緋弾のアリア その武偵……龍が如く   作:ユウジン

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龍達の決戦 鷹と拳槍の将

『ハァ!』

 

あかりの左手に握られるナイフと趙伽の貫手が交差する。二人は互いにギリギリで躱す。

 

「前より動きが良くなったね」

「当たり前で……しょ!」

 

そこから更にナイフを振るって追撃……

 

「甘いね!」

「っ!」

 

横に少し動いてあかりのナイフを躱すと首に向かって貫手を放つ……だがあかりは、

 

「ラァ!」

「なっ!」

 

放ったのは頭突き……貫手に併せるように放った頭突きは趙伽の貫手と激突…………

 

「ぐぁ!」

 

趙伽の手からメキャっと言う音がして趙伽はたまらず距離をとる。

 

「握り拳による突きを面とするなら貫手は点を穿つ技……故に貫手の使用者は指を鍛え上げるけどそれでも基本は人体でも柔らかい部分を狙う……そうじゃないと漫画やアニメやないんだから指を壊す……ってアリア先輩から教わった」

「面倒なこと教えてくれたね……」

 

趙伽は引っ張って指を戻すと息を吹き掛ける。

 

「避けられなければ受けるか……」

 

貫手と言う技術は元々空手に見られる拳撃の一種だ。

 

そもそも拳撃は【拳】【張り手】【熊手】【手刀】そして【貫手】……大まかにとは言えあげていってもこれだけ。日本に限らず世界中に存在する格闘技もこの大まかには五つしかなくその中でそれぞれの格闘技や使い手によって昇華されていく。

 

例えば拳を使う格闘技と言えば有名なのはやはりボクシングだろう。現在ではスポーツ競技の様子を見せているが元は素拳(ペアナックル)を用いて戦うために作られた立派な実戦武術であった。

人間が生まれたときより誰に教えられたわけでもないのに覚えてる【殴る】と言う技……それを軽快なフットワークで相手の攻撃を躱し最低限の動きで相手穿つ……

 

次に張り手……掌打や掌底とも称されるこの技はまあ日本人にとって馴染み深い相撲が有名だろう。

相撲は日本が世界に誇る格闘技であり古くはあの織田信長も若い頃は相撲に明け暮れて成長してからも相撲好きだったといわれる。

そしてその力士が放つ張り手の破壊力は何と横綱クラスともなるとへヴィー級のボクサーのパンチを遥かに上回ると言われる。

 

次に熊手……これを主流に置いている格闘技は見たことがないが古流武術に見られる攻撃方法だ。

指の第二関節を畳んでパーとグーの中間みたいにした拳を相手の不意をつく形で頬に炸裂させる……不意を突かれた相手は場合によっては脳を揺らされ鼓膜を破られる。完全に不意打つようではあるが使いこなせば一対一に置いて相当なアドバンテージ得られる技なのは間違いなく同時に危険な技である。

 

次に手刀……これはもっとも有名な攻撃方法だ。相手への牽制に加えプロレス、古流武術や中国拳法と使う格闘技は幅広いが実は効果的にダメージを与えるとしたら首、もしくは顔面しかない効果範囲の狭い技だったりする。別に肩とか脇腹とか狙ってもいいが固い部分になればなるほど繰り出す前に大きく振らなけらばならず最小で済ませるならやはり急所を狙うべきだ。

 

だが恐らくは……もっとも危険な攻撃方法なのは貫手だろう……

 

指で突くという事は突き指や骨折等の危険性がある。だが指というのは点だ。点と言うのは当てたさいに力が集中する面積……それが小さいと言うのはその分当たった際の力がそこだけに集中する。故に貫手で人体急所をついた場合他の拳撃に加えてダメージが大きい。

 

その為貫手の使用者は指を徹底的に鍛える。指たて伏せから始まり果てには指一本での逆立ちができるようになるものもいる。趙伽だってそうだ。ひたすら指を鍛え上げ今では片手指逆立ちで文庫本を読み上げる位なら朝飯前……だがそれであっても額、肘、膝等の人間の体でも比較的頑丈に出来ている骨の部位とぶつけられれば指をやって当たり前である。それに元々あかりは骨とかは頑丈なのだ。

 

「ちぃ!」

「くぅ!」

 

趙伽はクルッと回転して遠心力を味方に手刀を放つ。

それに対してあかりは右腕の肘を曲げて立てると左腕で抑えて趙伽の手刀を受ける。それと共に衝撃が来る一瞬だけ全身の関節を固定し衝撃を耐えた。無論体格差があれば負けるが趙伽も決して体格に恵まれている訳じゃない。世間一般的にチビと称されるあかりであってもこのようにきっちりと防御すれば耐えられる。

 

「そう言うことか……」

 

趙伽は舌打ちした。

 

あかりは元々タフだ。キンジのようにアリアにボコられるうちに頑丈になったとかではなく寧ろ一毅のように生まれつきからだが頑丈と言われる部類(一毅とは違い電撃に耐えたり腹に刺し傷ができても平気とまでは無理だが)だ。

だがそれゆえにその防御を無意識の過信している部分があった。本来であれば相手へのカウンターとして相手の武器を奪う鳶穿(とびうがち)を使うということは相手の動きを見切る目はキンジの万象の眼とまではいかずともそこそこある筈だ。それなのにあかりは戦闘の度に明らかにダメージを喰らい過ぎる事が多い。

 

それこそがあかりの弱点だった。無論腕力とか身の来なしとか銃とかナイフとかの扱いや経験とか色々挙げていけばキリがないがあかりの最も足を引っ張る弱点は体が生まれつき頑丈ゆえに生まれてしまった【攻撃を喰らっても平気だろう】と言う心……その頑丈さが窮地を救ったことも多いがその都度体を酷使していれば何れ限界が来ることは分かりきっていた。

 

それゆえに磨いた防御のイロハ……幸運な事に相手の攻撃を受け流したりする防御術は辰正が得意としていたし周りには数多くの高ランク武偵もいた。敢えて体の頑丈さを捨てることであかりは趙伽と戦うすべを得た。

 

「オォ!」

「あぶな!」

 

防御したあかりはそのまま肘を振り上げる一撃を放つ。防御と攻撃をそのまま続けて行うその技術は未だ完璧とは言い難く寧ろ未熟……だが修学旅行の時とは違い趙伽に一方的にやられはしない。

 

「嬉しいね……今のあんたの目はゾクゾクする」

「気持ち悪い!」

 

趙伽は爪先であかりのコメカミを狙う蹴りを放つ。

 

だがそれを伏せて躱すとあかりの突き……とは言えあかりの体重と腕力では充分な破壊力はない……はずだった……

 

「がっ!」

 

体を走る振動に波のような衝撃を感じ趙伽は後ずさる。

 

「それは……」

「私は自分の中に流れる電磁パルスをある程度自分で操って相手に流せるんだ」

 

それを極めたのが【鷹捲(たかまくり)】であるが実はあかりは自分の意思で行うことができない上にあれは溜めが必要になる。その為威力を落とす代わりに瞬間的の電磁パルスを集めて放つ鷹捲(たかまくり)擬きの拳を趙伽に打ち込んだ。

 

「成程ね……何でナイフを左手に持ってるのかわからなかったけブラフか」

 

普通ナイフが利き手に持つものだ。それを敢えて逆の手に持つことでそっちに意識を持っていかせて放った鷹捲(たかまくり)擬きの一撃は何時までも腹にまるで喉に魚の骨が引っ掛かったような感覚を残す。中々面倒だし嫌な感覚だ。だがそれより……

 

「マジだね……」

「最初っからだよ」

 

あかりは腰を落とす。

 

あかりの武偵ランクはDである。このランクはバスカービルと一年生達の中でもキンジ以外ではぶっちぎりで低い。しかもキンジはヒスっていればSランクの実力だし今のEランクと言うのは元々ランク考査をサボったがゆえにEランクなだけである。なので実際の実力的に考えてあかりが最底辺なのは最早言うまでもない。

 

だがそれでも仲間に恵まれ友人に恵まれ運にも恵まれ数多くの危機も乗り越えてこれた。自分でも友達は多い方だと思うしそんな皆と一緒にいたいと思っているしそんな皆とならどんなピンチも平気だと思っていた。

だが……修学旅行の時は手も足もでなかった。今まで何とかしてきた皆も全員倒されていく姿は今でも覚えてる。あの時もし藍幇こちらを殺すつもりだったら確実に今自分達はここにいない。その時知ったのだ。何ともならない相手はいるし、寧ろ何とかするには相応の実力が必要だと言うことに……だから誓ったのだ。

 

「私は倒れない……」

「え?」

 

いかなるときも自分は倒れない。そう誓った。強くなって大切な仲間たちと共にいようと……友達と一緒にいるには武偵である以上必要だった。

 

「決めたんだ。もう倒されないって……私は強くなって……皆の力になりたいんだ!」

 

多分これからも助けられながらいくんだと思う。これは何というか決められた運命というか宿命というかそんな感じだ。でも……だからこそ強くなろうと決めた。どんな相手だろうと何とかできる強さを得たい。そうすれば誰も失うことはない。皆で笑って皆で泣いて……そんな時に戻っていくことができる。自分には過ぎた友人や仲間たちだけど……それでも大事だから……そんな皆といたいから……神崎 アリアのようにではない。間宮 あかりとして強くなろうと決めた。

 

「ああ~……あのときにお前弱いと思ったけどそんなことなかったね……」

 

眠っていた鷲が目覚め掛けてしまってる……これから時間を掛ければ間違いなく彼女も大きくなる。

 

「私外れクジ引いたなぁ……」

 

ヒーロー気質?と言うべき才能の持ち主はちょっとしたことで爆発的な成長をする。一毅やキンジ同様にだ。

 

「ま、やれるだけやってみないと……ね!」

 

戦闘再開と言わんばかりにあかりの喉めがけて貫手……

 

「くっ!」

 

あかりは横に飛んで躱すとその方向に向かって爪先蹴り……

 

「っ!」

 

それを地に伏せて躱すと脇腹に鷹捲(たかまくり)擬きの肝臓打ち(レバーブロウ)……

 

「ちぃっ!」

 

攻撃後の若干の硬直を突いた趙伽の手刀……

 

「がっ!」

 

それが遂にあかりの首を直撃する。

 

「ぅぅう……アアァアアアアア!」

 

だがそこから更に胸に一発に腹部に一発と連続で打ち込む。

 

「ごっ!」

 

一撃一撃は大した威力はないだが打ち込まれた後残る違和感……気持ち悪い。

 

「この!」

「っ!」

 

趙伽の踵落とし……それを腕を交差させてあかりは防ぐ。

 

「ハァ!」

 

それを押し返すが手刀が効いてるのか力がない。

 

「デェイ!」

 

それでも趙伽の体勢を崩すと鷹捲(たかまくり)擬きを続けて打ち込む。

 

「うざ……ったい!」

「っ!」

 

メリメリと完全に貫手があかりの鳩尾にめり込んだ。

 

「ご……ほぉ……」

 

胃から競り上がってくる独特の気持ち悪さ。同時に形容しがたい激痛……だが……あかりは……倒れなかった。

 

「一回くらいならまだ耐えられる範疇だよ」

 

そう言って趙伽の襟をつかんだあかりは拳を引く。

 

「っ!」

 

何かでかいのが来るのは簡単に理解できた。故に趙伽は離そうとするが同時に気付く。

 

元々趙伽の貫手は女性として生まれたが故に体格に恵まれなかったため足を固定し腰を捻り腕を突き出すと言う言わば全身を使った技を用いてきた。だが今はあかりが密着状態……つまり貫手が使えない。勿論爪先蹴り何て論外だ。

 

「これがホントの……」

「しまっ!」

 

そこから放たれたのは擬きではなく本来の姿、

 

鷹捲(たかまくり)!!!!!」

 

0距離から打ち込まれる鷹捲(たかまくり)は本来相手に放った場合僅かであるが放出した電磁パルスの振動が相手に届く前に四散している部分があった。その四散する振動が千の矢を逸らして行く正体なのだがそれを今回は無駄とし0距離から打ち込むことでその無駄を発生させずに鷹捲(たかまくり)を使う。無論元々の鷹捲(たかまくり)も相手の銃弾の中を掻い潜っていくと言う点に置いては優秀であるしケース・バイ・ケースといった感じだ。とは言えこっちの方が今はいい。

 

「がっ!」

 

0距離からの鷹捲(たかまくり)が相手の体を蹂躙していき服を散り散りにし更にそこからさっきの鷹捲(たかまくり)擬きが猛威を振るう……実はさっきの鷹捲(たかまくり)擬きは電磁パルスの小さな塊のようなものを相手の体に打ち込む技だ。

楔のように打ち込んだ鷹捲(たかまくり)擬きのダメージは本来の鷹捲(たかまくり)によって増幅しまるで爆弾のように内部にダメージを与えていく。

 

「が……ふぅ……」

 

体のあちこちで起きる振動の波……それは趙伽の体を確実に痛め付けた。

 

「かはぁ……」

 

最後に血を吐いて倒れる。

無論死んではいない。ただ少々ダメージはでかいだろう。つまり当分立ち上がることはない。

 

「で……きた……」

 

あかりはふらつく……だが倒れはしない。

 

まだまだだ……最後に結局喰らってしまった。どうしても自分のタフさに頼ってしまう……だがまあ……これからもまだやっていくしかないだろう。とりあえず今は、

 

「私の勝ち……へへ」

 

あかりは勝利宣言をした……

 

 

――――勝者・間宮 あかり――――




何かあかりが誰だお前状態に……

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