「寒くないか?」
「平気よ」
兄の家から出てキンジとアリアは二人で近所を散歩していた。すると見えてきたのは神社……
乃木神社というこの神社は今は誰もいない。それにしてもなんか変な空気だ。アリアがずっと何か考え事してるし……
「それにしたって兄さんとパトラが結婚するとはな……」
取り合えず話題を出さないと……と言うわけでキンジが言うとアリアはこっちを見た。
「まあね、コレからはあんたのお義姉さんなのよ?」
「それなぁ……未だに違和感だぞ……」
義理とは言え姉かよ……カナと言うある意味では姉と呼んで良いのか微妙な存在とは違うマジの義姉である。
「しかし……引退か……」
どうせ話を聞かれてたんだし良いかと思って言うと、
「大変ね、チームバスカービルのリーダーやってそっちもやって」
「ホントだぜ。チームバスカービルのリーダーってだけでも大変なのによ」
とキンジはため息をつくとアリアが笑った。すると顔に冷たいものが当たる……何かと思い上を見るとユラユラと雪が降ってきたのだ。
「…………なぁアリア」
「…………ねぇキンジ」
『……………………』
同時に声を出して二人は固まる……互いに先に言えよみたいな雰囲気だ。
そんな譲り合いをしてからアリアの方が先に動いた。
「ねぇ……今日何日かわかる?」
「ん?2月14日だろ?この時期が近づくと蘭豹が殺気立つからな……嫌でも意識するよ」
2月14日のバレンタインデー……この日は蘭豹が前にとある男性にチョコをあげたらその男が逃げて蘭豹は大層傷ついたらしくカロリー的にどうこうとか言ってそういった類いの行事は完全に禁止されてるのだ。まぁこっそりやってるやつはいるけどな。だがそれがどうしたんだとキンジは言う。
するとアリアがポシェットに手を突っこみゴソゴソと謎の物体を取り出した。
「はい、バレンタインチョコ……昨日作ってみたの」
「……………………え?」
キンジは我が耳を疑った……え?バレンタインチョコ?自分に?しかも作った?リンゴジュースが飲みたいからとリンゴを握り潰して飲んでたアリアが?
そもそもこいつ料理できたの?
「ほら!受け取りなさいよ!」
「あ、はい……」
おずおずと受けとる……目が開けろと行っている……ヤバい……逃げ場なしだ。
「あ、開けるぞ」
キンジは危険物でも扱うように優しく開けた……中にあったのは……茶色の物体?
「なんだこれは……」
「チョコ桃饅よ」
いやいやいや!確かに言われてみれば桃饅っぽい形してるけど!フォルムにてるけど!何か茶色で明らかにヤバいものでしょこれ!
「ほ、ほら!食べなさいよ!」
こ、これを?この危険物体Xを食せと?非常に……嫌な予感しか……しないです……
だがここで食わないとアリアにぶっ殺される……まだ死ぬわけにはいかない……となればだ。
「いただきます……」
そう言ってキンジはチョコ桃饅を食う……ブニュウっと言う生地の食感の中にガリゴリと固いチョコの歯応え……味は苦いのか甘いのかよくわからない微妙な味……そして調理家庭で混入したと思われるチョコを包んでいた銀紙がアクセントになる……これは不味い!
「どうかしら?」
「まず……まずまずだな」
不味いと言いかけこのままだとぶっ殺されると判断したキンジは慌てて当たり障りない言い方した……だが次の瞬間にアリアの手がキンジの顎をがっしりと掴む。
「ごめん、よく聞こえなかったわ。もう一回言ってもらえる?後私ビリヤードの玉を握りつぶせるのよ」
「うまい!うますぎる!」
キンジは全く冗談には聞こえないアリアの言葉に慌てて誉めちぎることで回避を試みた。顎を握りつぶされるなんて嫌だ。
「じゃあなんでないてるのよ」
「こんなうまいものを知らなかった今までの人生を嘆いてるんだ」
と言うとアリアはキンジの顎から手を離し端から見てもわかるほどデレッデレになった。
危機は去ったらしい。
「良かった。こういうのってしたことないから……キンジはたくさんもらってたでしょうけど」
「いや………そう言うのは……」
ないな……去年は白雪から貰ったが……だけど……こういうのは初めてか、何か嬉しいもんだ。後で腹壊しそうだけど……
「来月ちゃんと返すから……」
「う、うん……」
なんだろうな……互いに顔が見れない。冬なのに、雪が降ってるのに……体が火照ってるようだ。
「だ、だけどパトラ幸せそうだったわね」
「あ、あぁ……」
今度はアリアの方が持たなかったらしくキンジが金一のを話題にしたのに対してパトラをアリアが出してきた。
「好きな人同士で結婚するって……ああいう感じなのね」
「…………」
アリアも……いつか結婚するんだろうか……自分の見たことない男と一緒にヴァージンロード歩いて……手を繋いだり……キスしたり……
「キンジ?」
「あ、悪い……」
何か良く分からない感情がキンジの胸を被った。いや、嫉妬だ。自分でもわかる。
誰にも渡したくない……誰にも触られたくない……誰のところにも行ってほしくない……そんな独占欲。
人間誰もが持ってる感情……今キンジはそれをハッキリと感じていた。
「じゃ、じゃあ……アリア……」
「なに?」
アリアはどうしたのか?といった顔でキンジを見た。ヤバい……口が乾く……でも……頑張れ俺とキンジは自分を奮い立てた。
「俺を……好きになってみないか?」
「………………………………へ?」
アリアは一瞬固まった……だがゆっくりと思考が回復していくと顔が赤くなっていく……
言い方は遠回しだが……意訳すれば好きな人同士で結婚する幸せを感じさせてやると言ってるのだ。つまり……キンジは……
「い、言い方悪かったか?つまりな……」
キンジが説明しようとするとアリアは首を横に振った……
「ちゃんとわかってるわ……キンジ……でもバカねあんた……」
「え?どう言うことだよ……」
「だってさ……私だって…………す……」
「アリア?」
突然アリアがうつむいたかと思えば何かを言いかけ止まった……そしてニタァっと笑みを浮かべる……この表情は知っている……キンジは歯が欠けるんじゃないかと思うほど強くかんだ……
「き……だぞぉ……トオヤマァ!」
「何でだよ……何でお前が出てくんだよ!」
キンジはギロっとアリアを……いや!
「孫!」
キンジの目には……怒りの炎が燃え上がっていた……