1話
僕には幼馴染がいた。
どう言うわけかわからないけど、物心着いた頃にはすでに一緒にいたんだ。
彼の名はジョナサン・ジョースター。
ここいらじゃ有名なジョースター家の一人息子。
彼の父であるジョースター卿には僕も良くお世話になっていて、僕らは誰もが認める親友である。
そして僕らはジョナサンのことを、愛称としてジョジョと呼ぶ。
「ジョジョ、どうかしたのか? 随分と表情が暗いね」
その日、ジョジョは朝からどこか心もとない顔をしていた。
貴族の一人息子だと悩めることは多々あるだろうが、どうも今日のは様子が違う。
「聞いてくれよアニ。今日ジョースター家に養子が来るみたいなんだ。ディオ・ブランドーと言ってね、僕と同い年らしい。もちろん家族が増えるのは嬉しいんだけど、うまくやっていけるか心配で」
「……ふふっ」
「何がおかしいんだい? 僕は真剣なんだ」
「いやいや、ジョジョらしくない悩み事だと思ったのさ。君はいつでも全力で他人に接する人だろう? どこに心配する要素があるのさ。君は君らしく新しい家族と接すればいいだろう?」
それもそうだね、と答えた彼の表情は、さっきよりもずっと明るくなっていた。
これからディオので迎えがあると言うし、僕もこれから用事があったので彼とはそこで別れた。
英才教育とは、実に大変そうであるが、僕には不向きだ。
「アンジェリカ!!」
ふと名前を呼ばれ、後ろから抱きつかれた。
「エリナ、首には手を回さないでくれ……苦しい」
「あら、ごめんなさい」
ふわりとした笑顔の素敵な彼女はエリナ・ペンドルトン。
こちらもまた、僕にとって大切な友人である。
「ねぇアンジェリカ、先ほどの紳士は誰?」
「ジョジョのことかい? 彼はジョナサン・ジョースター、僕の親友さ」
「ジョナサン・ジョースター……」
「おや? まさか彼に興味でも?」
「アンジェ!!」
おやおや、ムキになると言うことは図星だったかな?
これはちょっと弄くってその末路を見たくなってしまったな。
2人には悪いかもしれないが、少し僕のお楽しみになってもらおうかな。
「アンジェリカ、どうかしたの? その微笑みが少し怖いわ」
「それは失礼。少し面白いことを思いついてしまってね」
「あなたの面白いことは大抵とんでもないお遊びよ」
おっと、これ以上喋ったらエリナにばれてしまいそうだ。
この話はここで切り上げるとしよう。
さて、家に帰る前にディオとやらの顔を拝みに行くとするか。
「エリナ、僕はこれから少し用事があるから失礼するよ。君に訪れる春を僕は祝福するからね」
「アンジェ!!」
そこそこの距離で名を叫ぶエリナに微笑みながら、僕の足はジョースター邸へと向かって行った。
近くまで来た頃に、馬車の音が耳に入った。
探してみればジョースター邸の大扉の前で止まる馬車と、その近くに立つジョジョの姿があった。
そして、すかさず馬車から一人の少年が飛び降りた。
太陽の光で輝く黄金色の髪、透き通るような白い肌、全てを見通したような赤い瞳。
「君がディオ・ブランドーかい?」
ジョジョが彼に問いかけていた。
ほう、彼が話に聞くディオ・ブランドーか。
見た感じではハンサムと言えなくもないだろうが、あの人を見下したような瞳、少々僕には気に食わないな。
ふふっ、やはり僕も話をして見たくなった。
「ジョジョ」
「アニ? 用事はどうしたんだい?」
「もう済んださ。それで、そちらの彼がディオかい?」
視線を向ける。
すると彼もこちらに瞳だけを向けた。
警戒……いや、軽蔑の目だね。
「僕はアンジェリカ・スターライト。君の話は少しなら聞いているよディオ。よろしく」
一応礼儀であるし右手を差し出すと、しばらく見つめた後でディオはその手を叩き払った。
「ディオ!」
「気にするなジョジョ。むしろ想定内さ。僕が気に食わないと言うならそれでよし、僕が彼に関わらない程度で接するまでだからね」
「アニ、君は少し人がよすぎやしないか? そう言うところを付け込まれるぞ」
「そう言う君こそ、紳士になるには寛容にならなくてはね」
さてと、少々ディオのことを放置し過ぎてしまったかな?
それならば僕はそろそろお暇してやらなくてはならないね。
「それじゃあジョジョ、僕はこの辺で帰るよ。君の新しい家族にも出会えたしね」
「まぁまぁそう言わずに、君もゆっくりして行くといい」
「おや、ジョースター卿。お久しぶりです」
全くもって僕はこう言うところの運はないのだろうか。
まさか帰ろうとした矢先にちょうどいいタイミングでジョースター卿が現れてしまうなんてね。
ジョジョと会うのは外ばかりだから彼とは久しく会っていなかったな。
「しかしジョースター卿、せっかくの新しい家族を迎え入れる日に僕がいたのではお邪魔でしょう」
「そのことだが、我々ジョースター家は君のことも家族に迎え入れようではないかと話しているんだ」
なんだって?
彼は今、僕を家族として迎え入れてもいいと言ったのか?
「幼き日に両親を失って今まで暮らしているのはとても立派なことだ。しかし大変ではないかな?」
「お心遣い感謝します。それでも僕は今の暮らしでも生きて行く自信はあります」
「遠慮しないでくれよアニ。僕も君と過ごせるなら歓迎しているんだ」
「ジョジョ、僕は本来なら君と知り合うはずのない人間なんだ。こうして共に遊べるだけでも充分な幸せさ」
「アニ……」
「気に病まないでくれ。一緒に住まなくとも僕は君のことを家族のように思っているのだから」
それじゃあまた明日ね、そう言って僕は自分の家に帰るべく背を向けた。
後ろからジョジョの寂しそうな声が聞こえた。
紳士たるもの諦めも肝心だよ、ジョジョ。
僕の家は、はっきり言ってジョースター邸からさほど遠いわけではない。
けれど少し歩けばすぐ人通りのない寂れた通りが現れる。
そこでたった一人で、親もなく兄弟もなく独りで暮らしていると言うわけだ。
物心ついた頃にはすでにジョジョがいたわけだし、寂しいだなんて思ったことは今の一度もない。
家族が恋しくないと言えば嘘にはなるのだけど。
いやいや、今は僕のこんな話をしている場合ではないよね。
僕は僕の悪巧みの準備をしなくては。