206日目
食人族を味方もとい奴隷にする事に成功した俺達は、彼らの持つ資財を根こそぎ奪って竜人族のいる巣へと向かっていた。
道中の戦闘で試しに食人族を戦わせてみたのだが、分類的に人であるはずの彼らはフェンリルに負けず劣らずの戦闘力を発揮してくれた。やはり住んでいる土地柄、パンピーとは違う生態を持っているのかと思い、ハウトゥーファンタジーで確認してみたら、純粋にレベルが高いだけだった。
奴ら人間のくせしてレベルが平均140もあったのだ。仲間の中で一番レベルが高く、道中の戦闘でレベルが上がっていたはずのフェンリスよりも高い。嬉しい誤算だったが、なんとも複雑な気分だ。まあなんにせよ、食人族のおかげで道中の戦闘が楽になり、隊のレベル上げが楽になったの事実だ。
嬉しい誤算といえば、昨日の騒動でカンナの謎スキルが判明した。「呪術の火」一見すると通常魔法のファイアと違いがないように思えるが、性質は全く別のもののようだ。「呪術の火」であれば通常魔法ファイアでは燃やす事の出来ない物体でも燃やす事が出来、おまけに任意の呪いを付与する事が出来るようだ。今はまだ防御力ダウンだったりのありふれたものしか使えないらしいが、レベルが上がればより汎用性も上がるだろう。
と、ここまでいいことずくめのように感じるが、そう上手くはいかないもんだ。隊の平均レベルが80にまで上がったというのに、道中の魔物のレベルが100を超え始めるという、インフレも真っ青な現象が発生している。おかげで進行は難航している。
進めば進む程魔物のレベルが上がっていく。一体竜人族の連中はどんな人外魔境に住んでるんだ。
「おい、チンキ。竜人族について知ってる事全部吐け」
俺と嫁専用の特製馬車の入り口に包丁片手にもじもじとしている男に話しかけた。
誠にどうでもいいことだが、俺達を解体しようとしていた食人族の包丁男の名前はチンキというらしい。非常に腹立たしい事に、妙に語感のいいその名前を俺は一発で覚えてしまった。だって、チキンに似てるから覚えやすいんだもん。
「そんなの知りませんよお。俺だって空を飛んでるのをチラっと見た事がある程度ですもん。あなたの方が詳しいんじゃないですかあ?」
「役に立たねえ野郎だな。なんも知らんのだったら、戦闘中の隊の援護に行って来い」
「キチィ……」
意味不明な捨て台詞を残してチンキはバカでかい包丁と共に俺様専用の特製馬車から出て行った。
ぐだぐだと一向に進まない展開に少々の苛立ちを覚えた俺は、その辺にあった枕を無造作につかんで、馬車のど真ん中に寝っ転がった。
護衛役のアンジェを残して、嫁達は皆戦闘の支援に行っているからつまらなかった。いや、そんな事を言うのはアンジェに失礼だな。やはり一向に進まない展開につまらなさを覚えて寝っ転がった、という事にしておこう。
「4日経って3分の2しか進めないとは。まさかの展開に口からバナナ出るわ」
「今までで一番苦戦してますね。ハウトゥーファンタジーに何か書いてないんですか?」
「読んでもろくな事書いてないから読むのはやめたのさ」
道中の某って魔物は強いから気をつけろ、どこそこには魔物の巣がある、魔物のレベルはどうだ、と主に魔物の事しか書かれていない。これでは読む気も失せるというものだ。
「あーあ。さっさと竜人族の巣に着かないかな。そうすれば少しは楽しくなりそうなもんだけどなあ」
「またそんな事を言って。危険な相手なんですよね? 用心しないと、騎士長みたいになりますよ」
「それは嫌だなあ。つーかアンジェの体のどこからそんな力が生まれるのか不思議でならない」
側まで来ていたアンジェの太ももを軽く揉んだ。そこには女性特有の柔らかさがあり、男臭い筋肉の気配などどこにもなかった。
「愛です」
「愛ですか」
「そうなんです」
などというやり取りをしていると、伝令役のフェンリルが戦闘が終了した事を告げに来た。これでまた進む事が出来る。どうせ大して進めないんだろうけどさ。なんて事を考えながらも、隊に指示を出すために馬車を出る俺がいた。