っ赤だったがそんな二人を見てかなえさんは息を吐く。
「何時までも子供だと思ってたけど……アリアもちゃんと成長してたのね。良くも悪くも……」
『……』
かなえさんの言葉に三人は目を伏せた。だが何時までもそうしているわけにはいかない。これからどうするかを考えなければならないのだ。
「なぁかなえさん。あんたは何を知ってるんだ?どうやったら緋緋神を倒せる?」
「そうね……私が知ってることは全てではないと言うことは最初に言っておくわ。寧ろ知らないことの方が多い。ただ緋緋神と言うのは緋緋色金介して所有者に乗り移る精神体のようなもの……つまり此方から干渉する方法はない存在よ」
「それってつまり……」
キンジが代表して言葉を発したがアリアも馬鹿といわれる一毅でもかなえさんの言わんとしてることがすぐに理解できた。
「そう。緋緋神が宿った肉体を殺すことはできる。でも緋緋神自体を殺すどころか倒す方法はない。キンジさん、緋緋神を倒すのは不可能なの」
「っ!」
ギリッとキンジは強く歯を噛み締めた。冗談じゃない。緋緋神に直接的に干渉する方法がないのだとしたらアリアはこれからずっと緋緋神に乗っ取られる可能性をもって生きていかなければならないと言うことだ。そんなのあんまりすぎる。
「だからアリア、キンジさん……二人はもう会わないようにしなさい。そうすれば恋心で緋緋神に乗っ取られる事はないわ」
「じゃああんたはこれからアリアはずっと一人でいろってことかよ!」
「そうは言ってないわ!でも恋はダメ……同性のパートナーを探せといっているのよ!」
「まだ長い人生の中ずっとかよ!これからアリアは誰も好きにならずにチベットの修行僧でもやってろってのか!そんなの無理だろ!」
「ふ、二人とも……」
思わず二人は声が強くなり、アリアはオロオロとフォローしようとしている。
二人ともアリアのことを考えてる。だがどちらも意見がぶつかるのに引くわけにいかない状態なのだ。
キンジは一人の男として……かなえさんは一人の母として……
そんなときだった。ずっと黙って取り合えず事態の把握に思考の全てを使っていた一毅が口を開く。
「ったく……これじゃもう神様にでも頼んで緋緋神におとなしくしてもらうように言うか?同じ神様なら少しは話聞いてくれるだろ」
そんなことできるわけないだろ……そうキンジが口を開きかけたときだった。
「それだわ……」
『え?』
突然のかなえさんの呟きに三人はどう言うことかわからない。そのためどういう意味か問うように見た。
「可能性の話よ……この世界のある色金は緋緋色金だけじゃない……これは知ってるかしら?」
その問いに三人はうなずく。ちらっと玉藻に聞いたが確か……
「ウルスが所有する璃璃色金と……あとどっかにある瑠瑠色金……だったはずだ」
キンジがそう言うとかなえさんは説明が省けて助かるといった風に頷いた。
「そう、ならば考えてみて?緋緋色金介して干渉する緋緋神がいるなら……それらの色金を介して干渉する他の神はいないのかしら?」
『っ!』
ここまで言われて三人もかなえさんの言いたいことを理解した……つまり緋緋神がいるなら璃璃神や瑠璃神もいるんじゃないかと言うことか。
「飽くまで可能性よ……確かなことはないし瑠璃神や璃璃神がいるなんて聞いたことがない。多分メヌエットならきっとわかるんでしょうけど」
「やっぱりメヌには一度会わなきゃいけない……か」
昨晩にも言われた人物であるメヌエット・ホームズはアリアの妹らしい……年は14歳で推理力が高く性格が悪い(アリア談)とのことだがとにかくそっちに会いに行けば更なる情報がつかめると言うことか……
「あとどこにあるか分からない瑠瑠色金もな……」
キンジはそう言うとこれは前途多難だな……と息を吐く。だが希望も同時に見えてきた。とにかく今は璃璃色金の発見と、メヌエット・ホームズに会うことが必須だと言うことだ。
(また命懸けにならなきゃいいけどな……)
と、まぁ無理だろうなとキンジは一人静かに覚悟を決めるのだった……
「取り合えずどうする?」
その後、面会時間が終わったため拘置所出てきたキンジたち三人はこれからのことを話し合おうとしていた……が、
「見つけたのですよ……アリア女史ぃ……」
ん?と突然声を掛けられ三人は声の方を見た。
その先にいた二人組の男女だ。片方の女はトレンチコートを引き摺りそうなほど小さい……そんな相手にアリアは「うげっ……」と呟いた。
「誰だ?」
「銭形 乃梨……外務省勤務の、まぁ滞在中の私専用の連絡役みたいなもんよ」
キンジの問いにアリアは短く答えた。すると銭形は歯をギリギリさせながら地面を踏む。
「全く!どれだけ苦労したか……あなたが急に病院から姿を消してくれやがったお陰で始末書を書かされたのです!まあそれは今はおいておくとして……さぁアリア女史!貴方には国外退去命令が降りてるのですよ!」
『んなっ!』
突然言われた言葉にキンジと一毅は目を見開いた。なぜこんなときにそんな命令が降りたのだと言う目……だがアリアは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる辺り知っていたらしい。
そんな三人の反応を尻目に銭形は自分の懐をガサガサ漁る。
「序でに内閣総理大臣直筆の書類もあるのです!……ええと……」
「これやろ?」
そういって今まで沈黙を保っていた金髪をオールバックにした大柄な男が懐から一枚の紙を出しアリアに放り投げた。
「確かに本物みたいね……」
アリアはそれをキャッチすると、ざっと目を通しその大柄な男を見る。
「で?あんた誰よ……」
キンジと一毅はアリアも知らないのか?と思いつつその男を見た。この男はさっきも言ったように銭形とは反対の大柄で刀を鞘に入れたまま肩に担いでいた。
鞘の装飾から見るに相当な値打ちものだと思われるがそれ以上に服の上からでもわかる発達した筋肉に一毅以上のガタイで霞みそうなほどだ。
そんな男は頬を掻きつつ口を開く。
「まぁ……名乗るのは礼儀やしな。ワイは
そう大柄な男は深々と頭を下げた……だが三人は気づいていた。この男に一片の隙もない。そして強いと言うことも……もし一瞬でも殺気を見せれば、次の瞬間には自分達が殺されることを……