緋弾のアリア その武偵……龍が如く   作:ユウジン

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金VS緋鬼

「さて……こっちはこっちでやるとしようか」

 

そう言ってキンジと閻は対峙した……互いの視線が交差する中閻は金棒を……キンジは胸元を緩めながら銃とナイフを構える……すると、

 

「ふむ……やはり似ておるな……」

「なにがだい?」

 

閻の言葉にキンジは首をかしげる。

 

「源頼光だ……」

「あの酒呑童子を退治したとかで有名な?」

 

キンジがそう聞くと閻は頷きを返した。

 

「源頼光は二つの秘技を用いて酒呑様を討たれた……案外同じ血筋なのかもしれぬな」

「そういわれれもねぇ……源頼光が俺の先祖だと言う証拠もないし何百年も前の話だろう?」

 

まぁ……遠山家の家系図もかなり適当で金四郎以前のは残っていないしもしかしたらって言うのもあるかもしれないが……

 

だが閻は違うらしい。

 

「我には昨日の事のように思い出せる……まぁよい……見せてやろう、源頼光が用いた秘技のひとつだ……」

 

そう言って閻が腰を落とした瞬間……

 

「【羅刹】!」

「っ!」

 

突然だった……突然閻がキンジの胸に打撃を叩き込んだのだ……だがそれだけじゃない……キンジの心臓が止まったのだ。

 

所謂殺し技だ。相手の心臓を狙って止める技……

 

(回天!)

 

キンジはとっさに回天で止まった心臓を再稼働させる……危なかった……一回死んでたぞ……

 

キンジは荒く息を吐きそれから頭を振って閻を見据える……よし、ヒステリア・アゴニザンテになったぞ……とキンジは内心ガッツポーズを取ると閻は可笑しいな……みたいな顔だ。まぁ……そうなるよね……

 

とは言えキンジは肩をすくめていう。

 

「おっかない技を使うねぇ」

「確かに決まったはず……」

 

そりゃ心臓を止めた相手がピンピンしてたらそうなるよね……しかし羅刹か……多分こうやって……

 

(こうだ!)

「っ!」

 

ドン!っとキンジの見よう見まね羅刹……それが閻に決まった……閻は半歩をほど足を後ろに引くと少し吐きそうになる……だがそれだけだ……体の出来が違う……叩いた瞬間にわかった。やはり人間じゃない。一毅も一瞥すれば苦戦ぎみだ。

 

「ふむ……やはり血筋か……」

「いや悪いんだけどこの技は今回が初めてだよ」

 

もしくは……兄の金一に伝わったかだろう。遠山家の技は最大で百個まで自分の子に自分の技や先祖代々の技を伝えることを許されている。じゃあほかのは?それは簡単だ。道を踏み外した遠山を殺すための隠し玉として取っておくのだ。

 

一毅にも幾つか遠山の技を見せてはいるが全部じゃない。一毅の知らない技もある。わりとオープンに技を見せる一毅たち桐生にたいして結構隠し技も多くある遠山……そういう意味では結構対局だったりする。

 

まぁそんなことは良いのだ。どちらにせよこの羅刹と言う技は人には使えない。不殺が前提だしな。武偵は……

 

「ならば……次はこれで行こう……」

 

そう言って閻が持ち上げたのは金棒……鬼に金棒とはこれは危険だな……持っただけで雰囲気がヤバイのを感じる……

 

だがこうしてみると……やはりなんと言うか一毅と似たオーラを感じた……

 

「全く……おっかないったら無いね……」

 

そう言いつつキンジが胸元を緩めつつ腰を落とすと同時に閻が突っ込んできた!

 

「ちぃ!」

 

キンジは目をカッ!と開くと閻の動きを万象の眼で読む。リサの時と違い人型である以上キンジの万象の眼はしっかりと閻を読み上げていく。

 

(まず降り下ろし!)

 

横にとんで躱す……音速に匹敵する速度の影響か桜花と同じ現象が閻の金棒に起きているがそんなのは後回しだ。続いて閻の……

 

(横凪ぎ!)

 

キンジはバック転で回避する……しかしこの速度と質量で来るのだ……掠らずとも近くを通るだけで攻撃力がある……危険すぎるのだ。

 

だがまだ閻の攻撃は終わらない。文句はあとだ。

 

(突き!)

 

閻の金棒による突き……それをキンジは飛び上がって回避した……そしてそのまま金棒の上に乗って閻と視線を交わす。

 

「ふむ……天狗のような男だ……」

「そう……かい!」

 

そこからキンジは再度飛び上がると閻に飛び蹴りを放つ……普通に打ってもダメだ……と言うわけで桜花の要領で放つ……が、

 

「ふん!」

「っ!」

 

蹴り足を空中でつかんだ閻はそのままキンジを後方へ投げ飛ばした。

 

「くっ!」

 

キンジは空中で体制を戻した……しかしそこに駆け出してきた閻……それに対しキンジはとっさに平賀印の新装備の一つ……腕の前腕まで覆うように作られたオロチの改良版を出して対抗する……金棒が来たらこれで防いでそのまま逆転の極みで行こう……そう思っていた。だが閻の次の一撃はキンジの予想を上回っていた。

 

「な!」

 

キンジは目を開く……それはそうだろう。何せ閻が行ったのは何の秘密もないただの……()()()()だったのだ。

 

「くっ!」

 

頑丈なはずのオロチが軋みを上げていく……何て咬合力だとキンジは舌打ちをひとつして銃を閻に向け発砲……至近距離だったのに閻は表情一つ変えずに弾を掴み取った……だが、そこで終わりじゃない。キンジはそのまま桜花の要領で閻の顔の真横に膝蹴りを叩きこんだ。

 

「ぐっ……」

 

閻が多少怯む……その怯みさえあれば良いのだとキンジは腕を引き抜いた。だが同時に閻が腕を振る……

 

「がっ!」

 

キンジは胸に走った痛みに息を吐く……

 

そのまま一旦安全圏まで下がるとまず胸を見て舌打ちした……龍桜のお陰で深くはない……致命傷にはほど遠い……しかししっかりとつけられた爪による引っ掻き傷と言うよりは鋭い刃による切り傷……それが胸にザックリと刻まれていた。龍桜は良いが制服なんか凄いことになってる。無論これがなかったら恐らく致命傷クラスの傷になっていたが……

 

(いってぇ……)

 

読めなかった訳じゃない……だが完全に失念していた。自分が退治しているのは鬼だ。腕力や頑丈さだけが厄介なんじゃない。牙も爪も人間と違ってあるのだ。なまじ人間に似た姿のためかどうも……やはりヒステリアモードだしな……女には甘いんだろう。と言うことにしておく。それにしてもだ……

 

と、今のオロチの状況に眉を寄せた。これは……殆どもう使い物になら無い……

 

(全力桜花1発……ってところか……)

 

閻に放っていた自損しない程度では閻に見きられてしまう。ならば……全力桜花を閻に叩き込むしかない。血が止まらんが……まぁ死んでも生き返るし大丈夫だろうと良く分からない自分への喝を入れて手を軽く振る……

 

「さて……」

 

キンジはスゥっと全く関係ない方向へ視線を動かす。それに釣られ簡単に閻は自分から視線をはずした。随分と簡単に視線誘導に引っ掛かった……だが関係ない。これを待っていたのだから……

 

「おぉ!」

 

ドン!っと足を踏み鳴らしキンジは一足目から全力疾走……

 

「むっ!」

 

閻も気づいたがもう遅い。キンジは拳を握ると関節の連続加速……腕につけていたオロチが音速の壁にぶつかり崩壊していくがここまで来ればOKだ。そのまま全力桜花を叩き込めば良い。

 

だが……その時だった。突然閻は体の重心を自分の体の中心に持ってきた。そう……まるで回転扉のように……この姿は知っているぞ!

 

(絶牢!?)

 

キンジは驚愕したが今さらブレーキは掛けられない。どうすれば良い……

 

今さら何をできる……どう足掻いてもこのまま桜花を打ち込んでそれを返される未来しかない……

 

(クソ!本世に俺の先祖だったのかよ!)

 

キンジのヒステリアモードの頭脳がフル回転する。どうにかして考えねば死んでしまう……

 

(一か八か!)

 

瞬時に思い付いた逆転の一手……だが成功するかは分からない。それでも……やるしかない!

 

「桜花!」

 

キンジの全力桜花が閻に炸裂……しかしそれと共に閻の絶牢が発動した。やはり間違いなかったようでキンジの桜花を利用して発動させた絶牢(それ)はキンジの頭を狙う……このままいけばキンジの首から上は吹き飛ぶだろう……

 

だが諦めなかった……そのままキンジは瞬時に重心を自分の体の中心に持ってきつつ減速防御技である橘花を発動し閻の絶牢を受ける……更にそこから絶牢……それと共に反撃の蹴り足で桜花!

 

橘花……絶牢……桜花と繋げるのは逆転の極みでもやる流れだ。しかしこれは相手が絶牢をしてきたのを返す。絶牢を絶牢で返す対カウンター技……絶牢返しとも言えるその技は名付けて、

 

絶花(ぜっか)!!!!!」

「っ!」

 

閻もこれは予想外だったらしい……まぁそうなるよな……まさか相手の攻撃を返す技である絶牢を更に絶牢で返すなんて予想外だよな……とキンジは思いつつ渾身の蹴りを閻の頭に叩き込む……

 

「がぐっ!」

 

閻は大きく体を仰け反った……同時に閻の二本の角のうち片方が折れて吹っ飛ぶ……周りのギャラリーが悲鳴を上げる中キンジは着地した……

 

危なかった……今のはマジで危なかった……危険なんてもんじゃない。二度とごめんだ。そんなことを思いながら閻を見る……そして!

 

「っ!閻!」

 

ゆっくりと閻の体が富嶽の翼から落ちていく……

 

「クソ!」

 

キンジは咄嗟にデザートイーグルにアンカー弾をセットすると閻に向ける。

 

「閻!捕まれ!」

 

発砲と共に放たれるアンカー……それを閻は目を見開くと掴み……そして!

 

「いっ!」

 

()()()()()()()()()()()のだ。

 

「嘘だろ……」

 

突然キンジを襲う浮遊感……自分が富岳の翼から落ちていくのは明らかだった。

 

「やべ……」

 

キンジはそのまま重力に逆らうことはできないので閻と共に落ちていったのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キンジ!」

 

津羽鬼を文字どおり叩きのめした一毅は翼から落ちていったキンジを探す……だがすでに豆粒に見えるくらい遠くだ……

 

「ちっ!」

 

一毅は周りを見る……いるのは自分と鬼達……交渉は苦手だ。となると……

 

「今行くぞキンジ!」

 

全身が痛いが多分なんとかなるだろうしキンジも何とかしてることを信じつつ一毅も翼から飛び降りた。

 

風圧とかが凄いが何とか目を開け一毅は銃を抜く。そして見えてきた地面……うぉおお!メッチャクチャこええ!

 

「っ!」

 

響く一発の銃声……そこから発射されたのはキンジから受け取っていたクッション弾だ。それが打ち出されるとそのまま偶然駐車してあった車に当たりクッションがでた。

 

2トンの衝撃に耐えられる作りのそれに一毅は突っ込むと下敷きになった車はグシャグシャになりクッションと一毅は大きくバウンドして吹っ飛んだ……

 

「………………………………………………つぅ……」

 

一毅は地面に大の字になったまま体に走る痛みに歯を喰い縛って耐えた…… とりあえず生きてる……

 

だが……痛い……尋常じゃない。痛みで気を失いそうになるがその痛みでまた正気に戻る感じだ。

 

「ふぅ……ふぅ……」

 

何とか呼吸を整え痛みが去るのを待つ……どうにか痛みが引いてきた……よし……

 

「何とか……生きてたな……」

 

体を起こし折れたりしてる場所はないか探す……取り敢えずはない。津羽鬼にやられたのだけのようだ。これが大きいのだが……

 

「とりあえず生きてるしな……案外死なないもんだ」

 

一毅は立ち上がりながらスマホを出す。あ……画面が割れてる……

 

「ギリギリ……使えるか……」

 

それでも電話だけなら大丈夫そうだ。それで一毅が電話を掛けたのはキンジへ……掛けるとすぐに出た。

 

「よ、生きてるか?」

《まぁな……案外死なないもんでな》

 

と、同じようなことを言いつつ、

 

「で?今どこだ?」

《近くにアミューズメント施設があるのがわかるか?》

「あぁ……見えてる」

《その近くの公園だ。悪いが来てくれ》

「あぁ、分かった」

 

そう言って一毅はスマホをしまいつつ走り出す。肋骨とかが痛いがそういってる場合じゃなさそうだ。キンジの声音が若干弱かった。何かヤバイ状況なのは丸分かりである。

 

そういって人混みを掻き分け一毅は走る……運良く人気の無い公園でキンジはすぐに見つかった。

 

「大丈夫かキンジ!」

「あぁ……やっぱり血が足りなくてな……」

 

見てみればそれなりに血が流れていた……一毅はそれを見て……

 

「ちょっと待ってろ」

 

そう言ってキンジのところから一旦離れると五分ほどで戻ってきた。

 

「出血は激しい訳じゃないがそれでも動いてたし落ちたしな。治療しとこうぜ」

 

そう言って一毅は近くのコンビニで買ってきた道具をキンジに見せた……

 

「なぁ……」

 

それをもたキンジは眉を寄せる。

 

「なに?」

「俺にはそれがどう見ても治療道具には見えないんだが……」

 

と、キンジは一毅が買ってきた《瞬間接着剤》》と()()()()()を見て言う。すると一毅は笑った。

 

「この間授業でやったんだ。傷口さえ塞げれば実は接着剤でも良いんだって。後はガムテープでもキツめに巻いとけば血止め位にはなるんだとさ」

「いやでも包帯くらい探せよ……」

「この当たりに薬局とかがなかったことを恨むがよい」

 

そう言って一毅はキンジの服の裾を上げて傷口に接着剤を着けてその上にガムテープをキツめに巻く。

 

「後は血をどうするかだな……」

「輸血パックなんてもんはねえしな……」

 

すると一毅は良いこと思い付いたみたいな表情をした。

 

「何か嫌な予感がするんだが……何か思い付いたのか?」

 

キンジがそう聞くと一毅はうなずき痛み止めの注射器を取り出す。これはフランスでの逃亡の際にリサへキンジが渡したものと同じものだ。

 

「んでこれをよ」

 

そう言って一毅はキンジに痛み止めの注射を打つ……そしてそれを抜いて軽く拭くと……

 

「お前って……変な病気はもって無いよな?」

「……無いはずだが……いきなり何を……って!」

 

キンジが答えると一毅は自分の腕に注射を打って血を抜く……それを限界まで入れると……

 

「さぁキンジ。お注射の時間だ」

「おいおいおいおいおい!まさか正気かお前!」

 

キンジはやっと事態をのみこんだ。この男は自分に流れて足りなくなった分の血を注射器で採って与えようと言う魂胆なのだ。

 

「そ、そもそも俺とお前は血液型の型が違うだろうが!」

「平気平気、O型は誰にやっても平気な筈だから。もらえねぇけど」

「バカ!それは表面的なことだ!他にもいろいろパスしなきゃならん項目あるし日本じゃ同じの同士しかやらねぇよ!」

「緊急時だし、仕方ないって」

 

そう言ってキンジを捕まえるとブスッと注射を射す一毅……

 

「これで変な病気になったりしてしんだら化けて出てやる……」

「文句言うなって。俺だって肋骨いてぇし注射大嫌いなのを我慢してるんだからさ。あと俺も血液感染するような病気はないぞ」

 

そう言って一毅は再度注射器を自分に刺して血を抜き始める。

 

「ホントは注射器は一回ごとに消毒が原則だけどな……」

「不死身の(エネイブル)と鬼の子孫だぞ?そんな病気に負けるかよ」

「妙な説得力だけはあるから嫌になるな……」

 

もうキンジはされるがままで言う……注射はキンジも好きではないが仕方あるまい。

 

「これでよし、後は何も起きないことを祈っておこう。南無阿弥陀仏……っと」

 

と、何回か血を抜きそしてあげるを繰り返したあとに一毅は言う……すると、

 

「それは死人にいうもんだ!おれは死ぬ気はない!」

 

死んだらマジで化けてやるけどな!っとキンジは言いつつゆっくり立ち上がる……悔しいが足りなくなったぶんの血を補充しただけで楽になったような気がする。

 

「あぁくそ……このままなんともなく天寿を全うさせてくれよ……」

 

キンジは頭をかきつつ言うと一毅も立ち上がる。

 

「いてて……折れてはいるが……内臓には刺さってないことを祈るか」

 

まぁ内臓に傷くらいはついていそうだが……死ぬことはあるまい。

 

「で?これからどうするんだ?」

「とりあえず俺は部屋に戻って制服を予備のやつに変えてくる……それからそうだな……アリアとの合流だな」

「そっか……じゃあ俺は適当に時間を潰してるわ」

「戻らないのか?」

「レキ達は巻き込めないだろ」

 

そう言うと成程とキンジはうなずく。部屋に戻ったりすればすぐに見つかるだろうしな。

 

「じゃあ女子寮の近くのビニールハウスあるだろ?後でそこに来てくれ。多分……そこにアリアはいる」

「何で分かんだ?」

「勘だ」

 

キンジの言い分に一毅は苦笑いを返した。ずいぶんな理由ですな。ホントに。

 

「じゃあ適当に時間潰してからそこに行くよ」

「あぁ」

 

そう言って一毅とキンジは一旦別れたのだった……




久々の更新でした。あと二回くらいでこの章も終わりですかね。

つうわけで久々のバスカービル日記です。

バスカービル日記

執筆者・佐々木 志乃

○月×日

今日は学校で皆とご飯。最近は当たり前のようになった二年生の先輩方も交えた昼食で遠山先輩に白雪お姉さまが重箱の弁当を持ってきていた。お弁当は皆の顔がよくでると思う。桐生先輩達は同じ弁当だしあかりちゃんは谷田くんと同じ売店のパンとかで済ませちゃう。

最近は大分慣れたと思う。あかりちゃんとは友達として……仲良くさせてもらってる。うん。今日も元気です。


あ、ちょっと知り合いからLINEが来たので今日は終わります。

終わり

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