残念!
ギーシュの寿命は次以降に延びました。
別にそのまま保健室で寝ていても良かったのだが、いつも迷惑かけているので今回は戻る事にしたのだ。
「ここが私の部屋よ。どうぞ?」
木製の扉を押し開き、ヴィストリアに室内へ入るように進めるルイズ。
12畳ほどの広めの部屋には・・・シンプルなベッドとクローゼットにタンス、鏡台、丸いテーブルに、椅子が三つ。広くて丸いテーブルがある以外はごくごく普通の部屋だと思われる。
「特に、これと言って何かあるわけじゃないけど・・・」
「そうかな?シンプルで良いと思うよ」
「ありがと。さ、もう遅いし、早く寝ましょ?」
「だね。申し訳ないんだけど、毛布を一枚貸してくれる?」
早速寝ようと言う事で、毛布を一枚借りようと訪ねるヴィストリア。
見ての通り、この部屋にはベッドが一つしかないのだ。彼の配慮は当然の事だろうと思える。
「毛布?」
「風邪をひくことはないとは思うんだけど、一応ね?」
「・・・?ヴィスティ、どこで寝るつもり?」
「え?その辺?」
ヴィストリアは原作で初期の才人が寝ていたであろう鏡台の横の壁を指差す。
「・・・なんで?」
「え?なんでって・・・一応使い魔だから同じ部屋にいたほうが良いかなって思ったんだけど?」
「そうじゃなくて、なんでそんな所で?」
「えっと・・・?」
何を言っているの?とばかりに首を傾げるルイズに同じく首を傾げるヴィストリア。二人の話には何かが噛み合っていない様だ。
「ベッドで寝れば良いでしょ?」
「・・・?あれ?じゃあルイズさんはどうするの?」
「え?そりゃ私もベッドで寝るけど?」
ルイズは自分が何を言っているのか分かっていないのだろうか?若い男女が、1つのベッドで、就寝を共にするという爆弾発言をしていると言う事に。
「・・・??僕は?」
「だから一緒に寝れば良いじゃない」
再び何を言ってるの?当然でしょ。とでも言いたげにヴィストリアを見るルイズ。
「えっと、女の子と一緒のベッドに入るのはちょっと・・・。僕なら、毛布さえ貸してもらえれば床で大丈夫だし」
「本当に大丈夫?」
「うん。平気。」
「・・・本当に?」
「慣れてるし」
話が平行線になる前に半ば押し切る感じでルイズから毛布を受け取り、身体を包んで壁に背を預けて腰かけるヴィストリアだった。
「寝苦しかったらベッド入ってきて良いからね?」
「あはは。ありがとうルイズさん」
軽く苦笑して毛布に包まるヴィストリア。まぁ、彼は見た目はともかくとして、中身は人間とは常軌を逸する頑丈な肉体なので、そうそう風邪などひく筈もないのだ。
「それじゃお休み、ヴィスティ」
「お休みなさい。ルイズさん」
――――翌日早朝――――
珍しく早めにルイズが起きだして、寝ぼけ目を軽く擦ってからヴィストリアの方を見る。
「結局ベッドには来なかったのね」
少し苦笑しながら毛布に包まれて眠るヴィストリアを眺める。ふわふわの毛布が気持ちいいのか「にへへ・・・」と、あどけない顔を毛布に埋める。
それを見てルイズは・・・
「これで本当に魔王なんて・・・ね。どう見ても小動物にしか見えないわよ」
げんなりしつつもヴィストリアの寝顔に癒されるのだった。
そこへ・・・コンコン。ガチャ・・・。
短いノックの音が響き、扉が開けられる。
「おはようルイ、ズ?」
いつものようにキュルケがルイズを起こしに入室してきた。そうして彼女の目に写ったのは、床で眠るヴィストリア。
そのヴィストリアを見ながらニヤニヤするルイズ。
「あ、おはようキュルケさん」
入ってきたキュルケに挨拶を返す。が、キュルケの様子がおかしい。フルフルと肩を震わせ、眉にシワが寄る。
「ルイズ!あんたってば、どんな性癖してるのっ!?」
と、朝っぱらからとんでもない事を叫ぶキュルケ。
「ふえ!?」
突然の事にどう反応していいのか分からずルイズはパニックに陥る。
辺り前だ。朝の挨拶を返した途端に、変態と言われている様なものなのだから・・・。
「いたいけな男の子を毛布一つで転がして、そのあどけない寝顔を見ながらニヤニヤするなんてどれだけマニアックなのよあなたっ!?」
「な、なんの話ですか!?」
いきなり今の現状を口頭で伝えられ、それが変な性癖と言われた事に寝起きで回転の悪い思考回路のルイズには理解不能である。
「そんなのあたしの知ってるルイズじゃないわよっ!」
「ちょっと落ち着いてキュルケさんっ!」
とりあえず落ち着かせようとするが、当のキュルケがルイズの肩を掴んで揺さぶるので気分が悪くなり、徐々に顔を青く染める。
「あたしの知ってるルイズはもっと純粋無垢で、真っ白で天然ボケでぽややんとしてて・・・ポンコツな可愛い女の子なのよ!?」
「私、今までキュルケさんにそんな風に思われてたの!?」
なんとかキュルケの拘束から逃れて息を整えていると、まさか自分がポンコツ扱いされていると知ってしまい、軽く絶望した。
「あぁ、どうしたらいいのよ・・・こんなポンコツじゃない内容じゃ、タバサに話して一緒に笑えないじゃない・・・!」
「ポンコツな内容だったら話してるの!?たまにタバサと出合い頭に笑われると思ったらそれが原因!?」
しかもそれをよりによってタバサとの話のタネにされていたとは思いもよらなかった。
その時、ふわふわの毛布がヴィストリアの鼻を擽り「・・・くしゅんっ!」と、くしゃみを一つ。
「風邪引いたらどうするの!?」
キュルケは更にヒートアップしてルイズに説教を始める。
「ち、違うの!キュルケさん!誤解なの!」
「なにが誤解よ!?現に彼、冷たい床で寒さに震えてるじゃないっ!」
「私、昨日ちゃんと一緒のベッドに寝るように言ったのっ!」
頭に血が上っているキュルケに更なる爆弾を自ら落とすルイズ。
「知り合ったばかりの殿方と一緒のベッドに入るなんてあなたどれだけ淫乱なのよ!?」
「私にどうしろと!?それにそんな邪な感情なんてもってないもん!」
人を淫乱扱いしておいてこちらの話はまともに取り合わず、現状だけを見て説教するキュルケ。
「でも現に彼は床で寝てるじゃない!」
「そ、それは彼が・・・」
「『お願いします』って言った所、あなたが『あんたなんか床で十分よっ!その辺で勝手に寝てなさいっ!』って言ったのね!?」
「キュルケさんの中で私、どれだけ悪女だって思われてるの!?」
まさかの悪女発言に必死に弁明するルイズ。しかし、益々妄想が暴走していくキュルケ。彼女の暴走は止まりそうもない。
そんな時・・・「んみゅう?」と、可愛らしい声を出しながら目を覚ますヴィストリア。
どうやら二人の叫び声で起きてしまったらしい。
ヴィストリアが起きたので、キュルケに状況説明。
「と、言う訳で、僕が自分から進言したんです。」
「あら、そうだったの。ごめんなさいルイズ。私ってば早とちりしちゃったみたいで・・・」
「いえ、私も、誤解されても仕方ない状況だったし・・・」
頬に手を当てて恥ずかしいとばかりに謝るキュルケ。それに対してルイズも気にしていないと返すと・・・きゅる~~ヴィストリアの方から可愛らしい音が聞こえた。
「あ、あう//////」
「くすっ・・・お腹空いたの?」
ルイズがヴィストリアの反応を見てクスリと笑う。魔王としての威厳なんて微塵も感じられない。
「あ、その・・・よく考えたら、昨日から何も食べてなくて・・・////」
「そう言えば、私もね」
召喚した時から気絶していたルイズと召喚された時から気絶していたヴィストリア・・・ある意味お似合いかもしれない。
「それじゃ、タバサの部屋に寄ってから食堂に行きましょ?」
「はい。」
「わかりました」
キュルケの提案に素直に従う二人だった。途中、タバサと合流してから食堂に着いた四人。
ハリー・〇ッターに出てくる食堂と変わらない光景が目に映った。
「ひ、広いね・・・」
「三百数人くらいいるから、この位広くしないと入りきらないのよ。きっと・・・」
と、ヴィストリアの問いに憶測を交えながらルイズが答えた。
「ヴィスティは私の隣ね?」
「あ、はい。」
「おい!そこは僕の席だぞ!平民が軽々しく・・・す、わる・・・な?」
金髪の少年が座ろうとしているヴィストリアをみて叫ぶが、ヴィストリアの顔を見て固まった。
ルイズが言っていた通り、ヴィストリアは美少年だ。しかし、その顔立ちからよく美少女に間違われる。
そして、金髪少年はヴィストリアを見て頬を赤く染めていたのだ。
「あ、すいません。今どきます。」
そう言って、軽く頭を下げてから立ちあがろうとするヴィストリア。
「大丈夫よ。昨日の内に私が知らせておいて、席を増やしてもらってるから」
そう言ったのはキュルケだ。彼女は気絶したルイズの代わりに、使い魔の申請を行っていたのだ。
ヴィストリアが人であると言う事を知っているので、ルイズならそうするだろうと当たりをつけたキュルケが前もって伝え、席を増やして貰ったのだ。
「だから、心配しなくても大丈夫よ。
「お、おと、こ・・・?」
金髪少年はヴィストリアを再び見て絶句した。自分は、今、男の子に、ときめいてしまった事によるショックだ。
「僕の純情を踏みにじったなああああああああああ!?!?」
「うえ!?いきなり何ですか!?」
金髪少年・・・もとい、ギーシュ・ド・グラモンはヴィストリアに怒鳴った。
ギーシュは俗に言うナルシストだ。女子からの人気はそれなりにだがある。だが、彼は勝手に勘違いをして勝手にときめいて、自分勝手に怒鳴ってきた。
自己中心的にも程がある。
「キミは僕を怒らせた!決闘だ!!」
「止めときなさいよギーシュ。貴方じゃ逆立ちしたってヴィスティには勝てないから」
「勝ち負けは兎も角、なんで決闘になるのよ」
「・・・筋力、学力、容姿に自信がないから魔法でねじ伏せようとする」
と、ギーシュの叫びに上からルイズ・キュルケ・タバサの順で呟く。三人とも、ギーシュを白い眼で見る。
「弱い男の醜い悪あがき・・・」
どギツイ言葉でギーシュに毒を吐くタバサ。ギーシュは真っ赤になってヴィストリアに薔薇の造花を向ける。
「もう許さん!!キミ!僕と決闘だ!そして、僕の純情を踏みにじった事を後悔させてやる!」
「いや、だから何の事ですか!?話がまったく見えないんですけど!?」
「どこまでも惚ける気かっ!ふんっ!まぁいい!ヴェストリの広場で待っている!逃げようなどと思うなよっ!?」
そう言って、ギーシュはヴィストリアの返事も聞かずにヴェストリの広場へと向かった。
そんなギーシュに対してヴィストリアは「僕にどうしろと・・・」と、ため息をついたのだった。
ギーシュの姿が見えなくなると、ルイズがその場を仕切り直そうと切り替える。
「まぁ、とりあえず・・・今はギーシュの事は放っておいて、朝食にしましょう。決闘を受ける受けないにしても、お腹が空いてちゃ何もできないし」
と、ルイズの言に従い、4人は朝食をおいしく頂いた。
因みに、タバサはその小さな体のどこに入るのかが不思議だが残さず全てたいらげ、キュルケの方は極力残さないようにはしているが、腹八分目で抑えている。
ただし、残すと言っても食いかけを残す様な事せず、食べる分だけとりわけ残りをタバサに献上していた。
ルイズとヴィストリアは・・・ルイズの方は体に見合った分しか食べないので、いつも半分程残ってしまう。
その為、ルイズとヴィストリアでキッチリ半分ずつ分けて食べた。
椅子は増えていたが、食事の用意は間に合わなかったので都合が良かったとも言える。
その頃・・・ギーシュは1人、ヴェストリの広場で待ちぼうけを食らっているのだった。
ケティ?モンモン?シエスタ?
そんなの関係ないという決闘前。