優しき闇の使い魔   作:孝&誠

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以前、小説家になろうの方で掲載していた物です。

今現在はTITAMIでも載せてます。

つたない物ではありますが、楽しんでいただければ幸いです。


プロローグ 少年編

 とある一室。

 

 地下にあるこの部屋には窓がない。

小さな照明しか点けていない現在、この部屋はぼんやりと薄暗い雰囲気を纏っていた。

 

 部屋には様々な物が置かれている。

 

 ボルトやナット、作りかけの電子基盤、数多の配線の切れ端、文庫本に小説、どこかのお土産らしきキーホルダーや御守り、巨大すぎるコンピューター。

 

 

 統一感はなく、それでも汚らしくない程度には整理されていた。

 

 その部屋の隅に置かれたベット。

 

そのベッドの上に人影が一つ。

 

 黒い絹のような長髪を纏めず、ベッドに広げているそれは16・7歳程の少年だろうか。

 

目を閉じたようにして仰向けに寝転がるその少年はまだ幼さの残る。

 

 彼の顔は格好良いと言うより、可愛い部類に入るだろう。

 

美少年ではなく、美少女の可愛さではあるが。

 

「・・・はぁ~」

 

 ため息一つ。

 

物憂げなその表情はゾクゾクするほどに扇情的である。

 

「・・・どうしよう?」

 

 深い悩みを感じさせるその表情。

 

だが実際は・・・

 

「暇・・・」

 

なだけである。

 

「・・・ん」

 

 手を伸ばして頭上に。

 

雑多な物の中に手を突っ込み、目的の物を探す。

 

・・・発見。

 

 それは黒いネコ耳のついたカチューシャ。

 

それを頭に着ける。

 

「・・・にゃぁ・・・」

 

鳴いてみる。

 

「・・・・・・はぁ」

 

 外す。どうやら飽きたらしい。

 

彼は本当にこれで暇が潰せると思ったのだろうか・・・。

 

 

 優しき闇の使い魔 プロローグ少年編

 

 

 この暇そうで挙動不審な少年はヴィストリア。

 

 何を隠そう魔王(まおう)である。

 

しかも最高位に限りなく近い魔王である。

 

 ベッドにうつ伏せになり目を細めてタレさせ、猫の鳴き声を吐き、凄まじくだらけきった彼だが・・・魔王なのである。

 

 全世界の悪魔信者に謝罪をさせたくなるほど、その彼の様子は癒されるものであった。

 

 この光景を見れば悪魔信者の大半が脱退するだろう。

 

『いくらなんでもだらけすぎだよヴィスティ』

 

 突然聞こえた女性の声に驚く様子のないヴィストリア。

 

声の出元である腕に目を向ける。手首に填められた銀色に光る金属製の環。

 

 銀色の輪に緑色の宝石がついている。

 

銀色の腕輪部分には精巧な彫刻が施してあり、半端な芸術品などとは比べものにならないくらい美しい。

 

 これは、とある魔法で魔砲な少女が出てくるアニメを参考にして作った“人工知能搭載型可変式魔術補助機構兵器”・・・通称デバイス。

 

 名前はツヴァイ。

 

ドイツ語で2を表す。

 

 そんな彼女をツンツンとつつきながらヴィストリアはゴロリと寝返りをうつ。

 

「そんなこと言ってもさぁ〜。こうも暇だとなにをして良いのか判らないんだってば〜」

 

 くあぁぁ〜。と欠伸を一つ。

 

『寝れば?』

 

 そんな暇そうな主人である少年にツヴァイはボソリとアドバイス。

 

「二ヶ月くらい寝た」

 

寝すぎである。

 

『読書とか?』

「読みたいのはだいたい読んじゃったし・・・」

 

『二次小説とかは?』

「みんな似たようなのばかりだからねぇ・・・」

 

 身も蓋もない返しである。

 

『もう、文句ばっかり・・・』

「うーん・・・いっそ自分で作る?」

 

 暇すぎて仕方ないのか自分で作ってしまおうと言う考えに至る。

 

『・・・はい?』

「よし、じゃあやってみよう。まずは設定だね・・・」

 

『まぁやるっていうなら文句はいわないけど・・・』

 

 ご主人がそう言うのならやらせてみる事にして、傍観するツヴァイ。

 

「題材はありがちだけど“ゼロの使い魔”で」

『うんうん』

 

「で、斬新さを目指すために・・・」

『目指すために?』

 

「主要メンバーを出さない」

『えぇ!?』

 

 タメを作って何を言い出すかと思えば題材にか関わらざるを得ない主要人物をバッサリと投げ捨てる。

 

「そして主人公はモートソグニル」

『それって学院長の使い魔だよねぇ!?あのネズミだよねぇ!?』

 

 まさかのエロ爺の使い魔ネズミが主人公とは、誰も予想できないと思ったツヴァイはご主人にツッコミを入れる。

 

「そしてそのモートソグニル、作品開始から3行で死ぬ」

『いきなり!?』

 

「さらにモートソグニル、異世界に転生」

『もはや“ゼロの使い魔”関係ないよねぇっ!』

 

 序盤からいきなりタイトル詐欺も甚だしい。

 

「さらに異世界編1行でモートソグニルまた死ぬ」

『さらにあっという間に死んじゃってるよ!?』

 

「そして“ゼロの使い魔”の世界にまた転生」

『なんのために異世界行ったの!?』

 

 彼はあのネズミに何をさせたいのだろうか?

 

「そして残念なことにこの世界でもまた死ぬ」

『モートソグニルどれだけ貧弱なの!?なんで貧弱なのにすぐ死ぬような危険なことするの!?可哀想すぎるよ!』

 

「死ぬ原因は女性のスカートを覗こうとして失敗したから」

『一気に同情心が無くなったよっ!』

 

 所詮はエロ爺の使い魔、やってる事はどこでも変わらない。

 

「そしてここまでがモートソグニルが主人公の話」

『モートソグニル死んでる話しかなかったよねぇ!?』

 

「そしてここからようやくルイズの登場」

『主要メンバー出さないんじゃなかったの!?』

 

 どこかご主人のやる気がどんどん消え失せている様な気がしてきたと予想するツヴァイ。しかし、ツッコミを止める事が出来ない。

 

「ん・・・なんか出しても良いような気がしてきたから」

『スッゴく適当ねぇ!?』

 

「で、ルイズが使い魔召喚」

『なんかあっさり流された!』

 

「そこでフリー〇ムガ〇ダムを召喚する」

『最強じゃないっ!つーか伏せ字の意味無いよねそれ!?』

 

 某スーパーにコーディネイトされた人類の彼も一緒に来ていれば彼の世界では無双であろうことが容易に想像が出来てしまう。

 

「だけど操縦方法がわからなくて使えない」

『いきなりリアルね!』

 

「そしてフリ〇ダム〇ン〇ムを取られたキラ・ヤ〇トが怒ってスト〇イクフ〇ーダムに乗ってハルケギニアを襲撃する」

『なんか世界滅亡の危機なんですけど!?』

 

「そしてキラは料理長のマルトーさんと色々あってトリステインの王になる」

『マルトーさんなにしたの!?』

 

 一体あの料理長にどんな設定を施したのか気になって仕方が無い。

 

「そして更にマルトーさんと色々あってキラ・ヤ〇トは世界を統一する」

『だからマルトーさんなにしたの!?』

 

「さらにさらにマルトーさんが頑張って、ガリアのジョゼフ王が女になって・・・」

『頑張ると性別まで変わるの!?』

 

「最後にキラ・ヤ〇トがマルトーさんを正妻に迎えてハッピーエンド」

『マルトーさん男だよねぇ!?それにルイズがいつの間にかいなくなってるし!』

 

 何をどう頑張ればあの料理長の性別が変わるのだろう。というかあの料理長は既に既婚者で娘もいた筈だ。

 

「あぁ。ルイズは途中で死ぬから」

『そんな重要なファクター抜かさないでよ!』

 

「まぁこれもマルトーさんが関わってるんだけどね」

『だからマルトーさん何者なの!?』

 

 ご主人はあの料理長をどうしたいのだろうとより一層ツッコミを激しくしていくが、答えてくれるはずもなかった

 

「実はマルトーさんは始祖ブリミルの生まれ変わり・・・」

『そうなの!?』

 

「・・・が生まれた病院で薬を貰ったことのある患者」

『すっごい他人じゃない!』

 

 ここまで引っ張っておいてどうでもいい設定だった。

 

「・・・よく考えたらこれ物語にするの無理じゃない?」

『よく考えなくても普通に無理ですけどねぇっ!』

 

 荒唐無稽、支離滅裂の物語はツヴァイによって却下を下されるのだった。

 

「ふむ・・・」

 

 そしてふと思う。

 

「しりとりしよっか」

『唐突すぎるよっ!せめて脈絡とかが欲しいよ!』

 

「脈絡って・・・暇だと言えばしりとり、でしょ?世界の常識だよ?7×7の答えは41だって言うくらい常識でしょ?」

『7×7は49だよっ!』

 

「あれ?7×6が41だったっけ?」

『それは42!っていうか41になるような掛け算はないよっ!』

 

 今時九九も分からない様な人物が魔王の地位に就いていていいのだろうかと、心底この魔界の将来が心配になって来てしまう。

 

「甘いよツヴァイ!なんと82×1/2は41なんだよ!」

『なんの話!?なんで掛け算の計算式について私たちこんなに熱く語ってるの!?』

 

「それはもうオーストラリアのカンガルーたちの食糧問題のために」

『41にする掛け算がどう食糧問題に繋がるのかまったく判らないよっ!』

 

「判る人には判るんだって」

『判る人に会ってみたいよ!』

 

 それでカンガルーが救えるのなら最初から食糧問題なんてモノにならない気がする。

 

「ちなみに僕も判らない派だから」

『ヴィスティー!!』

 

「さて。41に関して納得してもらったところでしりとりしよっか」

『何一つ納得してないけどねっ!?』

 

 そもそも、この魔王少年は納得させるつもりもないのだろう。恐らくツヴァイで暇つぶしをするのが目的になってしまったようだ。

 

「じゃあツヴァイからね」

『あぁマイペース!』

 

「じゃあカンガルーの“ー”からね」

『私にどうしろと!?』

 

 何処の世界にしりとりの最初の一文字目を”ー”にする人物が居るのだろうか。

 

「乗るなら早くしろ、でなければ帰れ」

『紫の人型汎用兵器ネタを言われても私にはどうしようもないよっ!』

 

「はぁ・・・判ったよ。なら“を”からでいいよ」

『なんで“妥協しました”って雰囲気なの!?“を”から始まる言葉なんて私、知らないよっ!』

 

「はぁ・・・全然駄目だねツヴァイって」

『あぁ!なんか呆れられてる!?スッゴく理不尽だよ!そんなに言うならヴィスティからやってよ!お題は“を”で!』

 

「をことてん」

 

 タイムラグ無しで答える魔王少年。九九も忘れているのにどうしてそんな知識はあるのだろうか。

 

『をこ・・・え?なにそれ?』

「をことてん。漢字で書くと“乎古止点”意味は、漢文訓読のために、漢字の四隅・上下などにつけて、漢字の読み方を示した点や線などの符号のことだよ」

 

『知らないよそんなのっ!』

「だからツヴァイは駄目駄目なんだよ」

 

『なんか凄い悔しいっ!っていうか自信満々に言ってるけど“をことてん”って最後“ん”だよ!』

「だね。次ツヴァイは“ん”からだよ?」

 

 一発でしりとりを終わらせるのは最初からやる気が無いのではなかろうか。

 

『終わってるから!“ん”が出た時点でしりとり終わりだから!』

「はぁ・・・そんなだからツヴァイは駄バイスって言われるんだよ」

 

『そんなこと言われたの初めてですけどねぇ!』

「いいかいツヴァイ・・・いや。ここはあえて本名である駄バイスと呼ぼう」

 

『ツヴァイって名前の方が渾名っぽく言うの止めてよ!』

「いいから聞くんだ。僕は過去に言ったはずだ」

 

『な、なにを・・・』

 

 ゴクリ・・・と、無駄にハイテクな機能で生唾を飲む効果音を出すツヴァイ。

 

「駄バイス、と」

『数秒前の過去ですねぇ!そしてなにを伝えたいのかまったく判らないし!』

 

「あぁもういいよ。じゃあ今回は僕が負けってことにしておくよ」

『だからなんで“妥協しました”って雰囲気なの!?私、凄くいたたまれないよっ!』

 

 本当になんでこんな無邪気?な少年が魔王になってしまったのだろうか。威厳のいの字も感じられない。

 

「じゃあ次はツヴァイからね」

『判りましたよもう・・・えっと、なら理科』

 

「ふむ・・・。“猟奇殺人”の“り”からね。ひょっとしてツヴァイって血に餓えてる?」

『普通に“しりとり”の“り”だよ!私、どれだけ危険な存在だと思われてるの!?』

 

 まさか自分のご主人から危険指定されているとは思いもよらなかっただろう。

 

「とりあえず核弾頭並には・・・」

『メチャクチャ危険じゃない!』

 

「ま、まさか・・・自覚ないとでも言うつもり?」

『なんでそんなに驚くの!?私の存在ってそんなに危険!?』

 

「そんなに必死に否定して・・・。初めての読者に人畜無害さを主張したいのは判るけど、嘘は良くないと思う」

『メタな発言止めてよっ!?』

 

 ここに来てメタ発言までしてくるご主人にもはやあいた口が塞がらない状態である。

 

「いくら取り繕ったってどうせすぐにボロが出るのに」

『どうしても私を危険な存在にしたいの!?』

 

「そりゃツヴァイ、今まで幾つの惑星を潰したと思ってるの?」

『してないよ!』

 

「・・・・・・」

『え?なに?ジト目止めてよ!してないってば!』

 

「・・・・・・」

『し、してない!嘘じゃないよっ!』

 

 しても居ない事で責められる云われはないと言うのにジト目を止めないご主人に泣きそうになってくる。

 

「まぁそれは今話すことじゃないし」

『流さないで!私、危険じゃないもんっ!』

 

「えっと・・・“か”だよね。なら、解体」

『せめて訂正してから続けてぇっ!』

 

「あぁはいはい。ツヴァイは危険な存在じゃないですね〜」

『なんかスッゴく投げやりなんですけど!?』

 

 まるで自分の事をどうでもいい様なぞんざいな扱いに本気で泣きたくなってくるツヴァイであった。

 

「いいから続けるよ。次は“い”で」

『うぅ・・・。私、危険じゃないのにぃ・・・い・・・えと、椅子』

 

「スクラップ」

『ぷ、プリントクラブ』

 

「ぶっ壊す」

『え、えと・・・す、数字』

 

「自爆」

『ヴィスティひょっとして私のこと嫌い!?っていうか今までの発言からして絶対私のこと嫌いだよねぇっ!』

 

 先程からツヴァイにとって不穏すぎる単語に戦慄と恐怖がぼこぼこと沸き出してくる。

 

「唐突にどうしたの?」

『さっきから凄く物騒なこと言われてるんだけど!』

 

「例えば?」

『さっきのしりとり全部!なんで心当たりないって感じなの!?』

 

「いや、そんなこと言われても・・・」

『“解体”とか“スクラップ”とか“ぶっ壊す”とか“自爆”とか!』

 

「いや、ふと頭に出てきて…」

『こんな単語がふと出てくるヴィスティの方が私なんかよりよっぽど危険なように思うんだけど!?』

 

 まったくもってツヴァイの言うとおりである。

 

「いや。あの単語はツヴァイを見てたから出てきた単語で・・・」

『私なにげに解体の危機!?』

 

「大丈夫。ちょっと落ち着きなよ」

『今までの会話のどこに落ち着ける要素があるの!?』

 

「少なくとも僕はツヴァイを解体する気なんか全くないから」

『どの口が言いますか!私のこと危険だとか言ったり!私にとってのデスワードをポンポン出したり!私なにかヴィスティに嫌われることした!?なんで私こんなにヴィスティに嫌われて・・・っ!?』

 

・・・チュッ

 

 喚くツヴァイの宝石部分にそっと口付ける。

 

優しく唇を触れさせ軽く吸い、最後に舌で軽く舐めて唇を離す。

 

『・・・・・・・・・ゑ?』

 

 ツヴァイの喚きが止まる。止まらざるを得ない。

 

「にはは」

 

・・・チュッ

 

再び。

 

『な、ななななななっ!?』

「・・・ん」

 

・・・チュッ

 

三度。

 

『なななな、なにやってるのヴィスティ!?』

「キス」

 

 あっさりと自身の行為に何の恥もないと胸を張って返す。

 

『キスってそんなアッサリ!?』

「好きな相手にはキスをしたくなるって本に書いてあったから」

 

『あぁもう!たまに私、ヴィスティが判らなくなるよ!』

「ふむ・・・なら旅に出よう」

 

『だから唐突だってば!脈絡ってものを知らないの!?ってなんでもう用意してるの?』

「善は急げってね」

 

『もうやだこのご主人』

「持って行く物は〜っと・・・」

 

『お財布と、あぁ・・・やっぱりその本も持って行くんだ?』

「当然。この本は僕の集大成だからね」

 

『ヴィストリア全巻。全巻って割に一巻しか無いのよね・・・』

「あとは武器だけど・・・ツヴァイがいるから大丈夫だよね?」

 

 持ち主を補助する端末なだけあって、ツヴァイは武器の代わりになるらしい。

 

『一応アインも連れて行ったら?』

「ん。了解。んじゃ出発・・・ってあれ?」

 

 いきなり魔王少年の右足が沈んだ。

 

目を向けると地面には”銀色の鏡”。

 

そこに右足がめり込んでいた。

 

「えっと・・・」

『召喚門・・・みたい』

 

「あれ?」

 

 きょとんとした声を残し、魔王少年=ヴィストリアは鏡に吸い込まれた。

 

 というか・・・魔王が魔界から居なくなるのは一大事ではないだろうか?




地の文がもしかしたらクドイかなぁと・・・

ご指摘などがあれば遠慮なくお願いします。

自分、文才はほぼ無いので。

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