「くっ!」
「ウラァ!」
志乃のハンドガード付の日本刀と甘餓カリスティックが火花を散らしながらぶつかり合う。
「さぁて……決着をつけようぜ大和撫子!」
「望むところ……です!」
志乃は弾き返すと日本刀を腰に添える……
「燕返し!!!!!!」
巌流に伝わる居合い……だがそれを甘餓は両手に持ったカリスティックを交差させて受けると志乃を蹴っ飛ばす。
「っ!」
それを咄嗟に伏せて躱すと切り上げる。
「うぉ!」
それを顔を逸らして避けた甘餓は右手のカリスティックを横に凪ぐ。
「はぁ!」
だがそれを志乃は上へと打ち上げるように正面からではなく横から受けて流した。
「器用なやつだな……」
甘餓の一撃は正面から受ければ腕力で大きく劣る志乃は劣性を強いられることになる。
だがどんな強撃も受け流せれば……衝撃を正面からではなく横から受ければ腕にかかる負担は大きく減らせる。
一毅もこういった技術を吉岡 清寡との戦い以降そういった技術を身に付け使うし元はこの技術……志乃は白雪から伝授されている。
更にそこから、
「燕返し!」
「っ!」
受け流しの動作から流れるように居合いの構えと持っていくと至近距離からの燕返し……
「ぐぉ!」
僅かに脇腹を切り裂かれつつもなんとか躱した甘餓は距離を取る。
「やっぱり強くなったよなぁ……大和撫子……お前名前なんだっけ?」
「佐々木……志乃です」
「佐々木 志乃ね……OK。舐めてたことを詫びるぜ……お前は充分脅威だ……だから……俺も本気でいくぞ」
甘餓の持っていた覇気が変わる……先程までのふざけた雰囲気はない。
「ええ、私も手加減を辞めていきます……」
そう言って志乃はハンドガード付の日本刀を腰に添えて……再度居合いの体勢を取って相手を見据える……
『……………………………――っ!』
甘餓は一気に間合いを詰めて右手のカリスティックで志乃の額を狙って突く……
志乃は一気に燕返しを放ちカウンター気味に迎撃する。しかし、
「がっ!」
軍配は甘餓に上がりもろに受けてしまった志乃は後方へ吹っ飛ばされた……
「く……」
クラクラしながらも志乃は相手から眼は離さない。
「アブねぇアブねぇ……だが何度も同じ手は喰らわねぇぜ……」
左手のカリスティックで防御しながら攻撃した甘餓は両腕のカリスティックを握りなおす。
「つつ……」
志乃は頭を抑えながら立ち上がるともう一度居合いの構えを取った……
「お前そればっかだなぁ……」
「私にはこれしかありませんから……」
志乃は……はっきり言って自分の剣が並外れたものだと言う考えはない。寧ろ大きく劣る。そういった風に考える。
剣術と言う点において白雪やその白雪を大きく上回る一毅とは年齢とかそう言ったものだけでは説明のできない物があるとわかっている。
自分の
一毅には圧倒的なまでの武力とそれを支える恵まれた肉体がある……
じゃあ自分には何があるだろう……腕力も才能も大きく劣り、超能力もない自分の剣は一般人から見れば充分に凄いかもしれないがこう言った一般人ではない者たちとの戦いにおいて志乃は低くなってしまう。
「なら……いくぞ!」
「っ!」
志乃の燕返し……だがそれは今度は二本のカリスティックで絡み取られて捨てさせられた。
「がっ!」
そこの来たカリスティックによる撲撃……ミキミキと脇腹にめり込み吹っ飛ぶ……
「ごほ……」
ゴロゴロと転がりながら志乃はふらつく頭で思う。
自分は不毛な想いを持っている。あかりに対して明らかに友人以上の想いを持っているのを認める。
分かっているのだ。報われないことくらい。どんなどんでん返しがあったとしても自分の想いが報われることないくらい重々承知している……
何だかんだ言ってもあかりは辰正と一緒になるのだろう。それだって勘だが凄く現実味がある。恐らく辰正は浮気もしないしあかり以外の女を囲うことだって無いだろう。
そして分かってしまうだけに悲しかった……もし自分が男だったら……きっと女の肉体とは違いもっと身体能力だって戦っただろうしあかりを愛することだってできたと思う。だが女として生まれ女として育って来た自分にはどんなに足掻いてもあかりとは女同士であると言う事実を変えることはできないしあかりはきっと自分を友達以上には思わないだろう。
それでも……良いと思う自分と否定する自分が常にせめぎ合い睨み合う……あかりは大好きで辰正を憎々しく思う自分……でもそんな二人を認めて祝福する自分……そしてライカや陽菜を妬む自分……
ライカは自分の気持ちを通して一毅とはレキとは別の恋人と言う立ち位置を得た。陽菜はキンジに執心だがきっとアリアとか白雪とか理子とかこれから出会っていく女性達の中に居て大切にされていくと思う。そう思うと二人にも嫉妬する。
何時だって自分は宙ぶらりんでどっちつかずで妬んでばかりだ……そう分かっても妬んでしまう自分が大嫌いだ。
そんな風に考えていってどうしようもなくて暗くなっていく自分がいた……
「はは……」
「?」
志乃は笑い、甘餓は首をかしげる。
(ほんと私何時も何時も悪い方に考えてばっかりだ……)
そう思いながら志乃は立ち上がる。
それでも志乃は戦う。たとえどんなに打ちのめされれも叩きのめされても……またあかりと笑って会いたいから……報われなくてもみっともなくても……佐々木 志乃が15と少し生きてきて初めて思った心。
(私はあかりちゃんの一番の友達だもんね)
これだけは譲れないポジション……たとえ辰正に心奪われて良い……事もないけどそれでも……一番の友達ということは譲れない。たとえライカでもそこはダメだった……
(だから……笑って会えるように……私は勝つよ……あかりちゃん)
スッと居合いの構えを取る……本日何度目かわからない。だが……その構えを取った表情に陰りはなく……美しい笑みを浮かべた。
「全くよ……そういう顔もできんのかよ……惚れちまいそうだ」
「残念ですがもう好きな人いますから」
「どんなやつだい?」
そう言いながら甘餓はカリスティックを握りしめ走り出す。
「……そうですね……優しい子です」
志乃も走り出す……そして次の瞬間キン!っと言う音が辺りに響いた。
『…………………………』
静寂が辺りを支配する……それと共に甘餓のカリスティックに切り傷が走っていく……
「くく……」
甘餓のカリスティックが二本とも半分になった……
剣術においても最高ランクの難しさを誇る技術……【斬鉄】……
一毅や白雪は既に基本技術として使うが志乃は今まで習得することは叶わなかった。だが、土壇場にて志乃はその最高ランクの技術をついに物して見せた。
簡単なことではない。だが、他の仲間達もそれぞれの方法で強くなっていった。そんな中で志乃だけ胡座をかいていた訳じゃなかった。鍛練に鍛練を重ね続けた結果……最後の踏ん張りがこの結果を産み出した。
諦めないこと……口や物語では簡単に出されることだが実際に行動すると凄まじく大変で苦労が多い……だが敗北と言う結果はその辛さにも打ち勝ち続けることができた。そして甘餓という男から最初で最後の勝利をもぎ取ったのだ。
「これは……俺の敗けだな……」
「はい……私の勝ちです……」
その呟きを合図に袈裟傷が甘餓の体に現れる……志乃は鞘を取り出すとそこに納めていく。
「巌流・燕返し【斬鉄】……」
チン!っと言う音をたてて刀を仕舞うとそれを合図に、
「がは……」
力が無くなった甘餓はそのまま事件に倒れ伏した……
――――――勝者・佐々木 志乃――――――