優しき闇の使い魔   作:孝&誠

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今回もある意味決闘?

ヴィストリアの力の一端が・・・


第八話

――――ヴェストリの広場――――

 

『ヴィスティ、勝った。』

 

 サラサラとスケブに書き込んで見せるアリス。

 

当然、後頭部を強打して意識が朦朧としているギーシュには目もくれない。

 

 トコトコと小走りでヴィストリアに走り寄っていくアリス。

 

「うん。見てたよ。怪我は無い?アリ「ドンッ!!」・・・ス?」

 

 小走りで近寄ってきたアリスを、ヴィストリアが受け止める。

しかし、それと同時にアリスの後方に居たギーシュが吹き飛ばされた。

 

「・・・・・・え?」

 

 一瞬、ヴィストリアには何が起きたか判らなかった。

 

近寄ってきたアリス。いつもの様に抱きついて頬ずりしてきた可愛い妹。

 

・・・そこまでは良い。

 

 その後方に視線を向けると、ギーシュがぐったりと倒れている。

 

よく見ると、額から少量ではあるが血を流している。

 

「大変!?」

 

 そう言って、ルイズは急いでギーシュに走り寄った。

決闘になった発端はギーシュであるが、クラスメイトを放っておける程、ルイズは非情ではなかった。

 

 タバサや近くの水系統のメイジを呼んで応急処置ではあるが治癒の魔法を掛けさせる。

しかし、ショックが大きいのか?ヴィストリアは未だに茫然とギーシュを眺めているだけだった。

 

「・・・呆れるね。ドットとは言え、メイジである貴族が平民に負けるなど・・・所詮、ドットなどこの程度か・・・ふふ。」

 

 ヴィストリアの背後・・・と言っても数メートル程の距離はあるが、それに反応したヴィストリアは、ゆっくりと振り向く。

 

「全く、ギーシュには困ったものだな。平民にやられるなんて、メイジの面汚しだ。このまま眠らせてやろう。」

 

 そこに居たのは、ギーシュを見下したような視線を向ける少年だった。

 

「・・・・・・君は、誰?」

「なんだね?平民が気安く貴族の僕に話しかけるな。分を弁えろ。・・・だがまぁいい、教えてやろう。僕はヴィリエ。ヴィリエ・ド・ロレーヌ。風のラインメイジだ。風の槌(エア・ハンマー)!」

 

 ヴィストリアを平民と決めつけ、見下すような仕草で話し出す。

そして、名乗りと同時にギーシュに向けて再び”風の槌”を放った。

 

「危ない!?」

 

 バッ!とルイズがギーシュを庇うように前に立ち、両手を広げた。

 

 パァンッ!!

 

 しかし、それがルイズに届く事は無かった。

 

何故なら、ルイズに届く前に彼女の更に前に立ったヴィストリアが風の槌を打ち払ったからだ。

その証拠に、恐らくヴィストリアは右手の裏拳で弾いたか、振り払った様な状態で止めているからだ。

 

「・・・今みたいに、君が・・・やったの?」

 

 俯いて表情が見えないヴィストリアは、抑揚のない声でヴィリエに問う。

 

「・・・あぁ、その小娘諸共片付けてやろうと思ったけどね。平民に負けたんだ。生き恥を曝す位ならいっそのこと・・・その方がギーシュも本望だろうからね。」

 

 癪に障る言い方で何を当たり前のことを?と言うように返すヴィリエ。

 

「・・・・・・ない」

「はぁ?何だね?言いたい事があるならハッキリ言いたまえよ平民。」

「・・・さない・・・許さない。クラスメイトに攻撃するなんて、どう言うつもり!?」

 

 少しずつ、怒気を孕む声で口を開くヴィストリア。

 

「ほぉ、ギーシュを庇うのか?・・・平民の癖に、自ら貴族の盾になるとは、中々殊勝な心掛けだけど・・・僕と言う貴族に逆らうとは生意気な。許さない?はっ。平民如きが貴族にそんな口を聞いていいと思って「ドゴッ!!」ガホッ!?」

 

 突如ヴィリエの左頬に黒い何かがめり込み、錐もみ回転しながら吹き飛んで行った。

 

ヴィストリアはその場から移動せずに、右の手の平をヴィリエが居た場所に向けているだけだ。

 

「ガッ!おほっ!・・・な、なんだ?・・・今のは、ぐぅっ!?」

 

 突然に走った頬の痛みと、数メートル吹き飛ばされて地面に叩きつけられ、表情が歪むヴィリエ。

 

「・・・貴族なら、何をしてもいいの?」

「ぐ、つぅ・・・ふ、ふん。平民は、貴族の奴隷さ。戦いに出ても、精々が”貴族の盾”位にしかならないデクだ。貴族が平民をどう扱おうと関係ない。平民に負けたメイジなど、それ以下だ!」

「貴族も平民も”同じ命”じゃないか・・・!」

 

 ヴィストリアはヴィリエの言に異議を唱える。

人であろうと、獣であろうと、人外であろうと・・・生きているのなら同じ命と考えるヴィストリアにとって、ヴィリエの発言は許しがたいものであった。

 

「はぁ?同じ?同じ命だと?ふふ、ふはははは!笑えるね!?貴族と平民では重みが違うのだよ!?力のある貴族が、力の無い平民を従える!何の役にも立たない平民など、貴族の弾避けで十分さ!平民に負けたメイジは、貴族を名乗るのもおこがましい面汚しだ!?」

 

 どうやら、ヴィリエは強権主義の様だ。強い者が弱者を従える弱肉強食の考え。

 

「・・・君は、力の無い人達の事を考えた事・・・ある?」

 

 いつも微笑みを絶やさないヴィストリアが、初めて冷たい眼差しをヴィリエに向ける。

 

「何故僕がそんな事を考えなければならない?僕には魔法と言う力がある。そんな仮定は無意味だ!」

 

 だが、ヴィリエはヴィストリアの想いを真っ向から否定し、聞く耳を持たない。

力こそ正義。弱者を退け、強者が笑う。それこそが正しいと思っているのだろう。

 

「・・・そう。なら、僕が教えてあげる・・・”虐げられる側の気持ちを”。」

「ク、ククク・・・くはははははは!!平民が貴族に勝てる訳がない。出来もしない事を「ドガッ!!」グフゥッ!?」

 

 二人の距離は凡そ4メートル。

 

ヴィストリアが再びヴィリエの方に右の手の平を向けると、拳程の黒い塊が、顔に手を当てながら大声で笑い飛ばしていたヴィリエの鳩尾に突き刺さる。

 

 くの字に折れ曲がり、またもや吹き飛ぶヴィリエ。

 

「君は、命の重みは違うと言ったね。・・・違わないよ。どんな生物も”命は一つ”。失えば帰って来ない。命は一つしかないから尊い。だからこそ美しい。だけど・・・」

 

 ヴィストリアは涙を流す。心底残念がる様に、信じたくないというように・・・。

 

「君の心は穢れているね。だから、間違った力の使い方をする」

「ガッ、ガハッ・・・き、貴様・・・な、何を、した!?」

「・・・君がした事と変わらないよ。君が彼に風の魔法をぶつけた様に・・・僕も、闇の魔法(ダーク)をぶつけただけだから」

 

 何でも無いように言うヴィストリアに、ヴィリエはあり得ないと叫ぶ。

 

「ば、馬鹿を言うな!?タダの平民が、杖も無しに魔法などと!?」

「僕達は平民じゃないよ。君が勝手にそう思い込んでいただけ・・・ほら、もう一度・・・ダーク。」

 

 ヴィストリアが一言呪文を唱えると、再び黒い塊がヴィリエを吹き飛ばす。

ヴィリエがエア・ハンマーを唱えるのに1節掛るのに対して、ヴィストリアの呪文はたった一言。

 

 一方的な蹂躙である。

 

「戦いにおいて、強い力は確かに優位に立てる。だけど、その分発動までに時間が掛るのも事実。なら、弱い魔法でも・・・一番無防備な相手の詠唱中に放てば十分驚異だよ。」

 

 一撃で殲滅する戦い方を剛とするなら、ヴィストリアの戦い方は柔。

 

基本的な初級の魔法は威力は低いかもしれないが、速射性に富んでいる。

 

 故に、小技を連発し隙が出た所に大技を放つ。所謂トリッキー型である。

 

”柔よく剛を制す”とはよく言ったものだ。

 

「ぐぅっ!!ゲホッ、ゲホッ!!」

 

 何度も的確に鳩尾を撃たれ、中途半端な威力のせいか気を失う事も出来ず、嘔吐するヴィリエ。

 

「ぐっぞぉ・・・デル・ウィンデ!風の刃(エア・カッター)!!」

 

 呪文を紡ぎ、杖を振り下ろす事で不可視の風の刃をヴィストリアに向けて放つ。

 

「・・・ダーク。」

 

 しかし、ヴィストリアは変わらず同じ魔法で迎え撃つ。

 

ダークは闇系魔法の中で基本中の基本魔法。この世界に置き換えるならば、ドッドスペルだ。

 

対して、エア・カッターは風のラインスペル。

 

通常であるならば、一段階上のラインスペルであるエア・カッターが勝つだろう。

 

そう、通常(・・)ならば・・・。

 

「グハッ!?」

 

 しかし、ヴィストリアのダークはヴィリエのエア・カッターを容易く打ち砕き、然程威力も衰えぬままヴィリエは吹っ飛ばされた。

 

確かに通常ならば下位の技が中位の技に勝てる訳がない。だが、考えても見てほしい。

 

 ゲームで例えるなら、限界まで育て上げた下位の技と、覚えたての中位の技ならどちらが優位か。

 

無論、種類にも寄るが、熟練度の高い技の方が速く、それでいて威力も高い。更に言うならば、術者のスペックにも左右される。

 

 熟練の魔術師と、新米魔術師が同じ魔法を使ったとしよう。どちらが強いかは明白である。

 

片や一撃で一国を消滅させる程の膨大な魔力を持つヴィストリア。

 

片や風のラインメイジとはいえ戦場を知らない、まだまだケツの青い(井の中の蛙)ヴィリエ。

 

 魔王と人間の少年では元々のスペックがケタ違いなのだ。ヴィストリアが競り負ける道理などある訳が無い。

 

「次は、少し強くするよ?闇霧(メガダーク)。」

 

 先程までの闇は拳大の球体だった。しかし、今度の闇はヴィリエをとぐろを巻くように包み込む霧状の闇だった。

 

「ひぃ!?な、なんだこれは!?」

 

 ヴィリエは霧状となった闇を振り払おうとするが、その程度で振り払えるものではなかった。

 

「ゆっくりと、闇に堕としてあげる・・・」

 

 そう言ってヴィストリアがヴィリエに向けた右手の平を、指を曲げて拳を作ろうとして熊手にする。

すると、霧状の闇がヴィリエを拘束し始めた。

 

「ひっ!?」

 

 底知れぬ恐怖にヴィリエの表情が強張る。なんとか打開しようと、まだ動く右手に持った杖をヴィストリアに向ける。

 

「させないよ?」

 

 しかし、ヴィストリアは左の人差し指と中指を立てて軽い動作で十字を描くと、闇の一部が杖を包み込み、一瞬にして杖を消滅させた。

 

「念の為、口も閉じて貰うよ?」

 

 言うや否や、更に右手を握り込む事で小指と薬指を完全に折りたたみ、丁度三本指で硬式ボールを掴む様な形にする。

 

「むー!!むぐーー!!?!」

 

 霧状の闇がヴィリエの口内に侵入し、声が漏れないように口を塞いだ。

恐怖に慄き、ヴィリエは髪を振りみだしながら涙を流す。

 

「チェックメイ「止めてヴィスティ!?」・・・ルイズさん?」

 

 何故止めるの?と言う表情で訳が判らないという目でルイズへ視線を向ける。

 

「それ以上はダメ!それ以上したら、彼が死んじゃんうわ!?」

「・・・?あの、別に命を奪う気は無いんですけど?」

「・・・・・・はえ?」

 

 一部始終を見ていた一同はそうは見えなかったのだろう。信じられないという目でポリポリと頬を掻くヴィストリアを見ている。

 

「ただちょっと、お灸を据える為に”骨の2、3本”を折るつもりだっただけで・・・」

「あ・・・あるぇ?」

 

 ヴィストリアは確かに怒っていた。だが、ヴィリエにお仕置きする為にしているのであって、最初から命を奪う気はさらさらなかった。

 

そもそも、彼は確かに魔王だが、見ての通りこのヴィストリア・・・”魔王のくせに一度も人を殺めた事が無いのである”。あっても精々がモンスターに襲われた時に返り討ちにし、食料にするくらいである。




はい、という訳で・・・ヴィリエには生贄になって貰いました。


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