緋弾のアリア その武偵……龍が如く   作:ユウジン

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龍達の帰京

戦いを終えた次の日……キンジ達は日本に帰るため空港に来ていた。そして藍幇の皆はわざわざ見送りに来てくれた。

 

「何かあったら呼べよ。何時でも力になる」

 

と、呂布は全身包帯状態なのにわざわざ来て一毅の手を差し出した。

 

「ああ」

 

一毅もその握手に答える。一毅は取り合えず自分で動くくらいには支障がないくらいにはたった一日で回復した。

 

全員でどういう回復力をしているのか突っ込みたくなったが本人いわく「飯をたくさん食べて酒を飲んで寝たら回復する」とのこと。だが未だに一毅の胸には呂布の斬撃による傷がしっかりあるしあくまで自立歩行ができるくらいの回復であり体はまだまだ痛みが走っている。当分は安静だ。

 

「しかし無理して見送らなくたって良かったんだぞ?」

「いえいえ。これくらいはしませんとね……あとキンジ様にお話がありましてね」

 

キンジの言葉にそう言ったのは静幻だ。静幻は昨夜青い顔で帰ってきたがなにも言わず聞いても答えなかった。だが、

 

「その前に様づけはやめろ」

「それは無理ですね。それで話ですが……」

 

普通に断られた。だが静幻の雰囲気が冗談でないことを感じてキンジも表情を引き締める。

 

「亜門 丈鬼と言う名をご存じですか?」

「っ!」

 

キンジには聞き覚えがあった。確かシャーロックが言っていた奴だ。前に自分を三分で倒しカップ麺を煤って帰っていった男……

 

「知っているようですね。そう、シャーロック卿をも簡単に打倒した男です。そして言っておきますが彼がそうしたのはおよそ二年前……今の彼はその当時とは比べ物にならない。桐生の一族と同じく彼も修行による強さはなく全て実戦の中で培い、時の流れが肉体を鍛え上げていく。まるで宇宙が未だに広がっていくように彼もまた無限に強くなっていく」

 

一毅と同じく……と言ったがまさにそうだ。時間経過で強くなっていき実戦でその強さを更に跳ね上げる……それが一毅だ。亜門もそういうタイプか……

 

「だがなんだ急に……」

「もし桐生 一毅が強くなれば戦いたいといっていました」

「まさか昨日……」

「はい」

 

静幻の言葉にキンジは絶句した。

 

「一つ聞いていいか?」

「はい」

「どれくらい強いんだ?」

「…………今まで亜門には私たち中国も含め膨大な数の刺客が送られていきました……超人……超能力者……軍隊……暗殺者……スナイパー……化学兵器もあったそうです。ですが今はされていません。なぜだと思いますか?」

「……全て……負けたから……?」

「はい。どれもが一流も一流……超一流と言っても差し支えない人選でした。ですその全てがかすり傷を負わせることすら出来ないまま倒された上に所属の国に空輸で簀巻きにされて帰ってきたそうです。しかも刺客達には目立った外傷は一切なく全て優しく優しく倒されしかも簀巻きにする際に手紙を入れておくそうです」

「手紙?」

「はい。個人での襲撃であれば襲撃してきた人間に《あなたの弱点はココとココとココであるためこういう風に改善すればもっと強くなれます。後なんか胃腸が悪いようですね。見た感じ胃が荒れてるだけでしょうから帰ったら休養をおすすめします……》と書いたり、隊で行けば《貴方の隊はとんでもなく練度が高く感動さえ覚えました。ですが臨機応変さが足りませんもう少しそこを改善すればもっと良い隊に生まれ変わると思います。後、隊長さんの腰が悪そうだったのでマッサージして置きました》……と相手の国の首相や大統領の簀巻きにした連中ごと返すそうです」

「ま、マッサージって……」

「正確には倒された方は髪や眉を整えられ服の汚れは洗われ全身の骨盤のズレを整復されて身を綺麗にされて空輸されるようです」

 

まあ冗談のようにも聞こえるかもしれないが真実です……と静幻は言う。

 

「寧ろ戦いに行って倒されたあとの方が元気にされる……自分がどれだけ必死になっても亜門は常に相手を怪我させないように優しく戦う……しかも超一流ともなれば己の技に自負があります。それを簡単に打ち破ってしかも欠点を指摘して来る……しかも優しく倒されたあとです……これ以上の屈辱はありませんね。戦いのあと引き込もってしまった人間も一人や二人じゃありません、中には00シリーズや日本の公安0課や武装検事も送られたらしいのですが……結果は似たりよったりのようなものだったらしいですね。ですから彼に今は喧嘩を売る国はいません。もし彼を怒らせれば核兵器をもったとしても自国の完全敗北は見えていますからね」

「だがそんなやつ自分の国に引き込もうとか思わないのか?」

「思った国もいますが誰にも靡かなかったようですね。国家予算の半分を月々に払うと言う案を持ちかけた国もあったと聞いていますが聞き入れなかった……かなり自由奔放な……いや、彼が信じるものは自分自身の正義だけのようです。誰よりも自分勝手で……誰よりも純粋な正義です。故に引き込めない……だからと言って倒すこともできない。そういう男なんです」

「…………何か一毅みたいだな……」

 

一毅は自分の下にいてくれる。リーダーと呼んでくれる。だがそれは自分の中にある正義がキンジを助けることであるから……実際チーム決めの際に一毅は実は結構あっちこっちから勧誘が来た。良しとされないが金銭的なやり取りがあったと言われている。だが一毅は最後までキンジたちのところにいた。

 

一毅にとって正義とは仲間と共にあること……亜門の正義は……多分ムカッと来ないこと……どちらも毛色は違えど互いなりの正義がある。行持があるんだろう。

 

「恐らく……シャーロックと戦った時より強いんだよな?」

「それは間違いないでしょう……彼を倒せるのは恐らく同質の者……超人であろうと何者であろうと人間では勝てません。文字通り見も心も化け物な者……」

「………………」

 

キンジは無意識に一毅を見た……何となくだが……昨夜の戦いを終えたあと一毅の雰囲気が変わった……だが、

 

「まあ、当分はぶつからないんだろう?」

「そうですね」

「……なら、俺も一毅も強くなっておかないとな」

 

キンジはフッと笑った。

 

「怖くありませんか?」

「怖い……さ。やっぱり俺はそういうところは人間だからさ」

 

普通じゃない覚悟は決めた……だがどんな覚悟を決めても化け物にはなれない。

 

「だけど兄弟(アイツ)のとなりに立てるのは俺だけだ……あいつが強くなるって言うならその分俺だってついていけるくらいには実力あげないとな」

 

まあ追い付くのは無理だろうけどな……とキンジは苦笑いした。

 

「そう言えば桐生 一明って知ってるか?」

「ええ、存じてますよ。元武装検事局出身にして間違いなく世界の五本指には入る実力者……そして桐生一毅の父親ですね。更に貴方のお父様とも相棒関係だった」

「流石だな……それでなんだが……二人は戦ったことあるのか?」

「いえ……ですが亜門丈鬼の父親、亜門 丈一と戦ったことがあると風の噂で聞いたことがあります。七日七晩にもその死闘は続き最終的な勝敗は桐生一明の辛勝と聞いています。……まあそれでも桐生一明の方も殺すほどの体力は残っておらず互いに生きたままの決着になったと聞いています」

「じゃあ亜門丈鬼は一明さんクラスじゃないってことか?」

「…………それは分かりません」

「え?」

 

静幻は顎に手を添えた。

 

「亜門の一族の慣例として成人して一番最初に父親と戦い殺すと言う慣習があります。無論父親の方も殺す気で迎え撃つ……勝った方が生き残り強さを後世に伝える。そして亜門 丈鬼は生きている……意味するのは亜門 丈一は既に亜門丈鬼によって殺されている……桐生一明と亜門丈一との実力に大きな差はありませんでした。ですが少なくとも丈一より丈鬼の方が強くなければ慣習によって丈鬼は死んでいます。私は桐生 一明を見たことはありませんが亜門 丈鬼が本気で戦ったところを見たことがない。何時だって壊れ物を触るように敵と戦いそれによって本来の実力の百万分の1も出てないでしょう」

 

まあ戦えば分かりますが……と静幻は言うがそんなことになったら日本の地形が変わりそうなので勘弁願いたい。

 

「取り合えず大体わかった。亜門丈鬼には気を付けておく」

「はい。ではどうですか?一晩たったら藍幇ほしくなりません?」

「ならん」

 

静幻はやれやれと肩を竦めた。

 

「石頭と言うか頑固ですねぇ」

「石頭は先祖譲りでね。シャーロックにも負けてねぇ」

「全く……まあ腰を据えて勧誘するつもりですからね。あ、そうそう。少し贈り物を送ったので分かったら連絡ください」

「贈り物?」

 

そうしてると、

 

『おーい!』

 

皆がキンジを呼んだ。

 

「じゃあ行くな」

「はい。またお待ちしてます」

 

キンジは頷くと静幻に背を向けて歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、皆が呼んでるから俺もそろそろ行くな」

「そうか」

 

一毅は呂布から手を離す。

 

「なあ桐生 一毅」

「ん?」

「お前はどうやって仲間を作った?」

「……はい?」

 

昨日までの呂布からは信じられない発言に一毅は呆然とした。

 

「なんだ急に……」

「ふと思っただけだ」

 

それを聞いて一毅は苦笑いした。それは人に聞くもんじゃないだろう……だが呂布なりに必死なのは痛いほど伝わる。

 

「よく俺も良くわかんねぇ……ただ一つ言えることは……信じるんだよ。裏切られるかもしれない……バカを見るかもしれない……それでも自分がバカになって信じれば仲間なんじゃないかな」

「……そうか。バカになる……か」

 

呂布は笑った。初めて見る優しい笑みだった。

 

「あとな、もう少し周りの心にも気を配ってやれ。貂蘭が特に可哀想だ」

「可哀想?」

 

呂布は首をかしげた。好意を向けられた方は全く気づいていないらしい。全く……自分の周りは好意に鈍感なやつらばかりだ。

 

『一毅(さん)(先輩)には言われたくないでしょうね』

 

と、いきなりレキとライカに突っ込まれた。そこまで自分は鈍感か?

 

「ま、とにかくそろそろ行かないと飛行機に乗り遅れますよ」

「あ、そうか……」

 

そう言って一毅は呂布に背を向けた。

 

「またな、ルゥ!」

「ああ!一毅!」

 

あえて呂布ではなくて……あえて一毅で……その言葉の意味は互いに理解している。

 

「さ、行こうぜ」

 

一毅は手を出した……それを見てレキとライカは笑う。

 

『はい!』

右手にはレキの左手を……左手にはライカの右手を重ねた。

 

暖かくて……小さな手だ。別に繋ぐのは初めてじゃない。だが何故か今日のは特別違って感じた。優しくて安心する感覚……

 

「幸せだ」

『え?』

「いや、何でもないよ。さ、行くぞ」

 

一毅の呟きは二人には届かなかったがそれは別に良いことだ。と、一毅は二人をつれて歩き出す。

 

「遅いぞ」

「ワリィワリィ」

 

一毅はキンジに謝りながら飛行機に向かう。

 

「……なあアリア」

「なによキンジ」

「……ありがとう」

「…………は?」

 

アリアの呆然とした顔を尻目にキンジは飛行機に向かった。

 

「ちょ、ちょっとキンジ!どういうことよ!なによいきなり!」

「何となくだ。気にすんな」

 

キンジはカラカラ笑いながら搭乗口に入った。

 

「ほら辰正!急がないとおいてかれるよ!」

「う、うん」

 

あかりは辰正を引っ張りながら飛行機に乗り込む……

 

「白雪お姉さま。酔い止めは飲まれましたか?」

「うん。大丈夫だよ」

「さぁて!帰りの飛行機は勝つ!」

「残念ながら理子どの。それは拙者の台詞でござる!」

「違うよ私だよ!」

 

白雪と理子と陽菜がバチバチと火花を散らす。

 

「あのぉ……飛行機に遅れますし既にアリア先輩が隣に座っちゃいましたよ?」

『なにぃ!』

 

志乃は冷や汗を滴ながら指摘しつつ飛行機に駆け込む三人についていく……

 

これで全員だ。日にちとしては凡そ三日ほどしかここに滞在してないのに長かった気がする。だがこの修学旅行では全員がそれぞれの形で成長できた。ある意味学を修めれた中国での戦い……きっとこの体験はこれからの大きな意味合いを持ってくるんだろう。

 

また来るときは戦いは無しで来たいものである。

 

「そう言えば一毅」

「ん?」

「お前食いたかったもの食えたのか?」

「あ!本場の餃子食ってねぇ!チャーハンは食えたけど!」

「俺も藍幇城の上から父さんの言ってた夜景は見れたけど本場のラーメン食ってなかったんだよな……」

 

キンジはボヤく。すると一毅は名案を思い付いたような顔をした。

 

「ならいつか俺たちの子供に話してさ。行かせてみないか?」

「成程……一毅にしては良い案だな。まあ互いに生きて結婚できたらの話だがな」

「だからお互い死なないようにな」

 

一毅が言うとキンジも笑って頷いた。

 

「そうだな……そう言えば……」

 

キンジは首をかしげる。

 

(さっき静幻が言っていた贈り物ってなんだ?)

 

キンジは飛行機が飛び立つまでずっと考えることになった。だがこれが僅か数日後に発覚して驚愕することになるのだがそれはその時に話せば良いことであろう。

 

とにかく今は……一件落着であった。




中国編はこれで終わりです。次回対談やったあとに正月の辺りを少しやって欧州編に行きます。

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