しかしやっと再試も終わったぜ…
「ハァックション!ハァックション!ゲホッ!ガホッ!」
ズビビ……とキンジは鼻を啜る……
慣れない海外生活……あげく逃亡……ここ最近の緊張状態……様々な要因が重なりキンジは完全に風邪を引いてしまったのだ。
「ご主人様、お薬です」
前もらっていた痛み止めではなく風邪薬を貰ったキンジは水で流し込む……薬は効かないのだが折角リサが買ってきたのだ。無下にするわけにもいかず飲むだけ飲んでおく……特濃葛根湯がのみたい……
「まさか遠山キンジ先輩って風邪引けるとはね……」
「俺は引くんだよロキ……風邪を引かないのは一毅の方だ」
「桐生一毅さまは病気に強いのですね」
と、リサが言うがキンジとロキは……
(いや……一毅バカだし……)
(お兄ちゃんは本当に風邪の引き方を知らないだろうしね)
と、失礼なことを考えていた……
「しかしまたなぁ……何だってこんなタイミングで……」
「寧ろ今だからじゃない?」
「え?」
ロキの言葉にキンジは首をかしげた。
「そもそもお兄ちゃんと遠山キンジ先輩は無茶しすぎ。プロの格闘家だって試合と試合の間は月単位で日にちが空くのに前回の藍幇戦と幾らのインターバル置いたの?」
「それは……」
「それだけじゃないよ?次々戦い起きてるからその度に体に負担を強いってる……本人がいくら平気だと思っていても体には損傷を溜めていくんだからね?なら今のうちに少しでも体を休めて置いた方がいいんじゃないの?」
「ごもっとも……だな……」
キンジはロキの言葉に同意した……慣れない場所でしかもいつものメンバーと言うと今はロキのみ……身体的に限らず精神的にも本人も知らず知らずのうちに負担がかかっているのだ。リサのお陰で緩和されているとは言え……いや、寧ろリサがいたからこそ今、倒れられたんだろう。
「取り合えず……今日は寝るぜ」
「それの方がいいね」
「ご主人様、看護はお任せください」
と、リサがいってくれたのでキンジは甘えることにしたのだった……
リサが家事において文句がないことは前述したが看護と言う面でも一定水準以上を満たしていた。熱まで出てきたキンジにリサは定期的に飲み物を飲ませ、時間が来れば流動食みたくした食べ物を出した。食欲がなくなっていたキンジでも飲み込むだけで良いのだからこれは楽だった。他にも体を拭かれたり(下まで拭かれそうになったがこれは流石に遠慮した)冷やしたタオルを額に当ててもらったりと至れり尽くせり……美人なメイドにここまで面倒を見てもらうなんて経験はないだろう。いや、白雪は結構甲斐甲斐しく世話を焼いてくるが焼きすぎて鬱陶しい時もあるがリサはその辺りの機微も満点だ。
そんなされるがままの日々を二日ほど過ごした……そんな日の真夜中……キンジはふと目を覚ました。
「ん……」
キンジは時計を見る…日光はまだ上がる気配はない。
「ふぅ……」
体を起こすともう楽になっているのに気付く……頭も少しボーッとするが回る……
「ご主人様?」
「ん?あぁ……リサか」
キンジが軽く首を回していると隣のベットでロキと一緒に寝ていたリサが目を覚ます。
「体調はいかがですか?」
「あぁ……もう大分良……っ!」
キンジは眼が飛び出たような感覚に陥った……何故か?それは簡単だ、リサの服装である……リサの服装は所謂ネグリジェ……といわれるものだ。アリアも寝るときに身につける。だがリサの場合アリアとはもちろん違う。スタイルが良いのだ。そのリサが身に付けたネグリジェはヒステリアモードを呼び出しかけるのには充分だった。
「良かったです、顔色もよくなられたようですし……」
と、リサは言う……ッてなんでこっちのベットにくるんだよ!
「熱も下がられたようですしもう大丈夫ですね」
と、リサはキンジの額に手を当てながら言ってきた。確かにもう体も軽いしな……とは言え変な時間に眼が覚めたな……そのせいで眼が変に冴えた気分だ……
しかもリサが目の前にいる……微妙な空気だ……しかもなんかリサが少しそわそわしているような……まぁいい……
「何かテレビやってねぇか……」
とキンジはリモコンを取るとテレビをつけた……次の瞬間、
「え?」
テレビの画面に写ったのは一糸まとわぬ男女が抱きあって艶やかな声を出す映像……
「っ!」
何てこった……オランダの深夜番組ってこういうのなのか……今の映像がなんなのかくらいはキンジも流石に理解できる……くそ!ヒステリアモードの血流が少し出てきたじゃねぇか!
ヤバイ……何か深夜にこれってクラクラする……
一瞬リサと思わず目を会わせてしまい慌ててキンジはテレビを消した。こんなところでヒスってみろ……リサをあの手この手でなだめすかし取り返しのつかない事態を引き起こしかねないんだぞ……
何て考えていると……リサが寄ってきた……なんですかね?リサさん?
「ご主人様……」
「な、なんだよ……」
なんだろう……リサの眼が潤んでこっちを見てくる……
「そういう気分になっていられたとは……気づけず申し訳ございません」
「……は?いやいや今の事故って言うか……」
そもそもそういう気分ってなんだよ……
「思わず点けてしまうくらいだったんですよね?」
「あ、あのな……リサ……」
何かリサのなかでとんでもない勘違いが生まれている気がした……飽くまでも勘だが……
「まだ病み上がりですが……折角なので無理のない範囲でしましょう」
そう言ってリサはネグリジェを脱いだ。
「っ!」
目の前には真っ白な下着の上下と天下のガーターストッキングをつけたリサがいる。
「ま、まてリサ……俺はそういう訳じゃないんだ……」
キンジはここまで着てリサが何を意図していたのか漸く理解した。詳しい部分まではわからないが所謂今テレビで写った男女の行為を行おうと言う話だろう。それに気づいたキンジは何とかしてリサを落ち着かせようとした……だが、
「ご主人様……リサは良い子ではないのです……ずっとこういうときを待っていたのです……お願いですご主人様……もしリサを嫌いでないと言うのなら……一時で構いません、お情けをください……」
「…………」
もし……これが一般的な男子であったら理性がプッツンしたかもしれない……紳士でもここまで言われたらその願いに応じるかもしれない……例えその言葉の端々から見える焦りに気づいたとしても……無理だろう、日本には据え膳食わねば男の恥……と言う言葉もある、でも……
「…………」
「ご主人様……っ!」
キンジは黙ってシーツをリサに押し付けた……それが意味するのは……拒絶。それを理解するのはリサには容易だった……しかしキンジは口を開いた。
「ごめん……俺でも何をリサが願っているのかくらい多少は理解できた……」
「……つまり……私には魅力がありませんか?」
「違う……俺の勝手な意地みたいなもんだ……俺には好きなやつがいる。リサよりチビだし幼児体型だし口も悪くてすぐ銃を抜く……料理なんてもっての他だし家事なんて散らかすことしかできない……そんな女だ……でもな……」
惚れちまった……
「俺はそいつとの関係に決着を着けれてないんだ……いや、決着つけたら良いのかって訳じゃもちろんないぞ……でも……どちらにせよ俺はそいつとの関係を決めれてない。パートナー……って言うには距離が近い。でもそれ以上じゃない……複雑なんだ、だから……お前の思いには答えられない……誰が何と言っても……俺は……ダメなんだ」
「……………………その人がリサは羨ましいです……ちょっと嫉妬しちゃいます……」
「リサはかわいいよ……でも……済まない」
「いいえ」
リサはネグリジェを着ると一礼する。
「今晩のことは忘れてください……申し訳ございませんでした」
そう言って隣のベットリサは戻っていった、
(さてと……)
キンジの眼が細まる……とは言え成っちまってるんだよな……ヒステリアモード……結構ギリギリだったね。
(ならちょうど良い……アレを試そう)
遠山家の技にある秘技のひとつ
これでキンジは趣味である洋画で出てきた英語をヒステリアモードの頭脳で思い出し一つ一つ
そして一通り覚え終えると最後に……今回の裏切り者を考える……ジャンヌではないし勿論自分ではない。そしてヒステリアモードの思考が終わると……
「寝るか……」
ヒステリアモードのお陰で眠気が誘発されたキンジはベットに寝転がったのだった……
「い、今朝御飯だしますね」
「あ、ああ……」
と言うわけで次の日……リサとキンジはギクシャクしていた……まあ昨晩あんなことがあったのに普通にできるわけがない。そんなわけでリサが台所に下がると……
「いやぁ~ある意味熱烈な告白だったね」
「ぶふぅ!」
キンジはロキの言葉に水を吹いた……
「お、おま!起きてて!」
「当たり前でしょ……私だって気配察知能力は高いんだよ?ま、断ってくれて助かったよね。隣のベットでアーンなことされたら流石に困るし」
「さいですか……」
こいつはこいつで抜け目ない女だ……全く油断ならん。
「それにしても今日もいい天気だねぇ…………っ!」
「どうしたロキ?」
「見て……」
「何だ……っ!」
キンジとロキの眼が鋭くなる。
「リサ!朝食は中止だ……」
「はい?」
リサが顔を覗かせるとキンジは口を開いた……
「バチカンの連中が来てやがる」
「っ!」
リサの顔が凍りつく……キンジの視線の先には……シスター服を着た集団が写っていた……