金一さんは既に実家を出ており割りと高級なマンションに住んでいる。キンジや一毅も何度か遊びに行ったことはあるし場所も知ってはいるが今回は鐡さんが運転するオンボロ車でそこに向かう。
とは言え車が小さいため後ろに乗るキンジと一毅とアリアは若干キツそうに身を捩っていた。
「ほれ、お前たちは先に降りていろ」
と、金一さんのマンションに着くと鐡さんはそう言った。気を使ってくれたらしい。それにはありがたく礼を言って三人は車から降りる。
「キンジのお兄さんって結構良いところに住んでるのね」
鐡さんたちの前では大人しかったアリアが口を開く。
「まぁ一年の殆どを外で飛び回ってるような人だけどな」
そうキンジは答えながらマンションを三人で上がっていく。金一さんがすんでる場所はわかってるしさっき鐡さんが連絡したときには今日はいるとのことだしインターフォンでも押せばいいだろうと部屋の前に立つとポチッとキンジは押した。すると、
「キンイチー!」
「うご!」
ドアが突然開かれ中から出てきた人影に抱きつかれた……ってこいつは!
『パトラ!?』
三人が驚愕するとパトラは一瞬驚いたかおをして……
「なんじゃキンジの方か……似てるから間違ってしまった……顔を直してこい」
「きょ、兄弟なんだから仕方ないだろ!」
「なら生まれ直せ!」
機嫌悪!悪かったな兄さんじゃなくてと言いたかったがその前に中に戻っていくパトラに声を掛けた。
「何でお前が兄さんの部屋にいるんだよ」
靴を脱ぎなら聞く……すると次の瞬間衝撃の言葉がきた。
「一緒に住んでおるんじゃ。同じ部屋で当たり前じゃろう」
『え?』
また三人が固まった……
「お前兄さんと同棲してたのか?」
「うむ」
そういや……何かカツェがパトラは兄が好きだといっていた気がする……大方極東戦役が終わりそれを機会に同棲を始めたと言ったところか……
「しかし良い匂いだな」
と一毅が鼻をヒクヒクと動かす。確かに部屋からは良い匂いがする。
「食事じゃ。今日はお前たちだけではなく金一の祖父と祖母も来るからの」
一応気を使ってるらしい。と言うか何か緊張の面持ちって言うやつだ。あれなのか?うちの祖父と祖母は相手を緊張させる何かでもあったのか?
「まぁ良いわ。ちょっとパトラ、あんたもちゃんとママの裁判にはでなさいよ。今度と言う今度は逃がさないわ」
「安心せい」
そう言ってパトラはクイッと顎をしゃくりベランダに出るように促した。
「その辺の話をしに行かんか?料理も一段落ついたしの」
「良いわよ」
そう言ってふたりはベランダに出た。すると、パトラは胸を手すりに乗っけてそれを見たアリアは真似をして引っ掛かる部分が皆無なためズリッと落ちて顎を打った揚げ句ポシェットの中身をぶちまけていた……無理はイカンね。
と、キンジと一毅が苦笑いしていると扉が開けられた。そこにいたのは金一さんだ。
「ん?キンジたちはもう来ていたのか」
「久し振り、兄さん」
「元気そうですね」
キンジたちが既に到着していたことに若干驚きつつ金一さんは再配布された武偵手帳をテーブルに置くとキンジの目に左手の薬指に嵌めた指輪が目に入った。
「何だよ兄さん。指輪つけっぱなしだぞ……
キンジの言葉は最後まで続かなかった……何故ならその前に金一さんの鉄拳がキンジに炸裂したのだ。
「俺の前で……」
ゴゴゴゴゴ……と金一さんの背後に阿修羅が降臨した。
「カナの名をだすなぁあああああああああ!」
金一さんの強烈な蹴りがキンジに放たれ慌ててキンジは逃げ出す。忘れていた……この人は戦闘時にカナになりはするが超恥ずかしいらしくカナの名を出すだけでブチキレるのだ。このヒステリアモード嫌いの辺りは兄弟だね。
「キンジィ!貴様カナは男だと言ったそうだな!お陰でバチカンから問い合わせの電話が着たんだぞ!」
げっ!その話かよ!っとキンジは顔色を悪くした。そして……
「いや!一毅も言ってた!」
「おい!」
さらっとキンジは一毅も巻き込んだ。一毅は血の気が引く……金一さんは、
「ほぅ……」
スゥっと銃を抜き一毅とキンジを補足する……
「オマエラ……ソコニナラベ」
ヤバイヤバイ!コレ真面目にヤバイよとキンジに目配せすると既にキンジは距離をとっていた……
「ニガスカ!」
『ギャアアアアアアアアアア!』
ドッカンドッカン情け容赦無しに銃をぶっぱなす金一から逃げるキンジと一毅……突然の銃声にアリアとパトラが何事かと中に入ってきた。
するとそこに救世主……もとい、鐡さんがセツさんと一緒に入ってきた……次の瞬間!
「このバカ孫が!」
ガッ!っと言う音と共に金一さんが鐡さんの拳で吹っ飛んだ……
「今まで便りも寄越さず何をしておった!」
そう言う鐡さんの目にはうっすら涙が浮かんでいた……そうだよな……何を言ったって孫が死んだら悲しいし生きてればうれしいもんだよな……とキンジと一毅は思う。
「ゴメン爺ちゃん……」
そう金一さんが言うと鐡さんは鼻を鳴らす。
「それで?一体何のようじゃ?」
鐡さんがそう問うと金一さんは口を拭きながら衝撃の事実を発表した。
「国際結婚する……そこにいるのが奥さんだ」
『……え?』
と、固まったのはキンジ、一毅、鐡さんの男性陣だ。対してアリアとセツさんの二人は「え?気づいてなかったの?」みたいな感じでこっちを見る。パトラは照れてるのか顔を真っ赤にしていた。
そういえば左手の薬指に指輪……しかも今気づいたが見てみるとパトラも同じのをしていた……しかも左手の薬指に……
「お、お前……こんなきれいな嫁さんを連れてくるなら早く言わんか!儂は脇に穴が開いたジャンバー着て来てしまったんじゃぞ!」
と、鐡さんが言うとその場に居た皆が思わず笑ってしまい結果的に空気を自分で変えたのは……まあ余談だろう。
「おめでとう、兄さん」
「あぁ……まああれとはイ・ウーのときからついたり離れたりしていた」
そんなことがあった日の夜……キンジ兄と一緒にベランダで話していた。
その日に行われた兄の告白は祖父と祖母を驚かせたものの笑って受け入れられ終始和やかな空気だった。祖父もパトラの作るエジプト料理には満足してパトラも一安心……といった感じだったのは今思い出しても少し笑えた。
そんな祖父と祖母はキンジたちはここに残ると伝えたら二人だけで帰っていき、一毅はパトラに入浴剤が切れていたのを忘れていたらしく買いにいかされアリアはパトラと一緒に裁判の話をしながら皿洗いを手伝っていた……アリア何があったんだ?まぁ良い、本題に入ろう。
「俺も断片的なのだけどわかったよ……緋弾ってのはなんなのか……さ」
キンジは早速だが今までの一件の話し合いをすることにした。
「俺も同じだ……
それでも分かることは増えてる。そこから導かれた答えをキンジは兄へ言った。
「緋緋色金って言うのは成分みたいなのはわからないが一種の特殊能力を持たせることができる超金属なんだろ?ただしその金属事態に人格みたいなのがあって所有者を乗っ取ろうとする」
「そうだ、緋緋色金……いや、緋弾には適合すればその身は不老不死となり時間や空間を超越し死者すらよみがえらせる……不完全ながらも成し遂げたのが
兄の言葉にキンジはうなずきを返す。それから、
「その別パターンが香港の猴だろ?如意棒や金斗雲は力の1つで使えてはいたけど心を半分乗っ取られていた」
と、キンジのヒステリアモードの時に浮かんだ説を唱えると今度は金一がうなずき、言葉を返した。
「そうだ、別に猴だけではない。未だに緋緋色金を使いこなせたものはいない」
「だから兄さんは……緋緋色金が……いや、緋緋色金の中にある人格である緋緋神が目覚める前にアリアを殺そうとしたんだな?」
「緋緋神は危険だった。お前も猴と戦っただろう?だがあれでも本来の力を全く引き出せてはいない。だがアリアは違う。猴よりも……
そう言えば昔緋緋神が目覚めて暴れて一毅や白雪に自分のご先祖様たちが戦ったと言うのを聞いたことがある……相当やばかったらしいしな……
「まぁ……お前はアリアを信じる道をとった訳だがな」
「パートナーだからな……」
そう言ってキンジは兄から一旦視線をそらす。
「兄さんの言いたかったこともわかるんだ。だけど俺にはそぐわなかったんだ」
「良いんだ」
そう言って兄はベランダにもたれた。
「その結果アリアは一時的に緋弾の力を引き出すことになった」
「パトラの時だろ?」
あのピラミッドの屋根を吹き飛ばしたときの話だ……
「そうだ、お前がアリアの鍵となった」
「だけど何で俺なんだ?俺が何故緋緋色金の一件に必要になるんだ?」
そう、GⅢもいっていたが自分はアリアの力を解放する要のような存在らしい……しかし何故自分なのか……そう言うと兄は「若いな」と笑ってから、
「白雪はどうしている?」
「あいつなら星伽に里帰りだ」
そう言うと兄は口を開いた。
「さっきの質問に少し答えてやろう。俺たち遠山や一毅が……いや、桐生が巻き込まれる定めにあったのは星伽巫女が絡んでいるからだ。星伽巫女は古来より緋緋色金の研究を行ってきた一族だ。教科書に乗ってる卑弥呼も高レベルで色金を扱った者らしい」
「……………………」
キンジは黙って続きを促した。
「三年ほど前星伽の巫女たちに予言が降りた。《母を救うために緋緋色金の適合者が日本にやってくる》とな。巫女たちはそれを何度も占いそして、東京武偵高校にやって来ることをつきとめた」
「その為に本来外に出ないはずの白雪がきたってことか?」
「ああ、本来外に出ないし出さないが宮内庁を通じて白雪はやって来た。そしてすぐにアリアが適合者だと疑念を持ったが直ぐには動けなかったらしい。とは言え再開した時点で巻き込まれるのは時間の問題だっただろうがな」
さて、こんなところだと兄が言うとキンジはありがとうと言う。コレだけ聞ければ十分だ。
「さて、それからお前にいっておくことがある」
「え?」
突然の言葉にキンジは眉を寄せた。
「俺はこれから緩やかにだが引退する。コレからの遠山の義士の筆頭はお前だ、キンジ」
引退?どう言うことかと聞くと兄は答えた。
「俺たち遠山の一族のHSSは性的興奮をトリガーとした人格の変化を伴った全神経の強化だ。だが愛と性は切っても切れない関係だ」
うむむ、苦手な話かもしれん……だがここで折れるわけには行かない。仮にも兄が引退だと言ってるんだからな。
「結婚すれば二人は愛だけではなくなる。その先の感情へと移っていく。そうなっていき、だからといって別の女で興奮するのは憚られる。結婚とは……HSSの引退の一里塚なんだ」
それに……と兄は続けた。
「加齢もある。男性は年を取ればとるほど興奮しにくくなるものだ。つまり……HSSへなりにくくなる」
それは遠山の男にとっての大幅な弱体化だ。キンジにもその辺の理論はわかる。昔はキスシーンでひっくり返る程の騒ぎだったが今は黙って冷静にその場面を早送りできるしな……だがキンジは兄に言う。
「だけどまだ諦めなくても良いんじゃないか?ほら、爺ちゃんや父さんのはどうかと思うけど金三は美術品や音楽でなってたしな」
そう言ってキンジは笑うと兄も小さく笑ってから静かに部屋に戻っていった。さて……取り合えず言葉の反芻か……何てしていると、カサッと枯れ葉が擦れる音がした……猫でもいたのかとベランダを覗き混むと……
「何やってんだよ……アリア……」
ピンクブロンドがビクッ!と動く……それから顔をあげると困ったような顔をした。
「お前覗きの趣味でもあったのか?」
「違うわよ!」
ガルル!っと威嚇するアリア……まぁ大方さっきぶちまけてたポシェットの中身を集めていたんだろう。
「で?全部あったのか?」
「一応ね」
アリアは自分のポシェットを確認しつつ言う。それから、
「丁度良いわキンジ、ちょっと散歩にいきましょ」
「散歩ぉ?こんな寒空にか?」
「い・い・か・ら……行くわよ」
そう言うアリアに仕方ないとキンジはため息をつきつつ、靴を履いてくるから待ってろと行って靴を履きに行ったのだった。