「ふわぁ~」
オランダに潜伏して数日……キンジは窓を見ながらのんびりとしていた……妖刕にやられた傷は大分よくなった。血の小便が出てたのももう治まったし余程の無茶をしなければ傷がぶり返す事はないだろう。
そんなある日のことである……
「休みがほしい?」
「はい」
朝食を食べていたときにリサが休みがほしいと言ったのだ。ロキがそれに続く。
「今日はお祭りがあるんだって、それにリサさんと一緒に行こうかって話をしてたの、遠山キンジ先輩も行く?」
「いや、俺の場合女装しなきゃならんから遠慮しておく」
キンジは首を横に振った。それを聞いてリサが少しばかり残念そうな顔をしたのは余談だ。
そんな訳でキンジは 一人で部屋でテレビを見ながらベレッタの整備を始める。今は平和そのものだが何時襲撃を受けるかわからない。なので準備だけは何時も万端にしておく必要があった。すると、
「それでは行ってきます」
「あぁ――っ!」
リサとロキが着替えて行ってくると言っていたので出ていく前に声を掛けておこうと思ったのだろう。だが二人の服装にキンジは驚いた。
「その服……」
「え?ああ、オランダの民族衣装です」
「似合う?」
そう言って二人はその場でクルリと回って見せる。
二人はサイズ以外は同じオランダの民族衣装だった。そもそもオランダの民族衣装と言っても地方によって差異があって違うのだがこれは北フォラント州のフォレンダムと言われる地方で着られるオランダの民族衣装と言われて真っ先に思い付くであろう割りとポピュラーなものだ。だが実際眼にしてみると似合うのだ。
一見すれば上下が一体となり腰の部分をカラフルにして繋げた服だ。それだけに派手にも聞こえるかもしれないが見てみればそんなことはない。あれだけ派手な柄の布を部分的に使ってはいるが何処か清楚で……何処か華やかで……何処か美しさを持っている……何よりもいいことなのは露出が少ないことだ。だがその反面体にぴったりとした服装のためか二人のスタイルが際立ってる。
リサはそこそこ背がある(勿論キンジより低いが)のに胸は大きく腰は細い……だが恐らく中にコルセットをつけているのか何なのか強調されているのだ。スベスベの白いマシュマロのような肌に綺麗な髪……何処を取っても美人というのに相応しいだろう。
そしてロキ……胸の大きさなら白雪……いや、望月萌とかすらをも将来性的にも現時点でも上回ってそうな彼女だが身長はそこまで高くない。レキより若干高いくらいだ。だが前述したように胸の大きさはレキとは天と地程の差がある。一年の中では志乃やライカもスタイルはいいがロキには遠く及ばないだろう。バスカービルの中でも勝負になりそうなのは白雪だが下手すら負ける。アリアじゃまず同じ土俵に立つことすらできないそんなスタイルのロキがだ……オランダの民族衣装を着るとコルセット着用も相まって胸が物凄いことになってる……だが何時もならだらしなくユッサユッサと揺れる胸も服装の影響かしっかりと今の位置を保ってる……そしてレキとは対照的な笑顔である。太陽のような笑顔は今の服装にぴったりだ……ってどんだけ長々語ってるのだろうか……
「ま、まぁ可愛いんじゃないか?」
「だってよリサさん。良かったね」
「あ、ありがとうございます」
リサが頭を下げるのをキンジは苦笑いを返して答える。
「ロキは一毅に見てもらいたかったんじゃないか?」
「そうだねぇ~、これ写真に撮っておこうかなぁ」
ロキはニコニコ笑いながら言う。
「でも素直に誉められるとは思わなかったなぁ」
「何でだよ。俺だってそう言う感性くらいあるぞ?」
「だってお兄ちゃんいってたもん《キンジはロリコンだからな……可愛い女見てもまずロリじゃないとなんとも思わんかもしれん》って言ってたよ」
「よしあいつを見つけたらぶち殺してやる」
キンジはベレッタの整備を何時も以上に熱を入れてやることにした。
「ではいってきます」
「お土産買ってくるねぇ~」
そう言って二人は出掛けていった……
「ふぅ~」
キンジは背伸びをするとベレッタの整備に取りかかった……
カランコロンとオランダの伝統の木で出来た靴を鳴らしリサとロキはお祭りを観光する。
「一緒に来ればよかったのにねぇ」
「無理は言えませんから」
そんな話をしながら二人は歩く。
「ですが流石ですね」
「何が?」
「ご主人様はお仲間の桐生 一毅様が生きてるのを信じておられるので」
「そもそもお兄ちゃんは殺しても死なないからね。そう言う意味では遠山キンジ先輩も同じだけどさ。お兄ちゃんも《その内あいつは心臓止められても死ななくなるんじゃないだろうか……》何て言ってる位だしね」
「流石にそれはないかと……」
「うん、私もそう思う……」
リサとロキは苦笑いした……あながち冗談にも聞こえない……
「でもこの町の人は元気だねぇ……」
「はい」
活気溢れる町の雰囲気にロキは楽しそうに笑うとリサが同意する。元々ロキはお祭り騒ぎと言うかこう言う賑やかな場所を好む。姉のレキも生粋の狙撃手の
何て考えてると、
「ん?何か踊ってない?」
「あ、そのようですね」
見てみれば広場のような所で楽しそうに踊っている集団が見えた。
「よーし、私たちも行こう!」
「踊れますか?」
「こう言うのは勢いで飛び込んで躍りながら覚えるもんだよ」
とロキが言うとリサがクスリと笑う。
「では最初は私がリードいたしますので一緒に踊りましょう」
「はーい」
とロキはリサを引っ張り踊ってる広場に乗り込んでいった……
「………………………………」
『………………………………』
美しい女性だった……その場を通るだけで人目を思わず引き付ける艶やかな黒髪……何処か虚ろな瞳……黒いコートを着込み男性だけじゃない……女性ですら羨望の眼差しを向ける……彼女の名は……
(死にたい)
クロメーテル……またの名を遠山キンジ♂(17)である。
とまあ銃の整備も終えてキンジはテレビにも飽きてしまい仕方なく女装して外に出てきたのだ。太陽光にたまには当たっておかないといけないしな……
「■◎▲◇○◆」
「………………」
さっきから何度目かの恐らくナンパ……キンジはそれを一瞥だけして去る。そもそもオランダ語が分からない声はいつもの男声なので出したら女装してるのがばれる。それだけは避けておこう。
それにしても外に出る前に鏡で一応軽くチェックしておいたのだがその際に「うん、これなら誰も男とは思わないな」とか思ったときには軽く鬱になってしまった。なんだってこんなに自分で言うのもなんだが女装が板についてんだよと……
「…………?」
キンジ――もとい、クロメーテルが歩いてると店で大量の酒を呑んで観客ができていた。なんだありゃ……
「ぷはぁ!」
酒を飲み干すとコップをおきおかわりを要求する……一瞬メーヤかよと思ったがそもそも男だった。全身黒で固め帽子すら黒い。サングラスをかけていて全身黒尽くしだ。ある意味では悪趣味とも言える格好の男は先程からあり得ない量の酒を飲んでるらしく彼の周りには人だかりができていた。
「ごちそうさん……っと」
(あいつ日本人だったのか……)
流暢な日本語にキンジは驚いてるとその男と目があった。
「ヘーイそこの可愛いボウヤ、そんなに見つめられると照れるぜ」
「っ!」
キンジは驚愕のあまり目を見開いた。こいつは自分の女装を一目で見抜いてる……自慢したくないがそんな一目で見破られるような変装じゃ……
「見りゃわかるさ」
「っ!」
ホンの一瞬だった……僅かに一瞬その男から視線を驚愕したときにはずしただけ……その瞬間で目の前にその男は立っていた……
「君……遠山キンジだろ?中国で一度見たからな……分かるよ」
「…………」
キンジは息を呑む……だが周りからは美女に迫る男の図に見えるらしく歓声が聞こえるがキンジには関係なかった。
「身長凡そ170㎝と少し……体重は60後半……鍛えてるな。体脂肪率は10%台だろ?足腰を鍛える特有の立ち方と歩き方もしてる……銃は肩にかかってる重量から凡そ9㎜……ナイフを懐にしまってるってことは折り畳み……いや、比較的頑丈なバタフライだな」
「………………」
何でそんなにわかるんだよ……とキンジは口パクした。好きで声を出さなかったんじゃない……出せなかった。こいつは……間違いなく異常だ。
「同じ眼を持ってるんだ。分かるだろ」
「っ!」
同じ……だと?つまりこいつの眼は……
「元々の才能じゃないんだけどな……ま、そんなのはどうだっていい。気を付けておきなボウヤ」
男は……ニヤリと笑った。
「あんた……死相出てるぜ?」
「…………」
「死相って言ってもなんつうか直感つうか本能的なもんだ。でも大丈夫。君は長生きするよ。その死相は心配するものじゃない。俺の本能は必ず当たるんだ」
男はケラケラ笑うと背を向ける。
「んじゃな……せっかくオランダに来たんだ。ここはひとつ日本じゃ風営法に引っ掛かるような店に行ってこようかね」
そう言って歩きだそうとして……止まった。
「あ、俺は亜門 丈鬼だ。桐生一毅くんにもよろしく言っといてくれ」
そう言って男は……いや、亜門 丈鬼は人混みの中に消えていった……
「…………」
キンジはその場から一刻も早く離れるため反対方向に向かって走り出した。
(くそ……)
キンジは亜門 丈鬼という男に近寄られた瞬間動けなかった。静幻から聞いていた男があいつだと認識するのにも時間がいった……何故なら本能的な恐怖を感じてしまったのだ。今まで数多くの奴が戦って負けたと言うがキンジはその敗者たちを誉めたくなった。少なくとも戦えたのだ。自分はダメだ。目があっただけで身構えることすら放棄した。
今までいろんなやつを見てきた……そこそこの危険人物を見てきたと思ってる。そのせいか見ただけである程度は相手の危険度を計れる……そのキンジの目で見たのだがアイツはそんなのとはレベルが違う。レベル?ちがう……次元……いや、住む場所が違う。目の前に立って戦う処か立つのすら拒否したくなる……そんな相手だ……なのに……
(何で一毅を思い出すんだ……)
顔は似てない……だが持ってるオーラが似ているんだ……腹が立つくらいにな……被っちまったんだ。一毅というか自分達よりずっと年上(二十代後半が精々だと思われるが)だが一毅と被っちまった……
(はぁ……)
キンジは暫し落ち着くまで歩くと歩みの速度を落として息をつく……せっかくの祭りだぞ……ここで気を立ててどうするって言うんだ。アイツは戦いに来たわけじゃない。心配はいらないはずだ。
(ほんと世界ってのは広いぜ……)
そこそこの強さはヒステリアモード限定であればあると思っているが妖刕といい猛虎といい亜門といい……欧州にきてからここ最近のオーバースペックな相手としか戦っていない気がする……何て考えてると……
(ん?)
広場みたいな処に出た……そこではいろんな人間が踊っていたのだがその中に……
(リサとロキじゃねぇか……)
「あぁ!」
キンジはそれを遠目に見ていると目の良いロキが気づきリサを引っ張ってきた……
「ご、ご主人様?」
キンジは外で声を出すわけにはいかないので手をあげるだけにしておく。
「何?暇でやっぱり出てきた?」
まぁな……とキンジはジェスチャーというか簡単な身ぶり手振りで返した。
すると、
「
と誰かが叫ぶ。見てみれば恐らく狼かなんかを真似たと思われる日本で言う獅子舞みたいな奴が出てきた。
「あれはジェヴォーダンの獣と呼ばれ日本では狼男等と称される伝説の獣です。吸血鬼のライバルと言われその咆哮はあらゆる動物を従える金獅子の獣の王……」
「詳しいんだね」
「有名ですから」
とロキの問いにリサは笑って答える……だがキンジは眉を寄せた。何でかわからない……が、多分勘だろうが……一瞬リサが焦ったように見えたのだ。何でだろう……
「さて、日も沈んで来しかえりませんか?夜になると冷えますし……」
それはそうだとキンジは首を縦に降った。風邪を引いたら洒落にならない……ここ最近リサのお陰で気分よく過ごさせて貰っているがそれでも体調管理は大切だ。そう思い二人をつれて来た道を戻っていったのだった……
だが次の日……
「ハァックション!ハァックション!ゲッホゲッホ!」
「ここんところマトモな生活してたからねぇ……体の免疫落ちてたんじゃない?ほら、某国民的長期連載少年漫画の主人公の警官も規則正しい生活すると体の免疫力落ちるらしいしね」
「かもなぁ……げっほがっほ!」
「ご主人様、お粥の用意ができました」
一気にやって来た風邪の症状にキンジは苦しむことになるのだが、そのときの話はまた次回のにしておこう……
バスカービル日記
執筆者 神崎 H アリア
某月某日
朝起きると白雪は朝御飯を……理子は昨晩から徹夜でゲームしていたと思うのだけど私とキンジしか寝室にいなかった。べ、別に特に何も意図があった訳じゃないけど取り合えずキンジを起こしてあげようと思って下に降りてキンジのベットを覗き込んだ。口開けて涎垂らしながら寝ているキンジを見たら少し安心した。す、少しよ少し!取り合えずまずは起こそうとキンジを揺さぶる……うっすらと目が開いた……が、また閉じた……折角……折角こっちが起こしてやってんのに……おはようアリア……とかくらい言ってくれても良いんじゃないの?なのに今のものすごくめんどくさそうな顔……なんか腹が立ったので……取り合えず銃を抜いて引き金を引いたわ。こっちの方がキンジはすぐに起きるしね。その直後に銃声を聞き付けて飛び込んできた白雪とバトルになったのは余談よ。
そして昼……昼御飯はキンジと理子と食べてたんだけどその時に理子がご飯を溢して胸に落としたわ……この女は性格はムカつくけど胸は大きいものね……だから取り合えず照れてたキンジを撃っておいたわ…
夜……無性に桃まんが食べたくなったのでキンジに買いにいくからボディーガードしろと言ったらお前に必要ないだろと言われた。そこまでは良い……だが、そのあとに、そもそもお前を襲う何てただの危ない性癖の奴が居ないだろ……と言われたので盛大に銃を乱射してやった。悪かったわね幼児体型で!