食事もろもろ合わせて凡そ1時間後・・・。
――――ヴェストリの広場――――
「・・・・・・遅い!!!!いつまで待たせるんだねキミは!!」
一人で勝手に先行していたギーシュは憤慨しながらヴィストリアに怒鳴った。
「す、すいません。昨日から何も食べてなかったからお腹空いちゃって・・・それに、朝食を抜くと1日の活力がでないですし・・・」
「腹が減っているのは僕も同じだ!こっちは食べないで来てるんだから、キミも食べないでくるのが礼儀と言うものだろう!」
「・・・正確な時間と食事云々を指定していないあなたが悪い。」
と、ギーシュの反論をタバサが正論で返した。返事も聞かずに先行していた彼の自業自得と言えるだろう。
「キミは黙っていたまえ!これは僕と彼の問題だ!」
「あなたが勝手に勘違いして、彼を巻き込んでいるだけ。彼に落ち度はない。」
「うぐ・・・と、とにかく、彼は僕の純情を踏みにじった!許すわけにはいかない!」
「だからそれはギーシュが勝手に勘違いしたんじゃない!そ、そりゃぁ・・・最初は私も女の子って言うかメイドっぽく見えちゃったけど・・・」
ルイズもルイズで他人の事は言えなかった。というか、容姿が女の子っぽく見えるだけで勝手に勘違いされて、いちゃもんをつけられるヴィストリアが不憫でならない。
「諸君!!決闘だ!!!」
結局、ギーシュは無理矢理ヴィストリア本人の了承も得ずに決闘を宣言した。
当のヴィストリアと言えば「ううう・・・僕の意見は・・・」と半泣きで訴える事しかできない。
・・・・・・彼は本当に魔王なんだろうか?威厳どころか人外である事すら疑われる。
「なぁ?ギーシュのあれ、どう思う?」
「どう思うもなにも、自分の主張を一方的に押し付けて
「だよなぁ~。俺もそう思う」
外野から聞こえてくる話し声に異色が混じりはじめる。まぁ、傍から見ればそう捉えられても仕方のない事だろう。
「ギーシュ様・・・昔は格好良いって思っていたけれど、あの姿は認められないわ。あの娘、可哀想・・・」
「私もそう思うわ。昔の私ってばあんな男のどこが良いって思ってたのかしら・・・?」
ちらほらと聞こえてくるギーシュに対する非難の声。当然その声はギーシュ達にも聞こえている。
「皆ちょっと待ってくれ!誤解!キミたちは誤解しているんだ!」
ギーシュの必死の声に一瞬周りの声が止む。それを視覚したギーシュは、ヴィストリアを指差しながら告げる。
「キミたちは誤解している!こいつは女なんかじゃない!男なんだ!」
静寂。
「・・・・・・・・・ギーシュ」
周りのギーシュの見る目が更に冷たくなった。
「言い逃れにしてもそれは酷いぞ」
「女の子に向かって“男だ”ってのはいくらなんでもないだろう・・・」
「ギーシュ様・・・最低です・・・」
「なんて暴言かしら・・・」
口々に巻き起こるギーシュに対する非難の数々。
「だ、だから待ってくれ!どうしてそうなるんだ!あいつは本当に男なんだよ!」
ギーシュが顔を真っ赤にして叫ぶ・・・そろそろ泣き出しそうだ。
「わかったわかった。とりあえずあの娘を男だと仮定しよう。それで、その男(仮)とのこの決闘の発端はなんなんだ?」
「くっ!仮定ではないというのに!だが良いだろう!聞かせてあげようじゃないか!事の発端を!」
――――ギーシュ説明中――――
「・・・・・・・・・ギーシュ」
説明が終了した途端、ギーシュに向けられるのは当然の様に非難の目の嵐。「ダメだコイツ。」と、目が物語っている。
「要訳すると、だ。見目麗しい美少女が居たから声をかけた・・・と」
「話してみたら男だった・・・と」
「それで騙されたって言って決闘をする・・・と」
事のあらましを聞き、状況を整理する一同。そんな一同を見て、これで判っただろう?と、腕を組んでドヤ顔で見渡すギーシュ。
しかし、一同の出す答えは決まっている・・・そう、『ギーシュが悪い』。
「バカじゃないの?」
「なぜ僕が非難されるんだ!?」
「どこから見てもお前の勘違いであの娘に絡んでるだけじゃないか・・・」
「うるさいっ!とにかくこれは僕なりのけじめでもあるんだ!外野は黙っていてくれないかっ!」
それから数分後・・・ギーシュとの決闘に、嫌々ながらも臨む事になったヴィストリア。
向かい合う二人。
だがその時・・・ヴィストリアの背中にふわりとした重みが加わる。さらに頬にサラサラとした感触。
「・・・・・・?」
それと同時に、周囲にいる学生たちも騒然となる。不思議に思うヴィストリアが振り返り見たもの・・・それはヴィストリアの背中に抱き着き、自らの頬をヴィストリアの頬に擦り寄せる一人の少女だった。
「え、えっと・・・?」
混乱するヴィストリア。その彼の目の前に抱き着いたままの少女が、何故かハルケギニアの人達にも読める文字の書かれたスケッチブックを突き付ける。
『みつけた・・・』と、丸く可愛い字でそう書かれている。
「あ、あれ?」
その字とスケッチブックに心当たりのあるヴィストリアはとりあえずこの抱き着く少女を確認しようと引きはがす。
「・・・っ」少女の口から漏れる喘ぎ声にも似たため息はとりあえずスルーで。引きはがした少女・・・それはヴィストリアのよく知る少女だった。
肩ほどで切り揃えられた柔らそうな茶髪の髪型。ルビーを思わせるヴィストリアと同じ深紅の瞳。
芸術品のように整った顔。出るところは出て、引っ込むところはしっかり絞られているスタイル。
そしてなにより印象的なのは左手に持たれたスケッチブック。
どこから見てもそれは・・・"自分の妹のアリス"であった。
だが、なぜ彼女がここにいるのかが判らない。彼女は自分が召喚されたとき、居なかったはずなのだから。
「あ、あれ?なんでここに?」
カキカキ・・・となんの迷いもなくスケッチブックにマジックを走らせる。
『貴方の居場所が私の居場所』
「もしかして・・・アリスも召喚されて?」
ペラ・・・っとページをめくってカキカキ・・・と書き綴る。
『私は貴方以外の呼び掛けに答えない・・・』
「でも召喚じゃないなら一体どうやってこの世界に?」
ペラ・・・カキカキ・・・
『ヴィスティ…あまり私をナメないでほしい』
「・・・え?」
ペラ・・・カキカキ・・・
『貴方に会うためなら、世界の壁くらいドリルが無くても突破してみせる・・・』
「あ、あはは・・・す、凄いね・・・(なんでドリル?)」
「おいキミたちっ!」
ほのぼのと会話をしているとヴィストリアの前方から声がかかる。見るとギーシュが肩を震わせ、怒っていた。
「あ、”忘れてた”・・・」
うっかり呟いたその一言。それがギーシュをキレさせた。
「ふ・・・ふふふ・・・良い度胸じゃないか。僕を無視して美少女といちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃとっ!」
「え?いや・・・確かに美少女は美少女だけど彼女はただの妹で・・・」
ちらりとアリスを見る。
『美少女・・・』一言スケッチブックに書き、その周りにハートマークを量産するアリス。
・・・よほど嬉しかったらしい。
「あ、アリス?」
『ヴィスティ。私、美少女?』
「え?あ、うん。アリスは美少女だと思うけど・・・?」
ペラリ・・・『嬉しい・・・』と書かれたページが・・・どうやら感情などの単語系は書き溜めて有るらしい。
「言ったそばからキミたちはぁぁぁっ!!!」
そんな二人に髪を掻き乱しながら唸り声を挙げるギーシュ。
カキカキ・・・
『・・・?ヴィスティ、あの人はなぜ怒っているの?』
「たぶん、僕が彼との決闘を無視してアリスと話してるからじゃないかなぁ・・・」
『・・・?決闘?』
こてん。と、可愛らしく首を傾げるアリス。
「うん。なんか流れでそうなっちゃったみたいで・・・」
対するヴィストリアはげんなりした表情で告げる。
『ヴィスティは、決闘・・・いや?』
「そりゃやらなくて済むならそれが一番だけど・・・」
カキカキ…
『・・・・・・私が代わる?』
「え?でも・・・」
「キミたちいい加減にしたまえっ!」
ギーシュが怒りに任せて杖を振るう。ボコリと音がして青銅のゴーレムが地面から生えた。
『あれくらいなら、平気。ヴィスティは休んでて。すぐに終わるから』
「え?いや・・・でも・・・」
「僕はどちらでもいいさ。ただキミたちは僕を怒らせた!女性だからといって手加減はできないからそのつもりでいたまえっ!」
『構わない。すぐに終わらせる・・・』
両者構える。
が、『・・・ごめん。少し待ってほしい』と、突然アリスからタイムが入る。
その様子に、フフンと髪を払いながら余裕の態度を見せ始めるギーシュ。
「どうしたんだね?まさか、降参とでも言うつもりかい?」
『そんなつもりはない。ただ少し席を外したい』
「ふん?逃げるつもりか?」
『そんなつもりはない。すぐに戻る』
一体どこへ行こうと言うのか?話しながらもゆっくりとヴィストリアの方に近づいていくアリス。
「すぐに?ふん。武器でも取りに行く気かね?」
『違う。さっきヴィスティに抱き着いたせい・・・』
ヴィストリアに抱きついたのが原因で一時的にでもここを離れなければならない理由が判らずに、ギーシュやヴィストリアだけでなく、周りの観衆達も首を傾げる。
「・・・?」
「え?僕?」
が、そんな周りの反応などお構いなしに、彼女はとんでもない事を書き連ねる。
『下着が濡れて気持ち悪い。あと冷たくて感じちゃう・・・』
「んなっ!?//////」
「ちょっ!?アリス!公衆の面前でなんて事書いてるの!?//////」
公衆の面前で恥ずかしげもなく今の状況を暴露するアリスにあたふたし出す2人。
『ヴィスティ責任とってほしい・・・』
「責任!?」
『身体が火照ってしかたない。鎮めてほしい』
「だからなんて事書いてるのさっ!」
周囲を見てみると、何人かは顔を真っ赤にしている。しかも数人ではあるが、前屈みになっている男子もちらほら居る。
『・・・?だから鎮めてほしい。あなたの指と舌で私の胸とあそこを愛撫して・・・』
「ストーーーーーーーーップ!!!!公衆の面前でホントなんてこと書いてるの!?」
『なにも合体までなんて贅沢は言わない。けれどその分までヴィスティの指と舌で愛して・・・』
「お願いだからアリスちょっと自重してーーーーーーっ!!!!」
一切の羞恥を見せずに淡々とヴィストリアに要求を書き綴るアリスに、あたふたしながらもとりあえずスケッチブックを取り上げる事で止めた。
彼の不運は、妹のアリスが・・・思春期だった事であろう。始まる前からクライマックスレベルである。
と、思いきや・・・相手が変更された!?