懐かしい。
そして愛おしい。
目の前に広がる光景にそう思わずにはいられなかった。
ジョジョとエリナがとても微笑ましい桃色空間で談笑している。
そこにさりげなく現れたディオはとても優しい笑顔で、2人も彼を受け入れている。
ああ、なんて素晴らしい光景なんだろう。
私の夢が叶う日が来るだなんて。
けれど……そこに私はいない。
私はこのためだけにこの身を犠牲にしたのだ。
後悔はしていない。
後悔をするよりもずっと、ずっとこの日が来るのを待ち望んでいたのだから。
静かに踵を返して立ち去る。
嬉しさに目を瞑りもう一度開けた時、そこにあったのは急成長を遂げたジョジョの顔だった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
食堂に着くと、既に父さんとディオは朝食に手をつけ始めていた。
不機嫌なのを隠しながら席について私も食事に手をつけた頃、頬を真っ赤に腫らしたジョジョが目を潤ませてやって来た。
「ジョジョ、どうしたんだその頬は」
一番初めにそれを気にしたのは父さんだった。
けれどジョジョがそれに答える前に私が声を張り上げた。
「父さん、そろそろいい加減に私の部屋に鍵が欲しいんですけど」
「なるほど、またやったのか、ジョジョ」
ディオがニヤリと笑った。
彼の言う通り、“また”やらかしてくれたのだ。
「だ、だって、呼ばれたら気になるじゃあないか」
「だからって寝ている部屋に入る!? 寝言くらい無視してよ! 条件反射で蹴る足が痛いんだから!」
「それじゃあ蹴らないでくれよ……」
「じょ、う、け、ん、は、ん、しゃ!!」
初めて蹴った7年前に比べて、ジョジョはとても逞しくなった。
ひ弱だった身体は何処へやら、今では筋骨隆々と言う言葉がぴったりな体つきになっていた。
そんな彼を蹴り飛ばしたのだ、私の足は当然のごとくじんじんと痛む。
「だが、ジョジョを蹴っておいて捻挫の一つもしないアニの丈夫さにも驚かされるよ」
「あら、ならあなたも蹴ってあげましょうか、ディオ?」
「っ……遠慮するよ」
「アニ、淑女がそう簡単に人を蹴るものじゃあない」
「ごめんなさい、父さん」
それからは黙って食べることにした。
ジョジョはと言うと、7年の甲斐あってかマナーはだいぶ良くなった。
私からの小言はあっても父さんから叱られることはもうほとんどなくなっている。
「ごちそうさま」
「おや、今日は早いね」
「講義が1限目からあるの。ジョジョとディオは?」
「僕は午後からなんだ」
「俺は2限目からだ」
「そう。なら先に行くわね」
7年という月日は長いもので、早いものだ。
私たちは皆、いつの間にか大学生になって同じヒューハドソン大学に通っている。
けれど専攻は誰一人として同じではなくジョジョは考古学を取っているし、ディオは法律を取っている。
私はと言えば……生物学を取っている。
理由を聞かれるとうまく説明はできないんだけど、ただ気になることがあるのだ。
そのためには生物学を専攻するべきだ、と高校の担任に言われ、そしてこうしている。
午前の講義が終わってしまえば今日1日はもう他にない。
だから私はとある場所に電話をした。
「迎えのものが来るまでここでお待ちください」
場所は病院。
別に体の具合が悪い訳じゃあない。
ここに生物学を専門とする医者がいると聞いて話を聞きに来たのだ。
「ああ、明日はジョジョとディオがラグビーの試合なのね……」
メモ用に使っているノートにある書き込みを見て思わず綻ぶ。
「まあ、まあ! アンジェリカじゃない!」
「え?」
突然名前を飛ばれて弾かれるように視線を上げる。
美少女が、そこにいた。
はて、私はこんな美少女の知り合いなんていたかしら?
けれど彼女のこんな驚いた顔をどこかで見たような気がするな。
「っ! まさか君、エリナ、エリナ・ペンドルトンかい?」
「そうよアンジェ」
こんな偶然あっていいのだろうか。
7年前、あんな別れ方をしてしまった親友とこんな形で再開してしまうなんて!
「エリナ、随分と綺麗になったじゃあないか」
「それはこっちのセリフだわ。すっかり淑女になってるわ」
「ところで、どうして君がここに?」
「実はね、私ここで働いているのよ。それで先生に用があるという学生さんを迎えに行って来いって言われたの」
偶然を通り越して奇跡にまで思えてくるよ、この状況は。
「そうか。それじゃあ案内を頼もう」
「ええ」
歩き出したエリナの後について私は病院を進んだ。