207日目
ひたすらレベル上げをしました。私はやる事がないのでひたすら暇でした。暇すぎて意味もなく戦闘に参加して無駄に弾を消費しました。隊の平均レベルが120になりました。
具体的には、新人魔法使い隊が基礎魔法であるファイア、アイス、ウィンド、サンダーを習得した。まだまだ魔力値が低いので、カンナが使うものに到底及ばないが、まあそれなりに使えるようになった。
フェンリルはレベルの向上と共に身体能力が著しく向上したんだが、レベルも120を超えるととんでもない事になっていた。普通にジャンプで崖登れたりするっていうね。
食人族は元のレベルが高かったので、レベル160になった現在でも、特に何か変化がある訳ではなかった。強いていうならば、異様に打たれ強くなった程度か。
嫁達については、アンジェが怪力に更なる磨きをかけて、ハンマーを思い切り振る事で謎の魔力を帯びた風を放出出来るようにった。
フェンはその高い身体能力を活かして、目で追えない程の早さで徐々に敵を切り刻んで出血死させるという技を編み出した。
カンナは件の新スキル「呪術の火」で付与する事が出来る呪いの種類が増えたみたいだ。その中でも一番有用なのは対象から生命力を吸い上げるというものだ。
俺の嫁の中でハルを除いて唯一人間で寿命や衰えといった呪縛に囚われていたカンナはとても喜んでいた。曰く「公平に捨てられる可能性が減った……」だそうだ。
確かに戦乙女であるアンジェやフェンリルであるフェンは人と比べて老いたり早死したりといった事はない。だけどそんなに気にしなくてもいいと俺は思うんだけどなあ。まあ女の考えてる事は俺にはわからん。
何はともあれ、こんな感じで隊の戦闘力は上がった。予定では明日一日で、ハウトゥーファンタジーを用いて可能な限り戦闘を避けて竜人族の巣の付近まで行軍し、一日の休養をとった後攻め入る。流石にこんだけ強くなれば大丈夫だろう。
なお、一般兵の成長については割愛させていただく。
208日目
予定通り竜人族の巣の付近まで来た俺達は、いい感じに開けた場所を見つけたので周囲の魔物を根こそぎ倒し、野営地を作った。
その際倒した魔物の中には食べられるやつも多く見られたので、特に美味しい魔物の肉を隊の皆に均等に配った。隊の皆はそれらを鍋にちゃんぽんにして煮たり、焼いたりと思い思いの形で食べている。セルフパーティみたいなもんだ。
「いよいよですね」
物資の入っていた木箱の上に座り、マンガ肉を食べていた俺にフェンが話しかけてきた。その手には2つのグラスがあった。二人でゆっくり話がしたいという時、彼女は必ずグラスを2つ持って俺の元を訪れる。今回もそうなのだろう。
「そうだね。明日、いよいよだ」
フェンが差し出したグラスを受け取りながら俺は言った。中身はブドウジュースだった。
「ええ。ユグドラシルを発ってから明日で一週間。竜人族というのはどういった方達なんでしょうか」
「さあねえ。非常に好戦的だって事くらいしかわからん。フェンリルも割と好戦的な部族だって言われてるけど、そこんとこフェンはどう思ってるの?」
「……私、そんなに好戦的に思われてるんですか? もしそうだとしたら、とても悲しいですわ」
本人は気づいていないのかもしれないけど、戦ってる時のフェンは薄っすらと笑みを浮かべている。その笑みがまたゾッとする程魅力的なんだよな。正直に答えるべきか、うまいことはぐらかすべきか、迷うところだな。
「正直に仰ってください」
そんな俺の考えを見透かすかのようにフェンが追撃してきた。フェンに嘘を言ってもどうせ見破られる。思った通りの事を口に出すか。
「正直に言うと、そう思う。戦闘が始まると率先して向かっていくし、戦い方がなんていうのかな、こう、舞を踊ってるみたいなんだ。そこがまた綺麗というか」
そこまで言って、フェンが着物状の服の袖で顔を覆っているのに気付いた。
「悲しいですわ……。私、旦那様にそんな風に思われてたなんて……」
「ち、ちが! フェン、違うんだ。聞いてくれ!」
俺がフォローを入れようと慌てていると急にフェンが顔を覆っていた袖を下ろした。現れたその顔に涙などなく、代わりに柔らかい笑みがあった。
「ふふ。嘘泣きです」
「ちょ、フェン……。俺マジ焦ったんだからなあ」
「ふふふ。すみません。ちょっとからかってみたくなって」
「勘弁してくれよ、心臓に悪い……。俺てっきりフェンが好戦的なの気にしてるのかと思って焦ったじゃん」
「大丈夫ですよ。私が好戦的なのは私自身が一番理解していますし、そういった感情が向けられるのは獲物だけです。間違っても味方に向けられる事はありませんから、安心してください。それに、私はフェンリルの血を否定していませんから、気にしませんわ」
「それは助かる。フェンが誰かと喧嘩したら間違いなく死人が出るからな」
「そうかもしれませんね」
フェンがグラスを傾け、俺はマンガ肉を噛みちぎった。
「あら、二人だけの時間は終わりみたいですわ。あの娘達が来たみたい」
ふと呟いたフェンの視線を追うと、アンジェとカンナが大量の料理を持ってこっちに来ていた。遠目でも何か言い争っているのがわかるあたり、あの二人は仲がいいんだか悪いんだかわからん。正妻戦争は勘弁してほしいんだがな。
「料理、持ってきましたよ。皆で食べましょう」
「……公平は私の作ったのを食べるのよ。あんたの作ったゴミはその辺の犬にでも食べさせてなさい……」
「失礼な! そういう事を言うあなたにはあげませんよ?」
「……最初から食べる気はないわ」
「お前ら頼むから喧嘩はやめてくれ……」
「ふふふ。仲がいいのはよい事ですわ」
一時の宴。ゆったりと夜が更けていく。